報復

 その日は同窓会で、十年以来の級友達に会った。
俺は懐かしさでいっぱいになり、思い出話に花を咲かせていた。
「佐々木君、久し振りだね」
 そう言って現れた飛田に、俺は思わず顔を顰める。
俺は当時、飛田を虐めていた。
あの頃はガキ特有の残酷さがあり、今にしてみれば申し訳ないと思うような事を平気でやっていた。
だから今回の同窓会でも、俺は飛田に会うのだけは嫌だった。
「佐々木君、変わってないよね」
 そんな飛田の何気無い一言も、俺には皮肉に聞こえる。
この無邪気な笑顔の奥には、今でも俺への憎悪が眠っているのではないか。
そんな気がして、俺は気まずさを感じていた。

 そんな妙なストレスからか、俺は腹痛を起こしトイレに向かった。
急いでトイレのドアを開けた俺は、思わず仰天した。
そこに、飛田がいたのだ。
そして飛田は、満面の笑みで俺に言った。
「やぁ、佐々木君。お腹の調子はどうだい?」
 飛田の言葉に、俺は驚愕した。
何故飛田は、俺が腹痛を起こしている事を知っているのか。
飛田はその疑問に答えるかのように、再び口を開いた。
「さっき、佐々木君のグラスに下剤を入れておいたんだよ」
「何で……そんな事を……」
 いよいよ腹痛が激しくなった俺は、苦痛に顔を歪ませた。
そんな俺を、飛田は憎しみに満ちた目で見る。
そしてギリギリと歯を強く噛み締めると、やや声を荒げて言った。
「貴様は、自分がした事を忘れたのか?」
 飛田はやはり、当時俺がした仕打ちを忘れてはいなかった。
俺は飛田に詫びたい気持ちでいっぱいだったが、今は時が悪過ぎる。
激しく身体を襲う便意に、俺は冷や汗を流して堪えた。
 飛田が、俺にしたかったのは復讐だ。
俺は当時、便意を催した飛田を囲み、数人の見ている前でクソを漏らさせた事があった。
それと同じ事を、飛田は今俺にしようとしている。
「あの事は……悪かったと思ってる。だから――」
 一刻も早くトイレに駆け込みたい俺は、逸る気持ちを押さえるのに精一杯だった。
だが飛田は、そんな俺を見下し嘲笑う。
「だから早くトイレに入りたい、か? あの時の俺も、今のお前みたいに言ったよな? それで、お前はどうした?」
 飛田は冷徹な笑みを浮かべて俺を見る。
俺は少しだけ薄れた意識を保ちつつ、あの頃を思い出していた。
 あの時、飛田は泣きながら俺に言った。
『佐々木君、許してよ。ウンチが漏れそうなんだよ』
 だが俺は嘲笑って、こう返した。
「クソがしたけりゃ、その場ですればいいだろ?」
 記憶の中の俺の言葉と飛田の声が重なり、俺はハッとした。
「あの時お前は、そう言ったよな?」
 だから飛田は、俺にこの場でクソをしろと言うのか。
それは俺にとって屈辱以外の何物でもない。
しかし当時の俺は、その屈辱的行為を飛田にさせているのだ。
「ごめっ……俺は……」
 飛田への懺悔、激しい腹痛、肛門に掛かる圧迫感が俺を支配する。
肛門を少しでも緩めれば、クソが止めど無く流れ出しそうだ。
それを飛田に見られる屈辱。
その両方の間で揺れた俺は徐々に体調に異変を来たし、それは限界まで達していた。
「辛いだろ? 早く出すもの出しちまえよ」
 意識が朦朧とする中、飛田の声がやけに鮮明に俺の耳に届く。
遂に限界を感じた俺は手早くベルトを外し、下着と同時にスラックスを脱いだ。

 クソで服が汚れるのを避けたかった俺は、恥を承知の上で下半身を丸出しにする。
「ほらほら、早くしないとクソが出ちゃうよ?」
 そんな俺を飛田は愉快そうに囃し立てたが、俺には飛田を構っている余裕などなかった。
我慢の限界に達した俺は、ふら付く足で壁に両手を付いた。
 ブブッ、ブホッと下品な音を立て、屁と共にクソが床に飛び散った。


我慢していた反動が、より一層クソの勢いを強める。
「――くッッ!!」
 俺はかつて虐めていた相手の前で排便させられると言う屈辱で、気が狂いそうだった。
そんな俺とは裏腹に、制御するものを失ったクソは止めど無く流れ床を汚していく。
あまりの激しさに、俺の肛門が麻痺する。
「っあ……あぁ……」
 全てを出し尽くした俺は手足が痙攣し、その場に項垂れた。
「うわー。ウンコ漏らしてやがるよ、こいつ。きたねーなァ」
 あの時の俺と同じセリフを、飛田の口から聞きながら。

 息を荒くし疲労している俺の頭上で、フラッシュの光が瞬く。
「今後も俺の復讐が済むまで、楽しませてもらうぜ。この写真をばら撒かれたくなければ、言う事を聞くんだな」
 飛田は俺のケツをグリグリと足で踏み付け、高々と笑い声を上げながらトイレを去った。
 残された俺は当時俺が飛田にしてしまった酷い仕打ちの数々を思い起こし、今後されるであろう復讐に咽び泣いた。



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