放課後の秘め事

 俺の通う高校には、陶芸部が存在する。
その歴史は設立当初かららしく、今でも立派な焼き窯が構内に残っている。
だが一時は有名だった陶芸部も、今は部員数も数えるほどしか居ない。
綺麗に掃除されたロクロの大半は使い手を失い、部室の片隅に置かれていた。
その陶芸部の部長を務めるのが、俺の親友の高浜だ。
「高浜、最終下校時刻をとっくに過ぎてるぞ」
 別校舎にある部室を訪れると、粘土独特の土の匂いが鼻をついた。
「ごめ、もう少しで終わる」
 当の高浜はロクロの前に居座り、真剣な眼差しで粘土の形を整えていた。
その横顔に、諦めの溜息が漏れる。
高浜は一度集中し出すと止まらない。
誰かが止めるまで、納得のいくものが出来るまで作業を続ける。
 部室の戸を閉め中に入り、椅子に腰掛けて高浜の動作を見ていた。
俺みたいな素人が見ても解らない微妙な形のずれを、真剣な眼差しで直していく。
高浜が窓から差し込む夕焼け色に染まり、独特の空間を作っていた。
芸術なんて解らない俺は、そんな高浜の横顔こそが芸術ではないのかと思う。
「ん、良い感じだ」
 見とれていた芸術品が突然声を上げて動き出し、俺は我に返った。
幸いにも高浜は俺の視線には気付いていないようで、背伸びをして身体を解している。
「あ、忘れてた。俺、トイレに行きたかったんだ」
 不意に、高浜が呟いた。
「うあっ、思い出したら我慢出来なくなってきたっ」
 高浜は今までの落ち着き振りが嘘のように慌てだした。
音を立てて立ち上がり、土色に汚れた手を宙に浮かせて挙動不審になる。
「手、洗ってたら間に合わないっ。絶対漏れるっ」
 高浜は内股になった状態で俺の方を見た。
多分無意識だろうけど、高浜が俺に助けを求めている。
そう解釈した俺は、椅子から立ち上がり高浜の腕を引いた。
「そのままでいい。俺が手伝うから」
「ええっ!? でも……っ」
 煮え切らない高浜に、思わず溜息をつく。
「それともここで漏らすか?」
 俺が意地悪く言うと、
「解った、手伝って。じゃないと……本当にヤバい」
 高浜は漸く観念した。
「俺の制服、汚すなよ」
 言うと同時に高浜を抱き上げる。
トイレは部室から廊下を真っ直ぐ行った所だ。
「うあっ、あんまり揺らすなっ。出るっ……出るってば!」
 誰も居ない廊下に高浜の声が響いた。

「騒ぐなって」
 便器の前で高浜を下ろし、後ろから顔を覗かせる。
高浜のジャージをパンツごと膝まで下ろすと、左手で少し強張った股間に触れた。
「はふっ」
 高浜の口から吐息のような声が漏れる。
その声が引き金となったのか、妙な興奮が俺の中で芽生えた。
「変な声出すなよ。ほら、早く出すものを出せ」
 照れてしまった自分を誤魔化すように言う。
が、高浜は一向に放尿する気配がない。
「おい、どうしたんだよ。漏れそうだったんだろ?」
 掴んだ高浜のペニスを軽く振ってみる。
少しだけ硬度が増したのが指先から伝わってきた。
「だって、こんな事されたことないしっ。何か緊張して……」
 俯いた高浜の羞恥が俺にまで伝染して、身体が熱くなる。
「バカ。俺だってこんな事……っ」
 指先に触れたペニスが脈打っている。
そのリアルな感触が、俺の興奮を高めた。
「ほら、早く出せよ」
 高浜の身体を引き寄せ、右手でペニスの付け根を刺激する。
「んっ」
 艶かしい声が耳を掠めた。
「ほら、ここをこんな風にされると小便したくなるだろ?」
 指の背で裏筋をなぞると、高浜の身体がビクンとしなった。
「そ、そんなことしたら……オシッコじゃないのが出ちゃうってば!」
 高浜の声が耳に届いても、俺の手は止まらなかった。
「ソッチの方も出せばいい」
 頭の中が真っ白になる。
自分の手が高浜に快楽をもたらしていると考えただけで気分が昂った。
高浜の尻に自分の膨張したペニスを押し付ける。
高浜と、一つになった気がした。
「ふぁぁっ、出るぅっ」
 高浜が短く叫ぶと、ペニスの先からピュピュッと白濁した体液が便器に飛び散った。
軽く、眩暈がする。
自分の手が高浜を絶頂に導いてしまった事実が、俺に妙な快感を与えた。
「あうう……っ」
 射精した高浜のペニスの膨張が緩み、硬度が下がる感覚を指先に感じた。
そして完全に緩んだペニスの先から、漸く本来の目的である尿が滴り落ちた。
思わず手の平全体で高浜のペニスを握る。
それはまるで水が内部を通るホースのように、緩い波をえがいた。

「悪い。ホント俺……どうかしてた」
 汚れた両手を洗い流す高浜の横で、現実に引き戻された俺が呟く。
さっきから高浜の顔を直視できない。
「うん。でもまぁ、溜まってたのも事実だし」
 意外とあっさりした返答に、ちらりと高浜を覗き見た。
「オシッコする事があんなに気持ちいいなんて……ちょっと癖になりそう」
 軽く笑いながら高浜が俺を見る。
意味深な視線が交差していた。
二人の関係が別のものになったのかもしれないけど、俺は逆に嬉しかった。



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