『大人の為のお題』より【凍える指】
True Love番外編
** Close your eyes **
一部の地方で桜が綻び始めたと聞くが、春はまだ浅い。
部活から帰ってきた僕を迎えた自室は、暖かかった日中の余韻を僅かに残しているものの、まだ暖房器具がないと、とてもではないが寒い。
西向きの窓から差し込む太陽は、柔らかな金色をやがて夕陽の朱に変えつつある。
暗くはないが、闇が迫ってくる気配を感じる時刻。
世界に自分だけが取り残されたような、何処か物悲しい雰囲気のこの時間帯が、僕は幼い頃から嫌いだった。
ふと蘇った幼い頃の感傷を振り払い、手にした荷物を入り口付近に降ろすと、手早く暖房をつけ、廊下で待つ彼女を招き入れる。
僕の脇をすり抜け窓際の小さなソファーにちょこんと座る彼女を見て、そんな感傷はもう過去の事だと嬉しく思った。
僕はもう、孤独を感じる必要なんてないんだ。
窓から差し込む西日を背に座る彼女の表情は伺えないが、きっと僕を見て微笑んでいる。
護りたいと願った彼女の微笑みが、今、僕の傍にある。
そう思うと、心がじんわりと温かく満たされていくのを感じた。
クラスのマドンナといわれる金森愛子と、バスケ部キャプテンで学校でもなかなかの人気の僕、浦崎淳也。
美男美女って、自分で言うのもなんだけど、僕らは人目を惹くカップルだと思う。
プレイボーイで名の通っていた僕と、誰にもなびかなかった氷の美女が付き合い始めたという噂は、新聞部を歓喜させた。
スクープ扱いされた校内新聞の記事は、卒業式の特集が霞んでしまうほどの注目度で、春休みに入るまで、学校は僕らの噂で持ちきりだった。
僕と愛子が互いの気持ちを確かめ合ったのはクリスマスの少し前。
いろんなことがあって、すぐには付き合えなかったけれど、ようやく愛子の気持ちが固まったのが、バレンタインを過ぎた頃。
愛子からチョコレートを貰えなかった僕は、地球の裏側までめり込むほど落ち込んだ。
その日のバスケ部の凄惨な練習風景は他の部のやつらが体育館を使うのを躊躇ったほどだったと後で聞かされたのを、昨日のことのように思い出す。
あれから1カ月余り…
ここのところ、僕はかなり浮かれていると思う。
僕たちが付き合って誰よりも喜んでいるのは、バスケ部のチームメイトじゃないかという噂は、あながち嘘では無いかもしれない。
…まあ、そう言われても仕方が無いよな。
まったく、この僕が、たった一人の女の子にメロメロなんだから、自分でも驚いてしまうよ。
これまでは、束縛なんてとんでもない!面倒な付き合いなんてゴメンだ!!と思っていた。
それなのに今は、ひとりの女の子に囚われている自分が不思議と楽しい。
本気の恋っていうのは、ここまで気持ちを変えるものなのだろうか?
4月から3年生になる僕にとって、次の大会は全国制覇を狙う最後のチャンスだ。
やっと恋人同士になれて、春休みは一緒にデートくらいしたいところだけれど、休みだろうがなんだろうが朝から練習がある為、なかなかそうもいかない。
そんな僕の為に、愛子は毎日お弁当を作って練習を見に来てくれる。
日の当たらない体育館は、底冷えのする寒さで、動いている僕とは違い、体育館の片隅でずっと練習を見ている彼女の身体は冷え切っているだろう。
それでも、顔を上げるといつも愛子は、寒さを微塵にも感じさせない微笑を、僕に向けてくれる。
言い寄る男を片っ端からこっぴどく振ることで有名だった氷の美女が、僕だけの為に向ける微笑は、誰もが見惚れる極上のものだ。
あれを独り占めしている僕って、すげー幸せ者だと思う。
だけど春休みだというのに、氷の美女の微笑を一目見ようとやって来る男子生徒が、体育館をウロウロしているのが気に入らない。
今日も愛子に話しかけて冷たくシカトされている男がいたっけ。
愛子は僕以外の男には、相変わらず冷たい。
だからこそ、安心しているのだけど…
話しかける男がいるってだけで、ムカついてしまう僕は心が狭いんだろうか。
嫉妬なんて僕らしく無いけれど…
愛子に関してだけは、熱くなってしまうのは、惚れた弱みというヤツなのかもしれない。
一日中でも彼女を独占して、僕だけにその笑みを向けておきたいところだけど、悲しいかな、練習が終わってから僕の部屋で数時間過ごすのが、今は精一杯だ。
あ〜ぁ。二人でゆっくり甘い時間ってのを過ごしてみたいなあ。
「淳也?座らないの?」
いつまでもドアを開けっ放しにして考え込んでいたようで、
声をかけられようやく現実に引き戻された。
ボウッとしている僕に、不思議そうに小首を傾(かし)げながら、マフラーを取ろうとして、一瞬躊躇する。
その仕草に、帰ってくる間ずっと繋いでいた手が、とても冷たかったことを思い出した。
愛子の手は凍えていて、繋いだ手の温もりすら、いつまでも指先まで伝わらないほどだった。
隣に座り、有無を言わさず引き寄せると、少しでも早く温めてやりたくて、
凍える指を両手で包み込む。
冷たさが伝わり、練習の余韻の残る身体から、ひんやりと火照りを取り除いていく感覚が心地良い。
部屋が暖まるまでと言い訳をしたけれど、先ほどチラリと燃え上がった嫉妬の炎も手伝って、簡単に放してやれそうにないことは自分が一番良く分かっていた。
なかなか暖まらない部屋にぼやきつつ、心の中では、このまま暖まらなくてもいいかな?と、ちょっと邪な気持ちが頭をもたげる。
すっぽりと腕の中に納まってしまう華奢な身体が愛おしい。
抱きしめる腕に少し力を入れると、耳元で甘く囁いた。
「愛子…好きだよ」
「……あたしも…好き。……だからね…」
「え?」
「いい…よ。その…」
「…ぇっ!いいの?本当に?」
ピクンと一瞬身体を強張らせたが、コクンと小さく頷くのを見届けると、顎に手を添え、ゆっくりと上向かせた。
暴行未遂の後遺症から、心に深い傷を負っている愛子は、重度の男性恐怖症だ。
それを知っているだけに、僕としてはなかなか手を出すことが出来ず、未だに僕らの交際は清らかなものだ。
プレイボーイで女を切らしたことの無い浦崎淳也が、彼女に惚れてからここ数ヶ月、禁欲生活を送っているのだから自分でも信じられない。
確か、最後の彼女と別れたのは、4ヶ月も前だったよな?
今まででは考えられないことだけど、もう他の女なんて考えられないのだから、愛子の心がいつか僕を受け入れてくれるまで、待つつもりで長期戦の構えは出来ている。
彼女を陥落させるのは、難攻不落の要塞を攻め落とすに等しいと考えている僕にとって、この突然の申し出は、まさに夢のような話だ。
すっっげー嬉しいんだけど。
これって…夢…って事無いよな?
頬を抓ってみようか?などと考えていると、サラリと長い髪が僕の腕にかかる。
フワリと鼻腔を擽るシャンプーの香りに、ゾクリと肌が粟立った。
ああもう、夢でも何でもいいや。
頬は僅かに赤みを増し、恥ずかしげに見上げる瞳は、潤んで凄く色っぽい。
僅かに開いた唇は誘うように艶やかに色付き、僕の視線を釘付けにした。
彼女はどんな時もまるで人形のように綺麗だと思った。
明らかに緊張している様子の彼女に、僕も釣られて心臓が鼓動を早めていくのが分かる。
彼女にこの余裕のなさを気付かれない事を願いながら、精一杯余裕のある表情を装って囁いた。
「いい?怖がらないで、僕を見て…。そう、力を抜いて?」
素直に頷く愛子だが、その面持ちは強張っている。
驚かさないように、そっと頬に手を伸ばすと、ピクンと大きく肩が跳ねた。
すげー緊張してるよなぁ…。
「怖い?」
「…っ、ぅ…ううん。淳也なら…大丈夫」
健気な台詞にはグッと来るけど、明らかに怖がっているんだよな。
「本当に?無理しなくてもいいよ」
「でも…したいんでしょ?」
「そりゃあね。好きな女の子を目の前にして、手を出したくない男はいないさ。
でも、辛い思いをするのは僕じゃないからね。愛子の気持ちを一番に考えたいんだ。
今日がダメでも、愛子が自分から言い出すまでどれだけでも待つよ。だから…無理はするなよ?」
「淳也…ありがとう。……大好きよ。」
「僕も…好きだよ。愛子。」
胸がギュッと痛くなり、彼女を強く抱きしめる。
この気持ちを切ないと呼ぶのだろうか?
愛子に恋するまでは、こんな気持ち知らなかった。
誰かを大切にしたいと思うこと
誰かを護りたいと思うこと
それはこんなにも愛しさを掻き立てられるものなのだろうか。
戸惑う視線を受け止め、優しく髪に指を滑らせる。
強く抱きしめたら折れてしまいそうな細い身体は、未知への恐怖に耐え、小刻みに震えていた。
髪を一房取り、思いを込めてそっと唇を寄せる。
髪から額へ
額から頬へ
宥めるように、少しずつ唇を移動していくが、震えが止まる気配はない。
頬から瞼へと唇を移したとき…
愛子が小さく息を呑んだ。
闇を嫌う彼女は、瞳を閉じることにすら恐怖を感じるのだろうか。
忌まわしい記憶が彼女を呪縛しているのが悔しい。
どれだけ時間がかかっても、僕が必ず彼女を癒してみせる…
そう…強く心に誓った。
キュッと噛み締めた唇の隙間から、歯が僅かにかち合う音が聞こえてくる。
………歯が鳴るほど震えてるし。
「愛子?怖いならやめる?」
「や…っ。やっと勇気を出すって決めたの。お願い…」
かっっ…可愛いっ!!
ちょっと愛子さん?
あまりの可愛らしさに、僕は暴走してしまいそうなんだけど?
ここまでかなり我慢しているんだから、余り挑発しないでくれよな?
そっと指を移動して、艶やかに僕を誘う唇の形をなぞる様に親指で愛撫する。
「僕を見てて?瞳を閉じるから怖いんだ。僕だけを見て、何も思い出さないで…。いいね?」
「ん…。淳也のことずっと見てる。信じているから…」
こういうときは余り男を信用しちゃダメだよ?
そう思っても、決して口に出せるはずが無い。
一言でもそんな事を言ったら、愛子はこの腕の中からすり抜けて逃げてしまうだろうからなぁ。
「いい?力抜いて?」
コクンと頷く愛子の額に、頬にと繰り返しキスを落しゆっくりと心を解していく。
身体の力は僅かに抜けたが、相変わらず歯が鳴り続けているのは止みそうに無い。
怖がらせないよう、細心の注意を払って、ゆっくりと唇を近づけると…
啄ばむように軽く重ねた。
チュッ
一瞬、触れるだけのキス。
愛子の肩が大きく跳ねた。
「大丈夫?」
「ん…」
「嫌だった?」
「…ううん。」
「じゃあ、良かった?」
「よっ…良かったって…?わかんないよ。一瞬だったし。」
「ああ、まあ、そうだよね。はぁ…すっげー嬉しい。」
付きあって1ヶ月…
思えば、こうして抱きしめることが出来るようになるまでも大変だった。
彼女は長い間の男性不信から、かなり警戒心が強く、邪な思いを察知するアンテナでも持っているんじゃないかと思うくらい鋭い。
だから、少しでも下心が垣間見えたら大変だ。
自制心に自信はなかったけれど、明らかに拒否反応を起こして僕から距離を置こうとされるって、すげー凹むんだよね。
好きな子には、キスだってしたいし、それ以上だって求めてしまうのが男としては自然だけど、拒絶されるのが怖くて、キスなんてとても出来なかった。
だから愛子が受け入れてくれるように、少しでもその心を癒そうと、僕は必死だった。
彼女の前では邪な思いは欠片も見せないよう努力したし、愛子が自分から許してくれるまでは、キスもその先へ進むのも絶対に待とうと心に決め、愛子にも宣言してあった。
この1ヶ月、僕の精神的鍛錬は素晴しいものがあったと、自画自賛できる。
だから、それがやっと報われて、今日のお許しが出たときは、凄く嬉しかった。
ここまで良くぞ耐えたと、自分を褒めてやりたい。
平静を保って手を繋げるようになるまで、1週間。
肩を抱いても硬直されなくなるまで、2週間。
抱きしめても逃げ出さなくなるまで、3週間。
そして念願のキスを手に入れるまで……トータルで約1カ月。
ほんっっと、長かったなあ…。
とりあえず、第一段階をようやくクリアー。
すぐに次のステップへと行くにはまだまだ先は長そうだけど…
ここまで我慢した褒美に、もう少しだけ…
…いい…かな?
この先の道のりが長いのは覚悟のうえだけど、せめてキス位は毎日楽しみたいもんなあ…。
さっきの一瞬だけじゃ、やっぱり物足りないし、愛子だって良さが分からなかったって言うし?
せっかくだから、もう少し慣れてもらうっていうのも…?
あり…だよな?
とりあえず自分が納得できそうな言い訳すると、真っ赤になって俯く愛子を上向かせ、もう一度そっと唇を重ねた。
先ほどよりゆっくりと触れ、柔らかな感触を何度も啄ばんで楽しむと、ジリジリと甘い痺れが身体を満たしていく…
甘い唇は僕の思考を奪い、徐々に神経を溶かしていく…
もっともっと彼女が欲しくて、唇を舌先で軽くノックしてみると、
恐る恐る唇を開いてくれた。
まだ震えは止まらず、歯がカチカチと小さく触れ合っていたが、それをうまく避け、歯列をなぞると、恐々とそれに応えようとする。
僕のシャツをキュッと握り締める細い指
たどたどしくも精一杯応えようとする仕草
その一つ一つに、愛しい気持ちが溢れ出して止めることが出来なくなる。
こうして彼女を変えていくことが出来るのが、自分であることを、とても誇らしく思う。
キスを覚えたばかりの、初々しい彼女
その表情(かお)を見たい衝動に駆られて、薄く目を開くと…
……パッチリ☆
大きな瞳で僕を見つめている彼女と視線が合った。
………確かに目を開けてずっと見てろとは言ったけど…
キスの間もずっと、そんなに大きな目を開けて見つめられているとは思わなかったよ。
驚いたけど、その従順さが可愛くて、クスッと思わず笑みが零れた。
その瞬間、ピリリと伝わった痛みに眉を顰める。
「…――っつ!!」
笑ったとたん気が緩んで、歯が当たらないように避けることを一瞬忘れてしまった。
どうやら、下唇を切ってしまったらしい。
ああ、しまった。気をつけていたのに…。
愛子とのキスは油断大敵だな。
「…っ!ごめんっ」
血が滲んだのを見て、愛子は泣きそうな表情(かお)で、真っ白なハンカチを差し出し唇を拭ってくれた。
何度も謝る彼女を宥めながら、未だキスにも恐怖を拭えない彼女の心の傷を思うと、唇ではなく胸が痛んだ。
赤い血が滲むハンカチが、まるで愛子の傷ついた心のようで…
狂おしいほどに愛しくて…
彼女を傷つける全てのものから護ってやりたいと思った。
「大丈夫だよ。泣かないで。」
「本当にゴメンね。あたし…。」
「いいよ。ねぇ愛子、逃げないでここへおいで?」
僕の腕から逃げ出してしまった彼女をもう一度引き寄せる。
やっぱり愛子が腕の中にいないと落ち着かない。
心の傷を押してまで、僕を受け入れようと努力してくれる彼女を心から愛しいと思った。
「愛子、無理しないで?僕は君がこうして傍にいてくれるだけで嬉しい。
今まで誰かと一緒にいてこんなに穏やかな気持ちになれたことは無いんだ。」
「でも…。」
「僕は愛子がちゃんと受け入れられるまで待つって決めているから。
…焦らないでゆっくり進もう?
無理をして僕のことまで受け入れられなくなったら、僕へこむよ?」
おどけて泣きまねをしてみせると、ようやく愛子の表情が和らいだ。
「クス…淳也ったら。」
「やっと笑った。僕はね、愛子の笑顔を護りたいんだよ。
君にはずっと僕の腕の中で笑っていて欲しい。たまに今みたいな泣き顔を見るのもそれはそれで
可愛いけどね。」
「ゴメン…ごめんね淳也。」
「どうして謝るの?」
「だって、これまでこんなに面倒な女はいなかったでしょう?」
「愛子だってさ、これまでこんな風に誰かに触れさせたことなかっただろう?
僕だけが君に触れることが出来る唯一の男だっていうだけで、今は十分だよ。」
「うん…」
「先に進みたいのは本音だけど、それはやっぱり焦っちゃダメだよな。
愛子の心が伴って、初めて僕たちは本当に結ばれる意味があるんだろ?」
「淳也…あたしの事、嫌いにならない?」
「こんなことで嫌いになんてなるはず無いだろう?僕のこと信じられない?」
「そんな事…ない…けど…。」
「うーん、でも確かに、僕もやっぱり男だから…どうしても触れたいときもあるんだ。」
「…っ、うん…。」
「そんなときは…抱きしめてもいい?何もしないから。」
「何もしない?」
「うん、愛子が嫌ならしない。」
「キスも?」
「うん、愛子が怖いなら…。愛子はキスも怖い?」
「……ううん…ただ、淳也だって分かってても…目を閉じると思い出して…怖くなるの。」
「そっか。そうだよな。無理強いはしないよ。でも、ほっぺや額にキスする事は許してくれる?…少しずつ慣らす意味でいいだろう?」
小さく頷く愛子をキュッと抱きしめて、耳元で好きだよと呟いた。
「淳也…大好き。」
嬉しそうに微笑むと、愛子は僕の背に手を回した。
僕が温めた小さな手に抱きしめられる…
熱を帯びたように、背中が熱くなった。
その日の夜、僕はベッドの上で自分の唇をなぞって、愛子の唇の柔らかさを思い出していた。
傷ついた部分に触れると、ピリ…と痛みが走る。
愛子の傷はこんなものじゃない。
彼女を自分の欲望で傷つけたくないと、心から思った。
だけど…
僕だって高校生の健全な男子で、待つとは言ったものの、我慢にだって限界があったりするわけだ。
いつまでこの禁欲生活が続くのかと思うと、泣けてくるものがあったりもする。
確かに、キスの時にいつまでもパッチリと見つめられていたら、とてもその先に進む気にもなれないし、あの様子では時間もかかりそうだ。
プレイボーイといわれた僕が、手の出しようが無いのだから、どうしようもないよなぁ。
はぁ……。これまでの女性経験が何の役にも立たないなんて…
今までの僕って…何をやってたんだろうな?
明らかにこれまでの彼女達とは違う愛子には振りまわされっぱなしだけれど、やっぱり彼女が愛しくて…。
彼女の為ならどれだけ我慢してもしょうがないかな?なんて思ってしまう自分がいる。
ああ、僕ってやっぱり愛子にめちゃめちゃ弱い。
でも…はあ。
もしも、愛子の傷が癒えるまで、10年かかったりしたら…僕耐えれるんだろうか?
……んー…自信…ないなぁ?
10年は冗談にしても(と、願いたい)彼女はどのくらいで僕を受け入れられる様になるのかなぁ?
大きな不安を溜息で誤魔化し、頭から布団を被ると、現実逃避するように眠りに落ちた。
せめて夢の中では、愛子が瞳を閉じて僕を受け入れてくれるように…と、願いながら…。
その夜、僕は幸せな夢を見た。
夢の入り口で愛子が振り返り、僕に微笑みかける
暖かな春の陽射しを一杯に浴び、輝かんばかりの笑顔で、僕の腕に戸惑うことなく飛び込んでくる
彼女を受け止め暖かい陽だまりの中、二人で寄り添って静かに時を過ごす
薔薇色の頬に手を添え、瞳を覗き込み…
想いを込めて唇を寄せる…
静かに微笑んだ愛子は…
ゆっくりと長い睫毛を伏せキスを受け入れた。
+++Fin+++
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『大人の為のお題』より【凍える指】 お提配布元 : 「女流管理人鏈接集」
こちらの作品はぐうたらねこの部屋様へ、1周年のお祝いとしてお贈りいたしました
2007/06/14