ぅん、と空気が裂ける。繋がる。
同じ場所が下から上に避け、繋がる。その繰り返し。
繰り返しは一度ならず二度ならず、影の位置が変わるまで続く。
そのせいですっかり手になじむ形に擦り切れた木刀の柄でさえも血の滲む時がある。
道着には汗が染み、黒髪の先からも滴り、落ちる。
ふぅっと少年が息を深く吐き、木刀の動きを止める。微動だにしない、文字通りの『静止』。
滴る汗だけが堂に響く。少年のほかには誰もいない堂に。
時が止まってしまったかのような静寂が少年をより集中の極みへ追いやる。
微動だにしない木刀の切っ先を見つめるまなざしには強い光は差さない。
ただ、そこにあるものだけを見つめる。黒い瞳にも動きはない。
髪に一筋さえ停止したその姿は、傍目には一枚の写真のようだった。
「ふっ…」
その写真が吐息ひとつで動画に変わる。
緊張の拘束を解き、木刀を下ろした少年の周囲に初めて音が戻った。
幼い体を包む道着が擦れ、髪が揺れ、そして木の床が軋む。
少年は汗を拭きながら息を付いた。
まだまだ回数が足りない。いつもは堂の入り口の木陰がもっと小さくなる頃まで素振りを続けている。
……もっと努力して、精進しないと。
堂には誰もいない。少しサボっても、誰も叱りには来ない。
むしろ同年代や、兄も含めた少し年上の弟子は叱られても練習に来ないこともあるくらいで、
少年も遊びに誘われることがあった。だが、断り続けている。
一日でもこれをやらないと、その分技が鈍る。それを取り戻す苦労を思えば、毎日していたほうがましだった。
毎日やらなくても取り戻せる人たちには、その苦労は分からないのだろう。
多分。
ふと水を飲もうと上げた視線の先に、天井近くの高い場所に設えられた神棚が映った。
そこに奉納されているのは古びて今主なき一振りの刀。それを見るときだけ、少年の顔が少年らしい緩みを見せた。
その刀が何か由緒正しいもので、伝統的に守られてきたことは知っていたがそれはどうでもよかった。
大切なのは、今はその持ち主がいないということ。
いなくなったというのも大切なことであり、現在もいないということも大切だった。
少年は自分の木刀と刀をちらと見比べ、視線をはずした。
堂の隅に置いた水筒から水を飲むと、彼はまた素振りを始めた。
その動作そのものは道に長けた人そのものだが、少年の見かけはまだ十代にさえ入っているか否か程度。
木刀に少しだけ上乗せした程度の身長と技術のアンバランスさがどこか悲哀にさえ感じさせた。
少年を見守るのは、堂の上に掲げられた氏族の歴代の男たちだけ。
ほとんどの男が持つ厳格な双眸がその背を眺めている。期待のような、――逆に突き放すような両方の気配で。
それを感じながら、少年は気にしない振りをしてその道を往く。
いつか彼らの前でそれを戴く日を妄信して。
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