奴隷とカギロイ


ご主人様は毎日お忙しい。
朝から晩まで、肉体労働でこそ無いけれど毎日毎日あくせくと働いている。
ご主人様の主なお仕事は、買ったり攫ったりして入手してきた材料を、俺のような奴隷にして出荷すること。
仕事の振りをしていい思いをしてるだけだ、なんて陰口を叩かれる事もあるけれど、
実はこの仕事相当大変。横で一緒にやってる俺が言うんだから間違いない。

まず奴隷の材料を見つけるのが難しい。
奴隷のほとんどはオーダーメイドだから、お客様の要望に沿った容姿や性質の材料をきちんと用意しないとならない。
最近は俺みたいな『異』の奴隷をご所望になる方も少なくない。
そうなるととても普通に探しただけでは見つからない。ご主人様も最近頭を抱えている問題のひとつだ。
材料が見つかったとしても、仕込むのは本当に微妙な作業が多くて難しい。
そしてよしんば仕込がうまくいっても、その後さらにまた次の段階の仕込が必要になる。
今度は性的技巧だけではなくて、マナーや護身術を叩き込む。
――容姿はよくてもここがクリアできないぶきっちょがいるから、ご主人様のストレス指数はどんどん上がっていく。

平和なときはまだそれでもいいけれど、ひとたび組織が抗争状態にでも入ろうものなら、
普段の忙しさに加えて命の心配なども余計にしなければならなくなる。
俺も勿論精一杯サポートをするけれど、――やっぱりその緊張感はきえることなくご主人様に降りかかる。
でもうっかりお酒に手をつけることもできない、街で遊ぶことも勿論できない、
――そうなった時に、俺の出番がやってくる。それが昨日のこと。


シャワーを浴びた俺が身に着けさせられたのは、黒い革製の拘束具。特注で、俺の力でも滅多な事では壊れない、
そういったものが俺の手首と手首、足首と足首、腿と膝下をそれぞれ繋ぎ止める。必然的にしゃがみこむ体。
その上で、男――使用人のような哀れな部下――は俺の口にリング式の口枷をはめ、さらにアイマスクをつけさせた。
俺にとって目を塞がれるのは、単に視界を奪う以上の意味がある。
俺が両目に保持する『異』――ヒトとして、或いはヒトと異なるものとして与えられた五感とは異なる感覚受容器。
まさに第六感に相当するそれを、俺はご主人様といるときは護身役の一人として常に発揮している。
まるで俺にとって武器を奪われるような心細さ。それが視覚の欠如とあいまって、俺の緊張はピークに達した。

そうして部屋の真ん中で裸でぷるぷるしていると、やがて誰かが扉を開ける音がした。
はっとなってそちらに顔を向けると、続いて扉が閉められ、内側からの鍵を閉める音。ご主人様だろうか?
こつ、こつと響く革靴の音――耳慣れた足音に、ああやっぱりと安堵する。肌までが安心に緩む。

その隙を狙ったかのように、横殴りの一撃がわき腹を直撃した。勿論完全な不意打ち。ガード勿論不可。
んがっと間抜けな声と共に地面に倒れ付す俺。拘束されているせいで受身も取れず、いきなり全身擦り傷だらけに。
ショックで口枷を噛み締めてしまい、口の粘膜も痛む。わき腹への衝撃が肺へ突き抜け、呼吸も乱れた。

が、衝撃は続いた。今度は倒れた背中を衝撃が襲う。
わき腹の痛みを耐えるために丸めた体が、今度はぴんと後ろにのけぞった。
背骨を硬い靴の底がまともに削る、ごりりと言う嫌な音が聞こえた気がした。涙がじわっと滲む。
だがまだ泣く暇は無い。全身をまるで石ころか何かに見立てたように、次々と痛撃が与えられる。
肩、背中、脇、胸、鳩尾、腹、腰、脚と束になった腿、尻、つま先まで踏みにじられ、満遍なく叩きのめされる。
ご主人様はご自身も『異』でらっしゃるから、一撃一撃はとても重くて、文字通り全身がぶっ飛ばされることもある。
壁まで全身が飛んでいってバウンドして落下なんて事を繰り返していると、
段々上下左右が分からなくなってきて眩暈がしてくる。どこが痛いのかもよく分からなくなって、
なんだか全身がほかほかと暖かくなってきたような気分になっていく。
――いや、それ全身が腫れてるだけだよって、言われればそれだけなんだけど。

朦朧として、俺がもう痛いのか熱いのか、今どっちを向いているのかさえよく分からなくなったころに、
ご主人様はやっとその行為をやめる。そして、倒れている俺のそばに膝をついて、アイマスクを外してくださる。

わずかな光でも、長時間視界をふさがれていた俺にはとても痛い。
それに無防備に打たれた全身はそのままでも十分に涙が滲むほどの苦痛を脳に送り込んでいて、
アイマスクの裏側はもうびしょびしょというか、ぐちゃぐちゃになっている。無論、顔も然り。駄々漏れもいいところだ。
そんなひどい状態の俺の顔を見て――ご主人様は満足げな表情を浮かべる。
何というか、「ちょっと可哀想だな」と思いながらも相当スカっとした晴れやかさを隠しきれていないというか。

その後、ご主人様はさらに俺の尻を滅茶苦茶に犯した。
暫く忙しさのあまり使うことの無かったそこは、切れなかったのが不思議なほどのダメージを受けた。
独特のその鈍痛と全身の疼痛が相俟って俺に襲い掛かり、耐え切れずに俺は泣きながら失神した。


翌朝目が覚めると、ご主人様はもうお出かけになっていた。
体は綺麗に洗われて手当てされていたが、置いていかれたような寂しさを感じてベッドでしょんぼりとしていると、
ふと枕元になにやらメモのようなものを見つけた。――俺はにやりとした。

『昨日は悪かった。今日は違う流儀で可愛がってやる』

寂しさが一片も残らず吹き飛んだ俺は、気持ち悪いほどにこにこしながらベッドに体を埋めた。
そしてまどろみが痣だらけの体を包み込むのを少しの間待った。



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