年 (平成年)

平成若衆歌舞伎第五弾 ル・テアトル銀座
大坂男伊達流行

5月19日(金)〜5月21日(日)

配役
19日(18:00開演)、20日(12:00/16:00開演)、21日(11:00/15:00開演)
大坂男伊達流行(おおざかおとこだてばやり)
監修:二代目 片岡秀太郎
作:岡本さとる
振付:山村若

橋本平左衛門:六代目 片岡愛之助
雁金丈太郎:片岡千志郎
奴のお仙:片岡千壽郎
よし乃:二代目 片岡千次郎
東吉:片岡當吉郎
小夏:片岡當史弥
仲三:片岡松四朗
三郷の源助:片岡松次郎
銀朱の与五郎:片岡松之
島野功三郎:片岡佑次郎
おはつ:片岡りき弥
中津の正吉:上村吉昇
大寅の十兵衛:上村純弥
果心:中村鴈京
お妙:中村鴈秀
靭の八五郎:中村鴈祥
結城の文吉:中村鴈大
赤柄の富蔵:片岡千蔵
お里:二代目 片岡松之亟
おさい:片岡比奈三
おかつ:片岡和之介

絵草子の女:二代目 片岡秀太郎

筋書
愛之助丈関連
6ページ:チラシの写真(カラー)
7ページ:インタビュー、紹介写真(カラー)
14〜15ページ:平成若衆歌舞伎の奇跡、記者会見レポート、稽古場日記など(写真あり、カラー)
料金
全席指定:8,800円
筋書:1,000円
その頃、他の劇場では…
歌舞伎座

雑誌
『Top Stage Vol.34』2006年6月号
愛之助丈関連
20〜21ページ:愛之助丈インタビュー
81ページ下部:平成若衆歌舞伎公演情報
112ページ下部:平成若衆歌舞伎製作発表の様子(小さいけど)
114ページ:インスタント写真プレゼントの5番が愛之助丈

『演劇界』2006年8月号→演劇界 2006年 08月号 [雑誌]
愛之助丈関連
34ページ:舞台写真「君が代松竹梅」梅の君(モノクロ 2枚)
49〜50ページ:六月大歌舞伎昼の部の劇評
58〜59ページ:平成若衆歌舞伎の劇評
82〜83ページ:舞台写真「大坂男伊達流行」橋本平左衛門(モノクロ 10枚)
100ページ:水野晴郎劇場ノート31

感想
20日昼の部を3列目26番(端から2つ目)で観劇。
愛之助丈は舞台を行ったり来たりしていたから、端の席からでも見やすかった。(←ダメなファンゆえに、視界がピンポイント。)
いや〜、面白かった。ツッコミどころ満載で。
愛之助丈が「もっと!平成若衆歌舞伎(5月末までの期間限定ブログ)」の「愛之助が答える ぱーと2」でお話していた通り、「この感じは見たことある、このニュアンスは聞いたことある」と思った箇所がいくつかあった。
ブログで掛け声を推奨していたから、黄ばんだ黄色い声が飛び交うのかとドキドキしていたが、そんなことはなかった。(たまたま私の耳に聞こえなかっただけかもしれない。) しかし、大向こうさんも少なくて寂しかったかな。声は掛けられない分、拍手はしっかりしたつもり。
茶屋で女性をめぐり、大坂の裏町のヤンキーグループ・雁金組と商家のどら息子達の天神組が一触即発。そこへ十兵衛(天神組)の妹・おはつが「父が倒れた」と駆け込んでくる。十兵衛は男伊達の意地で「喧嘩は捨てない」と言う。
ここまでが結構長くて、「愛之助丈が出てこないなぁ」と思っていたら、ようやく真打登場。大きな拍手が沸き起こった。
時雨の平左(片岡愛之助丈)が現れて、「喧嘩は後日」ということでひとまずおさまる。どうでもいいけど、「時雨の」って誰がつけたんだろう? なんで「時雨」なんだろう? 雨男なんだろうか?(そういえば、ラストで雪が降ってたな。) ちなみに、愛之助丈は白塗りの色男。3回くらいお色直ししたかな。白地に柳?柄、紫、白だったと思う。
ひとまずは預けた喧嘩を始める二組。平左は雁金組の仲間として派手に暴れる。喧嘩が強くてなかなかかっこいい。しかし、愛之助丈の顔と声でガラの悪い大阪弁を喋ってる姿にはちょっと違和感が… 見た目が白塗りで可愛いからかも。
暴れまくる平左にねっとりと視線を送る熟女(たぶん。若くはないだろう)が土手にいる。「奴のお仙」と言って、大坂の裏の世界に君臨する姐さんらしい。いつもお供に源助をつれている。役人がやってきて、ヤンキー達を引っ立てようとするが、お仙のとりなしで見逃してもらう。お仙は平左が気に入ったらしく、宿無しの平左に貸本屋の部屋を紹介する。
その後、兄の様子を見にきたおはつと師匠のよし乃が現れる。よし乃は昔、女の情念のこもった絵を描いていたことなどが語られる。

平左の住み込んだ貸本屋のおじいちゃんが強烈だった。ブツクサと「読んでみぬか〜、眺めてみぬか〜、この世の不思議〜」と繰り返しながら登場。あんたが一番不思議じゃ。このおじいちゃんが見せてくれた絵草子の美女に魅入られる平左。
そこへ役人がやってきて、平左が実は赤穂浪士の橋本平左衛門ということが語られる。役人はさかんに仇討ちを薦め、「伯父さん(と言っていたような気がする?)は『ゆき殿のことは忘れろ』と言っていましたよ」と言って去っていく。平左の後ろには絵草子から飛び出した女性(秀太郎丈)がひらりひらりと踊っている。
許婚の心変わりに、平左は呆然とする。ここで「よくも裏切ったな!」と激怒するかと思ったら、へたり込んでグスグス泣き出した。おいおい、威勢よく喧嘩してた男伊達はどこへ消えたんじゃ。
もしかして、これが上方のヒーロー像なんだろうか? 喧嘩は強いから「つっころばし」じゃなさそうだし、「ぴんとこな」というヤツなのかしらん。
それから、お仙がやってきたり、おはつがやってきたりする。平左はおはつと手を取り合ってラブラブなもよう。
…ちょっと待て。
お前、ついさっきまで「行く末を誓ったのに、心変わりされちゃった」とグスグス泣いてたばかりじゃないか。しかも、お仙が部屋を紹介してくれた時は「こんなに優しくしてもらったのは久しぶり」と言って世話になり、懐には美女の絵草子を忍ばせ、以前からおはつに気がある素振りをしていたじゃないか。
心変わりしてるのはお前じゃ! 女性の敵め! それも、まったく自覚がないというところがオソロシイ。この、天然たらし男! 大阪の男性はこういうのがデフォルトなんだろうか?(と、この次に質問コーナーがあったら、大阪出身の愛之助丈にぜひ聞いてみたい。)

ここで幕間。

雁金組が堤防でお酒を飲んでいる。そこへ天神組がやってきて喧嘩が始まるかというところに、お役人がやってきたので皆逃げ出した。平左は、再度仇討ちを勧める役人を突っぱねる。その後でおはつがやってくる。
平左「もう会わない方がいい。お前の兄さんと俺の組は犬猿の仲だ」
おはつ「だったら、大坂を出ましょう。私、どこにでもついていきます」
平左「病気の父親と兄を見捨てるなんて絶対にダメだ!…でも、俺もお前をあきらめきれない…」
女性の前ではえらい態度がちがいまんがな。指が食い込むくらいに肩をつかんで、「しっかりせんかい!」とガクガク前後にゆすってやりたい気分になるけれど、見た目が愛之助丈だと許せてしまうというか、可愛げがあるように見えるのが不思議。(←それはたぶんファンだけに見える幻影。)
貸本屋のおじいちゃんは「結末のない絵草子なんて捨ててしまえ」と言うが、平左はそれを捨てられない。おじいちゃん、それ、あんたが見せた絵草子なんだけど… 人に見せる前に自分で捨てておけよ。
お仙は平左が自分の愛人にならないのが気に入らないらしく、十兵衛に金を貸し、証文を偽造して店をとりあげようとする。おはつが「何でもしますから、返済の期限を延ばしてください」と頭を下げると「ほんなら身体売ってもらおか」とエグイ提案をする。同期と付き合ってる新入社員をいびるお局みたいだな。
平左はたまらず、土下座して「おはつの身売りだけは勘弁してほしい」と頼み込む。おはつはお仙に預けられることになる。 平左と十兵衛はここで和解。平左は「おはつのことは俺にまかせろ。お仙さんは俺の言うことなら聞いてくれるはず」と十兵衛に宣言する。
あちゃ〜、これだから天然は… どうしてお仙が自分の言うことを聞いてくれるのかが全然わかっていませんな。おはつのことを「こんな心根の優しい女子は初めて」とかなんとか言ってたけど、お仙の下心ありありの優しさに感動しているようじゃ、女性を見る目はなさそうだ。

お仙はおはつを遠くへ売り飛ばすことに決める。遠くへやってしまえば、平左もおはつをあきらめて自分の間夫になるだろうと言う。いや、あんたは平左のストライク・ゾーンから大きく外れてるみたいだから、ムリだろう。そして、お仙は源助に「おはつを売り飛ばす前に味見しちゃっていいわよ」とのたまう。源助は「俺の好みじゃないので、うちの若い者に…」と言って、去っていく。月並みな展開だが、えげつないなぁ。
そこへ平左がやってきて、お仙に「あんたの下で働くから、おはつの身売りは勘弁してくれ」と頼み込む。お仙は「私の間夫になるなら…」とせまるが、平左は「俺にはおはつがいるから」と承知しない。お仙は背後から平左の胸元に手を忍び込ませる積極さ(というか、セクハラ)。平左、胸元開けすぎなんだよ。『新選組!』土方さん並に開いてるんだもん。
振られたお仙は、腹いせに「今頃、おはつは汚れちゃってるわよ」と告げて、平左を怒らせる。平左は怒りのあまり、お仙に斬りかかる。この立ち回りが結構長い。ゆったりとした動きではなく、スピード感があった。何回も斬られてるのに、お仙はなかなか倒れない。最期は刀を刺してグリグリしていて、かなり残忍だった。それだけ平左の怒りがすごかったんだろうなぁ。平左が絵草子に魅入られたことも原因だったらしい。平左が気に入った絵草子はよし乃が昔描いたもので、心変わりした男への怨念がこもっていたという。…コワ。

お仙が倒れた後に、役人が出てくる。この役人は実は吉良の間者で、平左は「一人きりの討ち入りじゃー!」と役人を倒す。お仙に比べるとあっけなくやられてしまった。姐さんの敵を取りにきた源助もあっさりめ。お仙が強すぎたのか? それともこの2人が弱すぎるのか? お仙との死闘の後でゼェハァしている平左相手に情けないヤツラだ。(ラスボスの後に雑魚が出てきたんじゃ仕方ないかな。)
平左は店からおはつを連れ出して逃げる。(源助とやりあったのはこの後だったかも。記憶が曖昧。)
追っ手に囲まれてしまう平左。丈太郎におはつを頼み、一人で相手に立ち向かう。戸板倒しを見ることができて感動した。今年に1月に『義賢最期』を見に行けなかったから、余計に嬉しかった。前の方の席で見られてよかったー。でも、アレは脚に負担がかかるんじゃないかと心配になった。土手に階段があったから、「仏倒れも見られるのかな?」と期待したけど、流石にそれはなかった。まあ、薄着だったから危ないもんね。
最期、平左は「これが絵草子の結末だ」と腹に刀をつきたてて、切腹する。そこへ丈太郎、十兵衛、おはつがやってくる。平左は、丈太郎と十兵衛に「最期の頼みだ。これからは仲良うしてくれ」と息絶える。おはつが平左に駆け寄り、刀を腹に突き刺して心中する。
二人の身体を抱き合うように重ねて、「幸せにな」「蓮の台で一緒になれよ」と言う丈太郎と十兵衛。
悲しいラストに、貸本屋のおじいちゃんがひょこひょこと登場。「読んでみぬか〜、眺めてみぬか〜、この世の不思議〜」と言いながら、幕を引いていった。おいおい、悲しいラストのはずなのに笑っちゃったじゃないか。オダギリジョー目当てで見に行った『オペレッタ狸御殿』でびるぜん婆々に目が吸い寄せられたのと同じ現象だ。

唖然とした幕切れの後に、歌舞伎には珍しい(らしい)カーテン・コールがあった。登場人物が次々と現れて舞台に並び、最後は二手に分かれて、真ん中から愛之助丈が登場する。勢揃いで客席に向かってお辞儀をするだけで、コメントはなし。
一度閉まった幕が再度開いたので、秀太郎丈も出てくるかと思ったけど、それはなかった。
『Top Stage』のインタビューで、愛之助丈が「へたくそ」「未熟」と話していたので、どれだけ下手なのかと思っていたけど、私は見巧者ではないので十分楽しめた。楽しみ方のポイントがずれている気がしなくもないが、お金を払ったからには楽しんだ者勝ちということで。

一晩明けて、なんか胸のもやもやが消えないなぁと思っていたら、ふと思い当たった。
ラストで平左が敵に囲まれている時に誰も助けに来なかったからだ。丈太郎がおはつをつれて逃げてくれたくらいで、誰も助太刀に来ないなんて薄情だ。(役者さんが限られてるから、町の若者を演じていた役者さんが敵方に回っているせいもあるのだけど。)
少年漫画だったら、絶対に助太刀に来るよなぁ。江戸時代に「友情」という概念はなさそうだから、仕方ないのかな。話の軸である平左とおはつの心中物語がかすんでしまうからかもしれないが、仲間一人助けに来ないで何が男伊達じゃ、と思ってしまうのも確か。
それとも、小娘から熟女までメロメロにさせるのが男伊達ってことなのかしらん…? やはり、それが上方的ヒーロー像??
←やっぱり、ここが納得できん…

見た目が愛之助丈じゃなかったら、飛び蹴り食らわしたいくらいだぞ。(見た目がいいって得だ。)
平左にとって、自分に惚れた女性は全て「心根のいい女子」なのではないかとふと思った。