しだれ桜



満開の桜の下、晃は暁と一緒に土手沿いの遊歩道を歩いている。
4月で暁は16才になった。

花吹雪の舞い踊る川縁は、小春日和のあたたかな風と日差しが心地よい。
二人は、ゆっくりと桜を堪能し、やがて一本の桜の下に立った。

大きな枝垂桜の木だった。

太い幹は大人が二人でやっと抱えられるほどで、悠然と伸びる枝は、ゆったりと重そうにたくさんの花をつけ垂れ下がっている。

薄い桜の花は、風が吹くたびにゆれる枝から、ハラハラと雪のように降ってくる。

「暁、覚えてるか?この桜」

ニヤニヤ笑いながら晃が訊いた。
かわいかったな〜などと、思い出に浸っている父親に、暁は後から回し蹴りを喰らわせたい衝動を抑えながら、苦虫を潰したような顔で憎々しげに答えた。

「…忘れるわけねえだろ?」



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10年前、暁6才の頃、この桜の下で彼は父に覚えたての知識を誇らしげに披露していた。

「ぼくしってるよ、これ、なだれ桜っていうんだよね?」

(すごいでしょ?ぼくしってるんだよ)と、誇らしげな暁。

かわいらしい間違いに晃はクスクスと笑いながら、『しだれ桜だよ』と優しく訂正してやった。

「・・・・すだれざくら?」(あれ?まちがっちゃったかな?)

少しがっかりする暁。

――――――ぷっ、くくく…思わず吹き出す晃。

暁は何故笑われたのか分からずに、キョトンとしている。

「ちがうよ、暁。し〜だ〜れ〜桜だよ」

あまりの可愛らしさに、笑いを堪えながら発音を強調して教えてやるが…。


「わかった、よ〜だ〜れ〜桜だね」


ニッコリと自信たっぷりに微笑む暁の姿は、晃のツボに見事にヒットした。



・・・・よっ・・・ヨダレ?

―――ぶぶっ☆あーっはははは……

腹を抱えて笑いこける父親に暁は真っ赤になって怒った。

「あきらくんの、ばか―!!」


この後晃は暁のご機嫌をとるために、おもちゃ屋へ連れて行かれたとか、行かなかったとか・・・




+++++     +++++



「今思い出しても、おかしいよね〜暁。」

ケラケラ思い出し笑いをしながら思い出の枝垂桜を見上げる。

「ひでえよな。子どもなりに一生懸命知識を磨いて、頑張って披露しているのにさ、褒めるどころか落ち込ませる親がどこにいるんだよ。」

相変わらず根に持っている暁が自分より少し背の低い父に冷たい目で蹴りをいれる。…が、紙一重のところでかわされた。

ちっ、と舌打ちする暁。

「暁が、あんまり可愛かったからさあ、思わず笑っちゃったんだよ。」

悪びれず、ニッコリ笑う父を晃は苦虫を潰したような顔で睨みつけた。

「でも、もうちゃんと分かっただろ?」

晃が、まだクスクスと笑いながら言うのを、チラッと見た暁は、あったりめ〜だと心で毒づきながら、フンと吐き捨てるように言った。

「あぁ、わかってるよ、すだれ桜だろ?」



……晃、沈黙…。



……あれ?今、ちゃんと枝垂桜って言ったよな、俺?



この後、晃が呼吸困難になるほど笑い崩れたのは言うまでもなく…

言い間違いだと真っ赤な顔をして叫ぶ暁を見て、更に笑いこける父親に、憤死するほど怒ったとか、怒らなかったとか…。

枝垂桜の枝が優しく揺れて、足元の二人を見下ろしている。

クスクスとやさしく枝を揺らして笑うように淡い花びらが降る。



二人に語りかけるように…二人を包み込むように…



+++ Fin +++

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実はこのお話し、柊花の娘が幼稚園のときの実話です。
「すだれ桜」はともかく「よだれ桜」ってなんだよ〜?って大笑いしました。子どもって本当に…笑える(爆)
もしかしたら今でも「すだれ桜」だと思っているかもしれない…(^_^;)