「者ども出あえー!狐じゃ、狐が出たぞ――!」
政の中心地、そのことさら中心の屋敷にて。
とっぷりと夜も更けたというのに、まるで戦場のような篝火が灯り、庭には武装した男どもが罵声を上げていた。
時に叫び、走り、時には刃を翳す男どもの視線の先には、亡とした影が一つ。
屋根を駆け抜け、水面を歩くそれには、流石に都を守る猛者達も手をこまねいていた。
「何をしている、見失ってしまう!」
誰かがそう叫び、番えた矢を走る影に放つ。その姿はまるで月を射ようとしている様で、実に精悍だ。
『ふん、下手糞が』
しかし屋根の上の影は異様に大きな尾のような部分を一振りさせただけで、何と突風を起こした。
「うがっ……!」
跳ね飛ばされた矢は狙ったように、矢を射た男を傷つけた。場が騒然となる。
そして皆が空を振り仰いだ時、果たしてその姿はなくなっていた。
『あーぁ。来たのはいいけど、流石に姫さんは隠されちまってるか』
百年の古狐はため息をついた。屋根から消えた後、人間に化けて屋敷をそれとなく物色しながら。
此処数回は美しい女や金品、御馳走が無防備に放り出されていることもあったが、
流石に警戒を強めたらしく、姫もいなければ飯も金も無い。つまらない。
『かといって、これで帰っても物笑いの種になるだけだな……ん?』
狐は、ふと立ち止まった。簾ごしに、人の声が聞こえたからだ。
身を隠しながらもそっと近付き、間仕切りの隙間からのぞいてみると、
『……これで、いいか』
そこには、美しい青年が一人身悶えていた。
「ぁ……あっ、ひ…」
その身体に薄ぼんやりと纏わり付く、光の帯のようなものを目に留め、狐の瞳が細まる。
『式神……もしかして、こいつが噂の駄目陰陽師か』
狐が幾度となく屋敷に現れても、対峙もしなかったと噂に高い役立たずの陰陽師の噂を聞いたことがあった。
今も式神に身を任せ、狐が出たと騒ぐ屋敷の人間をよそに自慰三昧。
『狐に陰陽師が化かされ、犯される。……面白いじゃないか』
ぺろり、とヒトにあるまじき長い舌で唇を舐め、狐は美青年に忍び寄った。
「ぁあぅ……っ!」
白い蛇の形をした式神が、美青年の後ろの穴をいっぱいに埋めて激しく前後に動いた。
高価そうな衣に身体を斑に埋めた所為で、ちらちらと肌が覗くのが悩ましい。
狐は、そっと傍によって覆いかぶさった。
『狐の跋扈する夜に、一人遊びとは。些か無用心ではございませんか』
「あ、ッ…何者っ……!?」
誰何の声に、狐の細い目がすっと細まる。ふざけた、嫌味なほど丁寧な口調で
『貴方を慰めに参上しました。陰陽師殿』
「ぐ、っ…ぅあっ」
狐の長い舌がべろりと裸の肌を舐めあげ、陰陽師は喉を反らせた。
「あ、ぁっ…」
消え入りそうな声を上げる陰陽師が腰を軽く突き出す。
つるんとした高そうな衣がぺろりと剥げて、蛇の出入りする狭い穴が狐の前に差し出された。
――狐は躊躇せずに、陰陽師の足を抱え上げた。
『据え膳喰わねば、100年生きた者の恥です。頂きますよ』
「お、お前……狐ッ…あああっ!」
はっとしたような陰陽師の声は、ずぶりと沈んだ狐の肉棒に押し出されるように乱雑な悲鳴へ化けた。
「ぁっ…あッん…うあっ…」
『なるほど…ッ、ふ…妖怪退治をさぼって淫行三昧だけあって……いい具合だな』
既に式神を用いてほぐれていた孔は、狐自身を突きこんでもきつい事も固い事もない。
むしろ、狐の化けた姿とはいえ生身のものを呑み込んで、
咽び縋るように絡みつき、さざめき、陰陽師の腰の動きもあって夢心地の境地だ。
百年生きた古狐でも、こんなに具合のいい孔にめぐり合ったことは無い。
どうせ二度と会うかどうか分からん仲だ、やりたいだけやっちまえと、
狐としては老練を極めた古狐でさえ夢中になって突き上げるほど、陰陽師の尻は上出来だった。
「や……狐、抜けッ…ああっ!」
『何を言う駄目陰陽師。狐に欲情しやがって、ケツ締め上げてよく言う』
ケタケタと蔑み笑うと、言葉にも愛撫されたかのように陰陽師が腰を跳ね上げた。
『畜生の雑言も、淫乱な陰陽師様には艶めいた術のようにしか聞こえませんでした――とさ。
ほら、…ッ何とかやってみろってんだ』
そういいながら、一方では刺激をゆるく抑え、静かな水面に漣を立てるような愛撫を繰り返す。
腰の激しい動きを無理矢理押さえ込み、大きく円を描くようにことさらゆっくりと回し、
最後に奥を突きこんでやる。
そして一方では一部だけ変化を解き、ふさふさとした尻尾で腰を撫でたり、
肉球でぷにぷにと肉棒を擦ってやると、
「ん……くぅ…き、狐…」
陰陽師は完全に蕩けた瞳で狐を見上げる始末。
『……なんだ、陰陽師。呼んだから、には……何か用があるんだろ?』
にたりと笑う、狐。それを見上げて、陰陽師は呟いた。
「……も、う…駄目、だ。イか、せて…くれ……」
寝所には高い女のような喘ぎ声と、狐の呻き声、そして体表がざわめく音が絶え間なく響いている。
「狐ぇ…狐っ……!もう…」
『…ッハ……こうなりゃ、陰陽師様も…女と同じか。ククク』
既に変化を殆ど解いた狐が、荒い息をついて哄笑した。古狐の噂としては、陰陽師を犯した話などは上出来だ。
しかもこんなにいい具合なら、これからも狙ってやってもいいかもしれない。
狐は唇の端を吊り上げ、腰を激しく前後に振った。
じゅくじゅくと結合部から滑った音が鳴り、陰陽師の背が反り返る。
『いいぜ、いかせてやる…よッ』
「や、あ、…きつ、ねッ…あ、!ああ、んああッ」
狐と陰陽師の腰が激しく打ち合い、なりふり構わぬ陰陽師の喘ぎ声が切羽詰ったものになり――
『く、ぁッ……!』
「ああっ…」
狐の肉棒から、陰陽師の後孔中に精液が放たれた。
残すことなく子種を注ごうと、狐がその腰を掻き抱いた……その時だった。
『ゥ…?あ、ガッ…あああああ!?』
狐の身体に、思いもよらない刺激が走った。
『な、何だッ!?』
狐は後を振り返った。尻尾を振り上げ、きりきりと痛む尻の孔の方を見下ろす。
そこには思わぬものが鎮座していた。
『へ、蛇……!?』
先ほど陰陽師が自分を慰めていた時に後の孔を出入りしていた白い蛇より、
一回りも二周りも太い大蛇が狐の窄まった小さな穴に頭からもぐりこもうと暴れていた。
『くそ、この野郎……ッ!』
追い払おうと大きな尻尾を振り回すが、先ほどは矢も跳ね返した突風がそよ風ほどにもならない。
とうとう手を伸ばして掴み取ろうと爪を出すと、大蛇が腕に絡み付いて逆に身動きが取れなくなった。
『何だこれ――!く、そ、どうなって』
普段は猛者達の太刀を受けてもびくともしない豪腕に、力が入らない。
何かおかしい。狐が陰陽師を振り返ると、先ほどまでの様子が嘘のように平然と立ち上がった陰陽師がいた。
目がくらみそうな脱力感に視線を落とすと、自分の萎れた肉棒になにやら呪文を描いた文字が張り付いていた。
じわじわと自分の妖力が吸い取られているのを知り、愕然とする。
きっと、陰陽師が自身の肉体に術をかけ、侵入したものの力を奪う術をかける罠にしたにちがいない。
『この野郎、俺を誘惑して捕らえるつもりだったんだな!ふざけるな!!』
白い蛇を引き剥がせずに、逆に囚われていく狐が悔し紛れに叫ぶ。
と、そこで突然陰陽師が叫んだ。
「ふざけるなはお前だ狐!!」
鬼や妖怪も竦み上がる様な声で一括され、狐が驚いた表情で固まる。それをよそに、
「来るたびに誘っていた私を無視して、殆ど適齢期を過ぎた婆さんや幼女まで妖術でモノにして!
身体を張って失敗しただけならともかく、色狂いだと噂を立てられて私はすっごい居辛かったんだぞ!
その上、私の魅力は6○を過ぎた飯炊きの婆さんにも劣ると散々馬鹿にされた挙句に
食事の時に私の白飯に髪の毛が入ってたりとかしたんだ!どうしてくれる!」
『そ、それって概ね俺のせいじゃ……』
「それに、先ほどの醜態は何なんだ!?
乱暴すぎる腰使いに、申し訳程度の言葉攻め、狐という特徴を全く生かせていない愛撫!
それならまだ天狗の鼻プレイとか、鬼の棍棒責めの方がよほど気持ちよかったわ!
本来なら吸取ったおまえの妖力を精に変えて吐き出すところなのに、術の真価も発揮できないうちに終わったわ!」
『け、けっこう善がってたくせに……』
「知るか!せいぜい、護符に精を吸取られて蛇に処女を奪われるが良い!」
『そ、そんな……ぁ、ひ、ぎゃあっ!?』
激しく暴れる狐をよそに、陰陽師は着物を羽織って外に出た。
身体を清め、戻ってくる頃にはあの狐も屈服している頃だろう。
白蛇に貫かれ、吐精しようにもじわじわと力を吸い取られるせいでなかなか絶頂に達しない苦痛に悶える狐。
いずれ骨抜きにして、この屋敷の者に引き渡してやれば汚名も晴れるだろう。
白い顔に浮かんだ笑みは、宵の空に浮かぶ幅の細い月より鋭かった。
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