** 続・勇気の受難 **
食事の後、アパートに帰ろうとした俺をおじさんとおばさんは泊まっていく様に引きとめた。
この家の隣にあるかつての俺の家は今は別の人が住んでいる。
何年も日本に帰れない親が手放したのだ。
両親は日本に帰ってきたものの、他県への引越しを繰り返す生活が待っているのを知っていた俺は、迷わず雅のいるこの土地へ戻り、一人暮らしをすることを選んだ。
故に、俺はアパートに一人住まいをしている。
そんな俺を、おじさんとおばさんは何かと気づかってくれて、泊まっていく様によく勧めてくれるのだ。
それはいいのだが……
いつも俺の為に用意されるのは、雅の部屋の隣だ。
コレっておれに雅を襲えって言ってるみたいじゃないか?
おじさんだって、俺が雅を襲いかねないのを知ってるんじゃないかと思うのだが・・・。
一体何を考えてるんだろう。
「勇気、ちょっといいか?」
風呂から上がってきた俺をおじさんは呼び止めた。
言われるがままにおじさんの前に座る。
「まあ、一杯付き合えよ」
そう言って進められるままにビールを一杯飲み干す。
いいんだろうか?俺、高校生なんだけど。
おじさん、コレってヤバいんじゃねぇ?まあ、俺はこのくらいでは酔わないけどさ。
「勇気。おまえは、雅と付き合ってるんだろう?」
2杯目に口をつけた時おじさんが言った言葉に思わずブッと吹き出した。
「おっ…おじさん?」
「ん…まあ、勇気ならいいんだ。どこの馬の骨とも分からない奴だと腹も立つが、おまえは、まあ、家族みたいなもんだ。やっと息子が帰ってみたいな気分なんだよな。」
おじさんの言葉に戸惑いながらも、その気持ちを嬉しく思う。
「だから、雅が結婚するなら勇気がいいと思っているんだ。」
……おじさん。すげー話が早いんだけど。
まあ、そりゃいずれはそうなるかもだけど、まだ、俺たち高校生だぜ?
俺なんて今日やっと17才になったばかりで法的にはまだ1年は結婚なんて無理だ。
まったく3月生まれって損だよな。…って、そうじゃなくて、おじさんは何が言いたいんだ?
「勇気は…その…あれか?あの…雅とはどうなんだ?」
……はあ?
訳が分からないといった俺の表情がわかったのか、おじさんは視線を反らしながら俺に小さな紙袋を渡した。
なんだコレ?
「これをやるから…絶対に雅を大事にしろよ。おまえに頼んだからな?」
意味が良く分からなかったが、とりあえず頷いて袋を覗いて見る。
「え!!おっ…おじさん?なんで?どういうことだよ??」
「うん…。だから……なんだ。その…ちゃんとして欲しいんだよ。絶対に泣かすな。」
「はあ……。」
俺は言葉もなく小さな紙袋の中の小箱を見つめる。
普通こんなもん娘の彼氏に渡すか?
「俺だっておまえ位の年の頃ってさあ、色々あったし付き合っていて何もするなって言うほうが無理だって思うわけだわ。だけど、やっぱり自分の娘はなあ。すげ〜複雑なわけよ。」
まあ、言いたい事はわかるけどさ。
でも、コレって…公認してくれるって事だよな?
「勇気はいいかげんな気持ちで雅に手ぇ出したりしないだろ?だから…。」
おじさんは視線を彷徨わせながら、一旦深呼吸して、意を決したように言った。
「ちゃんと避妊しろよ?ぜったいに責任取れないようなことすんなよ。雅のこと大事にしろよ?わかったか?」
おじさん…半泣きじゃねえか?んな、泣かなくったっていいじゃねえかよ。
俺は袋の中の未使用の避妊具を見つめて複雑な気持ちになる。
「大丈夫だよ。おじさん。俺、雅が大事だし、絶対に泣かせたりしないよ。約束する。」
おじさんは俺のその言葉を聞いて、うんうんと頷いていた。
「俺、部屋に行くわ。おじさん、ありがとう。本当の親父と話してるみたいですげ〜嬉しかった。心配かけるつもりはないよ。俺、雅の事本当に好きなんだ。絶対に大事にするから。」
雅の父親に真顔でこんな事言ってる俺って、なんかすごいかも…。
でも、雅を大切にする。その気持ちに偽りは無いから…。
ずっと一緒に手を繋いで歩いていきたいから…。
袋の中の小さな箱を見つめて、小さく溜息を付く。
これって…雅に話すべきなのかな?
この話聞いたら、あいつキレルんじゃないか?
でもまあ、公認してもらったわけだし…
おじさんのせっかくの好意を無にするのも悪いしな…
今夜こそ、雅に覚悟を決めてもらおうかな♪
そんなことを考えながら俺は雅の待つ部屋へと階段を上がっていった。
+++ Fin +++
2005/09/28
『勇気の受難』の続編です。
勇気がビールを飲むシーンがありますが…お酒は20才になってからですよっ!!
真似しないで下さいねぇ。
避妊具の描写がありますが、大事なことなんだよって事で、あえて本館におきました。
このくらいはいいよね?(誰に聞いているのだっ?
朝美音柊花