右手と左手。
それぞれに形と役目が違う――対称なのは仕方がないとして、役割が違う理由はなぜだろう。
ふと少年はその疑問を抱くことがある。
例えば、利き手。少年は両利きに訓練されていたが、それでも元々右利きのせいか、
とっさにメモを取るときなどは右手を使うことが多い。
あるいは左手の薬指。恋人や夫婦はその指に証の指輪をはめることが多い。
宗教的意味合い。生物学的意味合いがあるのだろう。そこには。
ただ、少年には何かもっと別の意味があるような気がしてならなかった。
右眼、左眼。脚にも左右の役割の違いは余りない――利き手に準じた利き脚ならあるけれど。
利き肩というのは聞いたことがないし、左右の睾丸で役割が違うとも聞いた事はない。
その中で。はっきりと左右の異なる役目を負う人物を、少年は唯一人知っていた。
「う…ッ、んん…」
彼は大事なパートナーだった。代理戦争の戦士として。あるいは、家族のような関係で。
「…っふぅ……」
今は隣の部屋で、誰かの愛撫をしているけれど。
「ッ、くぅ」
ちゅぷちゅぷと乳を吸うような音がしている。
もちろんそんなものを求めているかわいい赤ん坊はどこにもいないけれど。
彼が求めているのは精液。下品に言うなら、パパのミルク。
――まぁ、立場的にもパパといっても気を悪くする相手ではないだろう。
それを分かりながら彼を待つ気持ちも複雑ではある。
「……む、……ん、」
彼がそれを撫でるときに使うのは右手。もともとの彼の利き手でもある。
今日は誰か分からないけれど、毛むくじゃらの男の股間で、今日もそれがうごめいているのだろう。
わっかを作ってしごいたり、先端を撫でたり、時には袋を擦ったり――……
「ん、んんッ!」
ああ終わったな、位にしか思えないのは感覚が麻痺してしまったから?
嫌だな、と自己嫌悪に陥りながらもぼうっと待つこと数分。
少年の下に、彼が帰ってきた。
口をゆすぎ、手を洗い、念入りに消毒まですることを知っているのは少年だけだけれど。
「待たせたな」
「…うん」
小さく少年がうなづいて立ち上がると、彼も小さく頷いた。
その全身を飾るのは上気した肌でもなく、キスマークでもなく、あるいは拘束具やバイブの類でもなく、
ただただ代理戦争の戦士としての彼の装備。
特に左手は革と防刃繊維と金属のプレートで守られ、さながら鞘に収まった剣の類のようだ。
「で、どうだったの?」
「大当たりだ。今日あいつとデートしてなけりゃ折角の獲物を半殺しで帰す所だった。
……久しぶりに堂々と殺す」
その手は、男を慰めるものではない。
彼の左手には別の役目がある。
『I do not forgive to bilk of it.Let's pay back the debt!』
小さく彼が呟くとおりに、立ち向かうものを殲滅する。そういった役目が。
だから――少年は思うのだ。
なぜ彼は両手に正反対のものを抱きながら生きていかなくてはならないのだろう。
もし、左手と右手が同じだったらそんな生き方はなかったはずなのに。
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