ベストフレンド 友達であるために 8 Side Takumi




その日のうちに俺は亜里沙の実家に連絡を取った。

実家では亜里沙の母親が俺を出迎えてくれた。亜里沙に面差しの似た綺麗な女性だった。
亜里沙は実家にも連絡を入れていないらしく、母親もさすがに、携帯も繋がらず一週間も連絡が無い娘に不安を隠せない様子だった。

亜里沙の母親に学生時代のアルバムや住所録を貸してもらえるように頼むと快く承諾してくれた。

案内された亜里沙の部屋に入るとベッドのサイドテーブルに見たことのある写真が目に付いた。
俺を中心に左右に亜里沙と陽歌の肩を抱いて笑っている懐かしい写真だ。
入社して1年目の冬に同期が集まってスキー旅行に出かけたときのものだ。

その写真を手に取って見つめる。
はにかんだ笑顔を浮かべた亜里沙が、僅かに頬を染めている理由に胸が痛んだ。

亜里沙はこの頃からずっと俺を想い続けていたんだ。
彼女の気持ちを知った今だからこそ解る、その表情に見え隠れする俺への想い。
他の男性社員に肩を抱かれた写真も見たことはあるが、いつだって満面の笑顔でカメラに応えていた。

こうして違う表情を見せるのは俺との写真だけだ。

どうして今まで気付かなかったんだろう。



「梶さん。亜里沙がいなくなった原因を何かご存じないですか? 今までこんな風にまったく何も言わずにいなくなる事なんてなかったんです。最近は私の体の調子が余り良くないものですから、むしろ心配して週末ごとに帰って来るほどだったんですよ」

亜里沙の母親が俺に縋るように訴えてきた。
俺が亜里沙を抱いたから、なんて言えるはずも無くて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「おかあさん、心配しないでください。亜里沙は必ず俺が探し出します。もし、自宅に連絡があれば必ず教えて下さい。」

涙を滲ませ俺を見つめる母親の瞳に、亜里沙の面影が重なる。

「梶さん。亜里沙をお願いします」

「はい、必ず見つけます。絶対に…」



俺は深々と頭を下げると、亜里沙の実家を後にした。







それから毎日、彼女の中学、高校、短大の同級生に片っ端から連絡を取り、何か情報が無いかと電話にかじりつく日がもう3週間以上続いている。

8月になり、俺の仕事も忙しさに拍車がかかっていたが、仕事の合間にひたすら電話を掛けまくった。
なかなか連絡の取れない数人を除いてはとりあえず全員に連絡をとったが、誰も亜里沙の行方を知る者はいなかった。



亜里沙が姿を消してすでに1ヶ月以上が過ぎて、気持ちは焦っていた。

自殺をするタイプでは無いと思う。だが、事故や事件に巻き込まれた可能性も否定できない。
どんどん最悪の方向に考えが流れていくのを必死で振り切り携帯に手を伸ばす。

連絡を取れないのは後三人。そのうちの一人の番号を手帳で確認していた時だった。




突然聞き覚えのある曲で携帯が鳴った。



信じられない思いで携帯の表示を見る。



表示は



亜里沙だった





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