興人さんにバレンタインキョンをいただいたのですよっ



 フルーツ盛りだとか生クリーム盛りだとかやって楽しいのは、柔らかくて綺麗な丸みや膨らみがあって甘いものが似合う女の子の身体だけだ。
 男の身体でやったところで視覚的になんの面白みも見出せんと思うのだが、なあ古泉よ、お前は何が楽しくて笑いながら俺なんぞをふん縛ってベッドに転がし、湯せんにかけたばかりのチョコレートのボウルを持って見下ろしてくるんだ。
 普段菓子を作ったりするわけでもないのにバレンタインデーに唐突に用意する、溶かしてハートやなんかの型に入れて固めなおしただけの自称手作りチョコ、のための製菓用板チョコ。
 それがときとして凶器と呼べるブツに変貌を遂げることがあるのは知っていたが、まさか本当の意味での凶器に使われようとは思わなかった。
「ひっ……」
 ネクタイの巻きつけられた両手両足首をじたじたとさせる俺の様は芋虫に酷似していたに違いない。そんな芋虫野郎のあがく様を見てなにを興奮することがあろう。しかしながら古泉はあからさまな欲情の色をその顔に滲ませて俺を見下ろしている。
 俺が幼少のみぎり昆虫博士だったように、こいつも実は幼虫マニアだったりするのか。
「や、やめろ! 古泉やめろ!」
 食いもんを粗末にするなって教わらなかったのか、お百姓さんが泣くぞ! 俺も泣く。
「大丈夫、無駄にするつもりはありませんし」
 この後スタッフが美味しくいただきましたというテロップ的展開になるわけだね。
 古泉はボウルに突きたてたへらでチョコレートをかき回し、とろとろと流れ落ちる茶色いリボンを指でひとすくいした。
「やけどをするほどの熱さではありません」
 そのままどろ、と顔に垂らされたチョコレートは、丁度俺の口の横に落ちて俺を驚かせた。やけどはしないかもしれないが十分熱いじゃねえか!
「っ、」
 開きかけた口に溶けたチョコレートが流れ込む。
「お味はいかがです?」
 言いながら、シャツをはだけられてむき出しになっている胸や腹にチョコレートを垂らしていく古泉。
 俺の身体はそのたびにびくりと跳ねて、結果、古泉の欲情の色をどんどんと濃いものへと変えてしまった。
 熱くて、甘いんだか、甘くないんだか、よくわからねえよ。