体が疼いて仕方が無い。裸で這う床の冷たさがすぐに消えるほど、全身が熱い。
助けを求めて、ガラスの向こうにいらっしゃるご主人様の方に、やっと視線だけ向ける。
私は、ご主人様と同じ言葉を話せない。だから、視線で語る。
早く欲しい。
「仕様の無い子だ……」
どこか困ったように、いや困ったふりをしたように、ご主人様が言う。
分かりやすすぎるため息が、2重のガラスの向こうの音を拾うマイクを通して私に聞こえた。
やはり、私が熱に悩まされているのを、甘やかす「ふり」をなさっているようだ。
その証拠に、なんだかんだと勿体をつけつつもすぐに要求にこたえてくださる。
私のご主人様は、他の誰が語り、噂するよりも途方も無く優しい。
「いいだろう。欲しいものを、今からあげるからね……おとなしくしておいで」
(ありがとうございます)
私に表情があれば、ぱっと晴れた顔になったことがわかっただろう。
そのくらい、私はご主人様に感謝していた。
この疼きが治められることへの喜びより、それを与えてくださるご主人様のなんと言うすばらしさ。
私は身体を床から引き上げ、少しだけ行儀良くして「扉」の方をむく。
そこからいつも、欲しい物はやってくる。
「いいかい、……今からよこすよ」
ご主人様が2重のガラス越しの部屋にある、難しそうな機械を弄くると、「扉」が一瞬開く。
そして欲しい物は、私の目の前に与えられた。
見目麗しい肉体だった。
冷静になって見れば、ごく普通の、中肉中背の男の身体なのだが、
感謝の念に押しつぶされそうな私にとって、目の前のそれは何よりも神々しいものに映る。
「触れてごらん」
御馳走を目の前にして、匂いを嗅いだり盛り付けの美しさに目を引かれていた子供のように、
不自然にじっとしていた私を、ご主人様の声が呼び覚ます。
そっと、片手で触れると、その身体は確かなぬくもりと生物としての柔らかさで指が押し返された。
「不具合はないね?」
不具合など無い。ご主人様のやることに間違いなど無い。
私は返答する代わりに、目の前の身体にむしゃぶりついた。
口付けなどせずに、身体自体をぴったりと寄せ合って温かみを感じる。
そうしながら、目の前にある小さな乳首に吸い付く。その体がびく、と小さく震える。
しこりのような感触を楽しみながら、欲望にせかされて片手でもう片方をひっぱり、つねる。
「ぅ……」
ご主人様の呻き声が聞こえた。いつもどおり、敏感な身体でいらっしゃる。
早く自分の身体の疼きをとめたくて、私はもう一方の手でご主人様自身に触れ、確かめてから握りこんだ。
力加減を間違えないように、やんわり優しく握る私の掌といったら、
赤子を抱き上げる母親よりも尚慎重だったに違いない。
私の体液で滑りを加えながらゆっくりと愛撫していくと、やがてそれは起き上がって御自分の汁で濡れ始める。
その頃になると、何故か分からないが、ご主人様は大層な声を上げて善がりなさる。
私のような下賎のものに触れられて、もしかしたら気分が悪いのかもしれない。
そういうと必ず否定するが、そもそも私は普通の人ではないから、心の奥底では
どう思われていても仕方が無い。
そうこうしているうちに、私の身体も変化を始める。
ご主人様に触れることもろくに出来ない部分、たとえば髪や脇の皮膚などがぐにゃりと形を変える。
私の身体は、聞く所によると事故にあってぐちゃぐちゃになったものを元にしていて、
それを何とかつなぎとめるため、逆に細胞間隙が広がっても影響が無いように、ご主人様が設計なさったらしい。
だからやろうと思えば、幾らでも形を変えられた。
「んぁ!」
私の触手に巻きつかれ、御主人が驚いたように声を上げる。
特に髪は細くて強靭だ。中世の人間は、首筋を剣から守るために髪を伸ばしていたというほどだ。
其れがもし、意のままに操れたらとても便利だろう。
「あ、ぁあ……ふぁ…」
こんな風に。
今、私の髪はいくつかの束に分かれている。2つは肉の触手と同じように、
ご主人様の四肢に絡みつき、ふいに動いてもお怪我をなさらぬよう動きを戒めていた。
他の細い束は首をぐるりと回って、唾液に濡れた乳首を刺激している。
束ごと巻きつけばその感触たるや、高級な筆で撫でられているような感覚である。
逆に一本一本できつく縛り上げれば、桃色をした小粒の真珠のように
ぱんぱんに腫れ上がった乳首がごらんいただけると思う。
そのまま、すぽんと上に抜けさせて擦過を愉しむのがご主人様のお好きなパターンだ。
もう一つは腰の辺りに巻きついて、先端をご主人様自身に絡めて擦っている。
柔らかい毛先で亀頭を撫でられるのは、たまらない快感のはずだ。
特に、2・3本の髪だけを尿道に侵入させ、にゅるにゅると内側の肉をかき回すと
髪が張り付いてしまうほどにつゆを零される。
しかし、それほどの方が本当は良いのだ。
これから、もっと大変な場所を相手せねばならないのだから。