密会

 昼休み、突然担任の先生に呼び止められた。
「山本が高田達に虐められてるんじゃないかって噂を聞いたんだが……。
小林、山本とは付き合い長いんだろ? 何か相談されていたりしないか?」
 先生は沈痛な面持ちで、僕に問いかける。
だけど僕は、何も知らないと首を横に振る事しか出来なかった。
 僕と山本は、確かに家も近いし付き合いも長い。
小さい頃はよく遊んでいたけど、最近はそうでもない。
お互い別の友達と一緒にいる事が多くなった。
だから山本の事を聞かれても、僕には何も答えられない。
 その後すぐに予鈴が鳴って、僕は教室に急いだ。
 その途中、前方を歩く山本を見かけた。
いつも高田達といるのに、今日は一人だ。
これはチャンスかもしれないと、僕は山本に走り寄った。
「山本、ちょっと話があるんだけど」
 僕が山本にそう言うと、山本はすぐに僕に気付いた。
「丁度良かった。僕も小林に伝えたい事があったんだ」
 山本にそう言われ、僕はドキッとした。
噂は本当で、山本は僕に相談事を持ちかけるのかもしれない。
もしそうだったら、僕は山本の力になりたいと思っていた。
「放課後、体育館の古い方のトイレで待ってるから」
 山本はそう口にすると、教室へ戻って行った。
「体育館の、古い方のトイレ……?」
 僕は、山本の言葉に疑問を持った。
相談するなら、他に良い場所があるのに……――


 ――放課後。
僕は疑問が解消されないまま、言われた通り体育館へ足を運んだ。
体育館のトイレは二つあるけど、今は新しい方のトイレしか使われていない。
古い方のトイレは、狭くて薄暗い通路を通らないと行けない。
 僕は人気の無いその通路を、慎重に進んで行った。
 暫くすると、トイレから明りが洩れているのが見えた。
トイレの中から、人の声がする。
それも、複数の。
 僕は恐る恐るトイレのドアを開けた。
 すると、そこには高田がいた。
高田だけじゃない。
いつも山本と一緒にいる佐藤や森川も一緒だ。
笑いながら、何かを囲んでいる。
それが何なのか解かった時、僕は息を飲んだ。
 それは、山本だった。
しかも、全裸の。
そして両手両足を縄で縛られている。
開かれた脚の間から、半勃ちしたペニスが無防備に曝け出されていた。
(山本が虐められていたって、本当だったんだ)
 僕は思った。
この状況を見れば、誰だってそう思うに違いない。
僕は怒りに震える拳を押さえ、トイレのドアを勢い良く押し開けた。
「何してるんだよ!!」
 僕が怒鳴ると、高田達は一斉に僕を見た。
然程慌てるわけでもなく、高田が意外な事を口にした。
「小林、遅ぇよ。山本、もう限界超えそうだぞ」
「え?」
 僕は状況が良く飲み込めず、あられもない姿の山本を見た。
すると山本は、少し苦しそうな微笑みを僕に返す。
そして、僕に言ったのだ。
「小林に、僕がオシッコしてるトコ……見せたかったから」
 山本の声は、どこか艶かしく僕の耳に届いた。
「小林、ちゃんと見てて」
 山本はそう呟くと、状況が把握できず混乱気味な僕の前で放尿をし始めた。


 忽ち、トイレ中にアンモニア臭が立ち込める。
 僕は目の前の状況が、未だに信じられなかった。
あられもない姿をした山本が自分の秘部を晒し、その上放尿するという行為に及んでいる。
それは、普段の優等生らしい山本のイメージとは随分掛け離れていた。
「――っふ」
 困惑する僕とは裏腹に、山本は放尿の快感に酔い痴れていた。
「お前が遅いから、山本のヤツ、随分我慢してたんだぜ」
 呆然とする僕の横で、ニヤニヤ笑った高田がそう言った。
「何で、こんな事……!」
 僕は高田を睨んだ。
だが高田は、少し困ったように頭を掻いた。
「山本が好きでやってるんだよ。俺達が無理矢理させてるわけじゃない」
「――え?」
 僕は、高田の言葉が信じられなかった。
「山本の趣味なんだよ。人前で放尿するのが」
 今度は、佐藤が言った。
「お前に見せたかったんだとよ。だから呼んだんだろ?」
 高田はそう言って、僕の肩を軽く叩いた。
僕は依然として信じ難いまま、山本に視線を移す。
山本は尿をすっかり出し尽くし、ほっとした顔をしていた。
山本から出された尿は、タイルの上に水溜りを作っている。
「ホント、山本って変態だよな」
 その一部始終を見ていた森川が、失笑混じりに呟く。
放尿を終えた山本のペニスは、すっかり勃起していた。
その光景は、僕に性的な刺激をもたらした。
ドクンドクンと、鼓動が高鳴っていくのが解かる。
「山本……」
 僕は、無意識の内に呟いていた。
自分が今、どんな顔をして山本を見ているのか解からない。
 山本は卑猥な吐息を漏らし、僕に視線を向けた。
「小林に見られてるって思ったら、いつもより感じちゃった」
 山本は、そう言って微笑む。
「見たからには、山本の我侭に付き合ってもらうぜ?」
 高田が、後ろから僕の肩に腕を回しながら言った。
 僕は自分の中で何かが崩れ、別の何かが芽生え始めている事を感じていた。



  • BACK