もし心臓に直接杭を打ち込まれたら、きっとこれくらい胸が痛むのではないだろうか。
そんなことを思いながら、ただの人間としての肉体しか持たない僕は少しだけ笑った。
「こい……ずみ、」
彼の瞳が赤く輝き、滴らんばかりに濡れている。
僕を呼ぶ声はどんな福音よりも甘美な響きとなって耳をうち、僕は恍惚として彼の呪力の前にひれ伏す。
冴えた青の神父服をはだけさせ、露わになった彼の身体は、ステンドグラスから差し込む月光以外に照明のない、薄暗い聖堂の中、それでも僕の目には光を放っているように見えた。
ごくり、と喉が鳴る音。
誰の? きっと、二人の。
身の内を荒れ狂う劫火のような衝動と必死に戦っているのだろう彼の肩は震え、息ははぁはぁと乱れ、湿って、眉はきつく顰められ、目元は赤い薔薇の花びらで拭ったように染まり、何度もキスをして微かに開いた唇の外側も内側も卑猥に濡れている。
ああ辛そうだ。
この人はいつもそう、耐えて、耐えて、耐えて、死に物狂いで抑えつけようとする。
諦めて屈服してしまえば楽になれるのに、だがそれを知っているからこそ諦めようとしない。
その身が魔物になってしまっても、彼の魂は変わらず、彼はどこまでも彼だった。僕が欲してやまない高潔な光。
今夜のように月の力が満ちる夜は、彼の中の魔の力も強まり、抑えることが叶わなくなった力は彼を狂わせようと溢れ、理性を侵蝕していく。
そうして本当にどうしようもなくなってようやく最後、彼は僕に手を伸ばすのだ。
赤い瞳から滴が伝い落ちていく。
血のように赤く染まっているように思えたそれはこぼれてみると透明でなんの色も持たず、ただぽろぽろと彼の頬を濡らす。
「泣かないで……あなたが泣く必要なんてない。僕の血であなたの渇きが癒せるのなら、どれだけ捧げても僕は構わないんですよ」
そう言って僕は微笑んだ。
けれども僕がどれだけ彼を慰めても、あなたが悪いのではないと言葉を重ねても、彼は神に仕える身でありながら闇に堕ちた自分を責め続けるし、決して許しはしないだろう。
そして永劫苦しむのだろうか。
ああ、罪深いというなら、その苦しみさえ飲み干してしまいたいと思う僕のほうがよほど。
静かに涙を流し震える彼を抱きしめて、そっと衣を落とす。
まるで首筋を清めるように彼の涙が僕の肌の上を流れ、それでも迷っていた牙が、やがて突き立てられた。
「く……っ!」
全身に震えが走るほどの快感が襲い、僕は圧倒的な多幸感に満たされる。
なにより、彼が僕を求め欲し、僕の体液が彼の中に注ぎ込まれていくのだということに歓喜した。
彼の体内に埋め込んでいる僕自身が膨張し、狭い内側をさらに押し広げる。
「ん、んっ……」
彼が泣きながら僕の血を啜り、止まることのない彼の涙と僕の血が混じり合って肩を濡らす。
何よりも激しい快楽で罪悪感を忘れさせるために、僕は彼の身体を丹念に愛撫した。
いっそ眷属にしてくれればいいのに。
僕が彼の血を飲めばそれが叶うのに、彼は決して与えてはくれない。
だから僕は、ただの人間の肉体しか持たないまま、誰よりも罪深い魂を抱いて生きるしかないのだった。
「あ……」
彼の舌が穴に押し当てられ、唇が傷を吸う。
痛みはない。
それどころかぞくぞくとこみあげる快感に興奮が高まっていく。
素肌が触れ合い、僕は彼のしっとりとしたうなじに手を滑らせてゆっくりと撫で、太い血管が通っているであろう場所を軽く押さえた。
ひく、と彼の身体が震える。
腕の中に閉じ込めた確かな体温に、湧き上がるのは後ろ暗い欲望だ。
手のひらは肩を滑り降りてその肌のなめらかさを堪能し、彼が漏らした甘い吐息が僕の首筋にかかる。
摘んだばかりの花の香りのように、鼻腔をくすぐる血の匂い。
「……ん、」
溺れさせてしまえば。
罪の意識も神様のことも全て忘れて、ただ僕のことと、気持ちいいことだけを考えればいい。
快楽の蜜の中、どろどろに溶かして、息もできなくなるほど僕でいっぱいになって。
「っ……」
わずかに身じろぐだけで、結合部から微かな、けれどもこれ以上なく卑猥な音がする。
そこはもう随分柔らかく僕を食み、締め付け、熱く包み込む。
「ん……んっ」
声を殺そうとする彼を下から突き上げるように揺さぶれば、唇はほどけて甘やかな嬌声がこぼれだす。
抱きしめているから彼は逃げられない。
「あ、……い、ゃ」
ぼろぼろと彼が泣く。
けれど彼の涙はもう、押し潰されそうな罪悪感からではなく、過ぎる快感によるものに変化していた。
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reiさんのすごく素敵なイラストに触発されて書きました