『大人の為のお題』より【セクシーボイス】
St. Valentine's Day Special Story 2

** FOUR SEASONS **





窓の外の真っ白な風景に懐かしい情景が重なる。

幼いあたしのほんのり切なく淡い想いが胸をくすぐるあの雪景色。


真っ白な雪に覆われた園庭。
ブランコも鉄棒もジャングルジムも…全部雪に抱かれて眠っている。
足跡一つ無い雪景色に深々と降り積もる牡丹雪。
あっという間に傘も元の色すらわからなくなるほどに白くなってゆく。

ドキドキと大きく鳴り響く心臓を小さな手で押さえ、静まってと語りかける。

緊張の為に震える指が、冷たい雪と北風で更に凍える。

それでも頬は熱いくらいに火照っていて、耳までも熱い。
これからのことに期待で胸が膨らむと同時に不安も襲ってくる。

受け取ってもらえるだろうか。

ほのかな想いをこめた小さなチョコレート。

大好き…その想いを伝えたくて

真っ白な雪を踏みしめる。

足跡の無い場所をわざと踏みしめてキュッキュッと雪の鳴る音を楽しみながら歩くと突然背後から大好きな彼の声がした。

「ゆうちゃん。雪遊びしているの?」

ドキン…胸が跳ねる。

「たかちゃん…」

「ゆうちゃん一緒に雪遊びしない?」

真っ白な雪に鮮やかに映える太陽のような明るいたかちゃんの笑顔

大好きな大好きなたかちゃん。

いつもの笑顔なのにずっとずっとおにいさんに見えて何だか恥ずかしくて視線を逸らした。

そんなあたしにたかちゃんは不思議な顔をして覗き込むように顔を近づけて…







コツン…






おでこをくっつけた


「ホッペ赤いよ?熱でもあるの?」

たかちゃんの優しい声にドキドキして胸の上で組んだ手が小刻みに震える

渡さなくちゃ…好きって言うの

たかちゃんが大好き

触れたおでこが熱くてその部分から心臓の音が聞こえちゃいそうで

もっとドキドキしちゃうよ

ポケットから出した小さな包みが震えてカサカサと微かな音を立てている。

たかちゃんは気付いているかな?


大好きだよ。たかちゃん


あたしね


大きくなったらたかちゃんのお嫁さんになりたいの


震える手で差し出す小さなチョコレート

たかちゃんは驚いた顔をして受け取ると真っ赤になって…

「あ、お母さんが呼んでる。俺行かなくちゃ。じゃあね。」

それだけ言うとお母さんの所へ走っていってしまった。




あたしの想いは…たかちゃんに届いたのかな?




それから数日後、たかちゃんはあたしの前から姿を消した。

ママが言うにはたかちゃんのお母さんは離婚して、お母さんの生まれた家でおじいさん達と暮らすことになったそうだ。

もう会えないのかな

ずっと一緒にいられると思っていたのはあたしだけだったのかな

あなたの気持ちはわからないけれど…

それでも

ずっとずっとあたしはたかちゃんが大好きだよ





それから10年


桜の花が舞い踊る中

漆黒の髪に冷たい印象の切れ長の瞳、整った顔立ちの一つ年上の先輩に出会った。

あたしはまったく気づいていなかった

沖崎孝宏

彼が『たかちゃん』だったなんて…


彼がずっとあたしを愛していてくれたなんて…








「優華?どうしたんだ。ぼうっとして」

降りしきる雪を窓辺で眺めながら思い出に意識を飛ばしていたあたしに孝宏が声をかけた。

懐かしいたかちゃんの面影を僅かに残す優しい漆黒の瞳があたしを覗き込んでくる。

「思い出していたの。たかちゃんにチョコレートをあげた時の事。あの日もこんな風に牡丹雪が降っていて、世界が真っ白だったなって。」

「ああ。そうだったな。優華かわいかったぜ?頬を真っ赤に染めてさ。」

孝宏はあたしの後ろに立ってふわりと抱きしめた。あたしの肩に顎を乗せて同じ景色を同じ視線で眺める。

「…孝宏だってあの時真っ赤になって逃げ出したじゃない。」

「恥ずかしかったんだよ。ガキだったからな。」

「ふふっ…かわいかったなぁ。たかちゃん。」

「今は?」

「…カワイイ…って言って欲しいわけ?」

「…カワイイは嫌だな。カッコいいって言って♪」

「クスクスッ…孝宏はあたしなんかに言われなくても撮影の時やファンの人からいつだって言われているでしょ。聞き飽きたんじゃないの?」

「優華に言って欲しい。」

おねだりの言葉と共にギュッと抱きしめられて温かい腕に包まれる。

「なんて言って欲しいの?」

「愛してるって言って。」

「…いつも言ってるじゃない。」

「もっと言って。」

「愛してる孝宏。」

「俺も愛してるよ。あの時逃げたりせずにちゃんとお礼を言っていたら…俺達は遠回りせずに、ずっと心を繋いでいられたかもしれないな。10年…11年か。随分勿体無いことしたよな。
一生のうちの10年余りを優華無しで無駄に生きてきたなんてさ。」

頬擦りするように顔を寄せて囁くあなたの声はまるでチョコレートみたいに甘くて、いつだってその声だけで体が痺れてしまう。
今だってほら、その唇が頬から首筋へと伝っていくと頭の中が溶けてしまうみたいに徐々に力が抜けて何も考えられなくなってしまうの。

「あの時本当はキスしたかったんだ。」

「え?」

「優華がチョコレートをくれた時、顔が赤いってオデコをくっつけただろう?」

そう言ってあたしを振り向かせるとあの時と同じようにオデコをコツンとくっつけた。

「本当はあのままキスしたかったんだ。優華の唇がさ、まるでさくらんぼみたいに見えてすごく美味しそうで…触れてみたかった。」

「…マセてたのね。」

「優華だって5才で告白のチョコなんてマセていたじゃないか。」

オデコを付き合わせたままクスクスと笑ってそのまま自然に唇を重ねる。


甘い…


「孝宏…チョコレートの味がする。」

「キッチンにあったケーキ食ってきたから。」

「あ!食べちゃったの?あれを持って麻里亜のところに遊びにいくつもりだったのに。」

「げっ!俺に焼いてくれたんじゃなかったのかよ。」

「孝宏のは特別に除けてあったのに…あ〜あ、孝宏用スペシャルケーキのほうを持っていくしか無さそうね。」

諦めたようにキッチンへ向かおうとしたあたしの腕を掴み引き止めて拗ねたような目で見てくる孝宏。

そんな目をしてもダメよ。つまみ食いをしたあなたが悪いんだから

「ゆうか〜〜俺のケーキを麻里亜にやるって言うのか?冷てぇなあ。麻里亜と俺のどっちが大事なんだよぉ。」

「孝宏はとても大事よ。でも麻里亜もあたしにとってとても大事な友達だもの。」

「…行かせねぇし。」

「…え?あっ、きゃあっ!」

ふわりと横抱きに抱き上げられ驚くあたしに、鮮やかな笑みを見せる孝宏。

「バレンタインに女同士で会うなんておかしいだろ?」

「別にいいじゃない。友達なんだからいつ会ったって。」

「今日はダメだ。麻里亜には俺が連絡しておくよ。優華は体調が悪くて起き上がれないから今日は行けないって。」

「何を言ってるのよ。何処も悪くないしちゃんと起きてます!」

「これから起き上がれなくしてやるし…」

チロ…とあたしの耳朶を舐めながら痺れるようなセクシーボイスで囁く孝宏。

腰が砕けそうなセクシーな声でそんなこと言わないで欲しい。

「…っぁ…」

「ほら…優華は感度がいいよな。明日の朝まで起き上がれないくらい愛してやるから…今日はどこへも行くな。」

「…麻里亜と約束したのに。」

抗議するあたしを物ともせずツカツカと部屋を横切ると寝室のドアを開いた。

……まだ、朝なんですけど。

「バレンタインは愛する人に想いを伝えて愛し合う為にあるんだろう?俺の優華への想いが一日で伝えきれると思う?朝から晩まで一日中愛し合っても無理だろうな。」

…なんだか凄く怖い発言を聞いたような気がしますが?

「24時間…足りるかなぁ?なんせ10年も無駄にしてきたんだし、その分も取り戻さなきゃいけないしな。」

「何も今日一日で取り戻す必要なんて無いと思うんだけど?」

「思い立ったが吉日って言うだろ?」

「こう言う意味じゃないと思うんだけど。」

「どっちにしても止める気はないし…。諦めろよ。」

にっこりと雑誌の表紙を飾る綺麗な笑みで微笑んでくれるけど…その笑顔が怖いと感じるのは何故でしょうか?

「甘いものの食べすぎは胸焼けを起こすわよ。食べ過ぎて嫌いになるって良く聞くじゃない?」

自分の顔が引きつっているのがわかる。誰も助けてくれる人なんて…いないよね。

「嫌いになるなんて…ありえねぇし…。もう黙れ。」


その言葉と共にベッドに沈み込み深く口付ける


激しいキスに意識はぼんやりしながらも、チラリと時計を意識する



まだ、朝の9時…



激しく口付けてくる孝宏を受け止めながら、心で大きな溜息をつく




雪の中であなたに渡したあたしの小さな恋心…。




大好きだよ。たかちゃん

あたしね

大きくなったらたかちゃんのお嫁さんになりたいの




あの日の想いをあなたはちゃんと受け止めてくれていたのね。



愛しているわ孝宏。




麻里亜ゴメン…今日は本当にベッドから起き上がれなくなるかもしれない。







+++ Fin +++

2006/02/10

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バレンタイン企画第二弾。『FOUR SEASONS』の二人です。相変わらずメチャクチャ甘いですね(笑)
孝宏〜〜おまえはっ!…この後の二人についてはご想像にお任せします(*/∇\*)
幼い二人の初めてのバレンタインを少し回想してみました。
この話を思いついた当初のタイトルは『FOUR SEASONS』ではなく『バレンタインキス』でした。まさにその最初のシーンだったわけです。実は『FOUR SEASONS』は柊花の娘が5才のとき仲の良かった男の子にチョコレートをあげたシーンから生まれました。優華のモデルはうちの娘です。優華のような女の子に育つかどうかは怪しいですが(笑)
いつか恋愛ものが読める年齢になったらこの作品をプレゼントしたいなぁ…と、余談でした。
今回も激甘なバレンタイン企画でしたがお楽しみいただけましたら嬉しいです。
明日は…誰が来てくれるでしょうか。おたのしみに♪

朝美音柊花