** 雪うさぎシリーズ Happy Birthday **





『…あたしをあげる』


そう言ったけれど…本当は心臓が張り裂けそうだった。

勇気は何て言うだろう。はしたない娘だって思うだろうか?

あたしは誕生日に勇気に自分自身をプレゼントしようと思っていた。

まさか、パパが勇気にあんなものをプレゼントするなんて思わなかったから驚いたけれど、いいきっかけにはなったと思う。
勇気はあたしが、アレを見て怒ると思っていたみたい。

あたしだって、2月に誕生日を迎えて16才になったんだし、もう十分大人のつもりだもの、避妊具を見た所でどうと言う事は無いつもり。

…実際はかなり動揺したけれど、それよりも勇気の慌てぶりのほうがおかしくて、むしろ冷静に両親の話を出来たと思う。


16才になったとき、両親から勇気との事を色々聞かれた。

その…どこまでススンデいるのかとか、そう言う事も含めて、勇気への気持ちを聞かれたとき自分でも信じられないくらいに素直に勇気の事を一番大切な人だって言えた。
どんな事があっても手を繋いで歩いていきたいと思っていると両親に気持ちを告げたとき、ママはとても喜んで、パパはとても複雑な顔をしていたのを思い出す。

そのときに初めて両親の駆け落ちの事を聞いた。パパの家は旧家で、昔の華族の流れを組んでいる大きなお屋敷だ。何度か遊びに行った事があったが、その度に迷子になってしまうほど広かった。

ママが妊娠した時17才だった。パパの家族は大反対したそうだが、親戚の中でただ一人パパの伯母さんにあたる、泉原家の砂姫おばあさまだけはママを気遣って下さった。パパは砂姫おばあさまの助言で駆け落ちを決意したそうだ。

砂姫おばあさまは、16才で泉原の家に嫁がれた。おばあさまもかつてとても切ない恋をされたらしい。だから、愛し合っている二人を引離すのは堪えられないと思って下さったのだそうだ。

砂姫おばあさまの口添えもあってあたしが生まれてから、パパの実家の春日家とは行き来をするようになったけれど、相変わらずママの実家とは一切の連絡を絶っている。
ママは寂しくないんだろうか。
きっとパパも砂姫おばあさまも、あたしにはママのような思いをさせたくないと考えているんだと思う。

そんな砂姫おばあさまのご意志もあって、ママとパパは私が16才になったときに大人としてきちんと、勇気のことについて話すべきだと思ったらしい。

私の気持ちを聞いて、パパはいきなり婚約をさせるとか言い出したくらいだ。



パパ…暴走しすぎだよ。

その暴走が今回の勇気へのプレゼントという形になったみたいだけど…。

きっと勇気も驚いただろうな。パパは勇気に何を聞いたんだろう?

それもとても気になるところだったけれど、それよりももっと気になったのは勇気が何て答えたかって言う事だった。



勇気はモテる。

去年の春、転校してからずっと首席で、スポーツも出来る勇気は学校でも、凄く人気がある。
外国帰りでレディーファーストなんて当たり前のように身に付いているし、顔だって整っている。
漆黒の髪が前髪に少しかかるくらいに長くて、隠れがちな切れ長のその瞳は少しきつめに見えるけれど、それが、クールな印象を与えるらしい。鼻だって高いし、薄い唇はやっぱり形が整っていて、その口元に浮かべる笑みがストイックな印象を与えるとファンクラブが出来るくらいの人気ぶりだ。
あたしは何度か女の子のグループから嫌がらせを受けたくらいだ。

でも、その度に勇気が私を庇って護ってくれた。

女の子の間ではそんな勇気を内藤勇気をもじって『ナイト様』と呼んでいるらしい。

ナイトには姫が必要だけど…その姫があたしなんて…何だか自信を無くしてしまう。




だけど、勇気はあたしを選んでくれた。

沢山の綺麗な女の子を選ぶ事も出来るのに、彼は真っ直ぐにあたしだけを見続けていてくれる。

幼いあの日から、変わらない真っ直ぐな澄んだ瞳で、ゆるぎない愛情であたしを見守っていてくれる。

勇気の気持ちを疑った事は無かったけれど、何故あたしなんだろうと思うことがある。
勇気なら、どんなステキな女性だってきっと好きになるだろう。それなのに…



あたしは自分に自信がないのかもしれない。

勇気がいつかあたし以外の女性を好きになるかもしれないと、心のどこかで思っているのかもしれない。

あたしの16才の誕生日に砂姫おばあさまは、あたしに仰った。

「雅、どんな事があっても、あなたの心に住んでいる人を大切にしなさい。あなたの心が望む人があなたに本当に必要な人だと言う事を決して忘れないでね。それを忘れなければ、あなたの心は迷子になることは無いわ」


あたしの心が望む人は勇気だけ

あたしに必要だと思うのも勇気だけ

あたしは…勇気がいなかったら…どうなるんだろう。

勇気が帰ってくるまでの10年間、ただただ、いつか勇気が帰ってきてくれることを信じて待っていた。

勇気が帰ってきてからは…いつだって私の姿を視界に留めていてくれる勇気の視線に安心感を覚えていて、それが当たり前になりつつある。

勇気を失ったら…あたしはあたしでいられなくなるのではないかと思う。



いつの間にか私の一部のように勇気はあたしのそばにいる。


あたしは勇気の為に何が出来ているんだろう?

恋愛はGiveとTakeで成り立っているはずなのに、あたしはTakeばかりで勇気にGiveできるものが何も無い様に思う。



だから、勇気が望んでくれるなら…



そう思って決意したの。


―――あたしの全てをあなたにあげる―――



勇気のキスは優しくて、熱くて、いつだって解けてしまいそうに甘い。



でも、今日は何だかいつもと違って激しくて少し乱暴で、怖かった。

あたしの言った言葉が勇気の中の何かを壊してしまったような気がして、凄く不安になった。

激しいキスからやっと解放された時、勇気の手が体のラインをなぞるようにを滑り何かを求めるように探り始めた。

恥ずかしくて視線を合わせることが出来ないけれど、自分から言い出したことに今更怖いなんていえるはずも無い。

思い切って勇気の首に腕を絡めて引き寄せるようにして顔を見られないように広い胸に顔を埋めた。

時々強く吸い上げられてチクリと痛みを感じる度に、その部分が赤くなる。

まるで雪の上に散ったバラの花びらのように見えて、勇気と雪うさぎを作ったあの雪の夜の情景が鮮やかに胸に蘇ってきた。

「…ゆき…」

「…え?」

あたしは無意識に声に出していたみたい。勇気が少し驚いた顔をして体を離すとあたしの顔を覗き込んできた。

「あ、ううん…なんでもない。」

不意に絡んでしまった視線に戸惑ってドギマギとしていると、勇気がポツリと呟いた。

「雅の肌はあの日の雪みたいに真っ白だな。」

驚いて目を見開く。勇気もあたしと同じ事を考えていたの?

あたしと勇気は確かに心が繋がっている事を感じて、とてもうれしくなる。

あなたと出会えてよかった。勇気
あなたを待っていた10年はとても長かったけれど、それでもその時間にさえも価値があったと思う事が出来るのは、あなたの腕の中がこんなにも大きくて暖かいからだと思う。



「勇気…愛してる……」



無意識にこぼれた言葉が少し遅れるようにして自分の耳に届く。

まるで自分の発した言葉ではないような不思議な感覚でその言葉を聞いている自分がいた。

「愛してる…あたしを離さないで…もうどこへも行かないで。もう二度と一人にしないで…。」



切なくて、愛しくて胸が押し潰されそうな想いに翻弄され、いつの間にか頬を暖かい物が伝っていることにすら、あたしは気づいていなかった。











ずっと待っていた…このときを

雅と一つになれるこの日を…俺は何年も待ち続けてきた。

噛み付くような乱暴なキスを繰り返し、荒々しく胸に手を這わす。



白い肌に紅い花を散らし、俺のものだと言う証を残す。

緊張からか雅の体は細かく震えていたが、そんな震えすら今の俺を駆り立てる素材でしかない。

雅が欲しい。

一秒でも早く俺のものにしたい。

雅の事を考えている優しさも余裕も無かった。

ただ、早く一つになりたいと、心が願って…雅の不安など考えてやれなかった。

頭の中に浮ぶのは幼い日の二人で雪うさぎを作ったあの光景。

雅の白い肌に、あの日の雪景色の白が重なる。

高ぶる気持ちの中で、ただ欲望と本能だけが俺を支配して、自分ではコントロールできないほどに雅を求める感情だけが暴走をしていた。

そのときだった。



『…ゆき…』



…聞こえるかどうかの小さな声。だが、確かに聞こえた雅の細い頼りない声。

俺を支配していた荒々しい感情がその声に反応した。


一瞬理性を取リ戻す。



「…え?」



俺の脳裏に広がる雪景色が、雅にも見えていたのだろうか?

俺たちは確かに心を繋いでいる事を感じる。



先ほどの荒々しい感情が徐々に凪いでゆき、静かな深い想いが胸のそこから泉の様にこんこんと湧き上がってくる。



――― この留まる事の無い愛しさをどう表現したらいいんだろう



雅の頬を伝う涙を唇で拭い、俺の想いの全てを込めて優しくキスをすると、雅の瞳に浮んでいた僅かな恐れが消えていくのを全身で感じた。

さっきまでの荒っぽさを詫びるように、優しく労わるように心からの愛情を注ぎ込む。



「ごめん…ちょっと焦ってた。こわかったか?」

「ん…少しだけね。でも大丈夫。勇気だからいいの。」

「あんまり可愛いこと言うとまた、歯止めが利かなくなるぞ。」

二人で唇を触れ合わせたままくすくすと笑う。このまま永遠に時が止まればいいとさえ思うような甘い時間が俺たちの心を満たしていくのを感じる。


「優しくしてくれる?」

「ん〜〜。どうかな?雅はどう思ってるか知らないけど…俺だって初めてだからな。どの程度優しく出来るかなんてわからないぞ?また、さっきみたいに理性を無くすかもしれない。」

「え…?勇気も初めてなの?」

「…ってりめ〜だろ?俺はずっとおまえの事しか見てなかったんだぞ?誰とンなことするんだよ?」

やっぱりそう思ってたんだなあ。俺が雅以外の女に興味持つわけねぇだろう?

「そ…か。うふふっ、うれしい。勇気大好き。」

そう言って俺に腕を絡めて自分からキスをしてくる雅をドキドキしながら抱きしめて、柔らかいその肌に手を這わせると雅が僅かに甘い声を吐息と共に漏らし始める。

今度はもう自分を見失う事は無かった。

出来るだけ優しくゆっくりと指を進めていくと、キスで塞いだままの唇からも徐々に甘い声が漏れ始めた。

大切にするよ…雅

唇を寄せ、そっと囁くように雅に約束する

「雅…俺、雅が大事だし絶対に泣かせたりしないよ。約束する…おじさんにもそう約束したんだ。」

おじさんとの男の約束だしな。絶対に泣かせたりしないよ

「だからさ、いつか俺たちがもっと大人になったら、ちゃんと結婚しような。ずっとずっと手を繋いで歩いていこうな。」

雅がうれしそうに微笑んで頷くと、俺の左手に右手を絡めてきた。優しくその手を握り締めて雅の手の甲にキスをする。

「ナイトの誓いのキスね。」

「ああ、誓うよ…ずっとこの手を繋いで一緒に生きていこうな。俺の姫は雅だけだし俺は雅だけのナイトだからな。」

雅が幸せそうに笑って俺の手の甲に同じようにキスをする。

「あたしも誓うわ。ずっと勇気だけ愛して生きていく。ずっと傍にいてね。あたしのナイト様。」



二人微笑んで甘い甘いキスを交わす。

何度も何度も啄むように交わされるキスが深くなるにつれて、言葉は必要ではなくなっていく
絡めた指から、触れた肌から互いの想いが伝わってくるのがわかる。

互いが求め合い一つになりたいと心が欲しているのを肌で感じた時、俺たちは自然に腕を伸ばしていた。



雅は俺を抱き寄せ、俺は雅の胸に顔を埋めた…。






幼い日、二人で作った雪うさぎ



きっと護ると決めた小さな少女




ずっと前から俺たちは結ばれる運命だった。




俺はやっと本当に雅の全てを手に入れたんだ―――









触れ合う肌から伝え合う事ができるなら、何度でも抱き合おう


触れた唇からこの想いが溢れるから何度でもキスを交わそう


二人で繋いだ心は二度と離さない


あの日寄り添った小さな雪うさぎは解けて消えてしまったけれど


あの日芽生えた恋心は永遠に消えることはないのだから







+++ Fin +++

2005/11/13
2006/10/25[R15ver.に改稿]
2007/03/04[Touch Me ver.に改稿]





雪うさぎIndex

雪うさぎ完結です。初めての二人の夜を綴ったものですので、R18で執筆し、R15指定と改稿したものを、さらに、サイト統合を機に、全年齢バージョンとして作成しました。
R15ver.は直接的な性描写はカットしましたが、かなり連想させる部分を含んでいましたので、その部分をカットした形になります。
二人の会話で垣間見る初めてへの不安や、互いを気づかう気持ちをどうしても伝えたかったので、途中の、やや暴走気味の勇気のシーンは、迷いましたがあえて残しました。
身体を結ぶという事は、本当に互いを好きで、大切に想い合える相手と心を結ぶ行為であるから幸せなのだと言う事。
そして、責任の伴う行為であり、決して興味本位や勢いだけでは至ってはいけないのだと言う事を、忘れないで欲しいと、若年層の方への願いを込めて書きました。
幅広い年齢層の方に、お気に召していただけると嬉しいです。

2007/03/04
朝美音柊花



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