Sweet Dentist番外編

** Sweet Vacation **


時間軸は本編、響の誕生日(未完だけど/滝汗)より8ヶ月後。二人が結婚して4ヵ月後です。
本編より番外編のほうが進んでしまってごめんなさい〜(泣)



「あ…ぢぃ…。早くこれ脱ぎたいよぉ、響さぁん。」


真夏の炎天下の中、あたしは長袖にジーンズで全身を覆い隠し、脱水症状寸前の状態でグッタリと、真っ白なパラソルの下の影にやっと涼を求めている。

誰が見てもこの格好はリゾートホテルのプライベートビーチには相応しくないと思うだろう。

一応海に来たんだから、この下は水着を着ているんだけど…。

「ダメ、まだあちこちに男がいるだろう?千茉莉の水着姿を見せられるかよ。」

水着姿を見せられないって…そんなこと言ってたらいつまでたっても海になんて入れないじゃない。それどころか…この調子でこの水着を見たら…すぐにお部屋へ強制送還?

男性の視線が集まらない様にと無理矢理着る事を強要された長袖とジーンズの下はカットの深い大人っぽいデザインの黒のビキニだ。

雑誌で色っぽい黒のビキニを見て『千茉莉に着せてみたいなぁ。』とか何とか言っていたから買ってみたのに…。
もしかしたら海に入ることなくお蔵入り?もしくは響さんの観賞用になっちゃうんじゃないかしら?
あ…なんだか後者の方が可能性が高い気がしてきた。…それだけは避けたいなぁ。

あたしだって一応12才の年の差を考えて、余り子供っぽい水着だと響さんが嫌じゃないかと思って、ワザワザ大胆なカットの大人の女性を思わせる黒のセクシーな水着を、それこそ清水の舞台から飛び降りるような気持ちで買ってきたのよ?

だって、誰が見ても響さんの隣りに相応しい女性だと思われたいじゃない?

どう見ても妹を連れているだなんて思われたくないじゃない?

一応こう見えても結婚4ヶ月の新婚ホヤホヤのカップルなんだから。

そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか周囲に男性がいなくなるまでは水着になる許可を出そうとしない響さん。
もう熱射病になりそうなんですけどー?

辺りには楽しげに波間で戯れるカップルや家族連れが、気持ち良さそうに煌く海の水を跳ね上げている。

「響さん…もうダメ。倒れちゃうよ。海に入ろう?」

「ダメ。あそこのヤローだけのグループがお前を見てるから。」


見てませんって!…見ているとしたらあたしの暑苦しい姿に同情しているんじゃないの?

あたしの抵抗にも頑として首を縦に振らない響さんに、プゥと膨れっ面で上目づかいで迫ってみる。
響さんはどうもこれに弱いらしい。ついでに可愛く猫なで声でおねだりなんかもしてみたりして…。

これでもちょっとは学習したのよ?響さん操縦法。まだまだ成功率は低いけれどね。

失敗するとベッドに磔(はりつけ)の刑にあって、次の日は立てなくなるからあまり使った事は無いんだけど、このままじゃ本当に倒れちゃいそうで、背に腹は変えられないもの。

今日は…うまくいくかなぁ?


少し力を抜いて、彼にもたれるように甘えてみる。
瞳を潤ませて、拾ってくださいの子犬モードで訴えてみた。…がんばれあたしっ!

「ねぇ?もう…我慢できない。はやく入りたいの。」


***



真夏の炎天下に長袖とジーンズで我慢大会を強いている張本人はもちろんあたしの旦那様、安原 響さん。

彼の勤めている【YASUHARA Dental Clinic】は年中無休で診療時間も午前9:00〜午後9:00まで、お昼の休憩時間も無しという患者さんにはとてもありがたい歯医者さんでもある。
仕事が終わってからでも治療が受けられる事と、腕のいい事で評判で、とても繁盛している…らしい。
そして、いずれお父さんの後を継ぎ【YASUHARA Dental Clinic】を運営していかなければならない立場の響さんは、とても忙しい…らしい。

らしいとばかり言うのは響さんが余り経営の事はあたしに話さないからと、忙しいと言うわりには毎晩 早く帰ってきて、本当に忙しいのかどうか疑わしいから。

毎日18:00には帰宅していて、あたしの休みに合わせてお仕事を休んじゃう響さんって…ちゃんと仕事をしているのか心配になってしまったりするのよ。
たしかシフトは8:30〜17:30と13:00〜22:00の二交代じゃなかったかしら?
でも響さんは結婚してから一度も午後から出勤した事もそんなに遅い帰宅をした事も無い。

モチロン彼の腕が一流だって事は治療をしてもらったあたしが一番良く知っているけど、だからって自分だけ都合のいいようにシフトを組んだりするのはどうかと思うじゃない?

彼が言うには新婚の奥さんを独りでマンションに待たせるのは可哀想だと言うスタッフの粋な計らいなんだとか?

本当かしら?

心配ではあるけれど、『俺は頭のデキが普通の奴とは違うんだから、仕事も他のスタッフの倍こなしているんだし心配するな』って自信たっぷりに笑うからそれ以上に突っ込めなくなっちゃって…。

だって彼は本当に頭がいいんだもん。そう言われるとできない事は無いのかもしれないと思ってしまうのよね。…あたしって単純かしら?

そんな『ワガママ後継ぎ』の響さんに寛大な【YASUHARA Dental Clinic】のスタッフの皆さんは、夏休みなるものをあたし達の為に用意してくれたの。

4月に結婚してからも、シフトの関係で響さんが休めなかった為、新婚旅行も行っていないのを気づかってくれたらしく、別に響さんがいつもの我が侭を言って休みをくれと、みんなを困らせた訳では無いらしいと聞いてホッとした。

響さんなら本当にやりかねないからちょっと心配になってしまうんだよね?

あたしが望めばなんだってやりかねない響さん、先日テレビで海辺のリゾート施設を紹介しているのを見て『今年の夏は海に行きたいなぁ』って言ったばかりに無理に休みを取ったんじゃないかと心配になってしまったのよ。

あたしの願いなら何でも叶えようとしてくれる彼を『ワガママ後継ぎ』って、密かに呼んでいるってバレたら大変な目にあわされちゃうわね。


……きっと散々啼かされて明日の朝はベッドから起き上がれなくなっちゃうわ。




そう言う訳で、あたし達は新婚旅行を兼ねたSummer Vacationへと出かけることになった。

滞在先は春日グループが最近建設したばかりの超高級リゾートホテル。
響さんの親友の龍也さんが手がけたホテルで、オープン前からかなり話題になっていたホテルだ。
白亜の宮殿のような豪華なホテルのスイートルームはとても広くて、二人だけで使うのが勿体無いくらいだった。
これから1週間滞在すると思うと、嬉しくてかなりのハイテンションでバスルームやベッドルームを覗き込んではキャアキャアと喜んでいるあたしを、響さんは嬉しそうに見守ってくれる。

あたしって幸せだなぁ。こんなに優しくてかっこ良くて、あたしを誰より愛してくれる旦那様がいて。

…そう思った事は、ベッドルームの前で抱き上げられていきなりベッドに押し倒されたことで速攻で撤回された。

「ベッドの硬さをチェックするにはこれが一番だろう?」って何よ、その理由?

1週間も滞在するんだからホテルに着くなりそれは無いんじゃないの?





ようやく念願のビーチへ来たのはそれから約二時間後。

あたしを抱きしめて昼寝を決め込んだ響さんを何とか起こして、
『どうせ寝るならビーチでにして〜!』と泣きつく事で、なんとかホテルのプライベートビーチへと無理矢理連れ出す事に成功した。


あのままお昼寝しちゃったら絶対に今日は泳げなくなっちゃうわ。


せっかくの新婚旅行の思い出がベッドルームの中ばかりっていうのはごめんだものね。





***




思いがけなく取れた長期休暇に、急ではあるが新婚旅行へ行こうと思い立ったのは5日前。
龍也の手がけたホテルが話題になっているのを知っていた俺は、すぐに奴に電話をかけ、部屋を用意してもらった。

部屋代はいらないと言われたが、記念すべき新婚旅行に友人の厄介になるのは嫌だと断ると、スタンダードルームの料金でスイートルームを用意してやると言い出した。
持つべきものは親友だな。と、龍也の気持ちが嬉しくてその申し出をありがたく受ける事にしたのだが…。

…本当に好意でやったんだろうかあいつ?

ふと、浮んだ疑問に嫌な予感が過ぎる。
そう言えば龍也は聖良ちゃんと付き合うきっかけになったあの時のキス未遂を根に持って暁にすげぇ酷な事をしたって言ってたよな。
あいつを敵に回す事だけはしないでおこうってあの時心底思ったっけ。

俺って、あの場にいたけど、いままで龍也に何か言われた事ないし…大丈夫だよな?
聖良ちゃんに対して龍也が嫉妬しそうな事…何かした…記憶は無いな?

聖良ちゃんを抱き締めたり、助けたりした記憶って…無い…事も…無かった気が……する。

龍也と聖良ちゃんが出会ってから今日までの記憶を引っ張り出してざっと考えてみると、高校時代に何度か転びそうになった聖良ちゃんを支えたり、呼び出しを受けた彼女を偶然見かけて助けた事があった記憶はあるが…。まさか感謝される事があっても根にもたれる事は無いはずだ。


…………大丈夫…だよな?



一抹の不安を振り切るように千茉莉へと視線を移すと、甘えるように身体を寄せて、潤んだ瞳で見上げてくる視線とぶつかった。

ドキ…。すげぇ色っぽい。

潤んだ瞳に艶やかな唇が俺を誘うように甘やかに動く…。

「もう…我慢できない。」

上目づかいで見上げる千茉莉に鼓動が更に早くなる。

最近色っぽくなった千茉莉は流し目をすると本当に艶っぽい。
雑誌を飾るグラビアアイドルにも負けない容姿とプロポーションなのだから、こんな海辺で目を離したら、すぐにでも男に声を掛けられるだろう。

まったく…俺の気苦労も知らずにそんな目で見るなよ?

それでもそんな風に見つめられると自分の中の自制できないものが騒ぎ出す。
ついさっきその甘い肌を堪能したばかりなのに、すぐにでも欲しくなる俺って…自分でも苦笑してしまうが、止められないのだから始末が悪い。


相当病気だな。千茉莉依存症ってやつだろうか?


「早く入りたいの。」

自分の都合の良いように、意味を取り違えたくなるような台詞で、可愛くおねだりしてくる千茉莉に鼻の下が伸びっぱなしの俺。

こんな姿を龍也と暁に見られたら何て言われるだろう。
きっと一生ネタにしてからかわれそうだから絶対に見られたくねぇよな。


そんな事を考えつつ千茉莉を引き寄せるとパラソルの影でキスをする。

柔らかな唇を堪能しながら、千茉莉の希望どおり水着にしてやるべく無理矢理着せた長袖のシャツのボタンをゆっくりと外してゆくと、先ほどまで唇を這わせていた白い肌が現れた。

こうして脱がせて水着にしてやるのも悪くないな…などと楽しんでいたのもつかの間。下に着けた水着を見てシャツを脱がせた事をすぐに後悔した。

千茉莉…俺が気苦労でハゲたらお前のせいだ。

黒のシンプルな水着は千茉莉の白い肌を惹きたて、艶っぽさを増している。
深いカットのデザインは胸元を強調し、足を更に長く見せていて、グラビアアイドルなんてどっかに吹っ飛んで行ってしまいそうだ。

ここが部屋なら絶対にそのまま押し倒していただろうな。

日焼け止めを塗ってやる間もこのまま…って気持ちを抑えるのが大変だったりして…。人目が無かったらやばかったかもしれない。

俺本当に30才にもなった大人なのかよ?まるで10代のサカっているガキみたいじゃないか?
千茉莉といるとクールでストイックな魅力と謳われた俺のイメージって粉々だよなぁ。

惚れた弱みと言ってしまえばそれまでだけど、12も年下のせいか、千茉莉に可愛くおねだりされたら、もう何が何でも叶えてやりたくなってしまうから重症だと思うよ。

本当はこの白い肌を太陽の下、人目に曝すなんて絶対にしたくないんだぞ?

でもまあ…さっきつけたばかりの紅い華が彼女の目に付かない背中とかうなじで『俺』を主張しているから…許してやるけどさ。



これに気付いたら…千茉莉怒るだろうなぁ。



「なあに?響さんじっと見て。」

「あ?いや…なんだってそんな黒の色っぽい水着を選んだんだよ?千茉莉のイメージだともっと可愛いワンピースか何かだと思っていたからさ、…おまえそれすげぇエロイぞ?絶対に俺の傍から離れるなよ?」

「エロ…ってひど〜い。響さんとつりあうようにって大人っぽい水着をワザと選んできたのにっ。大体雑誌で黒の水着見て『千茉莉に着せてみたい』って言っていたのは何処のどなたよ?
…もう!知らない。」

「絶対に速攻でナンパされ…えっ?あ…千茉莉っ?」

プイと怒ってそっぽを向いたかと思うといきなり海へと駆け出していった千茉莉を暫くポカンと見つめる。

俺につりあうように…。そんなこと考えていたのか?
そんな殺人的に可愛い台詞を駆け引きでも何でもなく言えてしまう千茉莉の純粋さがとても愛しいと思う。
誰かに盗られてしまう前に結婚して本当に良かったと、しみじみと考えていると千茉莉が波打ち際で二人の男に声を掛けられているのを目にとめ、ハッとして立ち上がった。

まったく!言わんこっちゃない。目を離して、物の一分でこれだ。

ゆっくりと歩いて千茉莉の元へ…行ったつもりだったけど、実際にかかったのが、せいぜい十数秒だったっていうのは、俺の足がすげー長いからと言う理由にしておこう。

「千茉莉、何やってんだ?一人で行くな。ヘンなのに声かけられるぞ。」

俺の声にホッとした顔で振り返り胸に飛び込んでくる千茉莉を引き寄せて男を睨みつけた。
かつて視線で相手をねじ伏せた絶対的オーラを含んだ冷たいグレーの瞳で。

「…なんだよ、てめぇ。邪魔すんな。」

「邪魔?モテない奴の言う台詞だな。人の女に手ぇだしてんじゃねぇよ。」

「なにぃっ!てめぇバカにしやがって。」

「バカにしてる?違うね。それ以前に、どう見ても既にバカなんだから、それを今更確認するような事はしねぇよ。」

ビリリと嫌な空気が流れる。

相手も腕に自信があるのか、このまま引き下がる気はなさそうだ。
人目のあるこの場所での乱闘は避けたいと思ったが、この雰囲気では回避するのは難しいかもしれない。

千茉莉を巻き込むのは嫌だが、彼女を一人にするもの不安だ。

……どうするかな。


「あ〜、そいつかなり凶暴だから早く逃げたほうがいいぞ。可愛い奥さんにベタ惚れで、ちょっとでも触ろうものなら顔の原型がなくなるまで殴られるぞ。」


俺の思考を断ち切るように背後から聞こえた聞き覚えのある声。


……この声…マジかよ?


先ほどの嫌な予感が再び胸を過ぎった。



***



聞き覚えのある声に唖然として振り返ると、ニヤニヤ笑っている龍也さんがそこにいた。
少し離れたところに聖良さんが子ども達を連れて苦笑しながら見守っている。

この緊迫した空気の中、聖良さんはどうしてそんなに平然としていられるんでしょうか?

「…なんだよ。その凶暴って。失礼だな。喧嘩に負けた事が無いっていうだけの話だろう?」

響さんが龍也さんに向かって苦虫を噛み潰したような顔をした。

「喧嘩に負けた事の無いだけの奴に暴力団からスカウトが来るのか?」

暴力団からスカウト…。そう言えばそんな話も聞いたことがあるかもしれない。

「……いや、それはあいつらに気に入られちまったって言うだけで…。俺が望んだ事じゃねぇし。」

「まあ、千茉莉ちゃんなら聖良たちと一緒にいれば安全だから暴れてきてもいいぜ。助けは要らないと思うけど、俺も行こうか?」

「…いらねぇ。千茉莉の事頼むわ。」

「あ、絶対に殺すなよ。俺のホテルで事件ってのは困るからな。事故くらいで済ませてくれよ。救急車呼んでおいてやるから。」

「クス…用意がいいな。」

「まあな、響がキレルのは久しぶりだからな。楽しみだ。」

「楽しむなよ。見せもんじゃあるまいし。」

龍也さんと響さんの怪しい会話を聞いていた二人の顔色がどんどん青ざめていくのがわかって面白い。
さっきまでの威勢のよさは何処へやら、今は視線をきょろきょろと彷徨わせている。

きっとどうやって逃げ出そうか考えているんだろうなぁ。

…あぁ、そうか。だから聖良さんは余裕で笑っていたんだ。『どうしようもない人たちね』って感じの顔で。

しょうがないなぁ。まったく。

喧嘩が強くて、頭が良くて、とてもカッコイイあたしの旦那様は、凄くヤキモチ妬きで、心配性で、ちょっと喧嘩っ早くて、どうしようもなく意地悪なんだから。

わかってるわよ?本当は喧嘩なんてするつもりは無いんでしょう?龍也さんと二人でそんな会話をすることで相手の志気を削ごうとしているんだよね?
でもって、相手が顔色を変えていくのを見て楽しんでいるんでしょう?

まったく、策士なんだから。

なんだか相手に逃げる口実を作ってあげたくなるじゃないの。


「響さん…。怒らないであげて?あたしが悪かったの。響さんの傍を離れちゃったから。ごめんね?」

そう言うと両手を響さんの首に絡めてうんと背伸びをして、チュ…とキスをする。大抵の場合はこれでご機嫌が直るはず…。

ほら…。さっきまでの冷たい怒りの色を含んだ瞳がちょっと驚いたように見開かれて、それからあたしの大好きな優しい色のグレーになった。

あたしも随分彼の扱いになれて来たでしょう?

ちょっぴり策士な所も移ってきたような気がしないでも無いんだけど?

「ふ…ん。しょうがねぇな。千茉莉がそう言うなら許してやるか。お前ら早くどっか行け。もう絶対に俺達の前に姿を表すんじゃねぇぞ。」

響さんの言葉にホッとしたように逃げ出す二人が人ごみに見えなくなるのを確認しながら、あたしは響さんにもたれるように全身を預けて小さく呟いた。


「響さん、助けてくれてありがとう。」

―― あのね、惚れ直しちゃうくらい素敵だったわよ。――




聞こえないように声には出さずに唇だけ動かして言った言葉に…あなたは気付いたかしら?






***



惚れ直した…という声に出さない唇の動きで千茉莉の心を知り、顔が自然と緩んでくる。

だが、龍也の前だと言う事を忘れているわけじゃない。
にやけないように何とか顔を引き締めて、龍也を振り返ると、相変わらずニヤニヤと俺を見て何か言いたげだ。

「…んだよ?龍也。大体お前が何でここにいるんだ?」

「あぁ?俺もバカンスってトコかな。一応自分のホテルの使い勝手とかサービスの良し悪しを客の立場からみることも必要だからな。」

「だからって、俺達と同じ日にしなくても。」

「お前たちにも色々協力してもらおうと思ってさ。新婚カップルが満足できるサービス提供を考えていかないといけないからな。ウエディングプランの参考にもしたいし…。」

「そう言う事かよ。まぁ…良いけどさ。お前が好意だけでスイートなんて用意するとは思っていなかったよ。まぁ、暁のときみたいな策がある訳じゃないなら別に良いよ。」

「ははっ、暁のときみたいな事は無いから心配するな。言っとくけどあれだって本当は好意だったんだぜ?まあ、それはいいさ。響にはせいぜいサービスさせてもらうよ。じゃあ、また連絡するから。」

そう言うと聖良ちゃんと子ども達のほうへと一旦歩き出して、ふと思い出したように足を止めた。

「ああ、そうだ。俺達の部屋、おまえたちのスイートルームの向かい側なんだ。あの階にはスイートが二部屋だけしかないから、俺達の貸切だ。…思いっきり騒いでも大丈夫だぞ。防音は完璧なはずだから。」

防音は完璧?…ってそう言う意味か?

龍也のニヤリと笑った顔で言いたい事を悟り、意味が分からずポカンとする千茉莉と、頬を染める聖良ちゃんがおかしくて、意味ありげにニヤリと笑い返した。

「…まぁ、響が余り激しいと防音も何処まで持つかわからねぇけど?」

「そっか。じゃあ、防音の限界も試してみたほうが良いかな?今夜耳を澄ましてろよ。」

「おっ!それいいな。じゃあ俺もがんばるし、響も明日の朝、聞こえたか報告してくれよな♪」

「ああわかった。そうだ、モニターになるなら早速だけど報告しておいてやるよ。ベッドの硬さはちょうど良いぞ♪広さは…もう少しあったら嬉しいかもなぁ。」

「あ、お前もそう思ったか?俺もさっきそう思ったんだ。」

「龍也さんったら!もぉ、やめて。」

聖良ちゃんが泣きそうな顔で赤くなるのを見て、俺と龍也が噴き出した。

ようやく千茉莉も話の内容の意味がわかったらしく、ポンと音がしそうな感じで聖良ちゃんに負けないくらい真っ赤になる。

本当に可愛い奥さんたちだよ。


龍也たちを見送ると、すぐに千茉莉を後ろから羽交い絞めにして腕の中に閉じ込めた。
思い切りギュッと抱きしめて首筋に顔を埋めて、千茉莉の香りを胸いっぱいに吸い込む。

「ひゃっ…ひ…びきさんっ?」

「一応、龍也の子ども達の手前、さっきからずっとこうしたかったけど、我慢してたんだ。」

あの男たちに声を掛けられ、触れられそうだったことを思い出すと、ザワザワと胸が波立って、彼女の香りに包まれないと落ち着く事もできそうになかった。

千茉莉に止められなかったら絶対に、あの二人を殴っていた自信はある。

…自慢できないけどさ。

「あんまり心配させるなよ。おまえは俺の傍にいればいいんだ。大体、離れたからこうなったんだってわかっているんだろ?」

「あ…うん、でも謝ったでしょ?」

「何言ってるんだ。ちゃ〜んと俺が満足するまで謝ってもらわないとなぁ。あんなキス一回くらいで許してもらおうなんて甘いぞ?」

耳朶を噛むようにして低く囁くと、腕の中で細い体がブルッと震えた。

「クス…千茉莉感じてる?…俺に心配かけたんだから今夜はそれなりの覚悟で謝って貰わないとなぁ?まったく、ちょろちょろと一人で何処へでも行くからヘンなのに声をかけられるんだぞ?」

「だって…響さんあたしのことエロイって言ったモン。」

俺の弱い上目づかいでウルウルと見上げてくると一瞬ひるんで腕が緩んだ。
その隙を見逃さず千茉莉は俺の腕からすり抜けると、ベェと舌を出して一人で海に飛び込んでいってしまった。

「まったく、とんでもないじゃじゃ馬だ。」

溜息を一つつくと、今度こそ千茉莉の姿を追いかけて煌く波間を探す。
逃げたってすぐに追いついてしまうのはわかっているのに…。わかっていて逃げるんだからかわいいヤツだ。

男の狩猟本能を煽ってどうするんだよ?…まぁ、俺としては楽しいからいいけどね。

ニヤリと笑って千茉莉の見え隠れする波間へと泳ぎだす。

捕まえたら勝手に俺から離れた罰にSweet Kissをとりあえず3分だな。
いや、2度目だから6分…逃げた分も、きわどすぎる水着のお詫びもペナルティに含めて10分くらいで許してやるか。



静かに近付き、手の届きそうな範囲まで迫った千茉莉を手中に収めるタイミングを計る…。



とりあえず今はキスだけで許してやる。



あとは、今夜のお楽しみにとっておいてやるよ。




1週間のSweet Vacationは始まったばかりだからな。





〜 A Story dedicated on birthday of Yoko 〜
いつも支えてくれてありがとう。
これからの一年が良き出会いに恵まれた
実り多きものでありますように…。
Happy Birthday To YOU

with all my love
shooka asamine

+++Fin+++

2006/08/16

Copyright(C) 2006 Shooka Asamine All Right Reserved.



相変わらずの響に千茉莉のVacationは大変なものになりそうです。しかも防音完璧(笑)
龍也も粋な計らいを(?)しますねぇ?暁のときは悪魔に見えた(笑)龍也ですが、今回は本当に親友らしい事をしたようですね(爆)
でも、ホテルのモニターをちゃっかり響に押し付けるという所はさすが龍也です。
二人のハネムーンはこの後、どうなったんでしょうかね?
龍也ファミリーに振りまわられる二人のハネムーン☆この続きは気が向いたらまた…(笑)

朝美音柊花


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