豆鍋さんにバレンタインキョン子をいただいたのです
裸にチョコレートにリボンは基本ですよね↓
「おかえり」
なんだろうこれは。奇跡。そう、奇跡だ。
彼も言ったではないですか、現実を見ろ、起きないから奇跡なのだと。つまりこれは僕の妄想もしくは夢に違いない。
それとも、自分の家だと思って足を踏み入れた部屋は今、異常な空間に変わってしまっているのだろうか。かつてコンピュータ研究部の部長氏が見舞われたような現象に、僕も巻き込まれているのではないか。あのとき具現化したものは本人の畏怖の対象物だったが、今回はおそらく――――
「なあ、ただいまくらい言ったらどうだ」
僕の願望を具現化したのであろう彼が、目の前の光景に言葉も思考も奪われたままの僕に首をかしげて挨拶を催促した。
彼。奇跡は僕の想い人の形をしていたのだ。しかもただの彼ではない。身体が一回り小柄になり肩が華奢になり全体的に丸みを帯び柔らかな曲線を描き胸が膨らみ、女性の体つきをしている。以前、涼宮さんの力で彼が女性化してしまったことがあったが、あのときとほぼ同じ姿かたちだった。
しかしもっとも問題なのは彼が女性になってしまったことではなくその格好だ。
全裸に幅広のリボンを巻きつけ、胸の谷間にチョコレートを幾筋も垂らしているという、どこから見ても「俺を食え」と言わんばかりなんですけど!
本物の彼がこんなことをするはずがない。絶対にない。
ポケットに入れていた携帯が震えた。
「……はい」
『…………』
「長門さんですね」
『……そう』
「この事態、涼宮さんと関係が?」
『涼宮ハルヒはわたしたちにチョコレートを渡したかった。しかしありきたりなものではつまらないと考え、わたしたちが最も欲しいチョコレートを渡すことを望んだ』
ああなるほど。
「では、涼宮さん以外の団員全員に同様の現象が起こっているわけですか」
「……そう」
長門さんの声の向こうで「あっ長門、チョコのボウルは直接火にかけたらダメだ!」という彼の声が聞こえたような気がしたがおそらくその件について長門さんに尋ねても無駄だと思われるので聞き流すことにする。
それに、僕としては流れるチョコを人差し指の先で掬って味見をしている目の前の彼のほうが困り者です。
「それで、どうすればいいのでしょう」
『チョコレートを全て食べればいい。それで空間は元に戻る』
「わかりました。ありがとうございます」
礼を述べると、ふつりと電話は切れた。さて。
見たところ彼は全身チョコレートまみれなようなのだが、これを全部食べるとなるとそれなりの時間がかかりそうだ。豊満な胸の前で結ばれたリボンを解きながら、僕は彼の唇についたチョコを舌で拭った。
「いいでしょう、じっくり時間をかけて舐めとってさしあげますよ」
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ちなみに長門はキョンと一緒にチョコを作りたかったんだと思います