銀糸の午後 紫陽花の夢
+++ 後日談… +++
「紫陽花を見ると初恋の男の子を思い出すの」
赤紫色の傘に水滴を弾きながら茜は振り返って言った。
「へえ…」
僕は少しむっとして茜を見つめる。
「茜の初恋は右京じゃなかったの? けっこう気が多いのかな?」
わざと意地悪に言ってみるのは、少し困った君の顔が見たいから。
茜はくすくす笑って僕の黒い傘に自分の傘をぶつけてきた。
銀の粒が飛び散るそれはパラパラと紫陽花にかかり、一層その色を鮮やかに増してゆく。
「私が生きているのは、その男の子のお陰だから・・・」
茜はゆっくりと思い出を語りだす。
僕の胸に鮮やかに蘇るあの日の紫陽花が、目の前の紫陽花と重なってゆく。
大きな傘をさしてうずくまっていた少女が、愛しい女性に重なってゆく。
――――ああ、そうだ、きっとまた会えると分かっていたよ。
僕たちはずっと前から出逢っていたんだね、茜…。
一生懸命思い出を話す彼女を、思わず腕の中に閉じ込める。
うん、知ってる。覚えているよ。
驚いて目を見開く彼女は、あの日僕を見て振り返った少女のままだった。
君は約束を守ってくれていたんだね。
瞳を閉じる・・・想いが重なる・・・。
その少年が僕だと知った時、彼女はどんな顔をするだろう。
唇に触れるあたたかい想いを感じた時、赤紫の傘は茜の手を離れ雨に濡れていた。
紫陽花に寄り添うように・・・
二人が隠れていたあの日の傘のように・・・。
+++ Fin +++
2005/07/07
ブラウザのバックでお戻りください。