茜色の宝石(いし)




私の薬指に光る物

それは小さな宝石(いし)だけど、何より大きな重いもの

あなたの気持がたくさん詰まった、大事な大事な赤い宝石

太陽の光を受けてキラリと輝くその宝石は

光を受けると透き通る鮮やかな赤になり、

唇を寄せるとその色は吸い込まれそうに深い色に染まる


深い深いあなたの愛の色に



「どうしてルビーなの?」

私はを窓辺で夕日に赤い結晶を透かしながら晃に聞いた。

「ほら、茜の色だろう?」

照れたように笑うあなたの顔が赤かったのは夕日のせいじゃないよね?

晃は楽しそうに続ける。

「茜の色だからって言うのもそうだけど、鮮やかで、情熱を秘めて輝いているところなんて
茜らしいと思わない?とても、強い生命力を感じるんだ」

「情熱を秘めてる?私が?」

晃は嬉しそうに私を抱きしめて耳元で囁くようにいった

「そうだよ。激しくて情熱的で…ベッドで僕を魅了するところがそっくり…っっ?」

「……」

最後まで言わせる前に、私は無意識に晃を平手打ちしていた。

「いって〜なあ。本当の事だろ?」

私は恥ずかしくて、もう一度晃の頬を打とうとした…けど、それは晃の手によって阻まれてしまった。

「認めないの? クスクス…じゃあ、証明してあげるよ?」



晃がキスを降らせてくる。

何度もついばまれて、次第に深くなるキスに翻弄される。

ついていくのが精一杯の激しいキス。

次第に意識がぼんやりして晃の首に無意識に腕を回してしまう私

「ほらね…。こんなに情熱的だろう?」

そんな声でささやかないで…

あなたの擦れる声に私の思考が完全に停止する…

悔しいかも…少しは抵抗してみたいよ。

軽い抵抗を試みて、身をよじり唇を離す。

晃の胸に手を置き、突っ張って体から引き離そうとしてみる。

悔しいけどビクともしない。

晃は笑いながら私の手をとり、指輪を引き寄せてキスをした。


「だめ、離さないよ…」

そんなに甘い声で言わないで。

「愛してる、茜」

私だって、どんなにあなたを愛しているか…

晃がため息を一つついた

「僕の奥さんは、僕を愛してくれてないのかな〜?」

もう、わかってるくせに、そんな捨てられた子犬みたいな瞳で見ないでよ。

「いじわるだね。晃って…」

上目遣いで睨みつつも、口元は笑ってしまう。

あぁ、私って本当に弱い

「夜まで待たなきゃだめ?」

…出来ればそうして欲しいけど

「待てないんだけど…?」

…だめですか?

「今すぐに茜が欲しい」


だから、弱いんだってその瞳には

「無言は肯定ってことでいいよね」

え?と訊く暇もなく晃が私を抱き上げた。大またで部屋を横切ると寝室のドアを開く。

「あ、あきらっ? ちょっ…ちょっと?」

ベッドサイドに下ろされ、すぐに押し倒されると思って身構えていた私は、次に晃がとった予想外の行動に固まってしまった。


晃はいきなり私の前で跪くと、左手を取り、まるで騎士が姫君にするように指輪にもう一度口付けた。

「茜を幸せにするとこの宝石に誓うよ。この赤い宝石は君への情熱と激しい愛、僕の心そのものだ」

驚いて声も出ない。晃は先ほどまでとは打って変わって真面目な表情をしている。

幸せで涙が止まらなかった。

膝を突いて晃に目線を合わせて座ると、私から唇を重ねた。

晃は少し驚いたようだったけど、嬉しそうに私を抱きしめた。

指輪の光る左手を晃の右手に絡めるようにして手を握り合う。

この手はずっと離したくない。





赤い宝石の魔法にかかったように、体が痺れてゆく

ゆっくり首筋をすべるあなたの唇の感触がとても心地いい


「晃、愛しているわ…」

呟くように歌うように何度も何度も繰り返す。

「僕も愛してるよ…」

耳元で囁かないで。力が抜けて立っていられなくなるから。

力が抜けてしまった私を抱き上げてベッドに横たえると、ブラウスのボタンを「面倒くさいの着てるね」って笑いながら外していく晃。

「こんな予定じゃなかったもん」って反論したら、「予定していたら脱がせやすい服を着てくれた?」って…。

やっぱり晃って意地悪だ。

面倒くさいって言ってる割には手早いし?


私は病的に肌が白いから、キスマークをつけられると真紅のバラの花びらのように浮き上がる

それを晃はいつも綺麗だって言ってくれるけど、定期的に病院へ検診に行かないといけない私にとっては凄く恥ずかしい。

「見せ付けてやればいいんだよ。本当は医者でも茜の肌を見せるなんて嫌なんだから!」

だから…それは我侭なんだってば

「子供みたい…すっごい我侭」

呆れて言うと晃は拗ねた様に「ふうん…」と鼻を鳴らした。


……ヤバイ、嫌な予感がする…


失言だったかな?謝ったほうがいいかも…

そう思ったのもつかの間、何も言わせまいとするように深いキスが私を襲った。


苦しいってば!

私の抵抗に一瞬ピクリと動きを止めた晃は、フッと笑って、それから優しくキスしてくれた 。
「心臓がドキドキする」

「茜、凄く綺麗だよ」

嬉しそうな晃の声

閉じていた目を薄く開けて晃を見る

「恥ずかしいって、そんなこといわないでよ…っ?」


――思わず息を飲んだ・・・。晃は凄くきれいだった。


少し癖のある茶色がかった髪は夕日を浴びてオレンジ色に揺れている。
夕日の陰影に浮かんだ彼の整った顔立ちは艶っぽく凄く幻想的だった。

まるで夢の中にいるように、徐々に真っ白になる霞んでゆく意識の中…

繋いだ左手は最後まで離したくなかった。




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頬を伝う柔らかな感覚でふと我に返った。

晃が私の頬をなでている。

「おかえり…目が覚めた?」

とても嬉しそうに笑って、悪戯っ子のような瞳で覗き込んでいる。
窓から差し込む夕日はもう、夜の気配の中に沈みゆこうとしている。
晃は薄暗い部屋の中で私に左手で腕枕をし、抱きかかえるようにベッドに横になっていた。

先ほどまでの自分を思い出して急に恥ずかしくなり、体が隠れている事を確認してホッとする。
その様子がツボにはまったのか、晃はおかしそうに喉を鳴らしてクックッと笑ってる。

悔しくてむっと頬をふくらませると、「おかしい顔」って、声をあげて笑って腕枕をしたままの左手で私の頬をプニッと摘まんだ。

その時初めて、私たちがまだ互いの手を握り締めたままだったことに気付いた。

「晃…手、ずっと握っててくれたの?」

「うん、だって離したくなかったし」

繋いだままの手を持ち上げ目の前に指輪を掲げるように見せてくれる。

「晃…あなたの心なんでしょ?これ。…凄く綺麗ね。ありがとう。大切にするね」

「気に入ってくれて嬉しいよ。お礼は何をくれるのかな?」

「お礼?何か欲しいの?」

言った瞬間、しまったと思った。

「ん〜〜〜?分からない?茜に決まってるだろ?」

…やっぱりそうきたのね…?

「何をどうしろと…?」

「朝まで僕に付き合って」

頬が引きつるのを感じた…。きっと漫画だったら顔に斜線が入ってるに違いない

「私に倒れろとおっしゃるのかしら、晃サン?」

……マジで死んじゃうって、無理だよ晃

「いや、そんなつもりは無いけど、そんなことができたらいいなあ。なんてね?」

ちょっと遠慮がちになんて大胆な発言をする人なんだ?

「…無理。軽度で明日入院、重度で明日通夜になるわね。どうする?今日を私の命日にしたいの?」


「笑えない冗談だね。君の命日なんて永遠に来なくていいんだよ」


眉を潜めて私を見据える晃の瞳は、さっきまでのいたずらっ子のようなものではなく、悲しみが浮かんでいた。

そう、いずれ必ず来るであろう別れの時を否定したい晃に、命日などと冗談でも辛い事だったに違いない。
…ごめん晃。勢いとは言え、あなたを傷つけたね。

「ごめん、言い過ぎた。でも晃があんなこと言うから」

「ん…わかってる。僕もからかいすぎたね」

「からかってたの?なんだ、本気にしてたよ」

ホッとして笑う

「まあ…少しは本気だったかも?」

…ってどっちよ?

「冗談だって。茜に無理はさせないよ」

不安げに見つめる私を抱き締める腕に力を入れながらそう言った。



瞳が絡み合う。

それが合図

私を組み敷くように体勢をかえ、晃が唇を重ねてくる。

ほんの少し触れるだけで感度良く反応する私に、彼は可愛いと言って、何度も唇を寄せた。


再び激情に流されるまま、晃に右手を回し抱き寄せる。

左手は決して離したくないと、しっかりと握り締めると、晃もそれに応えるように握り返してくれた。

慈しむように愛し、触れる先から甘美な熱を放っていく。

そのたびに左の薬指に彼の情熱を受けるように指輪が光った。

甘い波に飲み込まれ、再び意識が遠のき晃から離される浮遊感があった。

不安になり思わず手を伸ばす。

「…晃…愛してる…」

「あかね…茜…愛しているよ。ずっと傍にいるから…」


晃が強く私を抱き締める。


激しく求め合い私たちは心を一つに結んだ。



最後の瞬間まで繋いだ手を離す事はしないと誓って。




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ふわりと空に浮かぶような浮遊感


私は意識だけの世界にいた

真っ白な世界の中、私に向かって近付いてくる金色の光

小さな誰かが語りかけてくる感覚のソレは一瞬で私の中に滑り込んできた

どこかで小さくママ・・・と聞こえた気がした

その時私は自分の中に命が宿ったと確信した




目覚めると晃が幸せな笑みを浮かべて眠っていた

繋いだ手はそのままに

晃…私の中にあなたの命が宿った

私はこの命を大切に育てたい

赤い宝石は私に魔法をかけてくれた

ひとつは、愛する人の妻になる事

ひとつは、愛する人の子どもを授かる事

決して叶えられないと諦めていた夢が今この手の中にある


私の薬指に光る宝石(いし)

それは小さな宝石だけど、何より大きな重いもの

あなたの気持がたくさん詰まった、大事な大事な赤い宝石

太陽の光を受けてキラリと輝くその宝石は

光を受けると透き通る鮮やかな赤になり、

唇を寄せるとその色は吸い込まれそうに深い色に染まる



あなたの深い愛情と情熱に彩られた茜色の宝石

それは永遠の愛を誓うあなたと私の魔法の宝石






+++ Fin +++


2005/7/13≪オリジナルバージョン作成≫
2006/9/10≪森バージョンに改訂≫

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暁がおなかに宿った幸せを噛締める茜。彼女の短い人生は本当に満たされていたのです。
二人のささやかな幸せのワンシーンを感じていただけると幸せです。

朝美音柊花