年 (平成年)

新春浅草歌舞伎 浅草公会堂

1月2日(火)〜1月26日(金)

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感想 その1
1部も2部も、13日に前方中央で観劇。

1部のお年玉挨拶は獅童丈。
義経千本桜は3大名作の1つで…と演目について一通り説明した後、後ろに隠し持っていたマイクを持って立ち上がり、花道の方へ歩いていく。お客さんに「どこから来たんですか?」「誰のファン?」と質問。そこで「獅童さん」と答えられ、「ありがとうございます。僕もいろいろありましたから(客席笑)、『獅童さん』って言ってもらえるとホッとする」という感じの自虐ネタを披露。 その後、「1階席拍手ー、2階席拍手ー、3階席拍手ー、全員で拍手ー」と拍手の練習をした。

義経千本桜 すし屋

まず、お里(芝のぶ丈)が可愛い。
惚れた男(弥助)と夫婦になれると喜んで、「お里様ではなく、お里と呼んで」と言ったり、「お〜ねむ」と弥助を床に誘う姿が本当に可愛らしい。なのに、弥助(実は維盛)は答えない。お里は先に床へつく。そこへ維盛の妻・若葉の内侍(亀鶴丈)と息子がやってくる。亀鶴丈に女形のこしらえはあまり似合わないような…?
維盛は妻に向かって「世話になった弥左衛門(男女蔵丈)への義理で契った」と言い訳する。それを聞いたお里が「情けないお情けに預かって…」と泣き伏す姿が可哀相だった。
詮議が行われると知って、お里は維盛と妻子を逃がそうとする。草履をそろえ、内侍に笠とと杖を渡す姿がいじらしい。

さて、権太(愛之助丈)。
最初に思ったのが、「ガラ悪ぅ〜」ということ。「何してけつかる」とか言ってるし。インタビューなどでおっとり上品に喋っている愛之助丈とは思えないチンピラっぷり。足で戸を開け、いちゃついていたお里と弥助を追い散らす。
お里の「あにさん、びびびびび〜」が可愛かった〜。私が男だったら、嫁にほしい。
権太は母親のお米(嶋之亟丈)に無心をしに来たのだが、上手くいかなさそうとわかると嘘をついて泣き落としにかかる。頑張っても涙が出ないので、花瓶の水で顔を塗らしたりする姿がおかしい。どうしようもないドラ息子だが、憎めない愛嬌があると思う。

結局お米はお金を渡してやるのだが、引き出しにかけられた鍵を開ける権太に「器用な子だねぇ」って、おい!
そこへ弥左衛門が帰ってきて、権太はお金をすし桶に隠す。弥左衛門は生首をすし桶に隠す。
男女蔵丈がおとっつあん役というのはちょっと可哀相だなぁ。それなりのお年を召した役者さんにお願いできなかったんだろうか。“いがみ”の父親なんだから、いっそヤンパパ仕様にしてみたら… 話変わっちゃいそうだな。

いろいろあって弥助が維盛ということがわかり、権太は「賞金首ゲットだぜ!」とばかりに駆け出していく。その前にお金を入れたすし桶をつかむのだが、間違えて生首の入った方を持っていってしまう。
詮議にやってきた梶原平三景時(獅童丈)に、権太は維盛の首と偽って弥左衛門が持ち帰った生首を渡し、若葉の内侍とその子息と偽って自分の妻子を引き渡す。
権太を振り返ってイヤイヤと首を振る息子に向かって、権太は泣きそうな顔で「はよ行け!」と繰り返す。
この辺りから涙腺崩壊。

権太は梶原を騙したことを告げようとした瞬間、弥座衛門に刺されてしまう。
息も絶え絶えにこれまでの経緯と、改心しようと思って妻子を身替りに差し出したことを話す。妻子に縄をかける描写が切ない。弥座衛門は「三千世界に子を殺す親はわしだけだ」と嘆いていたが、実は権太も子を身替りにして(←「殺して」と同義と思う)いたんだなぁ。
弥左衛門が「お前が半年前に改心していたら、嫁と孫の顔をじっくりと見ることが出来たのに」「外で遊んでいる子を見ては、権太の子はいないか、“いがみ”の息子だから仲間外れにされてはいまいかと思っていた」と話すのにも泣けた。
10年前に見ていたら「フーン」程度にしか思わなかったかもしれなが、この年になると親のありがたみなどもわかってきて、いろいろと身につまされる。

最後、実は頼朝は最初から維盛を助けるつもりだったことがわかる。では、権太は妻子を差し出す必要はなかったのか? しかし、差し出してしまったからには、権太の妻子は助けてもらえないだろう。
正直、「えー? そんなのあり?」と思った。権太一家の悲劇性は高まるけど、あまりに救いがない。ついでに、「頼朝にそんな情けがあるもんか」とも思う。情けをかけられた自分が平家を滅ぼしたから、平家の一族を探し出して皆殺しにしたというし、頼朝にそんな情けがあったら、義経は追われてないだろう。
まあ、すし桶にふらつく男1人助けたところで、東国武士相手に何もできないだろうけどね。腹もかっさばけそうにないし。(←お里に肩入れするあまり、維盛がどうにも好きになれない…)

首実検で権太も緊張しただろうが、梶原もあの悪人っぽい顔の下で「ここで本物の首を渡されたら、俺が頼朝様にド叱られるじゃん」と、更にドキドキビクビクだったに違いない。
“倅の巾着”を握り締める権太の姿が切なかった。
でも、これでよかったんじゃないかなぁ。可愛い妻と子を犠牲にして、自分一人生きていくのは辛いだろう。

身替座禅

「真面目なイメージの勘太郎丈が浮気亭主?」と思っていたけど、奥方の尻に敷かれる亭主役が似合っていた。浮気して朝帰りする時、ほろ酔い加減で幸せそうな、名残惜しそうな様子が上手だなぁと思った。
「聞いてくれるか? 愛いやつ」とのろける姿が可愛い。
のろけていた相手が山の神だと分かった時、右脚をすすーっ、左脚をすすーっとして逃げようとする姿がおかしかった。
扇子を文に見立ててぱたぱたと折っていく仕草など、「なるほどー」と思いながら見ていた。

獅童丈の玉の井は反則。出てくるだけ、動くだけで笑いが起きるんだもん。“なんだかよくわからんが、とにかくスゴイ生き物”だった。姿もスゴイが声もスゴイ。時折ひっくり返って、捨助(「新選組!」)になっていた。
振り返ってニーッと笑う姿の怖いこと不気味なこと… 周りからは笑い声と一緒に「コワーイ」とか「キモチワルーイ」とか声が上がっていた。
あの奥方は一線越えちゃってるよな〜。「そもそも、なんでこの女性と結婚しちゃったわけ?」という一線を。…マニアか? マニアなのか、山陰右京っ!?「右京さんさぁ、別居して離縁状を飛脚で届けなよ…」と思ってしまったよ。
いや、大笑いはしたんだけどね。

愛之助丈の玉の井はブサイクだけど、おかめ顔で愛嬌があって、「若い頃は綺麗だったのかも」と思った。同時に「(写真でしか見てないけど)『源氏物語』の夕顔や『宿無団七時雨傘』のお富も年をとるとああなるのか…?」とも思った。
一家の奥方としては頼もしいと思うけどな。

太郎冠者(七之助丈/亀鶴丈)はどちらも情けない感じがよく出ていて可愛かった。ついつい、八の字眉毛にばかり目が行ってしまった。「う゛わ゛あ゛ぁぁぁあああぁあぁーーーーーーーっ!!!!!」と飛びのく様子や「しばらくっ」と逃げ惑う姿がおかしい。

1部も2部も重い演目の後だったので、これで笑って帰れるのはいいなと思った。
座禅をして夫を待つ間、泣いてる玉の井は可哀相だったけど…

2部のお年玉挨拶は愛之助丈。
口上の時と同じ裃姿で中央にちょこんと正座したままご挨拶。だいたいの内容は↓な感じ。
義経千本桜は3大名作の1つで義経にまつわる人を千本の桜にたとえている。
渡海屋・大物浦は「この人実は○○」ということが多い。
私がここで説明すると混乱するので、番附を買って読んでください。
イヤホンガイドも借りてください。
身替座禅の奥さんはダンナさんが大好き。でも、ブサイク。
舞台を見て「いいな」と思ったら拍手してください、面白かったら笑ってください、悲しかったら泣いてください。

義経千本桜 渡海屋・大物浦

渡海屋に押し入った相模五郎(亀鶴丈)と入江丹蔵(愛之助丈)が渡海屋銀平(獅童丈)にやりこめられる。銀平に刀を曲げられて、「石で叩いて直せ」「石を探せ」「こんなところに都合よく石が…」などと漫才コンビみたいだった。 奥に泊まっている客が義経の(勘太郎丈)一行とわかり、お柳(七之助丈)は出立をすすめる。その後、銀平が新中納言知盛で、お柳が典侍の局、子供が安徳天皇であることが明かされる。
知盛は白装束に銀の烏帽子を被り、悪霊が義経を襲ったように見せかけて恨みを晴らそうとする。冒頭の漫才コンビが実は知盛の部下であることがわかる。
このときの知盛の衣装が立派なのだが、周りにいる部下達は頭に三角をつけたコントみたいな幽霊姿。…部下にももうちょっといい格好をさせてやりなよ。

知盛の策略は義経に知られており、返り討ちにあう。典侍の局と安徳天皇の元に、相模五郎と入江丹蔵が次々とご注進にやってきて、壮絶な最期をとげる。亀鶴丈はビシバシと見得を切るお役が似合うなぁ。愛之助丈は敵を自分の体ごと貫いて海に飛び込む。どちらもかっこよかったなぁ。
典侍の局は「こんなに美しくお育てしたのに…」と嘆きつつも、泣く泣く入水の覚悟を決める。安徳帝に向かって「浪の下にある都へ参りましょう」と言うと、安徳帝は「そちと一緒なら」と答えて時世の句を詠む。女官達は「一足お先に」と次々と海へ飛び込む。この辺り、滅ぼされる者の悲壮感が漂っていた。
母は強し、乳母も強し。典侍の局は重い十二単を着た上に安徳帝を軽々と抱き上げる。(すし桶でふらつく若造とは大違いだ。)
「八大竜王、安徳帝の御幸なるぞ。守護したまえ!」と叫ぶところが印象的だった。
いざ海へ… というところに義経の部下がやってきて、安徳帝を奪ってしまう。

知盛がボロボロになりながらも敵を追い払い、典侍の局と安徳帝を探しにやってくる。
「獅童丈の歌舞伎はイマイチ」との劇評などをいくつか読んだことがあるので、「どれだけひどいんだろう?(←超絶失礼)」と思って観ていたが、そこまで悪くなかったような…? もっとも、私は初心者だし、この演目は初めてで他と比べようがないせいかもしれない。でも、獅童丈は涙と汗(と鼻水)を流しての大熱演だった。(敵の頭に薙刀の先が当たってたけど…)
あと、いかめしいメイクが似合うお顔だと思う。

典侍の局と安徳帝をつれた義経が現れ、知盛が恨みを晴らそうと襲い掛かるが、弁慶(男女蔵丈)がそれを阻む。
安徳帝が知盛に「義経の情けを仇と思うな」と語り、典侍の局が自害する。
知盛は「清盛が女の子である安徳帝を男と偽り即位させたために、一族に報いが…(というような感じの台詞)」と仰天の事実を打ち明ける。なんだかもうとんでもない話だなぁ。
知盛は「昨日の敵は今日の味方。あな嬉しや」と義経に安徳帝を託し、碇を巻きつけて入水する。
幕が引かれた後、弁慶がほら貝を吹いて引っ込み、終演。

…さて、安徳帝を預かったはいいが、義経はこの後滅ぼされてしまう。安徳帝はどうなったの? この演目は二段目で、三段目がすし屋、四段目が狐忠信の話らしいけど、河連法眼館に安徳帝もいたの? 全部通しで見たら謎が解けるの? 私が何か激しく勘違いしてるの? それとも、そこは突っ込んじゃいけないところ?

感想 その2
19日1部を1階真ん中辺り、2部を3階1列目上手側、20日1部を3階1列目真ん中辺りで観劇。

3階上手側はこんな眺め。

3階中央はこんな眺め。

上から見ると、お里が膝の上に右の袖を乗せて手を乗せる姿や、右京さんが「手討ちにしてくれる」と刀に手をかけた時に長袴がびろろんと前に広がる様子が綺麗に見えた。(勘太郎丈はすいーすいーと動いているけど、長袴で歩くのって難しそう。)
あと、お里がついたての向こうで伏すようにみせかけて、奥へと入っていくのが見えた。帯がすすすっと横へ動くのだ。

お年玉挨拶

皆、「3月に歌舞伎座で『義経千本桜』の通しが上演されるので、ぜひお越しください」と宣伝していた。

19日1部は男女蔵丈。
「1、2、3、オメちゃん、オメちゃん」初体験(笑)。「去年は『ハッスル、ハッスル』でやっていましたが、獅童君から『お兄さん、古いから変えてください』と言われました」だって。おばあちゃんの声で嬉しそうに「オメちゃん、オメちゃん!」と言うのが聞こえてきて微笑ましかったな。
あと、「この前亀治郎さんが見に来てくれて、帰るとき背中が寂しそうだった」とも言っていた。

19日2部は亀鶴丈。
客席から登場し、自分の代わりに挨拶してくれる人を客席から指名。「僕のことが大好き?」「後で電話番号を…」などと言っていた。亀鶴丈、真面目そうに見えて、意外と口説き上手なのか?
『身替座禅』の紹介で、「奥さんがいるのに彼女がいる。歌舞伎役者にありがちですが」と言って笑いを取っていた。そういうご自分はいかがなのかを知りたかったぞ。

20日1部は獅童丈。
「元気ですかー!?(だったと思う)」と客席に問いかけた後、「ヤケクソなわけではありません」とまたも捨て身ギャグ。さらに、『身替座禅』の紹介で客席から笑いが… 「何で笑ってるんですか?」「笑いすぎじゃないですか?」って、ヤケクソというか、開き直りか? 流石に気の毒だったかも。

すし屋

愛之助丈が「芝居は3回観ても、毎回新しい発見がある」というようなことをインタビューで言っていたが、私は見るたびごとに維盛(七之助丈)が嫌いになっていった。
特に、若葉の内侍(亀鶴丈)に言い訳する場面の「ここの娘に惚れられちゃってさぁ。女は嫉妬で秘密をばらしたりするから、本当のことを言えなくて… 親に世話になってる義理で、ちょっと相手しただけなんだよ」という感じの言い草が…(怒)
いくら身分違いとはいえ、惚れた男の正妻からは「若い女中」「夜伽」と言われ、相手を上座に座らせて、「憎いヤツと思わないでください」とひれ伏すなんて、ものすごい屈辱だ。
だいたい、「据え膳食っちゃったけど、責任はとるのは勘弁」って… ああ、ムカツク!
あと、弥左衛門(男女蔵丈)は「大事な大事な維盛様を」と言っていたが、自分の息子と娘をもっと大事にしろ!

首実検の時は、梶原(獅童丈)だけでなく、権太(愛之助丈)の表情をちらちらと見ていた。権太にとっては命懸けのペテンだったんだよなぁ。最期、権太が満足そうな表情になったのが救い。

身替座禅

勘太郎丈の右京は「うふふふ」と笑っても、泥酔しても、可愛げがあるなぁと思った。手を合わせて山の神の様子をうかがう姿が可愛かった。私みたいな初心者にも、踊りが上手いのがよくわかった。(が、どこがどう上手いかと問われたら答えられない。)

1部と2部で「あ、違う」と気付いたのが下の箇所。
奥方が「わらわに衾をかぶせよ」というところ。獅童丈は「頼みがあるが、きいてくれるか?」と尋ね、にこにこしながら「はようせい」と言っていた。
愛之助丈は「頼みがあるが、きいてくりょうな?(少し怖めに)」と尋ね、ヒステリックに「はようせい」と言っていた。
最後、逃げ切ったと思った右京が隣に座っている奥方に気付くところ。獅童丈は不気味な(失礼)笑顔、愛之助丈は怒った顔。
獅童丈は笑った方が受け、愛之助丈は怒った方が受けるように感じたから、そのせいかな?

渡海屋・大物浦

上からだと全体が見渡せるけど、これは近くで観た方が迫力があってよかったかも。
曲げられた刀を戻す場面で、相模五郎(亀鶴丈)が「おい、わざと曲げてないか?」とか言っていたが、無事に刀に収まった。
知盛(獅童丈)が「御姫宮を男宮と言いふらし…」と衝撃の事実を告げる場面で、義経(勘太郎丈)が驚きの表情をしていて、それが大げさでなくて上品だなぁと思った。

おまけ 13日編
 

浅草について、まずはおまいり。
おみくじを引こうと思ったが100円玉がなかったので、1部と2部の間にもう一度浅草寺まで行った。結果は吉。割といいことが書かれていたので満足した。
もう13日だというのに、人が多かった。あげまんじゅう抹茶味を食べた。美味しかった。

観劇後仲見世通りを歩いたら、半分くらいのお店が閉まっていて、開いているお店も閉店準備をしていた。ちょっと寂しかったなぁ。その後、東京で一人暮らしをしている友達と待ち合わせてイタリアンの食べ放題へ行く。美味しかった。食べ過ぎた。
次は1部と2部を通しで観て、翌日にその友達と1部を見る。
今回は急な観劇だったので、交通費をケチって夜行バスで帰ることにした。U字型の空気枕を使ったが、使い慣れないせいかなかなか寝付けなかった。しかし、以前みたいに首が痛くならなかったので、それなりの効果はあるのかも。

愛之助丈に届いていたお花。
 

仁左衛門丈(孝夫時代)の手形。

公会堂の近くにいた猫。

見えにくいけど、のぼり。

通りにはまねき?が…

おまけ 19, 20日編

舞台写真は、愛之助丈は22種類。
1〜20と、獅童丈の写真の並びに玉の井が1枚(←貼った人が獅童丈と間違えた?)、亀鶴丈の写真の並びに2ショットが1枚。
玉の井が衾をかぶって外の様子をうかがう写真が売っていたが、普通に美人だった。あのメイクでも、目をぱっちり開けると可愛いんだなぁ。おかめ顔でも、平安時代なら超美人だと思う。
私は舞台写真を朝一に購入する。(売り切れると嫌なので。) 幕間にもう一度覗いてみたら、お里ちゃん(芝のぶ丈)の写真が追加されていたので、ついつい買ってしまった。今後も増えたりするのかなぁ? 七之助丈の弥助の写真は「売り切れごめん」になっていた。

2階席ロビーからの眺め。

4人分のお年玉挨拶を聞くとポスターがもらえるということで、もらってきた。(部屋には貼らないけど、せっかくなので。) 別の回を4回観劇すればいいのではなく、あくまでも挨拶4人分なのね。わざわざ半券とお年玉挨拶の表と照らし合わせてたよ。
帰りに「亀十」で豆大福を買った。美味しかった。

愛之助丈ののぼり。
 

最後にちょっと愚痴。
どの回もマナーが悪くて閉口した。
19日昼の部では携帯の着信音が数回鳴った。同じ音に聞こえたので、同一人物のしわざだったんだろうか? ゲンナリだ。
19日夜の部と20日昼の部は子供のぐずる声が聞こえてきた。お年玉ご挨拶で声を上げて役者さんにいじられるのは微笑ましくていいが、上演中に素っ頓狂な声を上げるのはやめてほしい。
子供の甲高い声というのは通りがよく、その分耳障りで興ざめする。ぐずるということは子供は芝居を面白く思っていないのだろう。「歌舞伎が見たい」という母親のわがままのために、子供と他の観客に不愉快な思いを強いるのはいかがなものか。子供をつれてくるなとは言わないが、つれてくるなら上演中は行儀良くできる子供にしてくれ。

「すし屋」の悲劇
「すし屋」という物語が、何故こんなに切なく悲しいのか考えてみた。親子の別れや、権太の命懸けの策が相手に悟られていたこともさることながら、私は「惟盛ってそこまでして助ける価値があったの?」という疑問に行き着いてしまったことが一番悲しい。

だいたい、この惟盛って人は何のために生き延びようとしているの?
知盛のように敵に一矢報いるために行動しているわけでもなく、腹をかっさばく覚悟もなく、頼朝の羽織から袈裟と数珠が出てくれば、「昔、パパが頼朝の命乞いをしてあげたから、今度は僕を助けてくれるんだって。頼朝は天晴れな大将だなぁ」って… キサマの頭の中身があっぱれじゃ!!
この時、知盛みたいに数珠を引きちぎるだけの気概があれば、平家の運命ももうちょっとくらいは開けただろうよ。

あと、若葉の内侍も好きになれない。
「三位の中将惟盛様が袖のないお羽織を(お召しになっているなんて)…」と嘆いていたから、貴人のプライドがあるのかと思いきや、最後はちゃっかり権太の女房の着物(たぶん)を着てやんの。だいたい、自分も母なら、可愛い息子を身代わりに立てる権太や女房の気持ちがわかるだろう。何をのこのこ逃げようとしとるんじゃ。
大物浦では、典侍の局が幼い帝に覚悟を決めるよう諭し、女官が次々と荒海へと飛び込んでいるというのに、何この無様な夫婦。

そして何より、惟盛のお里への仕打ちは許しがたい。山陰右京さんよりよっぽど女の敵だ。
最初、「結婚すると口約束はしたけれど、実は妻子がいるから勘弁してくれ」ということだと思っていた。が、それなら「これまでは仮の情け。夫婦となれば二世の緑」なんて台詞はいらないよなぁ。「実は国に妻子がいる」だけで十分だもん。
「親への義理に契った」とか「情けないお情けに預かりました」という台詞もすでに関係があるっぽい。
そして、若葉の内侍が「若い女中が寝てるわ。夜伽の人なんでしょうね。結構なお暮らしぶりなのに、お手紙もくださらないなんて」という恨み言を述べるのだが、この台詞が興味深い。若い娘の存在よりも、手紙をくれなかったことの方が恨めしいようだ。
お里のことは『源氏物語』でいう召人(=召使い兼夜のお相手)くらいにしか思ってないんだろうな。(不勉強なので、この時代に召人がいたのかはよくわからないが。)

お里だって「雲居に近いお方に、すし屋の娘が惚れられようか」ということがわかっている。最初から三位の中将が相手と知っていれば、一夜の情けを一生の思い出としたかもしれない。しかし、弥助として手を出しておいて、「実は惟盛です。あなたを妻にはできません」ってのは、結婚詐欺だぞ。
この時代は一夫多妻で、静御前だって「正妻」ではなく「愛妾」だ。お里は「愛妾」にすら数えてもらえない立場というのが切ないなぁ。(お里が垢抜けない田舎娘なら、「仕方ないよね。身分違いだもんね」で終わるのだが、今回のお里ちゃんは可愛いから余計にそう思う。)

…なんだか、単に「惟盛嫌い!」というだけの話になってきたが、長々と書きたくなるほど惟盛に腹が立って仕方がなかったのだ。
権太の死に涙し、その余韻に浸りつつも、「父に恩義があるとはいえ、何で惟盛がそんなに大事なわけ?」とついつい思ってしまう。しかし、出家して生き延びたところで、山の中で野垂れ死にしそうだな、惟盛…