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つれづれなるまま「染模様〜」 その1
未だに、「染模様〜」のテーマソング?が頭の中を回っている。
でも、歌詞がわかるところが途切れ途切れなので、ちょっともやもやした感じ。
そして、なぜか最後には、あざみの「ええ〜ぃ! 悔しい! 口惜しい!! 恋ひ慕ひたる数馬様を… でもまぁ(←ここよく聞き取れなかった)男に… 寝取られるとは!!」という台詞が今でも頭に浮かんでくる(笑)。
この場面では、観に行った3回とも笑いが起きていた。
何で笑えるかというと、やっぱり怖くないんだよね。
殿に不義を訴えたり、屋敷に火をかけ、図書に手を貸して恋敵を亡き者にしようとしたり、嫉妬の表し方がストレートで怖くないのだ。この辺り、男性の脚本だからだろうか。

私はいちおう女の端くれだが、与謝野晶子の歌を読んだ時は「女ってコワ〜ッ!!」と、心底ゾッ…とした。

このあした 君があげたるみどり子の やがて得む恋 うつくしかれな

この歌、何が怖いって、後に晶子が結婚する男(鉄幹)の妻(瀧野)の出産時に詠んだ歌なのだ。
要するに、不倫女(この時点で関係があったかどうかはわからないけど)が相手の奥さんに向かって「今朝あなたの産んだ赤ちゃんが大きくなった時、美しい恋をするといいわねぇ」と歌ったわけ。…ホラーですな。

それを思うと、あざみってやっぱり可愛い女性の部類だよなぁ。お邪魔ムシだけどな。

つれづれなるまま「染模様〜」 その2
もう一度「蔦模様〜」をちゃんと読み直そうと思いつつ、心に浮かんだことを書いてみる。
見当違いなことを書いていてもご容赦を。

ネットで舞台の感想を読むと、賛否両論で面白い。
愛之助丈の数馬については、「男も惚れる美しさよね〜」と惚れ惚れした方と「武士を捨てるほどの美しさかなぁ?」と首をかしげた方とにわかれたようだ。
私はハマリ役だったと思う。
“手の届きそうな高嶺の花”という感じで、「拝み倒せば、一晩くらい枕を共にしてくれるんじゃないかなぁ」と期待させるような、ほわっとした可愛さがあったと思う。講談師さんが数馬の美しさを強調していたけど、美しすぎると恐れ多くて近寄れないような気がする。男性の視点だと違うのかなぁ? 映画評論家がイングリッド・バーグマンを「彫刻みたいな美しさで近寄りがたい」と評したことがあるから、あながち間違いでもないと思うんだけど。
ちょっと抜けてるというか、隙がある方が「全てを捨てて賭けに出てみようかな」という気にさせると思うのは、現代的な考えだろうか。あざみが相手だったら、「お袖に汚…」の時点で「無礼者!」と踏みつけられて終わりそうだもん。(まあ、あのお屋敷の中間には、「あざみ殿に草履で踏み踏みされた〜い!」という嗜好の持ち主もいるかもしれないが、それはまた別の話。)

さて、忍んできた友右衛門。
敵討ちの望みを打ち明けられてから義兄弟の契りを結んだということは、最初は義兄弟になるつもりはなかったのか?(衆道の契りを結んだ時点では義兄弟にの契りにはならないのか? 血を啜るところに意味があるのか?) 数馬と共寝したいばっかりに武士の身分も妹も捨てたとは思いたくない。
かといって、CITY HUNTERみたく露骨に迫るでもなく、ルパン三世みたいに空中で平泳ぎしながら袴を脱いで数馬にダイブするわけでもなく… 友右衛門ってよくわからない。まあ、そんなヘタレウブで可愛いところが、染五郎丈の優男っぽいルックスに合ってたけど。(「寝物語と致そうか」の台詞を染五郎丈の友右衛門で聞きたかったな。)

「染模様〜」の数馬は友右衛門亡き後に狂ってしまうのではないかと思ったが、「蔦模様〜」の数馬は全然平気そう。結婚して男の子を2人作って、1人は大川、もう1人は印南を継がせるくらいはさらっとやってのけそうだ。
「染模様〜」の数馬、あの後あざみを許せたのかな?「寛容なご処置を」と言った時と状況が違っちゃったからなぁ。でも、あざみにしてみれば本望だったかも。

こんなとりとめのないことを考える日々はまだまだ続く。
たぶん、国立劇場で忠臣蔵を観るまでは。(観劇と列車のチケットは準備した。楽しみだ。)

「染模様恩愛御書」の筋書に寄稿している氏家幹人氏の本。ほんの数ページだけど、友右衛門と数馬について触れている。 まるっと一冊武士道と男色の本なので、かなり(←アクセントは、“な”)濃ゆい。
義兄弟の契りについて、これを読んで勉強してみようかと。

こっちは血達磨伝説についてまるっと1章使っている。(友右衛門と数馬についても触れられている。) タイトルの通り、全編エグイ話がてんこもりなので、お気を付けを。

つれづれなるまま「蔦模様〜」
改めて読み返してみると、役者さんの声で台詞が浮かんでくるため、すらすらと読めた。
舞台と違う箇所などをつらつらと書いてみる。

読み違い、解釈違い、勘違いがあったら、ごめんなさい。(特に、台詞部分は激しく勝手な解釈です。)

まずは冒頭。
妖刀を買う場面で、図書は料金を負けさせている。(たしか、舞台ではあっさりと払っていたはず。)
図書の家に数馬の母・民がお守りをもらいにたずねてくるが、図書が不在のため一旦帰る。帰ってきた図書は下女のおわかも一緒に斬り捨てる。現れた十内に「今、お守りを出しますよ」と言ってから、行燈の明かりを消してだまし討ち。
図書は「蔦模様〜」の方が嫌なヤツっぽい。

浅草観音。
見初めの場はなし。数馬は「母の容態がよくないから帰りに寄るように」と伝言を受ける。家来のいさかいを収めたということで友右衛門に礼を言われるが、「用事があるので…」と去っていく。
そこへ玄庵ときくがやってくる。
「蔦模様〜」の友右衛門は「でっぷり」しているらしいが、「染模様〜」の友右衛門は「当代人気の花形役者・市川染五郎に生き写し(という感じの台詞だった)」の色男。
数馬は母の家に見舞いに行き、仇討ちを誓う。涙を拭う時に、袖に文が入っていることに気付く。

細川邸。
袖助(友右衛門)が「さっき数馬殿の袂に短冊を入れた。これで想いがかなえばよし…」と言っている。御簾が上げられ、数馬はそこから文を投げる。
友右衛門からの短冊には「疎むなよ逢ぬ思ひにくづおれて影の如くになれる姿を」との和歌が書いてある。(「染模様〜」も同じはず。) 「君に逢いたくてストーカーになった僕を嫌わないでね」という感じだろうか。(←意訳し過ぎ。)

「蔦模様〜」で数馬に横恋慕しているのは、腰元あざみではなく、笹山丹蔵。
数馬「持病の癪が…」
丹蔵「拙者が押してさしあげよう」
数馬「もう治りました」
丹蔵「治ったのなら、拙者の思いを今宵こそ晴らさせてください」
数馬「また、お戯れを」
丹蔵「戯れではない」
数馬「若造と侮ってそんなこと言うと、殿に言いつけますよ」
丹蔵「怒らないでください。寝ても醒めてもそなたが忘れられぬ。一度だけでいいから、殿に内緒でちょこぉーっと自由にさせてくださいよ」
数馬、丹蔵を振り払う。
数馬「殿のご寵愛を受ける身で、不義ができるもんですか」
丹蔵「どうしてもダメですか?」
数馬「早く出てってください」
丹蔵「何もそんな、ゲジゲジみたいに嫌わなくても…」
いやー、しつこい。ゲジゲジってところがおかしいけど(笑)。

友右衛門が忍んでくる。
母が亡くなり連絡が取れなくなったことの説明や「あなたを慕っておりました」という台詞はだいたい同じ(と思う)。
違うのは衆道の契りがあるかないか。このあたりは以前に書いたけど、もう一度。

数馬「今日は病気を理由に出仕を断っていますので、ゆっくりお話いたしましょう」
友右衛門「それは何よりです。では、早速…」
数馬「え?」
友右衛門「いや、あの… 早速お願いしましょうか」
数馬「何なりとうかがいましょう」
友右衛門「さぁ、そのお願いとは…(言いにくそうに) 寝物語をしましょうか(うつむいて)」
友右衛門、可愛いな。「胸がどきどきいたしてならぬ」とか「人を思えば思わるる」という台詞も「蔦模様〜」で言っている。

数馬「私から1つのお頼みがあります」
友右衛門「改まってお頼みとは?」
数馬「こんなことを言ったら、怒って見捨てられるかもしれませんが、こんな私をそれほどまで思ってくださったなら、不義な契りの御恋慕はこれまでにして、実の弟と思ってお力になってほしいのです」
「我が君の寵を蒙る身」と言葉は続く。「蔦模様〜」では、殿と数馬はそういう関係なのか? 「染模様〜」の殿からはそんな雰囲気はさっぱり感じられなかったけど。

友右衛門はこの頼みを聞いてやる。
友右衛門「無明の夢も醒めました。長居をしたら、返ってさしさわりがあるでしょう」
数馬「もしかして、怒ってますか? 愛想がつきましたか?」
友右衛門「まさか。ご立派だと感心しましたよ」
数馬「ならば、どうか不憫に思ってくださいませ」
友右衛門「拙者がいなくても、殿のご寵愛厚ければ十分でしょう」
数馬「そのご寵愛が害となることもあって…」
と、仇がいることを打ち明ける。

数馬「敵にめぐり合ったとしても、腕が未熟で討つことはできません。あなたが兄だったらいいな、と思ってました」
「染模様〜」では一目惚れだった(恋愛感情があった)けど、「蔦模様〜」では敵討ちの助太刀として印象に残っていた感じで、ちょっと友右衛門が可哀相かも。
友右衛門「殿のご寵愛があれば、剣術修行もできるでしょう」
数馬「お側から離してもらえず、剣術修行もままならず…」
ここで、『源氏物語』で桐壺帝が桐壺更衣を側から離さなかったのを思い出した。やはり、そういう関係か。まさか、数馬がお茶をいれるところを眺めて「かわいい、かわいい」と喜んでいるだけでもあるまい。
友右衛門は敵討ちの助太刀を約束し、義兄弟の契りを結ぶ。茶碗に二人の血をしぼりいれ、互いに飲む。これを丹蔵に見られていた。

殿の御前へ引き立てられる数馬。友右衛門が長持に隠れ、長持ごと運ばれてしまうところは同じ。
「染模様〜」の奥方は「数馬が男と不義密通なんて!」と嘆いていたが、「蔦模様〜」の奥方は最後まで数馬をかばう。
奥方「ご立腹はもっともですが、吟味してから罰しては?」
殿「それは無用。不義者2人を手討ちとするのもまた一興。今宵の酒宴はこれまでだ。女子は席を外せ」
奥方「そこをなにとぞご容赦を」
殿「いらぬ口出しはするな!」
殿、厳しいな。「染模様〜」では奥方の方が迫力があるからなぁ。(ミカ・ハッキネンとイリヤ夫人みたいなイメージ。)

友右衛門「恐れながら申し上げます」
丹蔵「下郎の分際で、黙ってろ」
友右衛門「例え下郎といえど、死ぬ時には言いたいことを言っていいというではないか」
と、今までのいきさつを話して数馬をかばう。
友右衛門「私一人お手打ちにして、数馬の命はお助けくださるようお願いいたします」
この場面、「蔦模様〜」の数馬は泣いているだけ。
確かに、ここで「自分が死ぬ」とは言えないよな〜。不義の汚名をきせられた父の敵も討てぬままに、自分が不義者として成敗されちゃったら、あの世の母上に顔向けできないもん。

「染模様〜」の方は、バカップルのいちゃつきタイムと化していた。
友右衛門「数馬は悪くない! 私一人をお手討ちに!」
数馬「いいえ、こうなったのは私のいたらなさ。私一人をお手討ちに!」
友右衛門「そんなことしたら、忠義も立たず、親孝行もできないじゃないか!」
数馬「そんなこと言ったって…!」
友右衛門「たとえこの身は死んでも、心はひとつだぞ!!」
数馬(うるうる)
殿「コリャ、そこのバカップル」(←ウソです。こんな台詞はありません。が、たぶん殿はこんな気持ちだったハズ)

殿にさえぎられて、慌てて居住まいを正すバカップル。止められなかったら、どこまでいっちゃってたんだか。観客は笑ってた。
「蔦模様〜」で殿が友右衛門に感じ入る気持ちはわかる。
数馬恋しさに武士の身分を捨てた。そこまでしたのに、数馬を思って衆道の契りは結ばず、義兄弟の契りを結んで敵討ちの助太刀を約束。さらに「拙者一人をお手討ちに」と“流石勇士の悪びれず”堂々と主張するわけだから、確かに殺すには惜しいと思う。
「染模様〜」の方はちょっとよくわからない。仇討ちマニアだったのか(赤穂浪士を手厚くもてなしたというしね)、はたまた、いちゃつく2人を見て奥方との新婚時代を思い出したのか… 殿は何であんなに嬉しそうに2人を許したのか… 謎だ。
なんとなく、どっちの殿様もB型だと思う。(かくいう私もB型。)

屋敷の女性に付文をしまくったということで、丹蔵は取り押さえられる。BL小説の丹蔵は数馬一筋だったので、これよりはいくらかマシになってるな。
「蔦模様〜」で「袖助殿の苗字は大川、細川の家臣になるにははばかりがあるのでは?」と言ったのは数馬。詠んだ歌は同じ(だったと思う)。
谷々の流の恵みせき入れて上は細川下は大川
即興で歌を詠むとは、なかなか風流だと思う。


玄庵先生のおうち。
図書の妻(=友右衛門の妹・きく)が狂ってしまったので、離縁の話が出ている。
玄庵は友右衛門の居所が少しでも早くわかるようにと観音参り。そこで友右衛門と数馬と会ったのか、帰りに二人を連れてくる。4年間行方知れずだったのは、「蔦模様〜」も同じ。友右衛門は百五十石の禄をもらっているそうだ。
玄庵の話によると、以下の通りになるらしい。
立花家の指南番で印南図書という方がきくをたっての所望だったので縁付けた。最近までは仲睦まじく暮らしていたが、友右衛門の居所を探して心配していたせいか、先日から狂気となった。引き取って治療をしているがよくならない。媒酌人から離別状を受け取れと言われている。

友右衛門と数馬は顔を見合わせる。
図書の年齢を聞くと、46歳。きくとは半分も年齢が違うが、年上の夫の方が気楽でよかろうと縁付けたとか。
数馬は「印南図書」という名前が気になっている様子。
そこへきくがやつれた様子でやってくる。
きく「お兄様、お懐かしゅうございます」
玄庵の弟子「狂人といえど、お兄様に会いたいという心は格別で、気持ちが落ち着きなさったようですな」
友右衛門「コリャ、妹。心の病とはいえ、恩ある玄庵殿へご迷惑をかけるとは、武士の娘にあるまじきことだぞ」
…チョットマテ。そこの色ボケストーカー。お前が言うか、お前がっ!!

きく「そのお叱りももっともですが、これには深いわけがあるのです。お許し下さい」
玄庵「なに? 気が狂ったのではなかったか」
弟子「先生のお見立て違いですかな」
さぢ「それなら印南様(=図書)に知らせて安心させてあげましょう」
きく「それはやめてください」
数馬「これにつけても思い当たるのは、『3日のうちに吉事あり』という観音様の夢のお告げ。同じ苗字にその名前。もしや敵の…」
ここで、友右衛門と数馬はきくを連れて別室へ。

残された玄庵夫婦&弟子。
弟子「何で狂人の真似をしたんだか。悪い洒落だ」
玄庵「名医の私でも治せぬはずだ」
さぢ「いーえ、あなたは毎度お見立て違いをなさいますわ」
玄庵「亭主をバカにするか。出て行け!」
さぢ「それならお手当てを十分くださいな。あなたが按摩のころから二十年来付き添ってきて、タダで出されちゃたまりません」
玄庵「身一つで参って、身一つで出て行くのに問題はあるまい」
弟子「奥にはお客様もいらっしゃいますから… まあ、お静かに」
うーん、愉快な夫婦だ。
「道具廻る」と書いてあから、ここで舞台を回せということかな。

別室にて。
友右衛門「コリャ、妹。狂人の振りをして、お世話になった人々にご迷惑をかけたわけを話せ」
きく「夫と定めた方に対して私の操が立ちませんから、どうか許してくださいませ」
友右衛門「それならその家に訪ねていかねばならぬ。この件に関しては、数馬と心を砕いてきたのだ。いかなる秘密があるとはいえ、兄に言えないことはあるまい。操を守り、兄を捨てても言わぬというのか」
妹を捨てたくせに、よく言うよ。とにもかくにも、数馬さえよければいいのか、友右衛門。
きく「離縁を申し渡されたとはいえ、夫と定めた方の身にかかわることですから…」
数馬「そうはおっしゃっても、ぜひともお尋ねしなくては、こちらも望みがかなわぬのです。どうぞお話くださいませ」
きく「それほどまでにおっしゃるならお話しますが、他言しないでください」

きくの話によると、ある日中間(=宅助)がやってきて図書に金の無心をした。すげなく断ったが、図書の留守にやってきた。
「連れ添っていると、刀の祟りで殺害されるぞ」と言われ、会津での殺人について話された。秘蔵の刀が備前祐定と知って別れる気になった。さらに、夫の元の名は「横山」であったと語る。
数馬「よくぞお話しくださった。それこそまさに父の敵」
はやる数馬。
友右衛門「先のことは兄に任せておけ」
きく「たとえ離縁されたとしても、夫の悪事を告げたとあっては… 兄上、ごめんくださりませ」
と自害しようとする。友右衛門はそれを止め「尼となって菩提を弔え。はやまるな」と言う。
玄庵に口止めしたところで、幕。

この場面、「染模様〜」よりドラマ性があって面白いかも。
きくが自らの意思で離縁しようとしている分、「染模様〜」よりは救いがあるような気がする。


いきなりの大火事。
「染模様〜」で観客の熱い視線を浴びた奥方の火事装束について、「奥方羅紗の立烏帽子を冠り」とある。あの防災頭巾?を「立烏帽子」と呼ぶのか、無知な私には判断がつかない。(浮世絵では黒い烏帽子だけど、「染模様〜」では「輝虎配膳」の烏帽子並みに金ぴかだった。)
また、「老女奥女中何れも立烏帽子を冠り薙刀を持」とある。奥方一人じゃなくて、皆そろって防災頭巾を被ってたら、もっとインパクトがあったかも。

奥方「表の様子をうかがう暇もなく、皆に連れられるままに立ち退きましたが、我が君のご安泰のご様子に初めて安堵いたしました」
殿「我も奥を尋ねる暇なく立ち退いたが、無事より逃れたことは不幸中の喜びである。我は火口の様子を見届けてから立ち退くから、奥は皆を引き連れて先に中屋敷へ参るがよい」
奥方「仰せの通りに致します。お先にごめんあそばしませ」
ラブラブのいい夫婦だなぁ。

殿は御朱印を持ち出すことを忘れたことに気付く。そこへ友右衛門が「りりしき拵えにて」やってきて、宝蔵にも火の手が回ったことを告げる。
殿「その宝蔵より、家の宝である御朱印を持ち出すことを失念した。これより火の中へ引き返し、無事に取り出す所存じゃ。汝も我について参れ」
友右衛門「そのお役目は友右衛門の一身にかえて引き受けますゆえ、なにとぞ君はここでお待ちください」
殿「この大役、そち以外にしおおせる者は他におるまい。しからば任せる。無事に取り出して参れ」
友右衛門「承知しました。我が君、御免」
「蔦模様〜」では、数馬との今生の別れはできないままだったのか。

火事場の描写がなかなかの迫力。
友右衛門は濡れごもを被り、ぬれたボロで足を包み、花道を走ってくる。正面の蔵を開けて煙にむせ、棒杭を取って土戸を突けば中から猛火が吹き出る。友右衛門はタジタジとなり、用水の水を浴びる。「左右の蔵より猛火吹出る仕掛けよろしくあって」などと書いてあって面白い。
友右衛門は御朱印の箱を抱えて出てくるが、向こうに逃げようとすると柵が燃え上がり、上手へ行こうとすると同じように柵が燃え上がる。
友右衛門「もはやこれまで」
と、御朱印の箱を打ち壊し、中より御朱印を出し口にくわえ、肌をくつろげ刀を抜いて、腹へ突き立て引き回し、件の御朱印を切り口へ突っ込みうち伏せる。

殿や家来が戻らぬ友右衛門を心配している。
近習「数馬殿も頼りを失い、お嘆きのほどはいかばかりでしょう」
数馬「君の仰せにそむくことは恐れ多いですが、なにとぞ兄の亡骸を詮議したく、しばしの間お暇をください」
殿「いや、検分に帯刀を遣わしたから、彼が知らせを持ってきてからでも遅くはあるまい。汝は大望ある身ゆえ、嘆きのあまりに不心得のことでもあってはならぬ」
早まって後を追ってはならぬ、ということかな。殿も数馬のことが大好きだよなぁ。

そこへ帯刀がやってきて、御朱印の箱と友右衛門の死骸が運ばれる。
数馬は「死骸を見てうれいの思入」と、意外に冷静。(友右衛門と気付いてないのか?)
殿「友右衛門はどうした? その死骸は彼なのか?」
帯刀「はっ。御覧に入れるも忌まわしい無残な死骸でございますが、彼の忠死をこのままに葬るのも不本意で、非常に恐れ多いですが、御前に運びました」
数馬は死骸にすがって泣く。
殿は箱が残っていたので将軍家への言い訳が立つと言い、
殿「弟数馬へ大川の家の相続を申し付ける。かねての望みも思いたえ(=思い絶え? 諦めろってこと?)、二代の大川友右衛門と改名して出仕致せ」
数馬「望みを遂げた上であれば願うところでありますが、本望が叶うところでのこの不幸。敵の居所がしれましたので、とどまるわけには参りません」
殿「居所が知れたとあらば、望みを遂げた上で再び出仕せよ。帯刀、そちは友右衛門に代わりて数馬の助太刀いたせ」
ここで数馬に仇がいることが知られ、帯刀が助太刀を引き受ける。

そこへ女中がやって来て、「奥方が様子を聞いて、最期に一目逢いたいそうです」と言う。殿がそれを許し、奥方が登場。
奥方「こりゃ、切腹している様子」
殿「それはおかしい。帯刀、傷口を改めよ」
帯刀が御朱印を引き出し、皆死骸を褒めて、幕。

数馬があっさりしすぎかなぁ。
「染模様〜」の嘆きっぷりと比べると冷たく感じられて、友右衛門が不憫。殿の台詞にあったように、後を追わんばかりに嘆いてくれてもよかろうに。もう少し、「義兄上大好き!」な素振りを見せてほしいところ。


いよいよ敵討ち。
会津本町の旅籠屋に図書が泊まっている。そこへ宅助が訪ねてくる。
宅助「とんだ証人に引き出され、逃げるわけにもいかねぇから、いつもどおり金の無心。俺もここらで改心して、真人間になりてぇもんだ」
宅助が図書の部屋へと案内される。その後、西田三郎兵衛と中内軍兵衛らがやってくる。
三郎「たった今、ここへ宅助なる者が横山を訪ねてきたはずだが、宅助はどうした?」
宿屋手代「私は取り次ぎませんでしたが、先ほど女共が町人風のお方を横山様のお座敷にご案内いたしました」
三郎「拙者共は仔細あってここに参った。横山に知らせずに、別間で話の様子を聞かせてくれ」

元の主人(会津中将?)の所望によって、図書は武芸の上覧をするとのこと。宅助は図書に金の無心をする。
宅助「生真面目に身を固めるために、毎度のことでお気の毒だが無心にきました」
図書「そんなことだろうと思っていた。拙者が役目を終えて江戸に帰った折に訪ねて来い」
宅助「そんな気長なことを言わず、貸してください」
図書「どれだけ金子が必要だ?」
宅助「身を固めるために五十両ばかり貸しておくんなせぇ」
図書「何、五十両?」
宅助「左様」
図書「はした金ならともかく、五十両はやれん」
宅助「できないなら、俺はお喋りだから旦那の一大事を…」
図書「今それを言われても…」
宅助「じゃあ、五十両くださいよ」
図書「それじゃと言うて」
宅助「一生口外しないという口止めに五十両なら安いもんだ」
結局、図書は五十両渡してやる。何でおとなしくゆすられ続けているのかが謎。

宅助「とっくに悪事は露見して、今日松原で試合するとは表向きのこと。敵を討たれて首が飛ぶとも知らずにいるとは」
図書「何?」
ここへ西田三郎兵衛と中内軍兵衛が入ってくる。 図書が離縁したきくの兄が友右衛門、その義兄弟である数馬が父の敵を討ちに来たと告げる。
軍兵衛「細川家より使いとして、堀帯刀殿が数馬を連れて昨日当地へ乗り込まれた。今日は晴れの敵討ち。御法通りの支度をして、勝負の場所へ参られよ」
図書「さてはあの時疱瘡だった小倅が成人したか。拙者は十内の菩提のため印南と姓を改め追善供養してきたものを」
図書は悪びれた様子はないが、しょっぴかれる羽目になる。

敵討ちの場には、上手に会津中将、下手に堀帯刀らがずらりと居並ぶ。
一ノ瀬九郎右衛門(いよの父)が会津中将に数馬を引き合わせる。
中将「その若者が十内の二男、大川数馬であるか。コリャ、数馬」
数馬「はっ」
中将「天晴れ。このような孝子がいることもしらず、十内が横死した際に母諸共に暇を出したが、孝臣の徳によって亡父の汚名も晴れ、満足であろう。申すまでもないが、相手は当家の師範番も勤めた者、心を用いて勝負いたせ」
作法にのっとって支度をする。
数馬「横山殿、拙者はかつて欺き討たれた印南が二男、主命によって大川友右衛門の名跡を相続し、大川数馬と申します。尋常にお名乗りあって、雌雄の勝負決されよ」
図書「返り討ちにしてくれる」
数馬「何を言う。お前を討って、亡父の霊を慰めん」
図書「さあ、遠慮なく打って参れ」
数馬「亡父の恨み、思い知れ」
図書は数馬を侮っていたが、数馬は手強く、面白い立ち回りの末、数馬は図書の肩口を一太刀斬りつける。図書は手負いの立ち回り。
会津中将始め、皆が賞賛する様子にて、幕。

「蔦模様〜」の数馬は立派な武士になったなぁという感じ。(「染模様〜」の数馬は、友右衛門に先立たれたら敵討ちなんて無理そうだった。) 友右衛門の名前もちらほら口にしているし、たまーに友右衛門のことを思い出しながら、大川家を相続して立派にやっていけそう。
余談だが、「セーラー服と機関銃」の歌詞を思い出した。

♪いつの日にか 僕のことを想い出すがいい
♪ただ心の片隅にでも 小さくメモして

「蔦模様〜」の友右衛門って、まさにこんな感じではないかと…
衆道の契りを結ばなかった分、「染模様〜」より純愛度は上がっているように思う。4年間剣術修行をしながら、二人で幸せに暮らしていたと思いたい。(衆道に純愛云々言うのはおかしな感覚なのかもしれないが。)
そうでないと、敵討ちの助太刀要員として使われただけみたいで、あまりに不憫だ。