観劇レポ
朧の森に棲む鬼
17日昼の部を前方花道真横で観劇。
ライ(染五郎丈)は本当に救いようのない悪役だった。外道だけど、あそこまで外道を極めてくれると、返ってすがすがしい。
ビバ、外道!(←おい)
正義の味方がかっこいいのは当り前。悪党なのに魅力的なところがスゴイ。
最初にライとキンタ(阿部サダヲさん)が登場した時は、あまりにボロボロなんで驚いた。出世してどんどん綺麗に、そして重そうな衣装になっていった。ボロボロなんだけど、出世した後よりもこの頃が楽しそうだったな。野望に向かって突き進んでいるライは、身体からいろんな何かが噴き出していて、それはそれで魅力的だったけど。
ライはどうしてキンタを捨てちゃったのかなぁ。
「血人形の契り」の真相を知った時に苦悩の表情を浮かべているように見えたけど、そこで「悪党が情けをかけたらおしまい」って吹っ切ってしまったのかな。「鬼より怖いのはライ様だ」とか言った時に、鬼になると決めたのかな。
「こんなことになるとは思わなかった。すまなかった」と言えば、愛すべきバカ(←褒めてます)のキンタは許してくれたのではないだろうか。たった一人玉座について、周りに誰もいないのは寂しいぞ。今まではずっと、キンタが隣で「兄貴、すげぇや!」って言ってくれてたわけだし。ライが無意識にキンタを助けてしまったのは、それを感じていたんじゃないのかなぁ。
キンタを捨てるのを見て、マダレ(古田新太さん)は内心でライを見限ったんだと思う。マダレ、渋くてかっこよかった。
今回の席は、スッポン辺りの花道横だったので、役者さんをすごく近くで観ることができた。染五郎丈の汗が飛んできそうだったよ。
花道で殺陣があると、剣とか槍が怖くて思わず身体をそらしてしまった。剣がぴかぴかではなくて、どす黒い血がついて錆びてる感じなのが、なんともリアルで不気味だった。
不気味と言えば、「キンタ、生きてたんだ。よかったぁ」と思っている時に、何やらスッポンからせりあがってきた。何かと思ったら、さらし首(もちろん作り物)だった。…アレだけは近くで見たくなかった。
キンタを捨ててから、ライはゲドウ・オブ・ゲドウズになっていく。しかし、一つ疑問に思う。
ツナ(秋山菜津子さん)にヤスマサ(横山一敏さん)の手紙の後半部を渡す時に、どうしてシキブ(高田聖子さん)との関係をばらさなかったんだろう?「お前の夫は国を裏切っただけではなく、お前を裏切ってシキブと通じていた」とか言うと思って見てたので、あれれ?という感じだった。(←ひょっとして、私がライより外道なのか?)
そして、ツナが夫の浮気に勘付いていたのかも気になる。勘付いていたら、あんなに愛おしそうに回想しないかな。それにしても、彼女とマダレの兄弟は似てなさ過ぎる。『シベ超5』の佐伯大尉とその妹といい勝負だ。
シキブが憎んでいたツナにすがって息絶えるところが哀れだった。
へちゃむくれ、もとい、イッチャン、もとい、イチノオオキミ(田山涼成さん)、いい人だったのになぁ。(惚れた女性に主導権を握られているあたり、『源氏物語』の朱雀帝と朧月夜を思い出した。)
他には、検非違使隊の2人がいい味出してた。キンタと3人で歌うところなんて、笑顔全開でジャニーズみたいだったぞ。
ウラベ(粟根まことさん)とサダミツ(小須田康人さん)も面白かった。シュテン(真木よう子さん)は美人だけど、どうも(私にとっては)魅力に欠けるキャラクターだったのが残念。
ラストでは、雨がザーザー降っていた。こんなに雨が降る舞台は、去年の醍醐寺薪歌舞伎以来。(←それは降らせたわけじゃないから。)
ライは最期、朧の森に棲む鬼になってしまったんだろうか?
朧の森を訪れる者をペテンにかけたりするんだろうか?
結局、オボロたちの望むまま生き血を吸われ、あのまま朽ち果てていくんじゃ切ないよなぁ。(自業自得といえば、そうだけど。)
見落としてるところや、勘違いしているところがたくさんありそうだから、DVDが出たら買おうかな。
カーテンコールは5回(だったと思うけど、たくさん出てきてくれたのでうろ覚え)。終演のアナウンスの後に2回出てきてくれた。(最後はスタオベ)
染五郎丈は役が抜け切っていないのか、少し表情が固かったような…? それでも、うっすらと笑みを浮かべて手を振ってくれた。貴公子だった(笑)。
ちなみに、私はカーテンコールで舞台が明るくなるまでガイコツに気付かなかった。ドライアイスがすごくて見えなかったのだ。顔の周りに煙がもわ〜んと漂ってくるし。
新感染のお芝居は初めてだったけど、歌あり、笑いあり、殺陣ありで、すごく面白かった。光を当てると(←?)、透き通って向こう側が見える緞帳が面白いと思った。ラブシーンは結構ロコツだった。『染模様恩愛御書』のシルエット・ロマンス(笑)は控えめにしてたんだな。いや、友右衛門と数馬でアレは見たくないけどな。(←どのみち、足を出したら数馬の方が逞しいのがバレるから、無理。)
ついつい、サントラを買ってしまった。しかし、パンフとカレンダーの抱き合わせ販売はいかがなものか。3000円は高いぞ。(買ったけど) 役者さんのファンには嬉しいんだろうけど、「ちょっと見てみようかな」という軽い気持ちで見に行った者としては、躊躇する値段だった。そして、特製手提げ袋を手に提げると、袋の底が地面についてしまうので、ちょっと困った。
外に出ると、ラストシーンのような激しい雨が降っていた。
帰りに、向かいの「アンドリューのエッグタルト」で4種詰め合わせを買った。会社の子が「向かいのエッグタルトが美味しい」と教えてくれたのだ。
買った後に箱を見て気付いたんだけど、これ、数年前にマカオGPを見に行った時に食べ損なったエッグタルトだ。まさかこんなところにあったなんて…
美味しかったので、次は浪花花形歌舞伎の時に買って帰ろうっと。(←気が早い)
観劇から2日経つけど、うだうだと考えていることがあるので、書いてみる。
まずは、ヤスマサ。
ツナへの手紙に「この国は腐ってる(←うろ覚え)」から裏切ったとあった。金塊目当てで隣国に攻め入ることに嫌悪感を持っていたのかもしれないし、宮中の勢力争い(ウラベとサダミツが「私に危害を加えなければ別に…」「さすが、この国のやり方をわかっている」みたいなことを言ってた)に嫌気が差したのかもしれない。
ツナの回想から考えても高潔な人物に思えるんだが… シキブと浮気してたんだよねぇ?
ヤスマサ将軍ともあろう方が下半身は別人格なんですか…?
ツナへの手紙には恥ずかしくなるような褒め言葉たくさん並べられていたし、見掛けによらずラテン男みたいな人だったんだろうか?(実は、ライがツナに手紙を渡した時、筆跡を真似た偽手紙だと思っていた。後半部が読まれて、本物だとわかったんだけど。)
ツナには手紙があってシキブにはなかった。それを考えると、「内縁の妻なんて刺身のツマと同じよ。爪楊枝のツマと同じよ」という台詞がすごく哀れに思える。
ヤスマサ将軍、罪な男だ。
次に、ライはいつキンタを裏切ることを決めたのかということ。
血人形にキンタの血をつけた時は、「嫌な予感がした」だけでキンタを裏切るつもりはなかったはず。必死になって「俺の(実はキンタの)血人形はどこへやった!?」って言ったのは演技には思えないんだよなぁ。
キンタに「鬼より怖いのはライ様だ」と語った辺りで決心したのかなぁ。
キンタを人質にとられて身動き取れなくなるくらいなら捨ててしまおうと思ったのか。自分の腕っ節も強くなったからもうキンタに頼らなくてもいいと思ったのか。いや、オボロと契約する時に、「信用? そんな言葉は、人に頼らなきゃ生きていけねぇ能なしにくれてやれ」と言っていたから、王になるのにはキンタがいてはダメだと思ったのか。
目の見えなくなったキンタをいたぶる時のライは何かプッツンと切れたように見えた。(サダミツに「豚野郎」と言ったときよりさらにイッちゃってた。)
ライは本当はキンタを殺したくなかったんだと思いたい私はロマンチなのか…?(←「ビバ、外道!」とか言ってたくせにな。)
愛も憎悪も同じということ。
子供の頃に読んだ漫画『ローラカイザー (1)』に「憎しみは愛より強い。だから憎しみ合うことを選ぶ」みたいなことが描いてあって、衝撃を受けたのを思い出した。
最期、ライはオボロへの憎しみで頭がいっぱいだったのかなぁ。
あそこで、「ああ、昔はここでキンタが助けに来てくれたっけ」と思い出していたら、ラストシーンは違っていたんじゃないかなぁと思った。(←やはりロマンチ…?)
そして最後に。どうでもいいけど。
「エイアン=平安」なら「ラジョウ=羅城門」なのかな?
ラジョウって響きがいいなぁーと思ってた。
戯曲を買おうかと思ったけど、結構高いので迷い中。
まだぐだぐだと考えているので書いてみる。(←しつこい)
ライがキンタをポイしたキッカケ。
最初は、やっぱり殺すつもりはなかったのではないか(と、思いたい)。無意識に急所外して助けちゃってるしね。
キンタがシュテンをかばって、「俺が一緒に謝ってやる」「兄貴は俺の言うことなら、きっと聞いてくれる」(と言ったと思うんだけど、思い違いかも。何か別の話がまざっているような気もする)と言ったのが癇に障ったんじゃないのかなぁ。「このライ様を騙した女をかばうのか? お前の言うことなんて、聞くもんか! ムッカー!!」という感じで。
あれはもう、キンタをいたぶるというより、シュテンをいたぶっていたのではないかと思う。(が、シュテンが当身を食らって気を失ったのはどのタイミングか忘れた。←忘れすぎ)
「お前が俺様を騙したせいで、罪もないキンタがこんなに可哀相そうな目にあうんだぞ〜♪」というつもりだったのが、エスカレートして引っ込みつかなくなったのではなかろうか。(ライって、結構行き当たりばったりだからさぁ。)
…観客に共感されないように作られた悪役に、何とか共感しようとしているというのも変な話だ。
ライは確かに外道だったけど、私は子供の頃に少年漫画を読んで育ったので、この手の悪役には割と免疫ができている。初めてダーク・シュナイダーを見たときの衝撃は忘れられない(笑)。(←あの漫画、今どうなってるんだろ?)
玉座についた後にどうするんだろう、ということ。
最初、自分のついたウソによって、思い通りにコトが運ぶのが面白かったんじゃないかな。それが、だんだん自分の思い通りに行かないと我慢できなくなっていったのかもしれない。
とにかく、王になることだけが目的で、あとのことは何も考えてないように見えた。美味しいもの食べて、いいお酒を飲んで、綺麗なおねーさんをはべらせたいだけだったのか?(それはそれで、欲望に正直でよろしいと思う。きれいごとを並べられるよりも。)
検非違使隊の一人にしつこく殴られて「ありがとうございました」と言わされた辺りで、「誰にも命令されない立場になってやる!」と思ったのかも。(←このときのライがまた何とも言えない表情だったんだよなぁ。偉くなって仕返しした時はちょっとスッとした。)
ボロをまとって落ち武者狩りをして、村の連中に追い掛け回されて逃げ惑って、キンタに助けてもらっていたのが、立派な衣装を身にまとって、高貴な女性にも惚れられて、キンタに頼らずとも十分強くなってしまったんだから、人間変わっちゃうよな。
それにしても、オボロは上手い具合にターゲットを選んでるなぁ。ヤスマサ将軍だったら誘いには乗らなさそうだもん。(シキブの誘いにはのったけどな。)
マダレがツナを助けたワケ。
ツナが妹だったからって、急にいい人の側に回るのが納得いかなかった。部下を使ってライを出世させてるわけだし、裁きの場で証言したラジョウの女性は口封じに殺されちゃってるわけだし、長年の敵を妹だからって助けるのかというのも… うーん。
ライがキンタを捨てた時点で、マダレはライを見限ってる感じがした。だから、袂を分かつキッカケがほしかったのかな。それと、「俺はあそこまで外道じゃない」と思いたかったのかな。ライの敵に回ったけど、改心したというわけじゃなさそうだ。
DVDの発売はいつかなぁ。
もう一度(といわず何度でも)、ゆっくり見たい。
今はまだぐだぐだと考えているけれど、3月になれば鬼より天狗(というより薬屋さん)で頭がいっぱいになるだろう。(←単純)