俺はどちらかというと身体が硬いほうだったのだが、近頃どうも、だんだんと柔らかくなってきた気がする。
 こないだ体育の柔軟運動のときにペアを組んだ谷口にも指摘されたから気のせいではなくやはりそうなんだろう。
 別に毎晩酢を飲んだりはしていない。
 ときおり白いものを飲まされてはい、っいやいやいやええと風呂上りに牛乳を飲んではいるがカルシウムは身体の柔らかさについては特に関係ないよな。
 ただ古泉が毎晩とは言わないまでもしょっちゅう俺の身体を妙な形に持ち上げたり折りたたんだり捩じったり押したり曲げたり開かせたりこねくり回したり粘土細工か何かと勘違いしてるんじゃないか、人間の身体には関節というものがあってだな、と人体構造について小一時間説いてやりたくなるほどに様々なポーズをとらせようとするものだから、そのせいで以前より少しばかり柔軟性を獲得してしまったのである。
 そして今も現在進行形で無茶な格好をさせられているのだが、いくらなんでも流石にこれはどうかと思うんだが。なあおい、古泉よ。
 ベッドに仰向けになった状態から腰を高く持ち上げられ、そのまま身体を折り曲げられて、両膝が肩についている、いわゆるまん……やっぱなんでもねえ。
「ふ……っく、るし……いてえ、よ、ばか……!」
「すみません、少し我慢して……」
 もうすでにかなり我慢してるっつうの。
 ベッドが揺れるたびに眼鏡のフレームもぶれて、視界がちらちらした。
 そう、眼鏡だ。
 引き金となったのはこの、度の入っていないコスプレ用ファッション眼鏡だった。
 ハルヒが昨今は美形の眼鏡男子が受けるのよだとかなんとか言って古泉へと押し付けたものなのだが、古泉はそれを持ち帰り、美形でもなんでもない俺にかけて欲しいと頼んできたのだ。
 そして、あまりにも熱心なその懇願に負けて眼鏡をかけてやった俺をベッドに押し倒し、ひん剥き、恥ずかしい姿勢で固定しやがった。
 恩を仇で返すとはまさにこのことだと思わないか。
 なんだ、なんなんだ、こいつは何がしたいんだ?
 誰かわかるやつがいたら説明してくれ、ついでに俺を助けてくれ。
「うあっ……!」
 戦場の花のようにふるふる震える無防備な性器を捕まえられ、もにゅもにゅと揉まれた。
「あ、あ、やめ……っ」
 古泉はもちろんやめるはずもなく、ぺろりと下唇を舐めて嫌な感じに笑った。
 越後屋と悪巧み中の悪代官もかくやという笑みだった。お前なんかご老公とその御付きに成敗されてしまえ。
「ふふ。よくお似合いですよ」
 それは眼鏡がかそれともこの格好がか。後者だったら残り10分の印籠登場シーンを待たずして俺がお前を切って捨てる。
 歯を食いしばって気色悪い声が漏れるのをなんとか抑えようと試みるが、血が集まりだした性器をさらに上下に扱かれれば、はっきりとした快感が背筋を突き抜けて声帯を震わせる。
「あっ……ぅ、んんっ……く! や、放せ……ッ、いや、だ!」
 荒い息に混じってくちくちと粘っこい音が立ち始め、濡れた古泉の親指がぐりりと亀頭を擦った。
「ひっ……!」
 びくっと跳ね上がった足を押さえつけられ、愛撫を続行される。
 古泉が先走りを幹に塗りたくり、手のひらをすぼめて搾るように握った。
 それが顔のすぐ目の前で行われてる出来事だってんだから、俺がどれだけおかしな体位をとらされているかおわかりいただけるだろう。
「ひあ、こ、ずみっ、も、やばいっ、やば、これ、あ、ああっ!」
「いいですよ、たっぷり吐き出してください……」
 ことさら優しく耳に流し込まれたその言葉は楔のように俺の心に穴を開け、堪えていたものの決壊をもたらした。
「っ――――!!」
 びくびくと全身を痙攣させながら、何度かに分けて射精する。
 万有引力の法則により、飛び散った白い体液が顔にふりかかって、眼鏡のレンズをどろりと汚した。
 視界が遮られて目の前が真っ暗(実際には真っ白だが)になり、俺は絶望した。
 セルフ顔射とかねえよ!!
 しかし汚染を逃れたレンズの隙間から古泉の満足そうな顔が見え、どうやらこいつがやりたかったのはこれだったらしいと悟る。
「最高にいやらしい姿をされてますよ」
 おかげさまでな。
 強制的に曲げられていた腰がようやく解放され、足を投げ出して横たわった俺に、古泉が覆いかぶさってきた。
 その顔が次第に大きくなり、やがて左目の視界を全て赤い舌が占める。
 べろり、と超至近距離で舌がレンズに触れ、精液を舐めとっていくのを、どうして俺は目を閉じないんだろうかと思いながら見つめていた。
「……っ」
 とんでもない光景だ。そう思うのに、確かに興奮している自分がいて、ぺちゃぺちゃと舌が蠢くたびにまたしても下半身に熱が溜まっていく。