Love Step

Step3 雨上がりの虹 



「先輩、お昼はどうします?」

その日も聖良はいつもと同じ質問をしてきた

午前の補習授業が終わって生徒会室でいつものように待ち合わせる

午後からは生徒会の仕事、それが終わったら聖良の個人指導…。コレは数学な。勘違いしないでくれ。
聖良と付き合い始めて2週間。夏休みも中盤と言った所だが、相変わらず俺たちの毎日は代わり映えがしない。
少し変わったのは聖良が随分と俺を好きになってきたと言う所かな。

自惚れかもしれないが、聖良の俺を見る目は確実に恋するもののソレになりつつあると思う。

少しずつStep Upしていくつもりだが。なんせ、相手はあの聖良だ。

1どころか本当に0.1から教えなくてはいけないようだ。

ふう、と小さく溜息がこぼれる

まあ今は、聖良が俺の隣で笑っていてくれれば、とりあえずは満足なんだけどね。



「聖良は今日も弁当持ちか?」

付き合い始めて驚いた事。聖良は料理が上手いらしい。時々弁当を作ってきてくれる。

また、それがすっげ〜うまい。

もう、コンビニ弁当なんて食えないかもだぜ?

「ううん、今日は無いんです。近くのコンビニまで買いに行こうと思って。」

「そっか、じゃあ一緒に何か買いに行くか?」

「ハイ。」

ニッコリと笑う聖良に頬が思わず緩んでしまう。

ほんと、かわいいよなあ。

思わずつられて俺も微笑んでしまう。

こんな時にふいに溢れそうになる想いがある

聖良が…恋しい


聖良が…愛しい


俺は聖良と出会って恋という言葉の意味を初めて知った


愛すると護りたい者が出来ると言う事を初めて知った


俺がこんな気持ちを誰かに持つなんて、考えてみた事も無かったけど、それでも聖良の為に変わっていくのなら、それもいいのかもしれないと思っている自分がいるのがすごく不思議だ。

他愛の無い会話。

さりげない仕草

楽しそうな笑い声

何もかもが好きだと思う

どれにしようかなあ。と呟きながらコンビニのお菓子コーナーで腕組みをする聖良
そんな何気ない仕草がどうしてこんなに愛しいんだろう。

引き寄せて腕に閉じ込めたくなる。

少し困ったような顔も

柔らかく触れる唇も

キスすると時々擦れる様に甘く漏れる声も

……っと、やべぇ。何考えてるんだよ俺。

やばいよな。聖良のこと考えると、時々本当に感情が暴走してしまう。

ホント…。俺ってこんな奴だったっけ?

聖良のこととなると見境が無くなるような自分が時々怖くなる。

「先輩?どうしたんですか。ぼ〜〜っとしてますよ。疲れてるんですか?」

「え?ああ、ちょっと考え事してた。」

聖良とキスすること想像してたって言ったらどんな顔するのかな。

「なんだか雲行きが怪しくなってきましたよ。夕立が来るのかもしれないわ。早く戻りましょう。」

そう言われて見上げると確かに先ほどまでの青空は鉛色の厚い雲に覆い隠され始めていた。

「ひと雨来そうだな?急ごう。」


コンビニから学校まで走っても5分もかからない。だから甘く見ていたかもしれない。

一気に雨足が強くなりプールでもひっくり返したような雨量になった。

左手で雨を避けながら右手はしっかりと聖良の左手を握って走る。

こんな時でも触れる体温が心地よくて、ドキドキするのって俺おかしいのかな。





***





どしゃ降りの雨の中、先輩に手をひかれて走る。

先輩は時々振り返って、あたしを気遣ってくれる。

優しいんだよね。先輩って…。

時々イジワルな態度を取るけれど、基本的に先輩はすごく優しい。

雨足が更に強くなり、叩きつける雨水が塊となって凶器のようにぶつかって来る
当たるとすごく痛い。

視界も悪くて先輩が手を引いてくれる方向へただひたすら導かれて走る。

繋いだ手の暖かさが胸にしみて、こんな状況でさえ胸がときめく。

あたしってヘンな娘なのかな?

「もうすぐだぞ、聖良。そこ段があるから気をつけ・・・うわっ!!」

先輩が最後まで言う前に、あたしは見事にそこに躓いた。

大きく揺れる体。景色が一瞬ぐらりと回る。

繋いだ手をぐいと引き上げるように引っ張られる感覚。

気が付くと私は何とか転ばずに先輩の腕の中に収まっていた。

「きゃん★ごめんなさい。」

「いいよ別に。それより怪我無いか?」

「はい。先輩は?」

「誰に向かって言ってんの?俺が聖良受け止めたくらいで怪我するわけ無いだろ。」

「………したじゃないですか。」

「アレは忘れろ。一生の不覚だ。」

「クスッ。やだ、忘れませんよ。龍也先輩が受け止めてくれなかったら大怪我だったかもしれないもん」

「怪我なんかせずに、カッコよく受け止めていられれば、一生忘れるなって言えたけどな。」

先輩はそう言って照れくさそうに笑った。

あたしはそんなときの先輩の表情が好き。

龍也先輩…好きって言葉に出しそうになってしまう。
恥ずかしくてさすがにそれは出来ないけど、あたしは確実に龍也先輩のことが好きになっている。
昨日より今日、今日より明日と、水の入ったグラスに氷を落としていくようにあたしの心の中には先輩のいろんな表情が詰め込まれていく。
氷が水に変わって量を増していくように、気付かないうちにあたしの心の中は先輩のことでいっぱいになって来ている。

少しずつ少しずつ…あたしの中が先輩で埋め尽くされていく。

それが時々怖くなる事もあって…。

それでも、先輩の笑顔を見ていたくて…

先輩はあたしの何が良くて好きになってくれたんだろう。







「ほら、聖良ちゃんと拭いておかないと風邪ひくぞ。」

龍也先輩はタオルをパフってあたしの頭にかけてくしゃくしゃとかき回し始めた。

「うわっ!いやぁん。やめてくださいよ。先輩っっ。」

「いやぁん…って、オイ。そんな色っぽい声出すなよ。襲うぞ?」

「えぇ?何言ってるんですか。色っぽくなんてないです。」

先輩が相変わらずガシガシとあたしの髪を拭いてくれている。

「いいですよ。自分で出来ます。先輩のほうこそびしょぬれじゃないですか?ちゃんと拭いて下さい。」

「じゃあ、聖良が拭いて。」

銀のフレームのメガネを外しながら先輩はイジワルな笑みを浮かべて言った。
また、あたしをからかってる。
最近分かってきた先輩の癖。龍也先輩はあたしにイジワルを言う時決まってメガネを外す。どうしてだか分からないけど、いつもさりげなく外して胸のポケットにしまうのよね。

「もう。からかわないでください。拭いてあげてもいいですけどかなり乱暴にしちゃいますよ。」

「え?ちょ…せ、聖良?」

あたしが本当に拭くなんて思っていなかったんだろうけど、いつもいつもいじめられっ放しじゃ悔しいから、少し困らせてみようかなって思ったのよ。
先輩の動揺ぶりが余りにおかしくてツボに入ってしまう。

クスクスと笑いながら「タオル貸して下さい」と言ってタオルを受け取り、先輩の肩に滴る水滴を拭く。それから、ふわりと先輩の頭にタオルをかけて……

「先輩…届きません。」

「だろうな。クスッ…さあ、どうする?」

また…あたしをからかってる。

「じゃあ、こうします」



そう言ってあたしは、うんと背伸びすると先輩の首に腕を回した。




***





すげ〜ビックリした。

聖良がいきなり俺の首に腕を回して自分のほうに引き寄せたから。

突然のことで何が起こったのか分からなかった。

聖良が俺の髪をガシガシとわざと乱暴に拭いていくのは多分照れているのだろう。

頭を聖良の目線まで下げて俯いていたから、ちょうど視界に聖良の胸の辺りが来る。


ドキ…ン!


雨に濡れた聖良のブラウスは布地を透けさせ下着のラインが浮き上がっていた。

思わず吸い寄せられるように見入ってしまう

「せっ聖良。おまえも風邪ひくからさ、なんか着替えもってないのか。…ってあるわけないよな。夏休みだし体操服なんかも置いてないだろうしなあ。待ってろ、何かないか見てやる。」

あわてて視線を外してロッカーへ行くと中を引っ掻き回して聖良の着替えになりそうなものがないか探してみる。

あ〜ビックリした。
聖良の奴、鈍感なだけにとんでもない行動に出る事があるからな。
こっちは振り回されっぱなしだ。あのまま押し倒されたって文句は言えないんだぞ。
俺以外の男の前であんな無防備な事して欲しくないよなぁ。…やりかねないんだよな聖良の場合。

はぁ。と小さく溜息を吐きながら洗いざらしのシャツを引っ張り出す。
よかった、珍しく着替えが余分にあって。

「聖良、コレ着れるかな。学校指定の開襟シャツだけど…濡れたままよりはいいだろう。」

「あ、はい。着替えてきます。」

「着替えてくるって?どこ行くんだよ。」

「え?更衣室まで行こうかと…。」

「鍵かかってんだろ?今夏休みだぜ?」

「え?じゃあ、トイレででも…。」

「ここで着替えればいいじゃないか。俺ちょっと表に出ててやるし。」

「…覗かないで下さいネ。」

「覗かねぇよ、バカ。」

……信用されてないのか。俺って

「フフフッ…。うそですよ。先輩はそんなことしないって分かってます。出て行かなくても大丈夫です。そこのカーテンの影で着替えますから。」

……だから…無防備すぎるんだって。




***





雨に濡れた体は夏とはいえ、やっぱり少し冷えていたみたいであたしたちはホットコーヒーで温まりながら買ってきたサンドイッチやおにぎりで遅めの昼食をとった。

先輩の貸してくれた開襟のシャツは大きくて制服を脱いでも十分なくらいの丈があった。
ちょっとミニスカートみたいになったけどね。
男物で開襟と言う事もあって女の私が着ると胸元が大きく開いてしまうので気をつけていないと胸の谷間まで見えてしまう。しょうがないから片手できゅっと胸元を握り締めたままの格好になる
とりあえず、制服がある程度乾くまでの辛抱だから…しょうがないよね。

先輩は体操服のジャージとTシャツに着替えている。かっこいい人って何を着ても様になるんだなあ。ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に先輩が「なに?」と振り向いた。
先輩に見とれていたなんて言える筈もないから、なんでもないですと笑ってみせる



すぐに降り止むと思っていた夕立はまだ降り続いている。

雨足は先ほどよりは弱くはなった様だが、それでも夏の日中にしては薄暗く照明を点けないと仕事にならないほどだ。
遠くで雷がゴロゴロと鳴っているのが聞き取れる。



「先輩…。雨、止みませんね。」








「聖良?寒いのか?あんまり顔色良くないけど…。」

…もしかして雷が怖いとか?ありえるよな。女の子って雷苦手ってよく聞くし…。
そんなことを思いながら聖良の顔をのぞき見る。
グロスでもつけているのか唇が艶やかに浮かび上がって思わず引き寄せられそうになる。

これで『雷こわ〜〜い』とかって抱きつかれたら…自制効かないだろうな俺。

はあっと溜息を付きながら唇から視線を外すと聖良がシャツの胸元を握っている事に気付く。
あの手を離したら見えるんだろうな。誰もいないからいいけど、今この状態で誰か入ってきたらすげ〜まずいよな。
何もしていないって言っても絶対に誤解される。

いや、それより聖良のこの格好を誰かに見られるなんて冗談じゃない。そっちのほうがよっぽど問題じゃねぇか。






突然空を裂くように稲妻がピカッと光った。

少し遅れて雷鳴が鳴り響く。

聖良…怖がるんじゃないか?

そう思った俺は聖良の様子に呆気にとられた。



聖良は窓にへばりつくようガラスに手を付き身を乗り出すようにして外を見ている

「せ…聖良?何やってんだ?」

「ん?稲妻見てるんです。綺麗でしょう?あたし、大好きなんです。雷とか台風とか。 先輩も一緒に見ましょうよ。あ、部屋の電気消してくださいね。そのほうが綺麗に見えますから。」


「普通、女の子って雷を怖がるんじゃないのか?こわいッとかって抱きついてきてくれないかな〜と思ってたのにさあ。」

思わず本音がでてしまう。

「……先輩…えっち」

聖良が冷たい流し目で俺を見た。…あ、ヤバ…怒った?

「えっちって…そりゃないだろ?大体さあ聖良は無防備なんだよ。」

俺はそう言って聖良を後から抱きしめた。

「ほら、こうやってすぐに捕まるだろう?もっと警戒しろよ。男はみんなオオカミなんだぞ。」

「先輩もオオカミなの?」

俺の腕の中で身を捩るようにして振り返る俺を見る聖良、かわいいよなぁヤッパリ。

「うん、オオカミになりたい。今すぐ。」

「またそんなこと言って、あたしをからかうんですか?」






―――ピカッ!






稲妻が光った。聖良が嬉しそうに窓辺を振り返る。

「先輩、電気消して下さい。雷鑑賞しましょうよ。綺麗ですよ〜〜♪」

嬉しそうに腕の中ではしゃぐ聖良に毒気を抜かれてしぶしぶ部屋の照明を落とす。
途端に薄暗くなる生徒会室。
部屋の中に雷の鳴る音と雨の激しく打ち付ける音だけが響く。

俺は聖良の後に立ち、空を切り裂くように駆け抜ける稲妻を見ていた。

窓ガラスに両手をついている聖良の後ろから、聖良の手を包むようにして重ねて手を付く。

稲妻に夢中になったとき両手をガラスについた為いつの間にか握り締めていた聖良の胸元は思い切り肌蹴て、谷間がくっきり見えていた。

すげ…真っ白だ。キスマークとかつけたらめちゃくちゃ目立つんじゃねぇ?

シャツの裾から覗く太股も白いよなあ。すげ〜柔らかそうだし…

まずいよな。理性が崩壊寸前だ。

「聖良こわくない?」

「え?雷ですか?全然。むしろ好きです」

「そうじゃなくて…俺と二人きりでこうしていてこわくないのかよ」

「へ?なんで先輩がこわいんですか?」

「おまえさ、無防備すぎるんだよ。ほんっとに。いつ襲われても文句言えないぞ。」

「はあ…。無防備ですか?なんに対して警戒しないといけないのかわかんないんですけど。」

ホントにわかってねえなあ。

こんな時に限って目の前の聖良の髪からふわっと香るシャンプーの香りが心地よくて

「きゃ!何?せんぱっ…」



……気が付くと唇を髪に寄せてキスしていた。



振り返って俺に抗議しようとした聖良の唇を強引に奪う。



「あ…んふっ…やん…っ、」

唇が離れた一瞬に聖良から漏れる甘い声…。

あ、もうダメだ。理性の最後の砦が決壊しそう。



「なあ、聖良。男のシャツを着る意味って知ってる?」

わざと耳元で唇が触れるようにして聞いてみる。俺絶対に自分で自分を追い込んでる気がする。

「きゃ…くすぐったい。知りませんよそんなの。意味なんてあるんですか?」

「あるよ。『脱がせて下さい』って意味なんだよ。」

俺はニッコリと悪魔の笑みを浮かべて聖良の様子を伺う。

「また…私を困らせようとしているんですね?」

「困らせてるのは聖良のほうだろう?こんな色っぽい格好して俺を誘ってるんだから。」

「誘ってません。先輩が貸してくれたんじゃないですか。私が選んだんじゃありません。」

「たしかにそうだけど、でも、そんなに無防備に胸とか足とかさらけ出されるとねえ?」

そう言って後から覗き込むようにじっと聖良の胸元を見る。

「先輩のえっち!もう、離して下さい。」

あわてて胸元を隠そうとする聖良の腕を抑え先ほど窓ガラスに張り付いていたのと同じ場所に固定する

「やだ、離さない。このまま食べちゃってもいい?」

「はあ?何を食べるんですか?さっきお昼食べたじゃないですか。」






「聖良を食べたいの。だめ?」






先輩の声が耳に届いた瞬間胸がギュッと鷲掴みにされたような気分だった。
先輩と窓ガラス越しに視線が絡んだ。凄く綺麗な顔で私を見つめてくる。

先輩はガラスにつけていた私の手を包み込んだまま後から私を抱きしめた。
ちょうど自分で自分を抱きしめたような形になる。それだけならいいのだけど…
先輩の吐息が耳に掛かる。背中に先輩の鼓動が伝わってくる。
振り返るように身を少し捩ると左の肩の上に龍也先輩の綺麗な顔が乗っかっていた。
「ねぇ…聖良…だめかな?」

ちっ…近い! 先輩、美形のドアップは心臓に悪いよ。ドキドキどころかバクバクいってる。



「……だめ…です。」

やっと搾り出したあたしの声は擦れていたと思う。先輩の目が凄く色っぽくって強くダメって言えなかった。

「だめ?こんなに聖良のこと好きなのに…。」

「あたしなんかのどこがいいんですか?先輩ならもっと綺麗で素敵な人がいるんじゃないですか。」

自分で言った台詞なのに、何故か傷ついている自分がいた。胸がズキズキと痛む
あたし…いつの間にこんなに先輩のことが好きになったんだろう。

確かにちょっと怖いけど、先輩とならいいかもとか思っている自分もいる。
でも、どうしていいか分からないんだもの。
余りの知識の無さに先輩に呆れられちゃうかもしれない。

「俺は聖良が好きなんだよ。他の女なんて興味ないね。聖良だけが好きなんだ。」

そう言って先輩はギュッと抱きしめてくれる。

心があったかくなるような優しさが伝わってくる。

「どうしたらわかってくれる?俺が欲しいのは聖良だけだよ。聖良の心も体も全部欲しい。」

「先輩…。あたしのどこが好きなんですか?」

「全部が好きだよ。聖良の全部がね。」

「全部って…?」

「そのままだよ。全部。聖良の声も笑顔も優しいとことも…聖良のその真っ白な所が大好きだよ。
聖良は?聖良は俺のこと好き?言葉に出して言ってくれた事、無いよね。」

「……言えない。」

「どうして?」

「……恥ずかしい。」

「え〜〜。ちゃんと聞きたい。聞かせて?」

「やだ。」

「ふうん……。」




先輩がメガネを外した。嫌な予感…




「いいよ。じゃあキスして。」

「えぇ?」

「好きって言うか、聖良からキスするか…好きなほうを選んでいいよ?」

「そんな…どっちも嫌って言ったら?」

「もちろん押し倒す」

…またですか?ニッコリと笑って言う台詞じゃないですよ。

「この間もそんな事言ってましたよね?」

「そうだったね。じゃあStep Upしなくちゃだね。」

「Step Up?」

「そう、少しずつ教えるって言ったろ。今日すぐに食べる事はしないよ。聖良にはまだ無理だよな。俺が焦って悪かった。心配すんなよ」

……でも、コレくらいいいだろ?

そう言って先輩はあたしをくるりと自分のほうに向けると向き合って、開いた胸元に唇を寄せてきた。

心臓の音が部屋中に響くんじゃないかと思うくらいドキドキしている。絶対に先輩に聞こえてるよね。

チュッと強く吸い上げられてチクリと痛みが走る。

「ん…っ。」

「ほら、聖良の胸に綺麗な花が咲いたよ。」

胸の谷間に近い位置に赤い痕が一つついていた。

「ええ?何これ?真っ赤になってる。」

「クスッ。キスマーク。聖良は俺のものって言う印だよ。」

「キスマーク!コレが?こんなに赤くなるの?」

「そうだよ。聖良は口紅の形みたいのがキスマークだと思っていたんだって?おかしいよな」

「うう…それは、違うってちゃんと教えてもらったもん。」

「でも、そう思っていたんだろ?つい最近まで。」

……言い返せない自分が悔しい。あたしって本当にそう言う事知らないんだよね。
先輩も呆れているんじゃないかな。

「俺は聖良のそんなところが好きなんだ。何色にも染まっていなくて、素直で、かわいい。」

先輩はそう言って優しくあたしの頬にキスを落とした。

「俺の色に少しずつ染めていってやるから、だから聖良は何も知らないままでいいんだよ。ちゃんと、俺が全部教えてやるから。」

「全部って?」

「ん?内緒。聖良は俺に任せて少しずつ女になっていけばいいんだよ。」

「女になってって…あたしは女です。」

「プッ…ククク… そう言うところが可愛いんだよ聖良は。すげ〜ツボに入る。」

先輩はそう言って私をギュッと抱きしめると、耳元でそっと囁いた。

「ゆっくり大人になればいいさ。まあ、俺が我慢できる範囲でだけどな。」



ゆっくり大人になる?先輩の言う意味が分かるような分からないような。

とりあえず、好きって告白はしなくて良くなったみたいだよね



そう思っていたのに…。



「で、聖良は俺の事好きなの?ちゃんと言わないと聖良からキスだよ。どうする?」

先輩の背中に悪魔の羽が見えた気がする…。

キスか…告白か…




迷いに迷って意を決する。



「……好きです…



「え?なに??聞こえないよ聖良。ちゃんと言って。」


「もう言ったから2回は言えません」




「ふう……ん。聞こえなかったしなあ。じゃあヤッパリ押し倒す?」


「嫌です。」


「じゃあ、ほっぺでいいからさキスして?」

先輩はそう言って目を閉じて左の頬を差しだすようにして目を瞑って待っている。

「ほっぺでいいんですか?」





あたしは真っ赤になりながら先輩の頬に唇を寄せた…






ちゅっ





頬に唇が触れる瞬間に先輩が突然動いた。



頬のあったはずの位置には先輩の唇があって……

あっと思ったときはもう、先輩の唇に触れていて……



「ゴチソウサマ。弁当もそうだけど、聖良のくれるもんは美味いよな。」



真っ赤になったあたしに先輩はウインクしながらそう言って笑った。





気がつくと夕立はいつの間にか止んでいて、雲の切れ間から細い太陽の筋がいくつか光のオブジェを作っている。

「あ、先輩。虹ですよ。すご〜〜い。」

雨上がりの空に光を受けた大きな虹が掛かっていた。

空を仰ぎ嬉しそうに笑う聖良の横顔を見て心が和む。

お預けを食らってもやっぱり聖良のこの笑顔を見られるなら。我慢できるかな…



あと、どの位我慢すればいいんだろう。俺。



雲の切れ間がどんどん広がり、虹が浮き上がっていく。




虹って綺麗だけど条件が重ならないと絶対に完璧に綺麗には出来ないんだよな。


ぼんやりとそんなことを思い出す。


条件が重なって初めて生まれる綺麗なもの…


まるで真っ白な今の聖良みたいだと思った。


聖良をいつか俺の手でこの虹みたいに綺麗な色の女にしてやりたいな。

真っ白で何色にも染まらない聖良。

いつか最高に綺麗な女にしてやるよ



隣で虹に感動して胸元が肌蹴ていることも忘れてはしゃぎまくる聖良。


聖良が虹になるにはかなりの時間と忍耐が必要だな


俺の超人的な理性も、聖良の殺人的な天然の前には脆くも崩れ去ってしまうからなあ。



俺はこれから先の長い道のりを考えて溜息を吐き出す。



後、どの位待てばいいのかな?俺




+++ Fin +++



Love Step 3rd.Stepです。かろうじてまだ、【森】でアップです。
次回4th.Stepからは【月夜】と【森】の別れます。会話が会話なので、全年齢対象にはできません。
ご了承下さい18才未満の方は【森】で続きをお楽しみ下さい。内容はほぼ同じです。
まだまだ龍也には苦しんでもらいます(爆)道程は長そうですよ(笑)
では、次の作品でまたお会いしましょう
朝美音柊花

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