*** 茜 〜AKANE〜***
空が白み始める
夜の闇がゆっくりと遠のき、命を恵む光が溢れ出す
もうすぐ・・・・新しい一日が始まる
もうすぐ・・・・新しい命が生まれる
朝、目覚めた時に一番に私の視界に入るのは、晃の満ち足りた寝顔
朝のやわらかな日差しが降り注ぐ中で、晃は子どものように無邪気に私を引き寄せる
いつまでも続いて欲しい、かけがえのない時
いつまでも続いて欲しい、たった一つの願い
いつまでも・・・・・それは、決して叶わない願い
激痛の中私は晃の手を握り締める
体に巻きつく何本もの管が身をよじる度に音を立てる
息が苦しい
おなかが痛い
―――お願い。がんばって
生まれ出ようとする新しい命
私の全てをかけて必ずこの世界に産み出してあげる
私の時は短かすぎるから・・・
どうぞこの命を受け継いで・・・
「茜、だいじょうぶか?」
晃が傍にいてくれる。きゅっと握る手に力がこもる
痛みに意識を引きずられながらも返事の代わりに手をきつく握り返す
二人でならばきっと乗り越えられるはず・・・
ひときわ大きな激痛の波が私を襲い満身の力で命を生み出す
絶叫とも悲鳴とも付かない声が私の中から絞り出される
身を引き裂かれる痛みと共に何かが私から離れていった。
失いかける意識の中で私は天使の鳴き声を聞いたような気がする
目を覚ました時に一番に瞳に飛び込んでくるのは晃の笑顔
ちいさな命を抱いてわたしに見せてくれるはず
そう、私は3人で生きていきたかった・・・・。
晃ごめん・・・
「茜、目を覚まして。」
悲しませてごめん・・・。
「僕たちの子どもを見ずに逝かないで・・・・。」
一緒に生きれなくてごめん
「一緒に幸せになろうって約束しただろう?」
おねがい、泣かないで・・・。
私の時間(とき)はもう終わるけれど、
決して長くはなかったけれど
晃と共に歩いた時間はとてもゆるやかで・・・・・
晃と共に生きる毎日はとてもおだやかで・・・・・
晃と共に過ごしたその一瞬はいつも輝いて見えた・・・・
私はとても幸せでした
「茜・・・・愛しているよ」
あなたの声が大好きだった・・・・・
あなたを心から愛していた・・・・・
―――――――晃・・・・・愛している――――――
もうあなたの声も聞こえない
もうあなたに声を届けられない
どうか幸せに・・・私の愛した晃
どうか幸せに・・・私の命を引き継ぐ子
お願い、泣かないで・・・私は幸せだったのだから・・・・・・
もうすぐ朝がくる
命を恵む母なる光が大地に溢れる
ねえ。晃・・・見てくれている?
ほら・・・・空が茜色に染まるよ
+++ Fin +++
我が子を抱く事無く逝ってしまった茜。切ないですね。でも茜は本当に幸せだったんです。
彼女が死ぬのには訳がありますが、それは別のお話で徐々に明らかにしてゆきます。
悲しい別れですが、茜と晃の幸せな日々の作品もお楽しみ頂き、
最後の結末まで見守ってくださると嬉しいです。
朝美音柊花