年 (平成年)

花形若手歌舞伎公演 国立劇場
第244回歌舞伎公演

3月4日(金)〜3月24日(木)

配役
(昼の部12:00開演、夜の部17:00開演)
本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
通し狂言・三幕四場

序幕 武田信玄館勝頼切腹の場 61分
腰元濡衣:初代 片岡孝太郎
武田勝頼 実は板垣兵部の倅、百姓蓑作 実は武田勝頼:六代目 片岡愛之助
上使村上義清:六代目 市川男女蔵
腰元弥生:四代目 中村梅枝
常盤井御前:三代目 市川右之助
武田入道信玄:五代目 中村歌六

二幕目 道行似合の女夫丸 24分
薬売り濡衣:初代 片岡孝太郎
薬売り簑作 実は武田四郎勝頼:六代目 片岡愛之助

三幕目 長尾謙信館十種香の場 55分
八重垣姫:五代目 中村時蔵
腰元濡衣:初代 片岡孝太郎
原小文治:十七代目 市村家橘
白須賀六郎:六代目 市川男女蔵
花造り蓑作 実は武田勝頼:六代目 片岡愛之助
長尾入道謙信:八代目 坂東彦三郎

    長尾謙信館奥庭狐火の場 25分
八重垣姫:五代目 中村時蔵
人形遣い(狐) :四代目 中村梅枝

料金
一等A席:8,500円
一等B席:6,100円
二等席:2,500円
三等席:1,500円
イベント
柝の会セミナー かぶきはともだち
「花開く上方役者 片岡愛之助」 観劇会とセミナー
出演:片岡愛之助
日時:3月13日(日)観劇 12:00〜/セミナー 17:30〜
会場:国立劇場伝統芸能情報館

朝日カルチャーセンター古典芸能講義
「歌舞伎の舞台裏 国立劇場3月公演を観る」
日時:3月15日(火)10:15〜11:15
会場:国立劇場情報館
聞き手:大和田文雄
講師:片岡愛之助

Web記事
その道のプロが、あなたをガイド。All About
『本朝廿四孝』女形の大役に挑む 時蔵「動かないから難しい」
その頃、他の劇場では…
歌舞伎座

雑誌
『演劇界』2005年5月号→演劇界 2005年 05月号
愛之助丈関連
43ページ:舞台写真「本朝廿四孝」花造り蓑作(カラーグラビア)
65〜67ページ:舞台写真「本朝廿四孝」板垣兵部の倅、花造り蓑作、武田勝頼(モノクロ 7枚)
86〜87ページ:「本朝廿四孝」の劇評
107ページ:水野晴郎劇場ノート16
120ページ:「本朝廿四孝」の劇評(投稿)
カラーグラビアより前に「浪花花形歌舞伎」のチラシあり。

感想
2010年7月に国立劇場視聴室で記録映像を観た。(映像の収録日は2005年3月16日)
国立劇場視聴室についてはこちら

チラシの武田勝頼(愛之助丈)がすごく綺麗で、ずっと「見たい!」と思っていた演目。
想像以上に綺麗だった。
物語も面白かったし、大満足。(「道行似合の女夫丸」の場面では、見ていてちょっとダレちゃったけど…)

将軍が何者かに襲われ、武田信玄(歌六丈)は身の潔白を示すために息子の首を差し出さないといけない… というような感じで物語が始まる。

勝頼(実はニセモノ)は盲目で、儚げな感じが美しい。
腰元の濡衣(孝太郎丈)とは恋仲なのだが、勝頼曰く「親の許さぬいたづらなれば、どうせ儚き花の縁」。若様のお手がついた状態なのだと思うが、母・常盤井御前(右之助丈)に言わせれば、濡衣は「不義」を働いたということらしい。「それを許して夫婦にしてやるから、勝頼を連れて逃げてくれ」みたいなことを言う。
結局、上使の村上義清(男女蔵丈)に阻まれ、勝頼は潔く切腹する。その様の美しいことったら!
村上はいかにも意地が悪そうで憎憎しいのだが、別れの時間を作ってくれる時に「朝顔がしぼむまで」と言うあたりが風流だと思った。

勝頼切腹後、板垣兵部(吉三郎丈)が勝頼そっくりの百姓・蓑作(愛之助丈)を身代わりとして連れてくる。
駕籠屋に代金を払わずに、刀で追い払った時点で、「何だかよくわからないが、とにかく悪いヤツに違いない」という感じがする。
時遅しと知って、兵部が思わず「わが子」と口走る。ここで、ホンモノの勝頼と自分の子をすり替えていたことが分かる。
身代わりにしようと連れて来た蓑作が、実はホンモノの勝頼。何で兵部の息子と勝頼がそっくりやねん!…と、いうツッコミは無粋なんだろうな。

蓑作は、悲壮感漂う勝頼(偽)よりも愛嬌があって可愛らしい。命が助かったと知って、「こわやの、こわやの」などと言っているあたりが非常に可愛い。
そういえば、濡衣は勝頼(偽)のことを「かわゆらしい」と言っていたなぁ。雲の絶間姫も恋物語をする時に相手のことを「かわゆらしい」と言っていた気がする。「可愛い男が好き」と堂々と主張できる時代だったんだろうか?(笑)
それとも、現代とは「かわゆらしい」の意味が違うのかな?(「はずかしい」とか「気の毒だ」という意味があるみたいだが。)

さて、「事実を知られたからには生かしておけない」と言う兵部と蓑作の立ち回りがあり、奥から信玄が兵部を突き刺す。
信玄は坊主頭に小忌衣(おみごろも)←エリマキルック。いやぁ、迫力あるなぁ。
信玄は兵部の策略など全てお見通し。兵部も改心し、恋人・勝頼(偽)の後を追おうとする濡衣に、「武田家の家宝である“諏訪法性の御兜”を取り返してくれ」と頼む。

それにしても、母・常盤井御前はどんな気持ちだったんだろう?
偽者と知らず、わが子と思って17年も育ててきたわけだから、「さっきのがニセモノ? だったらOK!」とは、とても思えないだろうに。
勝頼(偽)は何も知らずに死んでいったのだと思うと、余計に不憫で、可哀相。

勝頼と濡衣は薬売りに身をやつし、悪いヤツらをかわしながら旅をする。(この場面が「道行似合の女夫丸」)
濡衣の衣装は「傾城反魂香」のおとくのよう。

場面は変わって、長尾謙信の館。
ようやく八重垣姫(時蔵丈)が登場する。
チラシの写真では勝頼より年上に見えるのだけれど、映像で動いているところを見たら、本当に可愛らしいお姫様だった。

舘の中央に紫の袴をつけた蓑作(勝頼)が座っている。これがまた綺麗なんだ。
なぜか、勝頼と濡衣は長尾のお屋敷にうまく仕えたことになっている。
舞台中央の勝頼を挟んで、向かって左側の部屋には、勝頼(偽)の死を悼む濡衣(黒い衣装)。「自分が偽者だと知らずに亡くなって…」と勝頼(偽)のために祈っている。
この時「女房の濡衣が…」と聞こえるので、「ああ、夫婦として認められたんだ」とわかる。…まあ、ニセモノなら身分違いじゃないもんねぇ。(つくづく、封建社会って残酷)

右側の部屋には、許婚の勝頼(偽)の死を悲しむ八重垣姫(赤い衣装)。
八重垣姫は蓑作(勝頼)に気付き、猛アタック!
部屋を出る時、髪や襟を整えてくるあたり、女心だよなぁ。

世間知らずのお姫様は大胆不敵。
濡衣に「オマエの男か?」って確認しちゃうし、「自らをかわゆがってたもるように…」なんて言っちゃうし、挙句の果てに、
「見初めたのが恋路のはじめ。後とは言わず、今ここで」
と、きたもんだ。

しかし、惚れられた側の勝頼は強気。
百姓・蓑作として登場した時の可愛らしさはどこへやら、姫の方が立場は上のはずなのに、さらりとかわす。まあ、ねぇ… これだけ綺麗な男なら、仕方ないわ。
濡衣も「惚れた証に“諏訪法性の御兜”を持ってきて」と無理難題をふっかける。
結局、死のうとまでする姫にまけて、蓑作(勝頼)の正体を明かし、二人は寄り添う。

そこへ長尾謙信(彦三郎丈)が現れる。
信玄と同じく、坊主頭に小忌衣(おみごろも)←エリマキルック。2人並んだら、見分けがつかないかも…
蓑作(勝頼)に手紙を渡し、使いに出す。
実は、謙信は蓑作の正体に気付いていて、追っ手を差し向ける。

濡衣は謙信に捕らえられるが、全く悪びれた様子がない。そして、怯えることもない。
私は、「全てがあんたたち権力者の思い通りになるなんて思わないでよね! フーンだ!」というような、濡衣の意地みたいなものを感じた。惚れた男を奪われた女は、怖いよ?

さて、奥庭。
スッポンから、狐のぬいぐるみが人形遣い(梅枝丈)にあやつられながら登場する。この狐、後ろ足で頭をかく仕草とかをして可愛らしい。
飾ってある兜の中へと、狐は消える。

そこへやってきた八重垣姫。
何とかして勝頼に危険を伝えたい、と兜を手にする。すると、水面に映る自分の姿が狐に見えるようになる。
赤い衣装が引き抜かれ、白い衣装になる。これまた綺麗。
八重垣姫は、勝頼の元へと翔けていく。嗚呼、恋する女は強し。

とにかく、最初から最後まで「綺麗〜」とうっとりしながら見ることができた。
ああ、この舞台、生で見たかった!!