闇という瑞光


カギロイがその青年を『仕入れた』のはただ注文として『異』の青年の奴隷化を承っただけの話で、
実際に顔を付き合わせたのは彼を知ってから大分経ってからのことだった。
手足を繋がれ調教を待つ材料達が、錯乱して暴れ甚大な被害や損傷を与えることすらままある中
彼はひときわ目立っていた。
見目が少し良かったのもその印象深さの要因となっていただろう。
だが、重要なのは彼が逃げも隠れも、ましてや抵抗するそぶりすら見せずに待機していたことだった。
奴隷材料が個々に押し込められる部屋――共謀を防ぐためだ――の中、
椅子に手首・足首をつながれたままじっと『その時』を待つ彼の姿はひときわ異彩を放っていた。
――時折、発狂・絶望して大人しくなるものもいたが、それとは違う。
カギロイ自身がその独房じみた調教室を見て回ったとき、足音に気づいて視線を上げた彼と目が合った瞬間の
何ともいえない雰囲気に心飲まれそうになったことは誰にも話したことはない。
彼は正気を保っていた。瞳に存在する『異』の輝きはぶれていない。
暴行のせいで乱れた髪、あざのある肌が覗く上着。そんな程度では彼の芯は崩せないと宣言されているようだった。
ただし逃げようとか、少しでも楽な道を選ぼうと努力する様子がまるで見られない。

ただ、あるがままの道に従う。
あるいは、自身の意思でここにいる。

どちらとも読めない。カギロイの『異』はそういったものではなかった。
だがそれでも感じ取れるのは、レイプや暴行に対する悲壮さや辛さを甘んじて受け入れている、
何かの覚悟のようなもの。
青灰色の生気に満ちた瞳は、その精神の根底の強靭さを発露していた。
カギロイが扉に手をかけても微塵も動揺していない。房に入っても。
調教部屋に連れ出しても何も言わず淡々と従う様子は、いっそもう調教済みの奴隷のようだった。
だが、それでも彼には意思がある。そのギャップが、カギロイに強烈な印象を残した。

数週間後、カギロイはその青年を依頼主に引き渡した。
見るからに神経質そうな依頼主は何度も何度も青年の経歴や体について質問し、
なにも落ち度がない部分をあらを探すように観察している。
それすら受け入れるように、奴隷化した青年は黙っていた。

いざ、青年が連れ出されていくというとき、ふと青年が視線を上げてカギロイの方を見た。
男と青年の絡み合う『異』の視線――その中に。ふと、彼の正気を見た気がした。

去っていく彼等を見送りながら、カギロイは思った。
万が一あの客が青年を気に入らなかった場合。通常はもう少し安い価格で誰かに宛がう所だが、
今回は自分で引き取ろう。
別に深い思い入れのある奴隷ではなかった。その時は。
少し見目が良くて、どこまでも正気にしたがっている珍しい青年、というくらいの理由だった。
ただ。普通の客には到底扱える器の奴隷ではなかった――とカギロイが知るのは、彼の死後である。



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