薄黄色のハチマキが視界を覆い隠す。
 目のあたりに触れる布は汗で少し湿っていて、そう、今日はとても暑い日で、そのうえ俺はさっき四字熟語の書かれたハチマキをし赤いはっぴの背中にSOS団ののぼりをぶっさすというトンチキな格好で全力疾走をさせられたばかりで、加えてここは風の入る隙間もないほどぴっちりと扉を閉められほこり臭い空気のこもる体育倉庫で、しかもこれからさらに熱くなるようなことをされようとしているのだった。
「う……っ、ぁ!」
 縛られた手首を持ち上げられキスをされた、のだと思う。
 それがわかるように、ちゅ、とことさら大きな音を立ててくれやがったから間違いない。
 拘束に用いられているのは「トンチキな衣装」の一部だった黒い帯紐だ。
 どこで鍵を手に入れてきたのやら、俺をここへ引きずり込んだ古泉は、恐ろしいほどの手際のよさで俺をその紐を使って縛り上げ、ハムよろしくマットの上に転がした。
 こんなんじゃ前転もできやしねえ。おまけに視覚まで奪われては、いよいよもって芋虫のようになるしかないじゃないか。
 古泉は布の上から唇を押し当てたりリップ音を立てたり帯と肌の隙間から舌を潜り込ませたりして丹念に俺の手首を愛でていた。らしい。なにせ見えないので感触で想像を働かせるしかない。
 しかし今日の古泉はなぜそんなに手首に執着を見せているんだ。わからん。
「あなたの身体ならばどこだって執着の対象になりえます」
 古泉はきっぱりと言って執着の対象場所をうなじに移動させた。くそ、藪蛇だったか。首筋よりは手首のほうがよほど心が平和だった。
 鼻に感じるカビの混じったような体育倉庫特有の湿ったにおいもさることながら、自分の汗のにおいがするんじゃないかと気になって仕方がない。なんたって前述のように今日の俺は汗をさんざんかかされている――――それにしたって俺と同じ、いやそれ以上走っているだろう古泉からはまったく不快なにおいがしないのはどういうわけだ。
「あんまり騒ぐと、誰かに気付かれてしまうかもしれませんよ」
 体臭を気にしたりきわどい場所に触れられるのを気にしたりその他諸々の羞恥からつい芋虫の出来うる範囲でじたじた暴れていると、そう脅迫された。
 お前があんまり妙なことをしなければ、俺だって騒いだりせずに済むんだよ。
 体育倉庫に連れ込まれて手首を縛られ目隠しをされれば九十五%の人間は騒ぐだろう。残りの五%はガチなSM好きだ。ちなみに俺の嗜好はいたってノーマルである。誰かさんと違ってな。
「それは知りませんでした。すみません。ですがあなた、こうやって……」
 つ、と結ばれたハチマキのラインを指がゆっくりとなぞった。耳の後ろあたりがぞくぞくして、肩が震えてしまう。
「自由を奪われるといつもとても感じていらっしゃるから、てっきり縛られるのがお好きなのかと思っていました」
 勝手に人の好みを決めつけるんじゃない。
 と言ったそばから太ももを撫でられておかしな声が出てしまうのが情けないね。
 なんだってうちの高校の体操服はこんなにも裾が短いんだ、下からほんの少し手を突っ込めばそれだけで苦も無くさわれちまうじゃないか。
「あ……あ、あっ!」
 体操着の中に侵入してきた手に下着ごと性器を揉みこまれて、思わずのけぞった。
 ぐにぐにと性感を確実に高める動きで巧みに指と手のひらが動き、そこが反応を見せ始める。
「汚したらまずいですよね。あなた、下着をつけないで帰ることになりますよ」
 古泉のもっともらしい声が聞こえる。だったらその手を止めろ。
「ああそうだ、汚したくなかったら、舐めてってお願いしてみてください。全部飲んでさしあげますから」
「は……!? あ、ほかっ!」
「まあ、あなたが制服の下に何も穿いていなくても、僕はひとつとして困りませんので、どうぞこのまま下着の中をぐちゃぐちゃになさってください」
「……っ!」
「ほら、早くしないと濡れてしまうんじゃないですか?」
 古泉の手は休まず動かされており、どんどんと硬くなっていくそこに意識が追い詰められ、どうせなら目隠しではなく猿轡のほうがましだった、と思いながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「……なめて、くれ……」
 直後、返事もなくズボンと下着を下ろされ、露出した性器がすぐさま咥えられて、俺は悲鳴を上げるしかなかった。
 見えないせいで何をされるかわからず、見えないせいで脳裏にはかえって生々しい映像が結ばれ、見えないせいで、聴覚が敏感に古泉のたてる卑猥な水音をキャッチする。
「ひっ、あ、ぅあああ!」
 吸いつかれると頭の中が真っ白になって、この強烈な快感のことしか考えられなくなりそうだった。
 その後、結局なんだかんだで古泉と最後までやってしまい、下着を濡らさずには済んだものの、ハチマキは涙や汗でぐっしょりと濡れてしまった。