Step4 嫉妬の行方
9月に入って最初の生徒会会議。
「聖良、今日の生徒会会議。おまえも出ろって言われてるんだけど…いいか?」
龍也先輩にそう言われて、役員でもないあたしまでもが、会議に出席する事になった。
夏休み中、龍也先輩を手伝って作った文化祭の予算編成の話をするとか…。だったら同席もしょうがないと思っていたんだけど…。
ここに集まっているのはすごいメンバーだ。
3年生で生徒会長の、樋口誠先輩と会計の本山美奈子先輩。2年の美形トリオ高端暁先輩と、安原響先輩、そして、あたしの彼、佐々木龍也先輩。
他の先輩方は後から来るとか用事があるとかで、とりあえずこれだけのメンバーしか集まれなかったって先輩は言うけれど、十分すぎるほどの威圧感を覚えるメンバーなんですけど。
学校のトップクラスの成績と、発言力をもつ人間5人に囲まれて萎縮しない1年生なんていたらお会いしてみたい。
そんなことを考えて龍也先輩の影で小さくなっていた時、突然美奈子先輩があたしに質問してきた。
「ねえねえ、聖良ちゃんって佐々木君とどこまで進んでるの?」
綺麗にカールした長い髪を弄びながら、長い睫毛をパサパサさせて大きな目を見開くと興味津々と言わんばかりに聞いてくる。
「え?どこまでって、何がですか?」
「やだあ、男女の仲でどこまでって言ったら…決まっているでしょう?」
「…何が決まっているんでしょうか?」
しーん…
「えぇ?…噂どおり聖良ちゃんって本当に純情なのね。もしかして…キスも経験無いの?」
「え?ええええぇっと。あの、あたし…」
「それは経験済み。残念でした。」
いきなり龍也先輩があたしのシドロモドロの台詞を奪って横から答えてきた。
「えええ〜〜〜。こんなに純粋な聖良ちゃんの唇を、もしかして佐々木君が食べちゃったの?」
食べちゃったって…美奈子先輩。
「はい、イタダキました。」
……イタダキましたって…龍也先輩。
凄く恥ずかしいんですけど…この会話もうやめて欲しい
そんなことを思っていたあたしに美奈子先輩が追い討ちをかける
大体なんでこんな話になっちゃったの?文化祭の話はどうなったのよ?
「はあっ、大体なんでこんな話になるんだよ。聖良をつれて来いって五月蝿かったのはこんな事聞くためだったのか?もういいだろ?いい加減にしてくれ。」
「噂じゃ、すごく可愛くて純情だって聞いてたからねえ。でもまさかここまでとは思わなかったわ。」
「ほっとけ、余計なお世話だ。美奈子みたいになったら困るんだよ。」
「なによ、それ。失礼ね。だいたいさあ、聖良ちゃん、ちゃんと分ってるの?…その、いろいろと…。」
「はは…いや、本人に確認した事無いけど9割の確率で知らねぇと思う。」
「げっ?まじで??」
響先輩…そんなに驚かなくたって。
「まさかとは思ったけど…やっぱりね。どうすんの?あたしが教えてあげようか?」
美奈子先輩が…?
「龍也、おめーの気持ちすげぇ分るかも…。きっついよなぁ純粋すぎるのもさあ。」
暁先輩…何がきっついの?
「とにかくっ!このままじゃだめよ。聖良ちゃん。佐々木君が可哀想だわ。」
「…?何で龍也先輩がかわいそうなんですか?あたし、何か龍也先輩に悪い事していますか?」
もしかして、無意識に傷つけてる?龍也先輩は優しいからあたしに言わないだけでそうなのかな?
不安になって隣りに寄り添うように座っている龍也先輩を仰ぎ見る。
龍也先輩も少し困ったような顔であたしを見ていた。
……困ってる?あたしのせいで恥をかいたりしちゃうのかな?そんな思いが先輩に伝わったのか先輩は優しく微笑んであたしの髪を撫でるように弄って言った。
「聖良は真っ白のほうがいいんだよ。下手な知識入れると、そのほうが厄介なんだ。美奈子変なこと教えんなよ。」
「変なことって…失礼ね。心配してあげてるんじゃないの。」
「心配ご無用ちゃんと少しずつ教えてるから…」
そう言って先輩はあたしをちらりと見てにやっと笑った。何だか嫌な予感…。
「キスマークも経験したしな?」
あ、龍也先輩のバカ…言っちゃヤダ。
「せっ…先輩っ!!」
もう、顔だけじゃなくて耳も首もタコみたいに真っ赤で湯気が上がっているんじゃないかと思う。気のせいか指の先までピンクに染まってるみたい。
「なんだ、一応少しは進展してるんじゃないか。よかったじゃん」
…響先輩、何でそんなに楽しそうなの?
「少しずつ教えてって…何だかペットでも飼い馴らしてるみたいな言い方だな。」
…暁先輩は呆れた様にあたしを見てるし…あたしってペットの調教並みなの?
「ん?暁、羨ましいのか?可愛いペットだろ?」
龍也先輩はそう言っていきなりあたしを後ろから抱きしめた。
「杏ちゃんにはこ〜んな事もできないんだろ?さとるクン?」
羨ましいだろ〜♪と嬉しそうにあたしを抱きしめたまま見せ付けるように頬にキスをしてくる。
みんな見てるんですけどっ!!
「たたたっ龍也先輩っ!止めて下さいよぉ。恥ずかしいです。」
「ん?だめ、こいつらに見せ付けておく。聖良に余計な事教えないように、俺がちゃんと教育してるって教えとかなきゃ、どんなおせっかいするかわからねぇからな。」
「だからって、こんな所で抱きしめなくたってっ…。」
「あ、そうか?じゃあ、誰もいなければ良いんだ。そうかそうか」
そう言って先輩はヨシヨシと頭を撫でてくる。
もうっ。…そう言う問題じゃないんだってばぁ。
結局あの後、散々美奈子先輩にあれこれ突っ込まれては龍也先輩があたしの代わりに答えるといった会話が延々続けられて、まともな会議もしないで終了してしまった。
あたし何しに行ったんだろう?
美奈子先輩はどうして、龍也先輩が可哀想だって言ったんだろう。
あたし、何か悪い事しているのかな
龍也先輩と付き合い始めても、その…キスをしたり、キスマークを付けられたりと少しは進展があったものの、正直その先の事を聞かれると困ってしまう。
漫画やテレビのラブシーンではシーツで隠れていて見えない部分で実際に何が起こっているのか、あたしはまだ知らなくて…。最近はそれがいけないことのように思えて不安になってくる。
だからと言って自分から誰かに聞くわけにもいかなくて…。
おせっかいなクラスメイトたちも一時期教育がどうとか言っていたけれど、恥ずかしくてまともに話を聞けなかったあたしにサジを投げてしまった。
そのうち、龍也先輩と付き合いだしたから、みんなも龍也先輩に教育を委ねるとか何とか言っていて最近は何も言わなくなったのは助かるんだけど。
でも、しょっちゅう言われるの。ちゃんと龍也先輩に教えてもらいなさいよって。
……冗談でしょう?だって龍也先輩には…聞けないよ。ヤッパリ…。
恥ずかしいのもあるけれど、あまりに無知で先輩に呆れられちゃったりするんじゃないかって凄く怖いの。先輩に嫌われちゃったりしたら…どうしよう…。
だからさっき美奈子先輩が教えてあげようかって言ってくれた時、本当はあたし的にはお願いしたいくらいだった。
だから、龍也先輩が席を外した時に、美奈子先輩にそっと耳打ちしたの、「お願いします」って…
美奈子先輩は少し驚いていたけれど、くすっと笑って「佐々木君には絶対ナイショよ?」と綺麗にウィンクして笑った。
―――明日の放課後でいい?
明日の放課後、一緒に帰れないこと龍也先輩になんて言い訳したらいいんだろう。
うちの高校は各学年ごとに棟があり、それぞれ直結した昇降口があるため、あたしたちは生徒会室を出てから、それぞれの学年の昇降口へと周り、いつも校門の前で待ち合わせをする。
棟までの距離のせいか、コンパスの長さの違いか、いつだって龍也先輩のほうが先に来ている。
待たせるのがイヤで、慌てて昇降口を出ようとしたときに僅かな段で躓いてしまった。
いつものことながら、ドンくさい自分が情けなくなる。
先輩はこんなあたしのどこが好きで付き合ってくれているんだろう?
こけた時に痛めた足を引きずりながらも校門まで急ぐ為近道をしようと中庭を横切ろうとした時、見覚えのある人が芝生の真ん中に寝そべって空を見上げているのが視界に入った。
暁先輩だった…
あの後、顔を真っ赤にしてじたばたするあたし達に、暁先輩は勝手にやってろと怒っていた。
龍也先輩が必要以上に杏ちゃんの事を突っ込んだ事で怒ってしまったみたい。
龍也先輩は「暁は今、辛い恋をしているから八つ当たりしたいんだよ。」って笑っていたけれど
あたしはなんだかそんな暁先輩が凄く気になっていた。
だからだったのかもしれない。気が付くと足を止めて暁先輩を見つめていた。
あたしと龍也先輩が付き合うきっかけになったとき、暁先輩が一芝居打ってくれた。
そのときにあたしにキスしようとした暁先輩に、龍也先輩が「おまえの大事な杏ちゃんに言うぞ。」とか何とか言っていたのを思い出す。
暁先輩は杏ちゃんの話になると凄く動揺するらしい。
それをわかっていて龍也先輩や響先輩は何かとからかっている。
きっと暁先輩にとって取って杏ちゃんはすごく大事な人なんだと思う。
だって、杏ちゃんの名前が出るたび、不機嫌そうな顔をするくせに、その瞳がとても愛しいものを思い出すように遠くを見つめるの。今も多分彼女の事を考えているんだろう。
何だかこっちまで、切なくなるような瞳でどこか遠くを見ている暁先輩をあたしはぼうっと見詰めていた。
その一瞬だけは龍也先輩の事忘れていたかもしれない。
不意に呼ばれた自分の名前に反応するまで、あたしは暁先輩を見詰めていた。
「聖良どうした。遅いから心配したぞ。何暁のことじっと見つめてんだよ。」
「え?ああ、ちょっと見とれて…。」
ぼうっとして答えたから思わず出た言葉にはっとして口元に手を当てる。…が、時既に遅し。
バッチリ龍也先輩には聞こえていたみたいで…。
「ほお〜〜〜。聖良は俺以外の男に見とれるんだ。やっぱりまだ身体に教え足りなかったかな?」
げ!!またそれですか?
「やっ…ちがっ…あの、見とれていたって…その…違うんですよ。
杏ちゃんを想ってる暁先輩の瞳って凄く切なくて、綺麗だなって思ったの。きっと杏ちゃんのこと凄く好きなんだろうなって。」
むっとする龍也先輩を宥めるべく、必死で言葉を探すが、龍也先輩は許してくれない。乱暴に腕を取り引き寄せると、ギュッとあたしを強く抱きしめる。息苦しさに身を捩ると、ますます腕の中に抱きしめていく。
「いた…いです。離して、龍也先輩…。」
「イヤだね。俺以外の男に見とれるなんて許せない。聖良が俺しか見れないようにずっとこうして抱いている。」
「なっ何を言ってるんですか。ちょっ…龍也先輩?」
「お仕置きだな。」
「はあっ?」
「連行だ。」
そう言ってあたしを肩に担ぎかねない勢いでぐいぐい引っ張っていく先輩。
「どっ…どこへいくつもりなんですか?痛いですよっ。」
「生徒会室。説教してやる。」
先輩…目がこわいよ。見下ろすようにあたしをじろっと見て冷たい声で言い放つ言葉。いつもの先輩じゃないみたい。
「もうちょっとその体に教えとかなきゃいけないみてぇだしな。」
ひえぇぇぇ。マジですかっ?
聖良が遅いので何となく気になって中庭に回ってみた。聖良のことだ近道をしようとして必ずココから来るだろうと思ったんだ。
聖良は、立ち尽くしたまま誰かを見ていた。
それが親友の暁であることにはすぐに気付いた。
聖良が特別な感情を持って暁を見ていたのでは無い事はよくわかっている。
だけど…聖良の視線が俺以外の男に向けられていた事実に無性に腹が立った。
それでも平静を装って声をかけたのに…聖良の口から出てきたのは俺以外の男に心を奪われたかのように錯覚させられる言葉だった。
自分でも無意識に聖良を引き寄せ強く抱きしめていた。
聖良が小さな声で痛いと訴えても力を抜いてやるだけの心の余裕も無かった。
俺以外の男なんて―――
絶対に許さない。それがたとえ暁であっても。
聖良を引きずるようにして生徒会室へと戻りカギをかける。
怯えたように俺を見上げて小さな声で謝る聖良。
わかってる、聖良は暁に惚れているわけじゃないって、でも俺の中の嫉妬は留まる事を知らなかった。
俺の中で何かが砕けた気がした。
龍也先輩、すごく怒っているみたい。あたしどうしたらいいんだろう。
暁先輩のこと見とれているって言ったことがよほど気に入らなかったのかな?
「ごめんなさい…。そのっ、あたしべつに暁先輩のことどうとか思っているわけじゃなくて…。誤解させてしまったのだったら謝ります。」
先輩はあたしの言葉を無視するようにメガネを外してポケットに入れると、いきなりあたしを抱き寄せ噛み付くように激しいキスをした。
「ん…っ!せんっ……ぱ…。」
先輩があたしの頬に右手を添え、親指でなぞるようにして頬から首筋へと指をすべらせた。
ぞわっと痺れが走って心臓が暴走を始める。すごく早くドキンドキンとなって胸が大きく上下しているのがわかる。
「んっ…ふぁっ。」
自分では無い様な声が漏れて思わずびくっと反応すると先輩が唇を離してあたしをのぞきこんできた。
怒ったような冷たい目で…。
「こわい?俺の事。」
冷たい声で言うと首筋に唇を寄せてくる。熱い吐息が首筋にかかると一気に肌が粟立った。
「先輩…こわいです。やめてください。」
――― 聖良、好きだ。
先輩の擦れた声が耳元で聞こえるけれど、それすら上手く理解できないでいる。
あたしの耳を甘噛みして息を吹きかけてくる感覚に緊張して体を硬くしてしまう。
ゾクゾクして力は入らないし、立っていられない。声だって、自分の意思とは違うトーンしかでてこない。
「俺以外の男の前でそんな顔みせるなよ。そんな甘い声も出すな。」
「や…ん。耳ダメ。」
「聖良。かわいいよ。もっと聞かせて。もっと甘い声だしてみせて。俺だけの為に。」
「や…です。はずかし…んっ…。」
僅かに開いた艶やかな唇から漏れてくる甘い声。この声を知っているのは俺だけだ。
誰にも聞かせたくない俺だけが知っている声。
誰も知らない聖良の艶っぽい顔
この表情は俺だけのものだ
「誰にも見せるなよ。こんな色っぽい顔。誰かに見られたら俺、そいつの事殺すかもしれない。」
この気持ちが本心だって聖良にはわかるんだろうか。こんな独占欲の塊のような言葉を平気で吐いている俺ってどうかしてるよな。
そう思いながらも本能はじりじりと聖良を壁際へと押しやっていく。
感情が暴走を始めて止まらない。
聖良…俺だけを好きだって言ってくれ…。
いつの間にかじりじりと壁際に押付けられて逃げ場がなくなっている。
先輩の左手が胸のボタンを外し始めた。
唇の触れる先からチクリと痛みが走って、赤い痕がついた。
ひとつ、ふたつと、留まる所を知らないように、胸元を肌蹴て首筋から胸へかけて花びらを散らすようにどんどん痕は増えていく。
逃げようとしても、強い力で腕に閉じ込めるようにして壁に押付けられてしまう。
こんなの……いやだ。こわいよ
体を引き剥がそうと先輩の胸に手をつき精一杯の力で腕を伸ばしたけれど、手首をつかまれ手動きを封じられてしまった。
「だめだよ。お仕置きだから。」
そう言って先輩は乱暴にあたしの両手を壁に押付けた。怖くて体が震えるのを止める事が出来ない。
「誤解です。あたしは…。」
「聖良は俺が好き?」
「ハイ。」
「暁よりも?」
「もちろんです。暁先輩はそんなんじゃないって龍也先輩だってわかっているんでしょう?意地悪なこと言わないで下さい。」
「俺以外の男見ないって約束して。」
「見てません。」
「今度、他の男に見とれていたら…。抱くから。」
「――っ!」
「無理やりでも抱くから。絶対に他の男を見れないように聖良に俺を刻むから。」
「…ッ…先輩…だって、あたし…。」
「俺が教えるから、聖良は何も知らなくていいんだ。」
「え…?」
「美奈子にも言っておいた。明日約束したんだろう?絶対行くなよ。」
「…って、何で?」
「わかるさ。俺はいつだって聖良のこと見てるんだから。こそこそ話してると思ったから、さっき聖良が生徒会室を出た後、美奈子を問い詰めたら吐いたよ。」
「…うぅっ…そんなのずるい。先輩に聞けるはず無いじゃないですか。」
「何で?」
「だって恥ずかしい。」
「恥ずかしくないよ。自然な事だし、ちゃんと教えてやるよ…頭じゃなくて体でね。」
「だからっ…予備知識が無いからその…こわいんですってば。」
「知識なんて必要ないよ。頭で考えるより体で感じればいいんだから。例えばキスだってそうだよ。…そうだな、聖良からキスしてみて。それができたらお仕置きはおしまいにするから。」
「キス…?あたしから?」
「そう、今度はほっぺじゃ無くて唇にね。ちゃんと気持ちのこもった熱いヤツをくれよ?
でないと、いつまでもこのままやめないから。」
本当は少しこわかった。
なんだか先輩が別の人みたいだった。
何かに取り付かれたように、あたしを押さえつけた時はこわくて泣きそうだったけど…。
それでも、心のどこかで先輩だからいいと思ったのかもしれない。
このままどうなってもいいと思うくらいに切なくて愛しくて苦しいくらいの感情に包まれた。
こんな風に心も体も預けてもいいと思えるから体で結びつきたいと思ったりするのかもしれない。
どうすればいいのか知識も何も無いあたしだけど、先輩が教えてくれる通りに体を預ける事に抵抗は無いと思える自分がいた。
先輩となら、どんな事もこわくない。
龍也先輩なら全てを受け入れてあげたい。
不安だったけど先輩とならいつかそうなってもいいと思った。
だからだと思う
「じゃあ、聖良からキスして。それで今日のお仕置きはおしまいにするから。」
龍也先輩のそんなお願いも、自然に頷く事が出来た。
正直、そんな自分自身に驚いてしまう。
それでも…何か不思議な感情があたしを突き動かしていた。
腕を伸ばし先輩の首に巻きつけると、引き寄せるようにして唇を重ねる。
いつも先輩がするように、そっと唇を啄み、唇の隙間から恐る恐る舌を差し込むと、すぐに先輩の熱い舌が絡んできて強く吸い上げられた。
激しくて、でも優しいキス。あたしの大好きな先輩のキス。
先輩の温かい想いが流れ込んでくるようで、心が満たされるようなとても幸せな気持ちになる。
この感覚が…大好き
ずっとこうして触れていたいと思う気持ちがわかったような気がする。
無意識に先輩の髪を掻き抱くように手を伸ばしてキスの合間にこの気持ちを伝えていた。
「…先輩…好き…大好き。先輩だけが好き。」
突然俺を引き寄せ唇を重ねる思いがけない聖良の行動に胸が熱くなる。
「…っ…聖良?」
「信じて…あたしが好きなのは……龍也先輩だけなの。」
ずっと聞きたかった言葉。聖良が自分からこんなにはっきりと言ってくれるなんて思わなかった。
「聖良…。俺だけを見るって約束して?」
「いつだって…先輩だけ見てる。先輩だけが好き…。」
「本当に?」
聖良がここまで言っているんだから疑うなんて考えても見ないけれど、あんまり素直に好きだと何度も言ってくれるから、嬉しくなって何度も聞きたくなる。
「ん…本当です。先輩が好きです。」
「聖良…好きだよ。俺だけのものだ。」
「ん…先輩…好き…大好き。先輩だけが好き。」
「もっと聞かせて聖良。もっと好きって言って。」
おまえの心が俺のものだって信じられるまで何度も聞かせて欲しいんだ。
龍也先輩はすごく嬉しそうに何度もあたしに好きって言わせたがった。
いつもだったらすごく恥ずかしいのに、今日は何故か何度でも先輩が求めるだけ、好きって繰り返す事が出来たのが自分でも本当に不思議だと思う。
すごく好き…大好き…
あたしの中から言葉が溢れてくる…。
先輩が大好き。
あなたが望むならどんな事でもする。何度だって好きって言うわ
先輩があたしの心の手をひいてゆっくり歩いてくれている事を感じるから何もこわくはないの。
そう、少しずつでいいんだ。あせる事も、こわがる事もないんだ。
あたしはちゃんと先輩に導いてもらってStep Upしてる。
先輩に手を引いてもらって、一段ずつ恋のステップを登っている。
それは、とてもゆっくりかもしれないけれど、それでも、確実に先輩の示す道を歩いている。
「あたし、こわくないよ…。」
聖良が自分からキスをしてくれた。しかもディープで!!
すげえビックリした。
しかも好きって言ってくれたし。おまけにこわくないって…それって、その…アレだよな。
信じられないんだけど。俺、夢見てるのかな?
動揺を悟られないように平静を保って問い掛けてみる。もしかしたら聞き間違いかもしれないし…。
「ん?何…?聖良。」
「こわくないよ。先輩がちゃんと教えてくれるなら…。あたし、ずっとついていくから…ちゃんと手を引いてステップを登って下さいネ?
でないと、また落ちちゃうかも知れないから。」
こわくない…って、ヤッパリ聞き間違いではないみたいだ。
嬉しくて思わず頬が緩んでしまう。
「クス…そしたらまた、オレが受け止めるよ。今度は怪我はしないから安心しろよ。」
「クスクス…お願いします。…先輩、大好き。」
「このままずっとこうしていたいな。ずっとこうしてキスしていたい。誰にも聖良を見られないように、どっかに閉じ込めておきたいよ。聖良の事が好きで好きで…どうしようもないくらいなんだ。 俺、聖良を抱きたくて壊れそうだよ。」
「先輩…」
「ごめん、聖良。俺さ、暁にすげぇ嫉妬した。頭ではちゃんとわかっているのにさ、すげぇイライラして…。聖良が他の男に見とれるなんて言うから、むかついて自分を抑えられなかった。
乱暴にしてごめんな。こわかっただろう?」
「ううん、あたしは…先輩とならいいと思った。」
「え…?」
驚いて聖良の顔を見ようとしたけれど、聖良はギュッと首に抱きついたまま離れようとしない。
まるで顔を見せないようにと隠すように、ますます力を入れて抱きついてくる。
「あんな風に思えたのは初めてだった。少しこわかったのは本当だけど、でも先輩がすごくあたしを想ってくれているのがわかったから。」
「聖良…。」
先輩があたしをふわんと包むように抱きしめる。あったかくて、やさしくて、この感覚が大好きだって思う。
胸の奥からとても大切にしたい気持ちが溢れるように流れ出してきて、その気持ちに言葉を自然に載せていた。
「ゆっくりでごめんなさい。少しずつだけど、でもちゃんと大人になるから。だから…その…もう少し待ってて。」
その言葉は、あたしの口から凄く自然に出てきて…先輩も驚いたようだったけれど、多分あたし自身が一番驚いていたと思う。
「聖良、それって…意味分かって言ってんのか?」
先輩が信じられないと言った顔であたしを覗き込んでいた。
俺は無理やり聖良を引離すと、嫌がる聖良の顔を覗き込む。
「聖良、それって…意味分かって言ってんのか?」
俺の問いかけに、恥ずかしそうに顔を見せまいと両手で顔を覆って俺に背中を向けようとする聖良。
「あの…どうすればいいのかわからないし、先輩をがっかりさせるかもしれないけど…でも、あたし先輩が望むことなら何でも叶えてあげたいって思ったの。」
恥ずかしさから真っ赤になりながら視線を外して、それでも必死に言葉をくれる聖良。
「聖良ありがとう。その言葉で俺救われた気分だよ。」
なんで、そんなに殺人的に可愛いんだよおまえって。
純粋な分だけ、真っ直ぐで、一生懸命で、素直に俺にぶつかって来る聖良。
愛しくて愛しくて、胸に掻き抱くと俺の腕の中にもたれかかる様に体を預けてくる。
「大切にするよ、聖良。もう二度とこんなバカな事しない。聖良を不安にさせたりしないし、こわがらせる事もしないと誓うよ。聖良のこと、ちゃんと大事にしたいから…。ゆっくりと進んでいこうな。」
首筋につけた痕をそっといたわる様に唇でなぞる。
「ごめん。無理やりこんなのつけて…。」
聖良の白い肌に浮ぶいくつもの痕にひとつずつ丁寧に謝るようにキスを落とす。
欲望の痕を愛情で塗りつぶすようにやさしく、そっと…。
大切にするよ…聖良。
赤く浮き上がった痕に先輩が一つずつ丁寧にキスをしていく。
乱暴に付けられた時は痛かったけど、今はまるで傷を癒すかのように優しく唇が触れて、心を溶かすような甘い、甘い感覚があたしを支配する。
全ての痕に、キスをした後、先輩は静かにあたしの肌蹴たブラウスを軽く整えてくれた。
「これ以上聖良のそんな姿見ていたら、今度こそ押し倒しそうだ。」
そう言って笑った顔は本当に優しくて、あたしの大好きないつもの先輩の笑顔に戻っていた。
龍也先輩。あたしね、あなたのその笑顔のためなら…何を捧げてもこわくないよ。
生徒会室を出る頃には、校内はもう静まり返っていた。
夏の名残を残した太陽が、大きく滲むように西の空へとゆっくり傾き始めている。
二人の顔がほんの少し赤いのは、夕日のせいだったのかもしれない。
先輩が差し出した手に指を絡めるようにして手を繋ぐ。
繋いだ手の平から、想いが伝わってきて心まで繋いだような気がした。
温かくて…優しくて…切なくて…恋しくて…愛しくて…
どれも一つの言葉だけでは表現できないような、複雑な幸福な気持ち
あたし達は、手を繋いで寄り添うように校舎を抜け、中庭へと差し掛かった。
暁先輩はもういなかったけれど、その場所にまだ切ない思いが残っているような気がして、自然に目が行ってしまう。
そんなあたしをそっと抱きしめると、龍也先輩は釘を刺すようにそっと耳打ちした。
「次は無いからな?どうせ見とれるなら今度は俺にしておけよ。」
甘い甘い声で囁くそのセリフの前に、誰が言い返すことなんて出来るんだろう。
コクンと頷いて小さく呟く。
―― 安心して。もう、先輩しか見えないから ――
+++ Fin +++
Love Step4【森バージョン】作りました。【月夜】バージョンに手を加えて
筋はほぼ同じですが、会話などきわどい部分は大きく変えてある部分もありますね(苦笑)
これなら全年齢対象でもOK?ダメ?教育委員会から苦情くるかな?(…って見てねぇって)
次回はラブ度120%のクリスマスデートです。
ラブラブあまあまの二人のデートをご堪能頂きましょう(笑)
ではまた次のStepでお会いしましょう♪
朝美音柊花
←ランキングに参加中です。押していただけるとウレシイです。
※ブラウザのバックでお戻り下さい