儀式


 僕が生まれた村では、独自の成人の儀式が行われている。
その儀式の内容。
それは、村の奥地にある祭壇まで選ばれた者が一人で向うと言うものだった。
祭壇までの道は普段閉じられており、祭壇には村の守り神がいると言う。
今年成人を迎えた僕は、その儀式に挑む者として選ばれてしまった。

「いいか、サナルアよ。神殿までの道のり、一度とて後ろを振り向いてはならん」
 儀式の朝。
村長は僕に、そう告げた。
そしてお清めが終了した後、村人達の祝福を背に僕は神殿に続く道の前に立つ。
普段は厳重に封じられている扉を、大人達が開けてくれた。
初めて見る、扉の向こう。
僕は意を決し、その足を前進させた。
僕が扉の先に進み出ると、重々しい音を立てて扉が閉まる。
ここから先、何があっても振り向いてはいけない。
僕は永遠に続くようにも見える深い森の奥を、慎重な足取りで進んだ。

 どれくらい、歩いたのか。
ただひたすら続く道を歩いていた僕は、ある異変に気が付いた。
背後に、誰かいる。
この森は四方を高い壁に覆われている。
その為、人が入るのは不可能だった。
だから僕は、森に住む動物が人間の匂いを感じて近付いて来たのだと思った。
この目で確認したくとも、振り向くわけにはいかない。
僕は背後の何物かの存在に警戒しつつも、立ち止まる事無く前進した。
 また暫くして、僕は何かに足を取られて前のめりに突っ伏した。
上手く受身を取り、思わず足に触れた物を確認しようと首を回す。
しかし、首を真横に曲げた時点で、僕は思い留まった。
振り向いては、いけない。
僕は危うく、村長の教えに背く所だった。
しかし、ホッとしている僕に、やはり何物かの気配が近付く。
それは確実に、僕の後方に蠢いている。
恐ろしくなった僕は、夢中で走った。
 暫くすると、前方に神殿が見えて来る。
僕はホッとし、疲れた足で立ち止まった。
「ここまで来れば、安全だろう」
 そう思った僕は、完全に気が抜けてしまっていた。
村長の教えに背き、後方を、振り返ってしまったのである。
「――わぁっ」
 その時僕が見たもの。
それは、この世のものとは思えない、まがまがしい生き物だった。

「な、何だ。この生き物は……!」
 僕は恐ろしさに震え、後退った。
だが思いもしなかった出来事に、足が竦んで逃げる事が出来ない。
僕は、あっと言う間に異形の生物に取り押さえられてしまった。
「や、やめろ! 放せ!!」
 僕は必死に抵抗を試みた。
しかし、無数にある生物の手とおぼしきモノが僕を捕えて放さない。
それでも、僕は夢中でもがいた。
 不意に、村長の声が脳裏を横切る。
『もし振り向いてしまったら……その時は身を委ねよ。抗ってはならん』
 僕は村長の言葉を最後の綱だと思い、言い付け通り抗うのを止めた。

 すると、先程まで敵意を持ったように僕を捕えていたモノの力が弱まった。
そしてそれは優しく、僕の体を這い始める。
「――っう」
 その異様な感覚に、僕は思わず唸り声を上げた。
今すぐにでも撥ね退けてしまいたい。
だがそうすれば、僕は食われてしまうかもしれない。
だから、僕は必死に堪えた。
 しかし、体中を舐めるように這う感覚は、僕の体を敏感にする。
僕は体の力が抜けてしまい、立っているのがやっとな状態だった。
 そんな時、異形の生物の手が、僕の足の間を割って股間を這い始めた。
「はうっ」
 その言い知れぬ感覚に、僕は身悶えた。
それでも尚、僕は抗いたい気持ちを押さえた。
そんな僕を嘲笑うかのように、奴の手は僕の股間を激しく弄ぶ。
「――っあ。や、やめ……ろ」
 それは僕に、性的快感をもたらした。
より一層無気力になった僕は、遂に足の感覚が薄くなり、その場に跪いてしまう。
四つん這いになった僕は、図らずとも下半身を奴に差し向ける形となってしまった。
露わになった僕のアヌスの入り口を、奴の手が這う。
その感触に、僕の体は一層激しい快感に見舞われた。


「っあぁ、そこは……駄目だ……嫌だ」
 僕は小さくうめいた。
それは今僕が出来る、最大の抵抗だった。
しかし奴の手は、容赦無く僕のアヌスに侵入する。
「っあ! 痛いッ、やめろ!!」
 その瞬間、僕の体に激痛が走る。
それでも尚突き進む奴の手に、僕は意識を掻き乱された。
「くっ、ううっ」
 僕の苦痛を押し退け、奴の手は完全に僕の中に納まった。
内側から穴を押し広げられている感覚。
それは、僕に屈辱の念を擁かせた。
それでも尚、僕は抗う事を許されない。
 奴の手が僕の中を蠢き苦痛が快楽に変わった時、僕は儀式の意図を悟った。
この屈辱に堪えてこそ、成人となりうる。
それならば僕は、見事に成人となって村に舞い戻ろう。
そう決意した僕は完全に身を委ね、奴の手がもたらす快感を受け入れた。

 奴が満足するまで幾度か射精させられた僕は暫くの間気を失っていたが、やっとの思いで重たい足を引き摺りながら皆の待つ村に帰り着いた。
成人を迎えていない村人が儀式について尋ねて来たが、僕は、何も話さなかった。




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