年 (平成年)

中村鴈治郎改め坂田藤十郎襲名披露 七月大歌舞伎
関西・歌舞伎を愛する会 第15回 松竹座

7月2日(日)〜7月26日(水)

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感想

昼の部
23日に、1階1列5番(花道横)で観劇。
役者さんが近かった。目が合ったりもした。(気のせいかもしれないが。)
ただ、花道の芝居では後姿を見ることが多かったかな。花道横なら、3,4列目くらいがよさそうに思った。

信州川中島
敵方の軍師・勘助を引き抜くべく、その母・越路(竹三郎丈)をもてなす輝虎(我當丈)のお話。輝虎の部下が直江山城守(進之介丈)、その妻・唐衣(孝太郎丈)は越路の娘。お勝(秀太郎丈)は勘助の妻という人間関係。
輝虎の衣装が豪華だった。金ぴかの烏帽子と直衣。ライトが当たってきらきら光っていた。そんなきらきらな衣装を着て、越路にお膳を運んでくる。
越路は三婆の一人と言われるだけあって、強烈なおばあちゃん。敵のもてなしは受けないとばかりに、輝虎が用意したお膳を足蹴にした。ここでいそいそと食器を拾い集める黒衣さんに目が行ってしまった。黒衣さんの動きを見るのは面白い。
ぶち切れた輝虎が越路を斬ろうとする。お勝はどもりで上手く喋れないので、琴を弾いて「母の代わりに私を…」と懇願する。秀太郎丈は本当にお琴を弾いていた。簡単に弾いているように見えて、結構難しいんじゃないかと思う。テレビのインタビューなどでは流暢に話す秀太郎丈だが、舞台ではどもりに見えるところはさすが。
お勝の姿を哀れに思った輝虎は越路を許し、越路とお勝は館を後にする。我當丈と進之介丈が並んで見得を切るのを見て、親子そっくりだと思った。DNAって不思議。竹三郎丈の越路は最後の引っ込みまで凛としてかっこよかった。

連獅子
翫雀丈と壱太郎丈親子の連獅子。この親子はあまり似ていないと思った。…が、もう20年もすればそっくりになるのかな。
まずは狂言師の姿で踊る。これがなかなか激しい動き。壱太郎丈が花道で踊っている時に汗が飛び散っていた。離れているとわからないけれど、やっぱり汗をかいているんだなぁ。あのお化粧は落ちないんだろうか。
狂言師が引っ込んだ後、修験者(愛之助丈)が登場。もっさり眉毛にコミカルな動きで、花道に来た時に至近距離で見上げたのだけれど、笑ってしまった。鬼次郎をこの位置で見上げたかったなぁ。でも、愛之助丈の素顔はどちらかというと修験者に近い気がする。たれ目だし。
ひょうたんを振ってお酒が残っているのがわかると、嬉しそうににこっと笑ってぐいっと飲み干す。「うぃーっ」とか言ってるし、まるっきり酔っ払い。女性2人に「獅子を封じ込めてください」と言われて「いーろーはーにほーへーとー」と唱え出す。おいおい。結局、獅子を封じ込めることはできず(当たり前)、ふるふる震えて腰を抜かして退場。
獅子となった親子が登場。花道で毛をぶんぶん振った時は、こっちに当たるんじゃないかと思った。舞台の上でもぶんぶんと毛を振る。若さが有り余っているせいか、壱太郎丈の方が勢いがあって元気だったな。

口上
写真や映像では見たことがあるけれど、劇場で見るのは初めて。
幹部俳優さんが裃姿でずらりと並んでいる様子は華やかだった。松嶋屋さんの裃は途中で色が変わっていて綺麗だと思った。
口上の舞台写真がほしかったけど、売ってなかったなぁ。よくよく考えたら、襲名続きで毎月のように口上があるんだから、何度も観に来ているお客さんには珍しくないんだ。
私の目の前は段四郎丈だったのだが、カツラの髷が妙にとんがっているので、まじまじと見てしまった。なんだかアンテナみたいだったんだもの。澤瀉屋さんは皆こういう髷なのかなぁ。
笑いをとっていたのは、菊五郎丈の「私と藤十郎さんの共通点は奥様が怖いこと」と、仁左衛門丈の「公私共にご活躍の兄さんを私も見習いたい」というもの。
全体的に上方歌舞伎の繁栄を願うものが多かったような。藤十郎丈はこの名跡への思い入れを語っていた。内容は夜の部の向上と同じ。

夏祭浪花鑑
実はこの演目には、観る前から苦手意識があった。ガイドブックに載っている写真が原因。薄暗い場面で、刺青をして髷がほどけて着物の乱れた男が、汚れた格好の老人に向かって刀を振り上げている。そのいかにも陰惨な写真を見て「あまり気持ちよく観られそうじゃないなぁ」と思っていた。
私の予想は半分当たり、半分外れという感じだった。

主役の団七(藤十郎丈)はあまりかっこいいと思えなかった。藤十郎丈が「団七は泥臭い男」というようなことを言っていたので、これでいいのかも知れない。
釣船三婦(我當丈)はやんちゃなおじいちゃんという感じで、観ていて楽しい。ぽんぽんっと関西弁の台詞が飛び出してきて、テンポがいい。おつぎ(竹三郎丈)はそんな三婦に惚れているのがよくわかった。お辰(菊五郎丈)がやってきた時、戸をぴしゃりと閉めて三婦に「若い女子が来てますよ!」というおつぎ、戸を閉められて「…あら?」という表情のお辰、「妬くな、妬くな」と言いつつ面倒くさそうに出て行く三婦がおかしかった。三婦をほれぼれ見送りながら、おつぎが「よっ、松嶋屋!」というのはお約束なのかな。
一寸徳兵衛(仁左衛門丈)はスマートで素敵。長い脚を邪魔そうに組んで、髭を抜いているところがかっこよかった。団七との立ち回りは、どっちが主役か分からなくなるくらい。(ごめんなさい。) 恩あるお梶(時蔵丈)の前で大きな体を小さくしている姿が可愛いかった。琴浦(孝太郎丈)はバカップルみたいな感じがよく出ていたと思う。
お辰が「ここでござんす」と胸をぽーんと叩く辺りまでは非常に面白く見ることができた。
で、大詰の泥だらけの立ち回りなのだが… やっぱりあの場面は好きになれなかったなぁ。どうしても団七のぽっこりとしたお腹に目がいってしまう。舞台もなんだか暗いし。今まで明るかった分、余計に舞台が暗く感じられた。それが狙いなのかもしれないけれど、殺しの場で終わるのは後味が悪い。(伊勢音頭は刀と折紙を取り戻したという救いがあったけど、今回はそういうのもなし。)

今回は昼の部→夜の部と続けて見て帰るのが正解だったかも。 しかし、1日中観劇するのは辛いしなぁ。

夜の部
7月22日(土)に、1階2列22番で観劇。

一條大蔵譚
大蔵卿(仁左衛門丈)の阿呆な笑顔がすごく可愛かった。写真で見た時はそれほど良さがわからなかったのだが、動いている姿は愛嬌があって、にぱっと笑うと周りがぱーっと明るくなる感じがした。きっと、「華がある」ってこういうことなんだろうなぁ。
長椅子の端に腰掛けて、シーソーみたいに反対側を浮かせて遊ぶ姿や、虫を叩こうとする姿、うつらうつらする姿、「ウフフフフ〜♪」という笑い声、どれを取っても阿呆なんだけど、仁左衛門丈が演じると品のあるお公家さんに見えるからすごい。
鬼次郎(愛之助丈)とお京(孝太郎丈)は似合いの夫婦に見えた。この2人のカップルはいつも姉さん女房に見える。(←先入観のせい?) 歌舞伎座と比べて、愛之助丈の登場時間が長くて嬉しかった〜。きりっとした色男役でかっこよかった。見せ場も結構あったし。
私の席からだと、鬼次郎に打たれる常盤御前(秀太郎丈)のお顔が階段の柱に隠れて見えなかったのが残念。そこと本心を語るところが見せ場だったのにな。やはり、席は前ならいいというものでもないなぁ。(←わかっているけど、前方の席が好き。)
正気に戻った大蔵卿はきりりと凛々しくて素敵だった。
仁左衛門丈をじーっと見つめる姿は、先生のお手本を見る生徒みたいだった。逆に、仁左衛門丈が愛之助丈を見つめる姿は、受験生を見つめる試験監督のよう。(←先入観があるからそう見えるんだろうな。)
勘解由(團蔵丈)の「俺は死んでも金がほしい〜!」という台詞(だったと思う)があまりに正直すぎて笑ってしまった。鳴瀬(家橘丈)は悪役だと思っていたけど、主君思いの役立った。
最後、勘解由の首が落ちるところも見えなかった。周りから笑いが起きていたけど、どんな落ち方をしたんだろう?

京鹿子娘道成寺
いきなり、「きーたか、きーたか」とお坊さんがぞろぞろと登場。皆くりくり頭で妙に可愛い。翫雀丈と孝太郎丈が特に似合っていたと思う。
壱太郎丈「聞いたかって、何を?」
翫雀丈「今日、鐘供養があるんだよ」
進之介丈「えー、説教聞くのかったるいなぁ」
孝太郎丈「僕、お酒持ってきたもんね」
愛之助丈「僕はつまみのタコ持ってきた」
…とまあ、生臭坊主ばっかり。
そこへ白拍子花子(藤十郎丈)がやってきて、問答の後寺に入れてもらう。ここで「ご挨拶を」ということで藤十郎丈の口上があった。烏帽子を渡され、衣装替えの間に、所化達のこんな感じのやりとりがあった。
翫雀丈「誰かに似てるなぁ」
孝太郎丈「松竹座で襲名披露をしている坂田藤十郎にそっくりだ。そういえば、貴僧(翫雀丈)も似ていますな」
翫雀丈「よく間違えられます(よく言われます、だったかも)」

そして、いよいよ藤十郎丈の踊り。
月並みな言葉しか出てこないが、藤十郎丈が若くて綺麗な白拍子に見えて吃驚した。あれで75歳なんて信じられない。
正直、艶聞のイメージが強烈であまり好きではなかったのだけれど(ごめんなさい)、やっぱりすごいんだなぁと思った。役者はエロくなければ色気が出ないってことかなぁ。(←エロとか言うな。)
結構激しい振りもこなし、最後は鐘の上へ。高所恐怖症の人にこの踊りはできないなぁと思った。
途中、手ぬぐい投げがあった。
どこに投げようか迷ってるらしい三階さん(だよね?)に向かって、手を振ってアピールしたら、こっちに投げてくれた。どなたか存じませんが、ありがとうございます。(筋書で顔確認してみたけど、わからなかったのだ。)

↑ゲットした手ぬぐい。
広げたら元に戻せなそうなので、丸めたまま。

魚屋宗五郎
これを見て一泊するか、これを見ずに日帰りするかで迷っていたのだが、せっかくだから一泊して全部見て帰ることにした。一泊して正解! 面白かった。(一泊することに決めたために、翌日昼の部のチケット買い足しちゃったんだけどね。)

殿様のお屋敷に奉公に出した妹が手打ちにされたと知って、嘆き悲しむ魚屋一家。
最初は「殿様にもわけがあるはず」とぐっと堪えて冷静な対応をしていた宗五郎(菊五郎丈)だったが、おなぎ(孝太郎丈)から讒言によってなぶり殺しにされたことを聞く。そこでプッツン切れた宗五郎。
これが飲まずにいられるか、とばかりにおなぎの持ってきたお酒を飲み始める。実際には空の湯飲みのはずなのに、実に美味しそうに見える。
女房(時蔵丈)、父親(團蔵丈)、奴三吉(権十郎丈)が止めるのも聞かずにぐいぐいと飲む。この辺りの家族のやり取りが面白い。こんな家族、実際にいそう。
「こんなことならお菓子を持ってくるんでした」というおなぎに頭を下げて、「いや、すみません。でも、酒だから気晴らしができるんです。お菓子なんて持ってこられたら、胸が重くなる」と答える宗五郎。この辺りまでは分別があったのだが、さらに酔いが回ると「てめーが持ってきた酒だろうが!」と因縁をつけ始める。ちょっと前までは渋い大人の男だったのに、今じゃ完全な酔っ払い。役者さんってすごいんだなぁ。毎回「すごい」という感想ばかり言っているような気がするが(しかも気のせいじゃない)、こんな言葉しか出てこない。
そして、お屋敷に駆け出し一暴れ。追いかけていってとりなそうとする時蔵丈がいい味を出していた。「奥さん大変だなぁ」と思いながらも、どこか微笑ましくて笑える。 宗五郎の酔いが醒めて、「ここはどこ?」状態の時に殿様(翫雀丈)登場。翫雀丈はこういう殿様役が似合うなぁ。悔い改めている殿様に向かって、「禁酒、禁煙、健康」という宗五郎。
←こんなポーズ付き
この言い方が絶妙で、上手く説明できない自分の語彙のなさが恨めしい。観客がくすくす笑っていると、菊五郎丈がもう一度「健康」と更に両手を突き上げてガッツポーズみたいな仕草をする。笑い声が大きくなる。
トドメは翫雀丈の一言。
「健康で暮らせよ!」(本当は「堅固で暮らせよ」らしい。)
ここで場内大爆笑。笑って松竹座を後にした。これはこの日だけの特別サービスだったんだろうか…? 菊五郎丈のファンになりそうだった。

おまけ
観劇の前に、大阪歴史博物館に行ってきた。
9階の「中世・近世フロア」で浪花屋寅之助(声・片岡愛之助丈)に大坂の町を案内してもらう。軽快な関西弁が耳に心地いい。私にとって“とらのすけ”といえば、ちょっと前まで日本一速い男だった(←過去形…)レーサーなのだが、それはそれ。
耳を澄ますと、フロアの至る所から愛之助丈の声が聞こえてくる。なんとも癒しの空間だった。

↑こんな模型があった。もしかして、仮名手本忠臣蔵?

会場時間前に松竹座に到着。地下の「櫓」で甘味を食す。
なんと、カウンターに議長が!! 優雅に素麺を召し上がっていた。(その後、ロビーに立ってご挨拶していた。)
議長人気はすごかった。23日昼の部の3幕前に、ソファーに座ってサインをしていた。サイン待ちの列の整備のためか、ポールが立っていたぞ。(開演時間がせまっていたので、私は並ばなかったけど。) 筋書に載っている若き日の議長の写真を見て「綺麗〜」と話している女性がいた。私も同じことを言った。

幕間に時間を見つけては、「関西・歌舞伎を愛する会」のブースで「月刊 大向う」のバックナンバーを物色。売り場のお姉さんに「どなたのファンですか?」と聞かれたので、「愛之助さんです」と答えたら、「あー、発行している期間的に、愛之助さんが載っているかは微妙なんですよー」と言われてしまった。それでも小さな写真が載っているのを見つけて数冊購入。十三代目仁左衛門丈のインタビューが載っている号も買ってきた。
他にも歌舞伎関連の書籍を売っていたのだが、「みる知る歌舞伎―どれから観る?厳選おすすめ71演目 歌舞伎座徹底ガイドで遊びつくそう」の愛之助丈インタビューのページを開いたら、急に売れ出したとか。それを聞いて、ちょっと嬉しかった。

愛之助丈が仁左衛門丈に似てるという話し声が聞こえてきた。(うちの母に筋書の写真を見せたら、母も「似てるわねぇ」と言っていた。) 私が思うに、フェロモンが出てる方が仁左衛門丈、マイナスイオンが出てる方が愛之助丈。(愛之助丈も色っぽい時があるけどね。)
そうそう、十月花形歌舞伎のポスター、すごいインパクト。友達はあれを見て、笑いを堪えていた。

歌舞伎は長くはない幕間に買い物とか食事とかしなくてはいけないので、結構忙しい。そんな中、ネットで知り合った方とお会いできて嬉しかった。短い間だったけれど、いろいろお話できて楽しかったです。