年 (平成年)

浪花花形歌舞伎 松竹座

4月4日(火)〜4月11日(火)

配役
第一部(12:00開演)
伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)
妙見町宿屋の場
野道追駈けの場
野原地蔵前の場
伊勢二見ヶ浦の場 40分

福岡貢:六代目 片岡愛之助
奴林平:二代目 中村亀鶴
藤浪左膳:初代 片岡進之介
今田万次郎:五代目 中村翫雀

古市油屋店先の場
同 奥庭の場 80分

福岡貢:六代目 片岡愛之助
油屋お紺:初代 片岡孝太郎
料理人喜助:四代目 坂東薪車
仲居万野:六代目 上村吉弥
油屋お鹿、今田万次郎:五代目 中村翫雀

第二部(15:30開演)
玩辞楼十二曲の内
土屋主税(つちやちから)75分

土屋主税:五代目 中村翫雀
大高源吾:二代目 中村亀鶴
落合其月:四代目 坂東薪車
侍女お園:六代目 上村吉弥
晋其角:五代目 坂東竹三郎

於染久松色読売(おそめひさまつうきなのよみうり)45分
お染の五役(おそめのごやく)

油屋娘お染、丁稚久松、久作娘お光、雷、土手のお六:初代 片岡孝太郎
猿廻しお龍:六代目 上村吉弥
猿廻し白蔵:六代目 片岡愛之助

第三部(19:00開演)
浪華騒擾記(なにわそうじょうき)
大塩平八郎(おおしおへいはちろう)一幕目55分、二幕目35分

大塩平八郎:五代目 中村翫雀
お槙:初代 片岡孝太郎
山波源次郎:二代目 中村亀鶴
奥舎玄蕃:四代目 坂東薪車
中島久造:六代目 上村吉弥
佐川兵衛:六代目 片岡愛之助
格之助:初代 片岡進之介

筋書
愛之助丈関連
25ページ:インタビュー、舞台写真「義賢最期」木曽先生義賢(カラー)
料金
一等席:8,000円
二等席:4,000円
三等席:2,000円
筋書:1,000円
その頃、他の劇場では…
歌舞伎座

雑誌
『演劇界』2006年6月号→演劇界 2006年 06月号 [雑誌]
愛之助丈関連
38ページ:舞台写真「伊勢音頭恋寝刃」福岡貢(カラーグラビア)
53ページ:舞台写真「伊勢音頭恋寝刃」福岡貢(モノクロ 6枚)
55ページ:舞台写真「お染の五役」猿廻し白蔵(モノクロ 1枚)
55〜56ページ:舞台写真「浪華騒擾記」佐川兵衛(モノクロ 5枚)
64〜66ページ:浪花花形歌舞伎の劇評、舞台写真「伊勢音頭恋寝刃」福岡貢(モノクロ 1枚)
108ページ:水野晴郎劇場ノート29
118ページ下部:演劇情報内で平成若衆歌舞伎の紹介
121ページ上部:松尾芸能賞授賞式の記事(片岡家3ショットあり、モノクロ)

『関西版 Bi-Weekly ぴあ』2006年4/13号
153ページ:片岡愛之助丈インタビュー(カラー2/3ページ)
胡蝶蘭に囲まれてちょこんと正座している愛之助丈の後方に、ちょこんと座っているリラックマの姿が…

感想
一部は8日の12列17番で観劇。二部は7日の1列15番で観劇。三部は7日の5列5番観劇。愛之助丈は、一部はまんべんなく、二部では花道寄り、三部ではあまり花道には来ずに中央で芝居することが多かったので、二部と三部の席が逆だったら尚よかった。 二部(7日)→三部(7日)→一部(8日)の順に観た。
伊勢音頭恋寝刃
青江下坂(刀)とその折紙(鑑定書)を紛失してしょんぼりの万次郎(翫雀丈)。いかにも頼りなげなお馬鹿なボンボンという感じ。貢(愛之助丈)も白塗りで頼りなげ。しかし、この役は「ぴんとこな」と言って、筋が通っている役らしい。進之介丈の出番は冒頭のみ。三部には驚いたが(いろんな意味で)、ここでは普通だった(と思う)。
前半で活躍したのは奴の亀鶴丈。万次郎と貢がはんなりしずしず歩いているのと対照的にどったんばったんと走り回っていた。前傾姿勢で腿上げみたいに脚を上げて走っているので、かなりの運動量だと思う。「いかにも歌舞伎!」という動きと見得でかっこよかった。追いかけられる方も大変そうだった。またも歌舞伎でイナバウアーを見ることになるとは予想外だったな。

背景に夫婦岩が描かれていて、「ああ、修学旅行で行ったなー」と思っていると、貢と万次郎が歩いている。大学一味に突き飛ばされそうになって「なんや、あのキ○ガイ」とのんきな貢。万次郎に「あいつらが犯人」だと言われても「はよ言うてくださいよぉ」と、やっぱりのんき。追いかけるだろ、普通…
ここでだんまり。貢は密書をひらひらさせながら立ち回り、妙に色っぽい目付きをしていた。いよっ、バンコラン!(←違)


舞台は油屋へ。
万野(吉弥丈)の意地の悪いことったら! なまじ綺麗なものだから、余計に恐い。貢は翻弄されて、あたふたしたり、ふるふるしたり、泣きそうになったり。吉弥丈は番付のインタビューで「気持ちは貢にあるのではないかな」と言っているけど、それでいてこんなにいじめるなんて、サドですか? 確かに貢さんはちょっとぐりぐりしたくなるような可愛い感じだけど、だからといって、ここまでいびり倒すとは恐ろしい。

満座で恥をかかされ、お紺(孝太郎丈)に愛想尽かしをされ、貢はこんな顔→(ノД`)で去っていく。万野にぴしゃりと戸を閉められ、痛そうに指をぎゅっと握る仕草が可哀相なんだけど、可愛かった。
大学一味が貢の刀をすり替えたのだが、喜助(薪車丈)がそれを見ていて、間違えた振りをして正しい刀を貢に渡した。貢はそれに気付かずに油屋に戻ってしまう。ちゃんと中身確かめろよ、貢。ここでまた万野にいじめられるのだが、そこに貢の人のよさが現れている。たしか、こんな感じ。
貢「ぶつぞ!」
万野「ぶてるものならぶってみなさいよ」
貢「ごめん。言い過ぎた。謝るから刀返して」
情けない…
さらに万野に「ぶて」と言われて、刀で軽くぱしっと叩く。
万野「もっと、気の済むようにぶってみなさいよ」
バシィッ!
万野「いくらなんでも限度があるでしょー」
刀の鞘も割れてしまい、またも貢はこんな顔→(ノД`)。鞘が割れ落ちると、貢が豹変。貢に握られている青江下坂が痺れを切らしたに違いない。「なんや、情けない男やなぁ。こんな女、斬ったりゃーええがねー」とばかりに、暴れまくる青江下坂。
万野は斬られて、綺麗なえびぞりを披露して美しく倒れた。しかし、お鹿(翫雀丈)はブサイクなメイクをしているものだから、出てきただけで客席から笑い声が… 斬られるときも笑い声が… ブスってだけで根はいい人なのに(多分)、可哀相だ。

血がべっとりついた着物で刀を振り回し、人を殺める貢。そこへお紺が折紙を持って現れる。喜助もやってきて、貢が持っている刀が正真正銘の青江下坂だとわかり、一件落着。よくよく考えたら、喜助がすり替えられた刀を元に戻してから貢に渡しておけば、誰も死なずにすんだんじゃ… ま、いいか。
土屋主税
赤穂浪士討ち入りの外伝的な物語。愛之助丈の出番はないので、いろんな人を観た。吉弥丈(お園役)が本当にお琴を弾いていたのに驚いた。何気なくかき鳴らしていたけれど、お稽古大変なんだろうなぁ。
其角(竹三郎丈)が「大高源吾(亀鶴丈)の姿を一目見たい」と木によじ登って隣の吉良邸を覗こうとするところが、雪で滑って転んだりして滑稽でもあるんだけど、人間味のあるおじいちゃんという感じですごくよかった。思わずじわっときた。(年を取ると涙もろくなってダメだ。)
それにしても、ここまで皆に嫌われまくると、吉良の殿様がちょっと気の毒だ。

お染の五役
孝太郎丈の早替りを楽しむ舞踏。「どれが本物の孝太郎丈で、次は何に替わるのか」ということばかりを気にしていたので、細かいことはよく覚えていない。
孝太郎丈が早替りで登場するたびに、客席が「えぇ〜?」という感じでどよめいていた。孝太郎丈の表情が得意げにみえたのは気のせいかな。
愛之助丈は猿廻し役で登場。道化みたいな格好かと思っていたら、白塗りの優男風。荷物を背負っていて、その上にちょこんとお猿さんのぬいぐるみが座っているのが可愛い。ちょっとした仕草がはんなりとしていて、上方の色男だな〜と思った。


夫婦(妻役は吉弥丈)でまろやかに踊っていたが、雨が降ってきたので退場。このとき、「ご両人!」と大向こうがかかっていた。美男美女で似合いの夫婦(+お猿さん)だった。 2人の衣装には文字が書いてあったけど、まさか紙衣じゃないよなぁ? 愛之助丈の出番は思っていたよりも長かった。
その後、なぜか雷様が登場して雲の上で三味線を弾き始めた。(これは弾くマネだけ。)雷様はお面をしているので、顔は見えない。雷様が雲から落ちると、急に真っ暗になって、舞台中央の傘にだけスポットライトが当たる。傘の上には雷様のお面を見せている。明るくなったら、傘の下から土手のお六(孝太郎丈)が登場した。この演出が派手だった。雷様のお腹がやたらと太かったけど、着ぐるみの下にたくさん着こんでいたんだろうか。
お六が若者達相手に立ち回りをする時、若者が持っている傘に「まつしまや」と書かれていて、サーキットでキャンギャルが持っているパラソルを思い出した。立ち回りでパタンとひっくり返る人達は、見せ場にはなるだろうけど背中が痛そう…
あっち見たり、こっち見たりと忙しかったけど、面白かった。
浪華騒擾記
新作歌舞伎とのことだが、テレビドラマの時代劇っぽいなぁと思った。愛之助丈は白塗りではなく、ナチュラルメイク(というのか?)。羽織袴、着流し、与力ルック(頭に黒いヘルメットみたいなのを被ってる姿。無知なので、なんと呼ぶのか知らない)を見ることができる。
大塩平八郎(翫雀丈)と佐川兵衛(愛之助丈)の友情物語なのだが、兵衛「お前、俺に隠し事してるだろう。ツメ噛んでるときはいつもそうだ」とか、平八郎「養子をもらうことにしたんだ」兵衛「槙(孝太郎丈)ー! お前の婿殿が決まったぞー」とか、少々ベタというか、むず痒いというか… 21年前に書かれたものならこんなもんかな。(と、言いつつ、ラストではしっかり泣いた。年寄りは涙もろくていかん。)
玄蕃(薪車丈)は悪役なのだが、何せ薪車丈なので見栄えがいい。かっこいいと得だよな〜。この玄蕃の笑い方がすごかった。「ウワーッハッハッハ!」って、どこの漫画のキャラクターじゃ! この笑い声聞いただけで「この人は悪役」とわかる。…かっこいいんだけどね。進之介丈は浮いているというか、一人異次元だったなぁ。パッと見でも、日本人形の中にギリシャ彫刻がまじっているような違和感が… 彫りの深いお顔だからだろうか?
(←着物の柄などは覚えてない)

平八郎に決起を打ち明けられて、兵衛は「確かに俺は正直に言えと言ったけど、正直に言うヤツがあるか!」と子供みたいなことを言う。この辺りのやり取りはよかったなぁ。しかし、一番美味しい役は主役の平八郎でもなければ兵衛でもなく、源次郎(亀鶴丈)だと思った。コミカルな演技で笑わせてくれたし、決めるところは決めていた。格之助(進之介丈)の身代わりになろうとし、平八郎をかばって撃たれ、玄蕃もろとも屋敷の奥へ。かっこよかった〜! その屋敷の中に平八郎も入っていき、大砲が打ち込まれる。屋敷の前で泣き崩れる兵衛を見て、涙腺が緩んだ。

場面は変わり、兵衛は格之助と槙を引き合わせて九州へ向かわせる。共を命じられた久造(吉弥丈)が源次郎の位牌に向かって「お前は九州出身だったなぁ。帰りたいか?」と語りかけるところで涙腺崩壊。周りからもすすり泣きが聞こえてきたので、泣いていたのは私だけじゃないはずだ。
兵衛の後ろでこっそりと3人を見送る僧侶がいた。その僧侶は平八郎なのだが、兵衛は気付かぬ振りで言葉を交わし、お金を握らせる。去り際に花道で十手を見つめ、十手を袖でくるむように隠し(たように見えたけど、記憶があいまい)、切ない表情で去っていく。兵衛は与力だから、本当は平八郎を逮捕しないといけないんだよね。思わず「ヒョーエー!!」と叫ぶ平八郎。ああ、マスカラが落ちる…


平八郎が振り向いた時、舞台は花見客で賑わっていて、赤子を抱いた槙と覗き込む兵衛の姿があった(と思うけど、見間違いだったらどうしよう)。あれは数年後の風景なのか、平八郎が見た幻なのか、どっちだろう? 数年後の風景だといいなぁと思う。考えてみると、兵衛は親友とは互いに名乗ることもできず、娘と長年仕えてくれた久造は婿について九州へ行き、多分家も焼けただろう。それで一人ぼっちじゃ寂しいから、数年後には娘夫婦と孫と一緒に暮らせていたらいいなぁ。
そして、母親がまったく登場しなかったが、お父さんズは2人ともやもめなんだろうか?(単に女形が足りないせい?)