Love Step番外編 

***佐々木龍也の恋愛に伴う人格崩壊についてのレポート By高端暁***

この作品は『Love Step』〜Christmas Special Step〜の23〜24章を先にお読みになる事をお薦めします。




俺の親友。生徒会長、佐々木龍也はクールビューティと呼ばれる冷たい仮面を被って人前では余り笑わない。

人に干渉するのも干渉されるのも大嫌い、特に女に対してはメチャクチャ冷たくて興味なんて示した事が無い。
告白してくる女を片っ端からなぎ倒すようにあの射抜くような冷たい視線で振り続けて来たのを知っている俺達は龍也が誰かに恋をするなんて考えてみた事も無かった。

あいつの氷のように冷たく固い心を解ける女なんて先ずこの世に存在しないだろうと思っていたからだ。

この学校で美形トリオと言われている俺達は、ちょっとした有名人だ。
俺、高端暁は、どちらかと言うとフェミニストのプレイボーイで通っているらしい。
遊んでいるつもりは無いけどやっぱり杏以外の女に本気になれなくて、どうしても1ヶ月と持たないで終わってしまうってだけなんだけどさ。
まあ、俺の事はいい。

俺の隣りであんぐりと口をあけて目の前の光景を信じられないといわんばかりに呆然と見詰めているのは安原響。
こいつもビケトリの一人だ。
短い金髪にグレーの瞳でこいつもかなりの男前だ。
一見不良っぽく見えるが、別に不良ってわけじゃない。まあ、確かに喧嘩っ早いのは本当でそれがこいつの悪い所だ。考えるより行動に出るタイプだよな。
こいつの喧嘩に巻き込まれたおかげで、俺も龍也も実は随分喧嘩が強くなった。

龍也の頭脳と響の強さがあればどんな不良グループも簡単にボロボロに出来るんだから俺達ってこの辺りじゃもしかしたら最強なのかもしれない。

俺達3人は幼馴染で、3人とも母親がいないため何となく気が合って小学生の頃からつるんでいる。

俺の母親は自分の命と引き換えに俺を産んで亡くなった。
響の母親は響が物心ついたときにはいなかったそうだ。
龍也の母親は龍也が小学校に入った年に蒸発したらしい。

俺達は母親の愛情って言うものを良く知らない。
母のいない心の淋しさとか不安とかを幼かった俺達は互い支え合って心を繋いできたと言って良いだろう。
だからお互いのことは誰よりも良く分かり合っているつもりだった。


だけど…



龍也の変貌振りを目の当たりにして正直俺達は驚いた。

だってあの龍也だぜ?


女を軽蔑すべき生き物としていつもすげぇ冷たい目で突き放すように観察してきたあの冷血人間だぜ?

1年生の蓮見聖良に龍也が惚れたのには俺も響もびっくりした。

龍也が気付いていたかどうか分からないがあいつが自ら女に興味を持って、気がつけば目で追っているなんて珍事が俺と響の目の前で何度も起こればそりゃ、嫌でもわかる。

恋に関して鈍感な龍也は自分が聖良ちゃんに恋していることを全然気付いていなくて、夏休み直前に階段から落ちた彼女を助けようとして抱きとめた時にようやく自分の気持ちに気付いたらしい。

3ヶ月もかかるか、普通。

全く不器用だったらありゃしない。

おまけに怪我なんてとっくに治っているのに手を使えない事を理由に生徒会の仕事を手伝わせて毎日一緒にいる口実を作るなんて…小学生かよおまえは。

俺も響もいいかげん見ているのにイライラしていたんだ。あんまりにもじれったくてさ。

だから、きっかけを作ってやった。

案の定ふたりは上手くいって付き合うようになったんだが…




ふたりが付き合いだして確かに龍也が変わったのは気付いていた。でも、まさか龍也がここまで溺れるとは思っても見なかった。



9月の最初の生徒会会議に彼女をつれてきたときも美奈子の攻撃から守っていたし、俺達の突込みも巧みにかわして、しかも見せ付けるように抱きしめて見せた。

龍也が人前で露骨に女の子を抱きしめるなんて…あの時も絶対に9月の大雪になるに違いないと思ったっけ。


でもさ…そんなの序の口だったなんて流石の俺達も考えもしなかったよ。



クリスマスを直前に控えて二人がすれ違ってしまってからの龍也の荒れようったらなかった。

何を血迷ったか俺にまで嫉妬する始末だ。全く信じられねぇよ。

あの、佐々木龍也が女の事で嫉妬して我を忘れるだぁ?

しかも親友の俺を疑うなんて冷静さを欠くにも程があるぜ、まったく。

でも龍也がそこまで執着している彼女だからこそ、想いを確かめ合った今、感情を抑えきれなくなったのかもしれない。




だけどさ…


やっぱり龍也と今、俺達の目の前で繰り広げられているラブシーンって…余りにもギャップがありすぎるんだよ。



聖良ちゃんを腕に閉じ込めて片時も放さないといわんばかりに人目もはばからずキスをしている龍也。
しかもすげぇ甘い言葉を吐きながら…。


こいつ二重人格だったのか?

佐々木龍也ってこんなメロメロに甘い言葉を恥ずかしげもなく言えるやつだったのか?


俺も響も過去のどのデーターを引っ張り出してみても今の龍也を連想させる出来事は微塵にも無い。
…って事は、この聖良ちゃんが龍也をここまで虜にしているって事なんだろうな。


これは本当に現実なんだろうか。

俺と響は呆然と目の前のラブシーンを凝視しているしかなかった。

あんまり驚きすぎて目を逸らせ無かったって言うのが正しい言い方かもしれない。



「オイ、響。おまえこの状況をどう思う?」

「これが夢だって言うほうに賭けたいけど暁にも見えてるって事は夢でも幻でも無さそうだよな。すげぇ貴重なもん見ている気がする。」

「…そうだよな。俺も夢だって言われたほうがすんなり納得できる気がする。」


今現実に目の当たりにしているのにどうしてもまだ信じられなくて、試しに響を殴ってみようかとチラリと視線を送ると響も同じ事を考えていたのか俺とばっちり目が合う。

思わず苦笑してふたりで同時に龍也に視線を戻すとグッタリと溜息を付いて頭をうな垂れた。

相変わらず二人の世界に入り込んでいる二人にどう突っ込みを入れてやろうかと考えて響にこっそり耳打ちする。

「はぁ…。完ッ全に忘れているよな、俺達のこと。」

「いや、あのふたりの頭の中には俺達は最初からここに存在していないような気もする。」

「あれが龍也だろう?信じられねぇよな。実際に目の前で起こっている事が。」

「ああ、明日暁が杏ちゃんと結婚するって言われるほうがまだ信じられるような気がする。」

「そうだよな…。ってなんで俺なんだよ。」

からかわれムッとして見せるが、実際俺もそう言われて思わず納得してしまう。
俺と杏がどうっていうのはさておき、実際そのくらい信じられないってことだ。


天変地異が起こっても龍也が本気になる女なんて現れないと思っていた。
龍也は誰かに溺れるなんて地球が滅亡してもありえないと思っていた。
ましてや龍也がこんな、ロマンス映画の主人公みたいな甘い台詞を真顔で言うなんて…。もう一回ビックバンでも起こって地球ごと破壊されるんじゃないだろうか。


…怖いくらいありえるかも…。



いい加減俺達の存在に気付いてもらおうと響とニヤニヤと含み笑いをしながら声をかける。


「俺たちの存在忘れてるんじゃねぇか?おまえら。」

笑いを堪えた俺の声にハッとして現実に引き戻される龍也と聖良ちゃん。

聖良ちゃんの表情が露骨に『…忘れてたかもしれない』と物語っているから面白い。龍也は全然動揺していないのが面白くないんだけどな。

しかも、顔を赤くして慌てて龍也から離れようする聖良ちゃんを離す所かますます強く抱きしめている。
…おまえやっぱり二重人格だ。10年以上付き合ってきたけど今日おまえの新しい一面を見つけたよ。


「先輩、苦しいですよ。」



ああ、聖良ちゃんかわいそうになぁ。これから大変だろうに。



「ダメ…もっとキスして…。不安だった分取り戻すから。」



龍也…おめぇ、いい加減にしろよ。



「え…でも…。」



ほら、聖良ちゃんが俺達に気遣っているだろ?おまえも親友にもうちっと気を使えよ。


俺達は冷やかすような視線を二人に送ってから生徒会室を出ることにした。もういい加減こいつらのラブラブぶりにはげんなりしつつある。

「はいはい。俺たちはお邪魔な訳?心配して損した。ちゃんと仲直りするんだぞ。…亜希も心配しているだろうからさ。」

響が少し遠い目をしてそう言うと微笑んだ。響の気持ちを思うと少し胸が痛む。

「龍也。キスまでは許すけど、ココで押し倒すのはやめとけ。いいな?」

少ししんみりした雰囲気を払拭すべく俺がからかうようにそう言うと聖良ちゃんは真っ赤になって龍也の胸に顔を埋める。

はいはい、勝手にしてくれよ。

「わかってるよ。仲直りするからとっとと出て行ってくれ。二人っきりにしてくれよ。」

これ以上無いくらいのビューティスマイルで龍也はウィンクを飛ばすとクスクス笑って聖良ちゃんの頬にキスをする。

ああもう、やってらんねぇ。季節が冬だって事を忘れちまいそうだぜ。


俺達が呆れたように笑って出て行くのを確認するように視線を送ってくる龍也。マジでキス以上は絶対にここでするなよ?

一抹の不安を胸に抱えながらも俺達は生徒会室を後にした。


「なあ、響。俺今日の事多分一生忘れないだろうな。」

「ああ、俺も今同じ事考えてた。龍也のあんな顔初めて見たよ。信じらんねぇ。」



俺達は10年余りの友情の中で始めて見たあんなに幸せそうな龍也の笑顔を一生忘れないだろうと思う。




彼女はきっとこの先龍也にとってなくてはならない女性になるだろう。

龍也にとってそれはかけがえの無いものを手に入れたことになる。


よかったな、龍也。


俺達は心からそう思わずにいられなかった。

龍也を本気にさせた彼女ならきっとあいつを心の闇から救ってくれるだろうから。







「ところでさ、あの、クールビューティ佐々木龍也にあれだけのビューティスマイルを教えた蓮見聖良って…。」

響がポツリと呟いた。


…おまえの言いたい事は良く分かるよ、響。


「うん。彼女…もしかしてすげぇ存在かもしれない。」



この先龍也がどんな風に彼女に溺れて壊れていくのか…親友として嬉しくもあり少し不安な気もする。




「「龍也がこれ以上人格崩壊しないことを祈ってやろうな。」」




親友のささやかな願いは龍也に……




…届いてねぇだろうな。






+++ Fin +++



200512/13受付(『Love Step』〜Christmas Special Step〜の23〜24章部分を読んで)『暁と響がどんなふうにこの光景を見ていたのか知りたいかも〜』という拍手リクエストにお応えしました。
ふたりのバカップルぶりに呆れる暁と響(笑)それでも彼らの友情は永遠です。
最後まで心配してくれている親友を大事にしてね龍也君。
リクエストを下さった方のお名前をいただいておりません。お心当たりの方HNをご連絡下さい。

2006/01/18
朝美音柊花