年 (平成年)

第220回歌舞伎公演 国立劇場大劇場
文化財保護法五十年記念
平成十二年度芸術祭主催

10月3日(火)〜10月27日(金)

配役
通し狂言 小栗判官譚(おぐりはんがんものがたり)
序幕
第一場 京右近の馬場の場
第二場 足利家宝蔵前塀外の場

風間八郎:三代目 中村鴈治郎(→四代目 坂田藤十郎)
小栗判官兼氏:五代目 中村時蔵
足利将軍義満:四代目 中村玉太郎(→六代目 中村松江)
山名弾正:市川青虎
小栗郡領兼重:六代目 嵐橘三郎
奴三千助:初代 中村芳彦(→二代目 中村亀鶴)
細川政元:五代目 中村富十郎

二幕目
第一場 鎌倉七里ヶ浜の場
第二場 扇ヶ谷横山大膳館大書院の場
第三場 相州江の島沖の場

風間八郎 実は細川政元:五代目 中村富十郎
横山太郎秀国:二代目 片岡秀太郎
妻浅香:五代目 坂東竹三郎
横山次郎安春:六代目 市川男寅(→六代目 市川男女蔵)
照手姫:六代目 片岡愛之助
横山大膳娘照日の前:中村寿治郎
横山大膳久国:二代目 坂東吉弥
小栗判官兼氏:五代目 中村時蔵
細川政元 実は風間八郎:三代目 中村鴈治郎(→四代目 坂田藤十郎)

三幕目
第一場 近江堅田浪七住家の場
第二場 近江堅田湖水難風の場

漁師浪七 実は美戸小次郎:三代目 中村鴈治郎(→四代目 坂田藤十郎)
女房お藤:二代目 片岡秀太郎
照手姫:六代目 片岡愛之助
庄屋杢兵衛:中村寿治郎
膳所の四郎蔵:六代目 嵐橘三郎
瀬田の橋蔵:五代目 坂東竹三郎
鬼瓦の胴八:二代目 坂東吉弥

四幕目
第一場 美濃青墓宝光院の場
第二場 万長内風呂の場
第三場 万長内奥座敷の場

万長娘お駒:三代目 中村鴈治郎(→四代目 坂田藤十郎)
小栗判官兼氏:五代目 中村時蔵
下女小萩 実は照手姫:六代目 片岡愛之助
下男不寝兵衛:市川青虎
万長後家お槇:九代目 澤村宗十郎

大詰
第一場 熊野虹ヶ嶽山塞の場
第二場 那智山大滝の場

風間八郎 実は新田小太郎義久:三代目 中村鴈治郎(→四代目 坂田藤十郎)
小栗判官兼氏:五代目 中村時蔵
妻照手姫:六代目 片岡愛之助
手下烏の勘八 実は奴三千助:初代 中村芳彦(→二代目 中村亀鶴)
細川政元:五代目 中村富十郎

料金
一等A席:9,200円
一等B席:6,100円
二等席:3,100円
三等席:1,500円

雑誌
『演劇界』2000年12月号
愛之助丈関連
58〜59ページ:舞台写真「小栗判官譚」照手姫(モノクロ 2枚)
80〜82ページ:国立劇場の劇評

『演劇界』2001年10月号→【演劇界】2001年10月号 特集追悼十七世市村羽左衛門 [雑誌]
愛之助丈関連
72ページ:舞台写真「小栗判官譚」照手姫(モノクロ 1枚)
74〜76ページ:「気になるあの人 片岡愛之助と市川高麗蔵」(舞台写真「封印切」梅川、「夏姿浪花暦」貞九郎)

感想
2011年8月に国立劇場視聴室で記録映像を観た。(映像の収録日は2000年10月25日)
国立劇場視聴室についてはこちら

鬼影と呼ばれる黒い馬が花道からやってくる。
そこへ現れた小栗判官(時蔵丈)が見事にその暴れ馬を乗りこなす。黒と金の衣装ですごく綺麗。
判官を乗せた馬が前脚を上げるのだが、後脚の人は大変そう。(たぶん、黒衣さんが助けてる。)
将軍義満(松江丈)は判官に「横山大膳(坂東吉弥丈)が上洛しない。紛失した家の重宝・水清丸も大膳の仕業との風聞がある。真意を正して来い」と命ずる。
判官は鬼影を餞別にもらい、父親(橘三郎丈)は勝鬨の轡(かちどきのくつわ)の守護を申し受ける。
この時点で、判官が大活躍する物語かと思ったが、判官の出番は少なかった。(「義経千本桜」の義経みたいなもの…?)
なんというか、“藤十郎(当時は鴈治郎)ショー”という感じだった。

宝蔵の壁を破って風間八郎(藤十郎丈)が現れる。
勝鬨の轡を持っているところを判官の父に見咎められ、判官の父を殺して逃走。
そこへ細川政元(富十郎丈)が駆けつけるが、風間はスッポンから退場。うーむ、普通の人じゃないわけね。
風間は盗賊だか忍者だかよくわからなかったが、後に新田の血筋の者だと判明する。

女性が「大事の若君」を連れて逃げてくる。細川政元が追っ手からその子供を取り返す。
横山大膳の屋敷には、大膳、次郎(男女蔵丈)、照手姫(愛之助丈)がいる。
愛之助丈は今より幾分ほっそりしていて、ピンクの着物で“いかにもお姫様”という感じが可愛らしい。
そこへ太郎(秀太郎丈)が子供たちとお馬さんごっこをしながら登場。愛嬌のある阿呆という感じ。
こけたところを、妻の浅香(竹三郎丈)がさすってあげる。

判官が紫の長袴で登場。すごく綺麗。
大膳は「自分は判官の許婚である照手姫(兄・左衛門の娘)を育てているから、判官の舅も同然。御前へ取り成しを願い奉る」みたいなことを言うが、判官は「私事と役目は別」と取り合わない。
いったん、判官は奥へと下がる。
そこへもう一人の上使が現れる。
太郎は「退屈だから奥で遊んでいるわいな」と言い、大膳に追い払われる。
上使として現れたのは、細川政元に化けた風間八郎(藤十郎丈)。さらに、風間八郎の名前をかたる細川政元(富十郎丈)が出てきて、大膳が水清丸を盗み、若君と太郎の子供をすり替えたことなどが分かる。
政元は「出立するまでに、謀反でないという証拠を見せろ」と言って、奥の間へ。

大膳の実の娘が出てきて、「私を判官様と夫婦にしてほしい」と父にねだる。赤い着物でお姫様の格好をしているが、ゲジゲジ眉毛のブスメイク。
大膳は「判官と照手姫の仲は上意なので、娘と結婚させることはできない。婚礼のついでに毒酒を飲ませ、同じ毒酒で政元も殺し、若君を人質に挙兵する」と言う。それを浅香が盗み聞きしている。
そこへこっそりと太郎が出てきて、銀の銚子の中身(毒酒)と金の銚子の中身を入れ替える。その時、にっこりと笑う顔が可愛い。 ここで、太郎は実は作り阿呆だということがわかる。

太郎と娘(太郎にとっては妹)が祝言の稽古をする。
大膳は太郎も毒酒で殺そうとするが、銀の銚子の酒(元々は毒酒が入っていたが、中身を入れ替えてある)を飲んだ太郎は「あぁ… あぁ…」と身悶えたように見せかけて、「美味しっ♪」とにっこり。
金の銚子の酒(毒酒)を飲んだ娘が苦しんで死ぬと、大膳は太郎が中身を入れ替えたことに気付く。
そこへ浅香が出てきて、毒酒を飲む。
大膳に「親子の縁を切る」と言われ、太郎は「横山太郎はバカではござらぬ!」ときっぱり。いやー、素敵だった〜。

父・大膳と弟・次郎をばっさり斬り、自らも切腹する。
駆けつけた政元に向かって、「不憫なのは女房・浅香…」と言って息絶える。この夫婦の別れは泣ける。
大膳は今までの悪事を白状する。兄・左衛門(照手姫の父)を闇討ちし、水清丸を奪って江ノ島の沖に隠したので、それを将軍家に返してほしいと言う。
政元が大膳を介錯しようとするところで、幕がしまる。

馬上の小栗判官(時蔵丈)の行く手を阻む照手姫(愛之助丈)。
判官は「父の敵の風間八郎(藤十郎丈)を討って、勝鬨の轡を取り返し、家を再興せねばならぬ。女子を連れては足手まとい」と、照手姫を振り切って行ってしまう。姫は泣き崩れ、自害しようとするが、侍女が「お供をする」と言うので、判官の後を追っていく。
おいおい、お姫様ルック(きらきらの髪飾りにゴージャスな打掛)で追ってくんかい! 見た目は綺麗で可愛いけど、そんな格好でうろちょろしたら、悪人に捕まって身ぐるみ剥がされるぞ。
浅黄幕が落ち、細川政元(富十郎丈)が海から水清丸を引き上げる。
しかし、そこへ風間が現れて、妖術で剣を奪ってしまった。剣を片手に悪い顔してたなぁ…

場面は変わって、漁師・浪七(藤十郎丈)の家。
妻のお藤(秀太郎丈)が針仕事をしている。借金取りが着たので、母の形見の櫛を渡し、支払いを待ってもらう。
どうやら、兄の胴八(坂東吉弥丈)がならず者で困っているらしい。 胴八が花道からやってくる。赤っ面で、布団を体に巻きつけ、いかにも悪そう。
お藤が縫っていた赤い振袖を無理矢理奪って着てしまう。
さらに、妹のお藤に向かって、「お前が成人したら嫁にしようと思っていたのに、浪七にとられた」というとんでもなさ。

ここで、風間が照手姫を狙っていること、胴八は照手姫を捕まえて褒美の金をもらおうとしていること、小判が盗まれており、それには丸に二引きの印が入っていること、浪七は実は照手姫の家来筋(判官の家来筋だったかも)の美戸小次郎であることなどが明らかになる。
浪七は姫を捕まえるのに協力するからと、胴八から手付金として小判(丸に二引きの印がついた盗まれた小判)をもらう。
実は、照手姫は浪七にかくまわれており、畳の下からひょっこりと出てきた。
しかも、赤と金の豪華な着物姿で、「人世を忍ぶ今の身の上」って… ないわー。それはないわー。
浪七は勘当の身のため、功を立てて戻りたいと言う。

胴八とその仲間は、照手姫のかんざしを使って一芝居うち、浪七に照手姫の居所を白状させようと思いつく。
そこは橋蔵(竹三郎丈)がやってくる。(さっきまできりりと美しい浅香だったのに、えらく汚いオッサン姿に… ファンとしてはちょっと複雑。)
ここから、吉本新喜劇のようなコミカルな場面が続き、楽しかった。
結局、姫は見つかり、胴八にさらわれてしまう。
姫はつづらの中に入れられるのだが、こっそり壁の向こう側へ出て行くところがしっかりビデオに映ってるぞ。

お藤は胴八を止めようとして、刺されてしまう。 浪七は邪魔者を蹴散らしながら胴八を追いかけるが、姫を入れたつづらを乗せた小舟は沖に出てしまう。
浪七は「無念、口惜しや。大事の姫君奪い取られ、我が君に面目立つべきや」と、腹を切り、命を懸けて龍神龍女に願いをかける。髷はほどけ、顔の左側にだけ筋が入った変わった隈取をして、ものすごい迫力。
「八大竜王、恒河(ごうが)の鱗屑(うろくず)」って、「大物浦」でも典侍の局が言っていたなぁ。
人魂が飛び、小舟は戻され、浪七は胴八を斬り捨てる。

つづらから出てきた照手姫、浪七に向かって「なぜ腹を切りゃったぞ」って… ああ、お姫様はもう…
浪七は「ご赦免、お取り成し願い奉る」と言い、舟で判官の行方を尋ねるようにと、姫を一人舟に乗せる。
おいおい、世間知らずのお姫様に、そりゃ無茶だろうて…
無常にも舟は進み、場面は移る。

小栗判官(時蔵丈)が茶屋で茶を飲んでいる。
こういう時、茶店の女性が決まって「水を汲んでまいりますので、店をおたの申します」って言うんだよね。
そこへよろず屋のお槇(宗十郎丈)とその娘・お駒(藤十郎丈)がやってくる。藤十郎丈、今度は町娘か… 出ずっぱりだなぁ。
2人が悪者に絡まれ、判官がそれを救う。
よろず屋に名作の轡があるということで、判官はそれを見せて欲しいと言う。
お駒は判官に一目ぼれした様子で、母のお槇はそれを見てなぜか納得した顔でにやりと笑う。

さて、照手姫(愛之助丈)は、やっぱりというか、なんというか、人買いに捕まって売られたらしく、よろず屋の奉公人になって小萩と名乗っていた。
意地悪なおばはんに、一生懸命桶に汲んできた水をこぼされ、「桶に溢れんばかりに水を汲んでおいで」といじめられている。健気で可哀相で不幸な感じがよく出ている。そこを優しいおじさんが助けてくれる。
お駒と判官の婚礼が決まったらしいと知った照手姫はショックを受ける。
その場で名乗ることを判官に止められ、姫は奥座敷の庭へと忍び込む。ちょっと「キーッ!」となっている様子が可愛い。
苦労して判官を捜して辛い目に合ってる時に、判官が別の女性と結婚しようとしてたら、いくらおっとりした姫君でも、そりゃ怒るわ。

判官が「二世の固めはならぬ」と言うので、お槇は娘と結婚してもらえるようにと身の上を語る。
お槇はかつて武家に奉公していて、不義?で身ごもり、お手討ちになるところを奥方に助けられた。その忘れ形見の姫君が行方知れずになっている。判官を武士と見込んで、「お駒と祝言して、2人で姫君を捜してほしい」と言う。
結局、名作の轡は判官が捜していたものではなく、判官も身の上を語る。
「自分には上意の許婚がいて、それはこの家の下女小萩」と言い、さらに小萩(=照手姫)こそがお槇が捜していた姫君だとわかる。

おさまらないのがお駒。この人、ものすごく積極的に判官にアピールしてたからなぁ…
母に向かって「日が暮れるから、祝言の杯をさせてください」と言う。
お槇が「(照手姫は)そなたにとってもお主じゃ。挨拶せぬか」と言っても、判官に向かって「あなたは私の婿、小萩は下女」と言い放つ。
「将軍家のご上意」だと言っても、「そんなことは、こちゃ知らぬ。一生連れ添うと思う男を他の女に寝取られたら… お前(照手姫)が間女じゃ!」と全く引かない。
照手姫は困った顔をしている。言い返さないところに育ちのよさが出ているなぁ。

判官と姫をひとまず奥の間へと通し、お槇が父の形見の刀を出して説得しても、お駒は全く聞き入れない。
ここまでくると、恋する女の可愛げを通り越している。
さらに、お駒は「小萩を殺して殿御と沿うのじゃ」とまで言い出す始末。刀を取り合い揉み合ううちに、お槇がお駒を斬ってしまう。
結局「お主のためじゃ!」と母が娘を切り捨てる。
判官と姫が出てくると、お駒の霊が「うらめしや、判官様。恋の敵の照手姫、おのれ、おめおめと沿わそうか」と呪いの言葉を吐く。
判官の綺麗な顔に痣ができ、脚が立たなくなる。判官は「ても恐ろしき執念じゃなぁ」と言っていたが、女性にありがちな恋敵に呪いをかけるのではなく、惚れた相手の方に呪いをかけているあたり、作者は男性かなぁと思った。

山道を照手姫(愛之助丈)が車を引いて歩いている。車にはぼろい衣装を着た判官(時蔵丈)が乗っている。
姫は赤い振袖に蓑をつけているという、不思議な姿。あくまで、お姫様は振袖か。
2人は那智の滝詣での際に道に迷い、風間八郎(藤十郎丈)の隠れ家に辿り着く。
風間は判官の前で照手姫を口説き、怒った判官が勝負を挑むが、お駒の怨みで体が不自由のため、あっさりやられて那智の滝へと放り込まれる。水清丸と勝鬨の轡を滝の底に隠してあるそうで、部下に取りに行かせる。

姫は縄を掛けられ、木に縛り付けられる。
そして、「広い世界に自らほど、辛い、悲しい者がいようか」と嘆く。業病を治すための100日の願掛けの99日目にこのような目にあったらしい。うーん、悲惨だ。
しかし、お姫様らしく、お家でおとなしく待ってれば良かったような気がしなくもない…
姫が熊野大権現に祈ると、カラスが飛んできて縄を切ってくれる。
そこへ、風間の手下となって隠れ家にもぐり込んでいた奴の三千助(亀鶴丈)が登場。姫は奴さんに手を引かれて、花道を引っ込む。

滝の下では、霊水を口に含んだ判官が見事に復活。
見た目も衣装も美しくなり、水清丸と勝鬨の轡を持っている。
奴さんと姫が花道から登場し、風間もそこへ現れる。こんな時こそ妖術を使えばいいのに、なぜか使わない。
細川政元(富十郎丈)も立派な長袴を履いて駆けつける。
「二品戻り氏その上は、小栗の家を再興し、日を改めて勝負せよ」ということで、赤い壇の上に風間(実は新田の子孫)が乗って、皆ずらりと並んで幕。
あれやこれやと盛りだくさんの内容で面白かったけど、やっぱりこれ、判官の物語じゃないぞ。

いやー、長かった。
メモを取りながら見ることができるので、ムダに長くなるような…
そして、今度記録映像を見に行く時は、手元に配役表を準備しようと思った。