嵐の前だからと、たまった用事を片付けに出たことがそもそも間違いだったらしい。
風で一枚の布のようにはためく雨だれが、黒尽くめの青年を追い立てていた。
それほどけわしくはない里山の道とはいえ、水を含んで膨らんだ腐葉土はしかと足を掴む。
身を隠すような大木は無く、木立の真下も風でびしょぬれになっていた。
里への道を急ごうにも、顔に雨が吹き付けてきてどうにもならない。
受け取った封書も文字が消えているのではないだろうかと、長い黒髪のすだれを透かしながら、
青年は――ウスライは思った。
厚手の外套すらもう雨に対するたてにはならない。
ぐっしょりと濡れてしまっているからだ。
それどころか、内側に来ていたシャツはべたっと肌に張り付いている。
刀を持ってこなくて良かったと、こんなに心底思う日ももう来ないだろう。

いっそ全裸で歩けたら不愉快さが減るだろうにと考え始めたウスライの視界のさきに、
ふと、いままでほとんど気にも留めたことの無い小さな社があった。
山伏や修行に来た坊主が、そこで足を休めたりしているのを見たことがある。
軒先が乾いているのを見て、ウスライは迷わずそちらに足を向けた。

木製の鳥居をくぐると、扉が半分開いた小さな堂があった。
開いた扉の間に賽銭箱があり、奥にご神体と、しなびた供え物がおいてある。
手を合わせてから、ウスライはその前の階段に荷物を置き、
乾いたところに腰を下ろした――とたんに、ぐしゅっと全身が濡れた布にまとわりつかれる。
気色悪さに顰めた眉間を、雫が滴り落ちて行った。

耐えられず、立ち上がって髪を絞った。
足元に小さな水溜りができ、さっと土にしみこむ。
外套を絞ると、流石に水溜りはすぐに消えなかった。
それで終わらせようと思ったが、どうもなにかが肌にまとわりつく感触は嫌で、ウスライはシャツも脱いだ。
とたんに、明らかに武道に向いた体があらわになる。
肌自体も少なからず濡れているので、凹凸がはっきりと見て取れる。
さすがに堂の中に入ってまで下を脱ぐのは神罰が下りそうな気がしたので、
ウスライは賽銭箱にシャツを引っ掛け、外套を羽織って肌寒さをしのぎながら雨が弱まるのを待とうとした。



そのとき、初めて階段の隅に先客がいるのに気づいた。









毛のたっぷりとした黒猫。彼は、外を静かに見ていた。
妙に毛がつやつやしているのは、濡れているからだろう。ひげだけがぴんと伸びている。
黄色の目が、妙に悟ったように雨を眺めている。止むのを待っているのだろうか。
毛を繕ってふわふわにすることより、妙にさかしげなその視線がなんだか珍しい気がして、
ウスライはその猫をじっと見た。
猫は静かに、濡れてしょんぼりとしたしっぽをゆらしている。
その様子は「どうにも見知らぬもの同士は気まずい」と言っているように見えた。
ウスライは目を細め、すっと猫から視線をはずした。そして猫と同じ、外を見た。
見知らぬもの同士の雨宿りは、どうも気まずかった。

雨が弱まると、ウスライは早々に社を後にした。
去り際に振り返ると、黒猫が顔を洗っていた――やれやれ、と息をついているようだった。



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ウスライの体と猫を描きたかった。
終わってみたらウスライがなんとなくスリム体型。
彼は若干のガチムチ担当なので
「これは故郷にいた数年前の彼だ!」と言い訳。

彼はもちろん日本人です。