篤志編2


「っはぁ、はぁ……」
 小刻みに震える足を懸命に動かし、篤志は無我夢中で森を駆け抜けた。
興味本位で侵入した森にあんな生物が存在する事を知っていたら……。
祖母の忠告を無視し森の中に足を踏み入れた事が、今では恐ろしくて仕方が無い。
 やっとの思いで家に着くと、幸いな事に祖父も祖母も家にはいなかった。
祖母の腕に抱かれ、この悪夢から開放されたいとも思ったが、今は忠告を破って森の中に入ってしまった事を咎められるのではないかという恐怖の方が大きかった。
 急ぎ足で脱衣所に向かう。
風呂場の入り口を閉めた時、足から完全に力が抜け、篤志はその場に座り込んだ。
「うっ……ううっ」
 恐怖から開放された安堵感からか、篤志は咽び泣いた。
霞んだ視界に映った自分の足に絡みつく、粘着性のある液体。
それが今まで起こったことが夢ではないのだと、篤志に言い聞かせているように見えた。
足の震えが止まらない。
体内にはまだ、得体の知れない物が蠢いている感覚が残っている。
 ドクン、ドクンと鼓動が高鳴っているのを感じながら、篤志は震える足で立ち上がると、その全てを洗い流すかのようにシャワーを浴びた。
身体に付着した粘液が流されていく。
頭の先から爪先まで犯された。
その事実が言い知れぬ形となって篤志を襲う。
「っあー、あああーっ!!」
気が狂ったように全身を手で拭い、全てを洗い流そうと、篤志は必死でもがいた。

 不意に視界に入った自分のペニスに、まだ粘液が付着しているのが見えた。
篤志は一瞬躊躇したが、まだ敏感になっているペニスの先を指で摘み、粘液を洗い流そうと試みる。
だが指がペニスに触れると、思った以上に敏感になっていた身体が疼く。
ビクンと身体がしなり、全身に妙な快感が走る。
篤志は再び勃起し始めたペニスを、本能のままに扱き始めた。
「ん……う……っ」
 ぎゅっと目を閉じる。
暗闇から無数の"何か"が、篤志の身体を這う。
「っあ、あ……っ」
 犯された時のリアルな快感が蘇り、篤志の興奮を高めた。
篤志は夢中でペニスを扱き、無意識の内に弄ばれたアナルにも手を伸ばしていく。
強引に押し入った指を、犯された時と同じように動かす。
自然と、ペニスを扱く手にも力が入った。
「はぁ……っ、ううっ。んうぅっ」
 閉じた瞳の裏で、篤志は再び得体の知れないものに犯されていた。
それに連動し、アナルに押し入った篤志の指も激しくなる。
アナルの中に残されていた粘液が、指を動かすたびに卑猥な音を奏でた。
「っう、ううっ。もっと、もっと欲しい……っ」
 風呂場の床を転がるように、篤志は激しく身を焦がす。
狂ったように肉欲に溺れ続けた篤志は、暫くして絶頂に達した。
ペニスの先端から精液がほとばしると、アナルを犯していた指が一層締め付けられるのを感じた。
荒い息でアナルから指を引き抜く。
緩んだ穴から、残っていた粘液がグプグプと音を立てて這い出て来た……。

 その後、夕食を早めに済ませ自室に戻った篤志は、今まで感じたことの無い高鳴りを抑えられずにいた。
その高鳴りは、まるで心臓が二つあるような錯覚を起こす。
乱雑に敷かれた布団に蹲った篤志は、その高鳴りが犯されたアナルの奥から響いている事に気付いていた。
そして自分が、再びあの快楽に身を委ねたいと願っている事にも。
 篤志は意を決すると、布団から飛び起きた。
そしてリビングでテレビを見ていた祖父と祖母に「川に蛍を見に行ってくる」と告げると、勢い良く家を飛び出す。
外は、思いのほか明るかった。
 篤志が向かったのは、勿論川ではない。
昼間自分が恐怖を味わった、禁断の森だった。
篤志は日が完全に暮れてしまわぬよう、走って森を駆け抜けた。
 暫く森を進むと、昼間見た光景が目の前に広がった。
昼間と違って太陽の光が赤いせいか、少しだけ別の場所に見える。
だが、篤志の着ていた服が散乱しているのを確認することが出来た。
間違いなく、ここは昼間来た場所。
 篤志は荒くなった息を整え、微弱に震える足を一歩踏み出した。
足が地面についてしまうのが、少しだけ怖かった。
昼間のように、いつ得体の知れない物が襲ってくるか解らない。
篤志は一歩一歩を慎重に、恐怖に震えながら進んだ。
 やっとの思いで服が散乱している場所まで辿り着くと、篤志はある事に気が付いた。
昼間は気が付く前に襲われてしまったため知らなかったが、目の前に神木と思われる立派な木が立っていた。
篤志は普段住んでいる都会では見られない、その大木に目を奪われた。
 ふと、篤志は神木の裏に草むらが続いていることを発見した。
自然と、篤志の足は、その草むらに吸い寄せられるかのように動き始めた。

 そこは一面の緑が赤い光を帯びた、とても不思議な場所だった。
篤志が草むらに一歩足を踏み入れると、膝くらいまである草が踊った。
そこで初めて、篤志は草むらが草ではない事に気付く。
草だと思っていたそれは、細長い管のようなものだった。
その管のようなものが、地面が見えないくらい密集して生えている。
篤志は一瞬躊躇ったが、何かに誘われるように進んで行った。
「くすぐったいよ」
 篤志が進むたび、管のようなものが篤志の足に触れる。
それは自ら意思を持っているように、自然な動きを見せていた。
だが、篤志は自然とそれが怖いものではない事を知っていた。
自分でも解らなかったが、少なくとも恐怖心はない。
逆に懐かしささえ感じるその場所を、篤志は歩き続けた。
 丁度半分くらいまで来た所で、篤志の足は自然と歩みを止める。
空を見上げると、赤い空が木々の間から顔を出していた。
篤志の足を取り巻く管のようなものは、一層甘えるように篤志の足に絡みつく。
それらに足をとられ転倒することになっても、篤志は抵抗する事すらしない。
柔らかなベッドに横たわるように、篤志の身体は管に委ねられた。
「何だか、前にもこんな事があった気がする……」
 篤志は目を閉じ、ぼんやりとそんな事を思った。
篤志の身体を支える無数の管は、不規則な動きと共に篤志の肌に優しく触れる。
それが心地良くて、篤志は小さな声を出して笑った。
「いいよ、大丈夫。少し怖いけど、僕は平気だから」
 諭すような優しい声で、篤志は囁いた。
まるでその言葉の意味を理解したかのように、無数の管が激しく動き出す。
そして個々が意思を持っているかの如く、篤志の身体に纏わり付き始める。
篤志は細い縄で縛られているような、妙な感覚を肌から受けた。
同時に無数の管が肌に触れて、くすぐったい。
「っはぁ……ふぅ……」
 篤志は徐々に興奮を高まらせ、自らの手で履いていた短パンを下ろした。
露わになったペニスは、しっかり天を仰いでいた。
篤志がペニスの先端を指の腹で摩ると、次第に先端が濡れて来る。
花の蜜を吸う蝶のように、数本の管が篤志のペニスに集まって来た。
「君達は、それが好きなの?」
 その様子を見て、篤志が話しかける。
勿論返事が言葉で返って来ることはなかったが、ペニスに群がる管が証明してくれていた。
「あっ」
 管の内の一本が篤志の尿道に押し入った時、篤志は初めて身悶えた。
妙な感覚が、股間を襲う。
それは決して嫌な感覚ではなかった。
「っは……もっと……」
 ペニスに絡みつく快感に、篤志は次第に興奮を増していく。
篤志は自分の右手を口に持っていくと、指に舌を絡め始めた。
「は……ふっ」
 股間に群がった無数の管は、まるで幾つもの人の手が篤志を求めているかのように様々な動きで篤志を翻弄した。
その快感に、篤志の意識が朦朧としていく。
不意に、唾液で塗れた指や口元に管が群がって来る。
篤志は瞬時にその理由を理解し、唾液で濡れた指を乳頭に押し当てた。
「ここも、気持ち良くして?」
 篤志が乳頭から指を離すと、入れ違いに管が乳頭を責め始める。
身体に走った快感に、篤志は身悶えた。
ペニスからは大量の体液が出され、それに比例して管の数も増えていく。
先端を攻めるものがあれば、ペニスに巻きつくもの、睾丸を締め付けるものまである。
「っはぁ……凄く、気持ちいい……」
 篤志は身体の火照りと、鼓動の高鳴りが強まっていく自分に気が付く。
そして同時に、内側から快楽を得たいと願う、欲望にも気付いていた。
「もう駄目だよ。我慢できない……」
 篤志は荒い息でそう呟くと、指でペニスの先端から体液を絡め取り、疼き始めたアナルに押し入れた。
そして両手でアナルを押し広げ、艶かしい声で囁いた。
「お尻で、イかせて……昼間みたいに気持ち良くなりたい……」

 篤志の興奮を感じたように、無数の管達は先端から粘液を吐き出し始めた。
それが篤志の身体に滴り落ち、奇妙な感触を残していく。
その光景を目の当たりにした篤志の興奮は一層高まり、ペニスを滴る体液はアナルにまで流れ落ちていた。
 無数の管は、無防備に押し広げられた篤志のアナルを目掛けて突き進む。
それは一本の太い管のように、篤志のアナルに挿入された。
「うっ」
 無理矢理アナルを突き進まれ、篤志に微弱な痛みが走る。
だがそれは、ほんの一瞬の事だった。
無数の管は篤志の中で行き場を求めて暴れ出し、まるで穴の中で指を動かされているような快感が篤志を襲う。
「すごっ……気持ちいっ」
 その感じたことのない快感に、篤志が敏感に善がる。
卑猥な粘液を撒き散らし、篤志を内側から犯す管達。
それは御馳走に群がっているような勢いだった。
「うあっ、も……ヤバいっ、気持ち良くて狂いそうっ」
 すっかり勃起し敏感になった乳頭やペニスや新たな快楽を得たアナル内部を執拗に攻め立てられ、篤志は身体を弓なりに反らせる。
手足は麻痺していて力が出ないが、その異様なまでの熱は感じ取れた。
下腹部に力を入れると、その快楽が一層深いものになる。
「ううっ、くぅっっ」
 篤志は必死で、その迫り来る快楽に縋ろうとした。
内側から押し広げられるような、妙な感触。
管が内壁を強く押す度、ペニスだけでは感じた事のない強い快感が篤志を支配した。
「やっ、もう駄目っ……イッちゃう……イッちゃうっっ!!」
 下腹部により一層強い力が加わり、篤志は、とうとう絶頂に達した。
強い快感はアナル内部からペニスを伝わり、精液へと姿を変えて先端から飛び出した。
その一瞬訪れた気が狂いそうになるほどの快楽に、篤志の頭は真っ白になる。
「……ん」
 快楽の余韻と、心地良い疲労感が篤志を襲う。
篤志は全身から力を奪われ、ぐったりと項垂れた。
ペニスに群がっていた管達は、その後も排出された最も濃い体液を貪り尽くしていた。

 翌日、篤志は自分の家に帰るため、祖父と一緒にバスを待っていた。
昨夜は気が済むまで快楽に溺れ、川で身体を洗ってから家に戻った。
夜が明けた今でも、昨夜味わった快楽の余韻が身体に残っている。
結局、篤志は自分を犯した物の正体が解らないままだった。
しかし今は、その正体を突き止めようとは思っていない。
大人になってから本当の事を知っても、遅くはない気がしていた。

「それじゃ、お爺ちゃん。また来年も来るね!」
 篤志は祖父に別れを告げると、やって来たバスに乗る。
遠くなる森を後方に見送りながら、篤志は身体の奥が熱くなるのを感じていた。



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