目撃

 その日は部活が休みだった。
だが僕は試合が近い事もあって、一人で体育館へとやって来た。
そしていつものように、ボールを運ぶ為に用具室へ向う。
どの学校にも七不思議が存在するけど、この学校でも例外ではない。
体育館には何年か前に事故で死んだ生徒の霊が出ると言われている。
だから僕は、少しだけ警戒しながら用具室の扉を開けた。
 用具室は窓も小さく日当たりが悪いせいか、電気を付けても薄暗く気味が悪い。
僕は足早に、バスケットボールの入った籠を運び出そうとした。
 その時僕は、ある事に気が付く。
用具室の奥で、音がする。
何かが床を擦っているような音と、ギシギシと軋む音。
僕は少し怖くなったが、猫か何かが迷いこんでいたら大変だと思い、音のする方に近付いて行った。

 そこで僕が見たのは、全裸でハードルにまたがっている男子生徒の姿だった。
両手を背中で縛られ、両足はハードルにロープで固定されている。
そして彼はもがくように体を前後に揺らす。
その度にハードルは、ギシギシと音を立てて軋んだ。


 その時、僕は彼の股間に目が釘付けになった。
彼のペニスは恐怖心からか、すっかり勃起してしまっていた。
彼が体を揺らす度に金玉がハードルに擦られ形を歪める。
 その異様な光景に、僕は呆然と立ち尽くした。
驚きのあまり、声も出ない。
ただ理解できたのは、彼が酷い虐めを受けていると言う事実だけだった。
 ――助けなきゃ……!
 そう思った僕は、彼に近付こうとした。
だけど、途中で僕の足が止まる。
その男子生徒が、田辺優だと気が付いたからだ。

 田辺優は僕のクラスメイトで、存在感がなく大人しい。
いつの頃からか、彼が虐められているのではないかと言う噂が流れ始めた。
しかも加害者は問題児である芳田君だと専らの噂だった。
だから僕は今彼を助けてしまったら、僕も虐められるのではないかと思った。
誰でも平穏無事な学校生活を送りたいと思っている。
それは、僕も例外ではなかった。
「ごめん。田辺君……」
 悩んだ末、僕は、彼を見捨てる事にした。

 逃げるように体育館を後にした僕は、体育館へと続く廊下で男子生徒二人と擦れ違う。
それは芳田君と、別のクラスの山瀬君だった。
二人は手に紙袋を持ち、会話を交わしながら体育館の方へと消えて行く。
僕は咄嗟に、二人が今から田辺君を虐めに行くのだと悟った。
 ふと、脳裏に虐められ、惨めな姿を晒す田辺君が浮かんだ。
芳田君達は、無抵抗の田辺君を殴ったり蹴ったりするのだろうか。
手にしていた袋の中には想像し難い物が入っていて、それで田辺君を甚振るのかもしれない。
 僕は自分がしてしまった残酷な想像に恐怖した。
不意に、ペニスが下着の中で勃起している事に気付く。
クラスメイトが虐められているというのに、それを知って興奮してしまった自分の知られざる一面に気付く。
そんな自分に嫌悪感を感じながら、それでも股間の膨らみは消せない。
僕は人気が無い事を慎重に確認すると、いそいそとトイレに入った。
「はぁ……はぁ。ああ……田辺君……っ」
 個室に入るなり、僕は逞しくなった想像をネタにオナニーを開始した。
僕の妄想の中で、縛られた田辺君が暴行される。
何時の間にか、それに僕自身が加わっていた事にペニスを扱く事に夢中になっていた僕は気付かなかった。

 もう一度、田辺君が虐められている場面に遭遇したら……。
僕は、加害者にならない自信が持てなかった……――



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