昨夜の饗宴そのままに、散らかった屋外サロン。
「ううう……頭痛い」
頭を押さえながら、新次郎はシアターに出勤してきた。
新次郎だけではない。
ジェミニもサジータもリカもダイアナも、例外なく二日酔いの洗礼を受けたらしい。
片付けに取り組む姿勢に力がなく、ふらふらとつらそうだ。
あれだけ無茶な飲み方をすれば当然だ、と皿を運ぶ昴は、ラチェットと同様、足取りのしっかりしているこの場で数少ない人間の側だった。
したがって昴とラチェットが率先して割れ物を運んでいる。
新次郎も頑張ってはいるのだが、頭痛には勝てないらしい。
普段から飲みなれているサジータはまだしも、シアター泊まり組の3人は初めての二日酔い経験のせいで、ほとんど片付けの役に立ってはいない。
これでは昨夜のラチェットの苦労がしのばれる――――そう思った矢先に、そのラチェットが声をかけてきた。
「昨日はありがとう。大河君だけでも引き受けてくれて助かったわ」
「君こそ、大変だったろう」
「そうでもないわ。みんなあの後すぐ寝かせたから」
どのように寝かせたのかだいたい察しがついたので、昴は特に言及するのをやめた。
「それより、昴の方こそどうだったの?」
含みのある笑顔。
暗に自分と新次郎との関係の進展を訊ねられているのだろう。
何もなかったわけではないが、それをあっさり悟らせるような昴でもない。
「昨日の新次郎のあの様子を見ただろう? こちらもすぐに寝かせたよ」
しれっとして答える。
「あれで大人とは、よく言えたものだ。リカとレベルが変わらない」
「あら、カライわね」
彼女はふふっと笑って、燭台を手に持つ。
昨夜はそこに赤い火がともっていた。
昴はそれと似た瞳を知っている。
自分を見つめる目は、炎の揺らめく目だと思う。
そんな真っ直ぐな想いをぶつけられたことなどなかった。今まで遭った、新次郎以外の人間には。
「すばるさんっ!」
声に振り向くと、新次郎は自分で上げた大声に頭を刺激されたらしく苦しんでいた。……馬鹿か。
昴は黙って、回復するのを待ってやる。
「すばるさ……すみませんでした……」
しばらくして、痛みに目を潤ませた新次郎が謝罪してきた。
それが何に対してのものか昴は悟って、
「いいよ、もう。君に迷惑をかけられるのにもだいぶ慣れた」
「やっぱり、怒ってますか……?」
「だから、いいと言っている」
「でも、なんか避けられてる気がしたから」
新次郎は慧眼だ。
昴は一瞬言葉に詰まった。
昨日の今日で少し照れているのだとは。――――言えるわけがないだろう。
「昴さん」
「……なんだ」
「次は、酔ってないときがいいです」
昴は無言で、頭に扇をお見舞いしてやった。
ただでさえ二日酔いのせいで頭痛がひどいところにそんな一撃を食らって、おそらく新次郎は頭蓋骨の中で大鐘がガゴンガゴン鳴り響いているだろう。
当然の報いだ。
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