ケツをやられた後に放り込まれた生ゴミの山は心地よかった。
びたびたと頬を叩く強い雨をたっぷりと吸い
ぐちゅぐちゅに潰れたごみは床よりやわらかいから。
少しでも体を動かすと沈み込みそうな特製ベッドを満喫すべく目を開けると、
軒先から滴った特大の雨だれが目を直撃した。
現実を見るな、という忠告だろうか。
素直にしたがって目を瞑ると、ねずみが足元でうごめくのを感じた。
蹴り飛ばして身を起こすと、
体の中で温まった白い「生ゴミ」が漏れてきて、なんだか泣きたくなる。
だが空が泣いているから泣くのをやめて、少年はとぼとぼと岐路についた。
自分の部屋に戻っていの一番に、
同居人がどうしているかを確かめるのはもはや癖になっていた。
たいした甲斐性もない年上の、しかし子供っぽい同居人は、
少年がこのような姿で帰ってくると猛烈に怒ったり悲しんだり、
時には泣いたりしてこんなことはやめろという。
説得のつもりなのだろう。少年にやめるつもりはなかった。
同居人もやめさせられるとは思わないのだろう。最近は、何も言わなくなった。
ただ、悲しそうな顔をするだけで。
幸いにも、彼は就寝していた。狸ね入りかどうかは分からない。分かっても指摘する気はない。
少年は服をバスルームに投げ、湯が出るまでの間シャワーでゴミを洗い落とした。
またの部分についた白いゴミも同様に流す。
ぐるぐると排水溝に吸い込まれていくゴミは、素直に流れていった。
湯を浴びながら、少年は体をこすった。
生ゴミのニオイが取れない。
ボディシャンプーの匂いでかき消せると思っていたが、
交じり合って不快なにおいになるばかりだ。
それを見て、少年は生ゴミそのものに
トッピングするようにシャンプーをかける図を思い浮かべた。
りんごの芯に、期限切れの生肉、切った爪、使用済みのコンドーム。
それらが放つ異臭は、燃やされて形がなくなるまでそれと付きまとう。
たとえ、元がぴかぴかの食材や人体や避妊具だったとしても。
シャンプーで消せるのはぴかぴかのものについてしまった
ちょっとした表面の汚れであって、
本質的に腐ってしまったものを浄化するような力はない。
もこもこする白い泡に包まれながら、少年は左腕を差し出した。
この腕は、体は、何なのだろう。どうしてこのにおいはまとわりつくのだろう。
――それは、本当に腐ってしまったから。
言い聞かせるようにささやき、彼は思い切りシャワーのコックをひねった。
結局3回目で諦め、少年は部屋着でバスルームから出てきた。
その目にリビングダイニングのテーブルに乗った、
冷めてもおいしいようにつくられた同居人手作りの料理が飛び込んできたが食欲がなかった。
なにもかも、自分も、同居人も、その料理さえあの特製ベッドと同じものに見えた。
だが捨てるのはためらわれたので、虫除けを被せて少年は同居人の元へ向かった。
ドアを開けっ放しなので、同居人の姿はテーブルの側からでもよく見えた。
すうすうと寝息を立てている彼のベッドの横の松葉杖を倒さないように注意しながら、
無目的にその寝顔を眺める。
おきているときはうるさいと思う。お節介な甘いやつで、どうしようもない理想主義者だとしか思えない。
ただ、寝ているときはもうすこし印象はよかった。
何も言わない。ちょっとの事では起きない。そして温かい。
同居人は、同じ生ゴミでもすこし違う。
きっと、消費期限切れのまだ食べられる菓子パンのようなものだ。
本当にカビが生えてしまって食べられない自分とは違う。
だから、カビが移らないうちに。食欲をそそる匂いを出しているうちに、離れればよかったのに。
少年は同居人に背を向け、そのベッドの下の床でシーツに包まった。
生ゴミは、やわらかいベッドは要らない。床で潰れているのがお似合いだ。
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