年 (平成年)

大阪松竹座新築開場十周年記念
七月大歌舞伎 関西・歌舞伎を愛する会 第十六回
大阪松竹座

7月2日(月)〜7月26日(木)

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感想 一回目
昼の部
7日に前方花道横で観劇。

鳴神
ムッツリスケベの鳴神上人(海老蔵丈)が雲の絶間姫(孝太郎丈)の色香に迷わされて、タダのスケベに成り下がる話(たぶん…)。
実は、マスコミが流すイメージのせいで、海老蔵丈にあまりいいイメージを持っていなかったのだが(←ごめんなさい)、この演目を観て、その人気に納得した。
見た目も綺麗だし、声もいいし、そりゃ人気も出るわいな。

雲の絶間姫の何か企んでいる感じや、してやったりな表情が可愛かった。途中で、鳴神上人と立場が逆転するところが面白かった。「名前が抹香臭くてイヤ!」「あたしのお酒が飲めないの!?」って、さっきまでのしおらしいお姫様はどこ行った? めっきり弱くなって言うことを聞いてしまう上人様の情けない姿に笑ってしまった。
上人様が破戒していく段階で庵(?)の掛け軸が変わったように見えた。次にチェックしてみようと思う。上人様のスケベ顔はキョーアクだった(笑)。白雲坊(市蔵丈)と黒雲坊(男女蔵丈)のやりとりも楽しかったな。

上人様は騙されたと気付いた時、直毛のアフロ(←それってアフロ?)みたいに髪が逆立ち、白塗りだったお顔に隈取が入って形相が変わる。衣装がぶっかえった後は大暴れ。怒り心頭で絶間姫の姫を追いかけていく。例えるなら、ホテルに女性を連れ込んだら、酔い潰されて有り金すられて逃げられた男? 禁欲生活を破ろうとした分、いろいろと爆発したんだろうな。可哀相に(笑)。←笑うな。

歌舞伎十八番って格調の高いものかと思い込んでいたけど、面白かった。
後見さんが黒衣ではなく裃姿なのを見て、「あ! 歌舞伎十八番なんだっけ」と思った。名題下さん関係の書籍を読んで、ちょっとだけ知識がついたのだ。激しく自己満足だけど、当たり前のことに気付くことができるようになったのが嬉しい。筋書は写真が入ってから買うつもりなので、次に観る時に後見さんなどのお名前をチェックしたいと思う。

橋弁慶
この手の舞踊では、最初に出てきた人物が自己紹介するのが決まりなのかな?(「身替座禅」や「船弁慶」でもそうだったような?)

弁慶(愛之助丈)が従者(宗之助丈)から牛若丸(壱太郎丈)の噂を聞き、外出を控えようとする。しかし、「弁慶ともあろう者が…」と思い直して飛び出していく。弁慶は堂々としていて貫禄があるように見えた。
入れ替わりに牛若丸が登場。若々しくて、まさに少年(!)という感じだった。少年が演じているのだから、当たり前と言えば当たり前だが、なかなかの美少年っぷり。

弁慶は少しだけ衣装(頭巾?)を変えて再登場。
花道で薙刀を振り回したりしていた。立ち回りが結構長くて、愛之助丈が汗だらだら状態なのがよく見えた。二人の動きも合っていた。
最後、負けを認めて主従の関係を結び、牛若丸を見送る時の弁慶が満足そうな笑顔で、とてもいい表情だと思った。
優男の愛之助丈もいいけど、いかつい愛之助丈もいいな。

義経千本桜
渡海屋 大物浦

実は、この演目が一番ガッカリした。
なぜガッカリしたかは、順に書いていく。(やたらと女性の大向こうがかかっていたのも、ガッカリしたうちの一つ。)

弁慶(歌六丈)が安徳帝をまたごうとする場面はなく、相模五郎(愛之助丈)と入江丹蔵(男女蔵丈)がやってきて、お柳=典侍の局(秀太郎丈)に絡み始めた。愛之助丈は楽しそうに演じているなぁと思った。マヌケなんだけど、愛嬌があって可愛いのだ。
そこへやってきたのが銀平=知盛(仁左衛門丈)。真打登場とばかりに、颯爽と花道を歩いてくる。かっこいいんだ、これが。客席のボルテージが一気に上がるのがわかった。まさに、「待ってましたァ!」状態。

相模&入江は、魚尽くしや曲げられた刀を鞘に収めるところなどをひょうきんにこなし、愉快に退場する。その間、煙管の煙をくゆらせている銀平が素敵だった。お柳が義経(海老蔵丈)に“うちの亭主自慢”をしたくなるのも納得のかっこよさ。
白装束に着替えてからも、とにかくかっこいい。ボキャブラリーに乏しいので、「かっこいい」としか言えないが、かっこいいんだから仕方ないのだ。

衣装を改めた典侍の局の元へ相模五郎が御注進にやってくる。額にドクロをつけている。そういえば、さっきまで肌色だったのに、白塗りになってるな。見得をしつつ戦況をつげ、再び戦場に戻っていく。浅草の入江役もよかったけど、相模役もいい。
入江丹蔵もやってきて、壮絶な最期をとげる。自分ごと敵を貫くというのは、やはりインパクトがある。(昔、少年漫画でこういうのをいくつか見たけど、これが元祖?)

御注進が去り、女官達が覚悟を決めるところで、安徳帝がおやすみ体制に入っている。体がくたーっと黒衣さんにもたれていて、客席からも眠そうなのがよくわかる。
典侍の局が覚悟を決める感動的な場面のはずなのに、客席にはくすくすという笑い声が広がっていた。そうなると、「あの子は台詞が言えるのか?」「時世の句は詠めるのか?」というところに意識が集中してしまい、物語に入り込めなくなった。 台詞と時世の句を無事こなし、「ああ、よかった」と思っているところで「いかに八大竜王…」の台詞がきた。ああ、いい場面のはずなのに… もっと緊張感を持って聞きたかったよ。

浅草の七之助丈は安徳帝を軽々と抱え上げ、崖の方まで歩いていったが、秀太郎丈は黒衣さんの力を借りてその場で抱っこしただけ。流石に、年齢的につらいよね。秀太郎丈の典侍の局は、帝を気遣う仕草が優しげで、本当に大事にお育てしたんだなぁという感じが出ていた。
いざ入水というところへ義経の部下がやって来て、安徳帝を奪い、幕が引かれる。 幕が引かれた後、子供の鳴き声が聞こえてきた。辺りを見ても、ぐずっている子供はいない。しかも、声は舞台の奥の方から聞こえてくるのだが…

やがて幕が開き、満身創痍の知盛が花道から現れ、敵を蹴散らす。口から血を吐いたり、身体にささった矢を抜いて舐める場面は浅草になかったように思う。悪鬼のごとく、すごい迫力だ。(悪鬼にしてはいい男過ぎるけどな。)
そこへ義経が現れるのだが、心なしか表情が冴えない。しっかりしてよ、御大将!…と思ったら、それもそのはず、安徳帝が出てこなかった。
海老蔵丈は役作りのためか、目をぱっちりと開けてないように見えた。鳴神みたいにギロリと睨みつけるような義経じゃ変だもんね。

目の前で仁左衛門丈が大熱演だというのに、私の頭の中は「えーっ!? じゃあ、『義経が情け、仇に思うな』の台詞はどうなるの??」でいっぱいになってしまう。結局、典侍の局が自害する時に、上手く台詞に織り込んで知盛に伝えていた。
しかし、典侍の局に言われるとの、帝に言われるのとでは重さが違うぞ。(知盛の「御姫宮を…」の台詞がなかったのは、帝がその場にいなかったからかな。)
知盛が碇を持って海へ身を投げる場面、弁慶がほら貝(←いい音)を吹く場面、どちらもよかった。でも、私は登場人物に感情移入して観るタイプなので、集中力が途切れてしまってダメだった。

子役といえどもプロはプロ、というのは、見るからに小さな子供には酷かもしれない。
が、しかし。
芝居の最中にぐずるような幼い子を安徳帝に配役した大人に対しては、「金返せ! コノヤロウ!」と罵倒したい。(←ガラ悪っ!)
だって、この演目は昼の部一番の売りでしょう? 渡海屋の場面までは「勢いでチケット取っちゃったけど、やっぱり来て正解だった〜」と思ってたのにさぁ。もう、本当にガッカリ。
後半にもう一度見に行くので、そのときは物語に入り込んで観劇したい。

時間があったら、昔のDVDでも観てみようかな。

夜の部
7日に前方中央で観劇。

鳥辺山心中
半九郎(愛之助丈)が綺麗で素敵だった。白塗りだから優男なのかと思ったら、声も低くて男っぽい武士だった。酔っ払っている感じも出ていたと思う。お染(孝太郎丈)に膝枕されている場面では、お染になりたかった(笑)。
市之助(秀太郎丈)がいかにも遊び人という感じで素敵だった。お花(竹三郎丈)と並ぶと、何だか濃ゆ〜い空気が流れてくるように思える。源三郎(薪車丈)にガミガミと叱られて、丸くなっている市之助が可愛かったなぁ。
薪車丈はこういうまっすぐなお役が多いなぁ。また、それが似合ってると思う。人柄が出てるのか、顔がいいからか(←おい)、暴言を吐いても嫌なヤツには見えなかった。

愛之助丈は綺麗だったのだけれど、半九郎という人物はあまり好きになれないなぁ。酒の勢いで人を殺し、後から呆然とする辺りがちょっと…(そこでじたばた騒がずに死を覚悟するのはいいんだけど。) お染もひたすら悲しみ嘆いて泣くだけで、魅力が薄い。
「可哀相と言えば可哀相だけど、自業自得だよな」と思えてしまうので、心中物なのに哀れさに欠ける。そこを感じさせないようにするのが役者さんの力だとしたら、ちょっと残念だったかな。(←偉そうに。)
愛之助丈が美しくて眼福だったので満足だが(←ダメなファン)、物語としてあまり好きではなかった。とは言いつつ、次に観る時も「綺麗〜」とうっとりしながら観るけどね。

身替座禅
悲壮感溢れる勇猛な知盛とは打って変わって、右京(仁左衛門丈)がとても可愛かった。
しゅんとする表情とか、手を合わせてお願いする仕草とか、背が高くてかっこいいはずなのに、可愛らしく見えた。うふふふふ〜と笑っても、いやらしくない。踊る時は長い手足が少し邪魔そうだったな。

玉の井(歌六丈)は声にやたらドスをきかせたりせず、ニタ〜ッと笑うこともなく、あまり崩していなかった。上品だけど迫力は満点だった(笑)。浅草みたいにドカンドカンとは受けてなかったけど、観客が大爆笑するようでは奥方が可哀相なので、ちょうどよかったんじゃないかなぁ。(受ければいいってもんじゃないしね。)

太郎冠者(愛之助丈)はトホホな感じがよく出ていたと思う。情けないお役もいいな。(←所詮は盲目ファンなので、結局は何でもいいらしい。) 千枝(宗之助丈)と小枝(壱太郎丈)が可愛かった。

女殺油地獄
私は関西人ではないので、関西弁のよしあしは判断がつかないけれど、与兵衛(海老蔵丈)の台詞の語尾が伸びて上がるのはデフォルトなんだろうか?「不義になってぇ〜(↑)、貸してくだされぇ〜(↑)」とか、ちょっと妙に思えたんだけど…
ダメ息子を演じているためか、声が高くて軽めだったので余計にそう思ったのかも。凛々しいお顔と高い声があってないように聞こえるんだよなぁ。(単に私の好みかもしれないが。)

お吉(孝太郎丈)はしっかり者の世話焼き女房という感じだった。
七左衛門(愛之助丈)は子煩悩で焼きもち妬きの愛妻家という感じ。お吉に「ととさんは娘には甘いんだから!」とか言われてるんだろうな。
小栗八弥(薪車丈)は馬に乗って登場。何気なく見ているけど、馬の中の人は大変なんだそうだ。
徳兵衛(歌六丈)とおさわ(竹三郎丈)の夫婦がすごくよかった。親バカならぬバカ親なのだが、その親心に泣かされた。両親相手に暴れる与兵衛を客席から狙撃したかったよ。おかち(壱太郎丈)がおっとりして可愛かった。

油の中での殺しはすごかった。ツルン、バタン、ツルン、ドタンと大変そう。お吉の髪を掴んで、刀を振り上げて目をむく場面は怖かった。
赤ん坊の泣く声が聞こえてきた時は、子供2人も殺されるんじゃないかとハラハラした。「子供のために死にとうない。助けてくだされ」と哀願していたお吉が殺され、上の子が赤ちゃんの面倒を見るんだろうなぁ。七左衛門は荒川の佐吉みたいに乳をわけてもらおうと走り回るんだろうなぁ。非常にやりきれない。

最後に、与兵衛がブルブルと震えながら花道を引っ込む場面。
私の席からは、筋肉のついた綺麗な内腿がブルンブルン震えるのがよく見えた。が、いくらなんでも震えすぎじゃ…? あまりに立派な腿が揺れていたので、ローストチキンを思い出してしまったよ。

おまけ
今年も「関西歌舞伎を愛する会」で『大向こう』のバックナンバーなどを売っていた。あまりゆっくり見られなかったけど、とりあえず36号だけゲット。

お昼の幕間には地下2階の「たちばな」で「豆腐御膳」をいただく。これで1500円とは安い。お腹一杯になってしまった。

夜は売店のお弁当「花姿」を購入。小さいのを選んだのだが、半分くらいしか食べられなかった。勿体無いので、ホテルで食べた。

最終の新幹線には間に合う時間だったが、夜遅くにタクシーを使って帰るくらいなら、一泊してのんびり帰ることにした。
愛之助丈が『大阪ぴあ [2007]』で紹介していた「アルション」のモンブランをお土産に買って帰ろうと思ったら、夏場は暑くて溶けるからテイクアウトはやってないという。急遽、食べて帰ることにした。
さくっとしたメレンゲが口の中で溶けて美味しかった〜。

モンブランを味わいながら、ふと「橋弁慶」だけ幕見して帰ろうと思いつく。まだ1時間以上あったけど、なんばなら時間を潰すのは楽だろうということで、チケットを購入。
指定時間に松竹座へ行ったら、舞妓さんがぞろぞろと出てきた。おそろいでお昼かな?


↑席からの眺め。

幕見と言っても、三階席の後列なのでオペラグラスを使えば役者さんの表情まではっきりと見える。
上から見ると、薙刀の動きなどが違って見えて面白かった。20分で700円とお手ごろだし、近くに住んでいたらまた見るのにな。問題は、ちょうどお昼時というところか。

帰りに、松竹座向かいの「アンドリューのエッグタルト」でエッグタルトをお土産に購入。
さて、録画しておいた『流星』を見なくちゃ。

感想 二回目
2回目なので、簡単に。

夜の部
21日に前方花道横で観劇。
今回は舞台写真もチェックしてきた。愛之助丈の舞台写真は20枚もあった。珍しく、ピントが合っているものが多かったな(←おい)。

鳥辺山心中
話自体は好きではないけれど、話の筋ではなくて役者さんを楽しむ分にはいいのかも、と思うことにした。
市之助(秀太郎丈)とお花(竹三郎丈)のカップルは本当に濃ゆい(笑)。お花にもたれかかられてイライラしてる源三郎(薪車丈)が何だかおかしかった。(薪車丈の写真、筋書に載せるのにもっといいのはなかったんだろうか。せっかくかっこいいのに、勿体無い。)

源三郎は強そうに見えるけど、泥酔状態の半九郎(愛之助丈)にやられちゃったし、口ばかり達者で意外と弱いのだろうか。それとも、半様が酔っ払って強くなるタイプなのか? 余裕かましていたくせに、いきなりプチッと切れちゃうし、半様はスイッチON/OFFが激しいな。
春着に着替えからの場面は本当に綺麗だった。
しかし、半様の頬に少し翳りが見えたのが気になる。気のせいならいいのだけれど。

身替座禅
前に見たときよりも表情や仕草などがわかりやすくなってた気がする。それでも、崩れすぎてはいないけど。
右京(仁左衛門丈)はかっこよくて可愛くて、玉の井(歌六丈)が側から離れたがらない気持ちもわかるなぁ。この2人、なんだかんだでお似合いのいい夫婦なのではないかと思った。
太郎冠者(愛之助丈)、千枝(宗之助丈)、小枝(壱太郎丈)も可愛いし、素敵な一家(主人と使用人だけど)だなぁと思う。

女殺油地獄
すごかった。
とにかくすごかった。
終演後は、「すごかった〜!!」という感想しか出てこなかった。(御覧になった方にはわかっていただけるかと…)

まず、与兵衛(仁左衛門丈)が登場した時、「若い!」と思った。お吉(孝太郎丈)の方がお姉さんに見えたもの。そして、「ああ、こんなタイプなら、思わず世話を焼いてしまうかも」という可愛げがあった。
小菊(宗之助丈)にデレッとするところ、調子に乗って喧嘩するところ、お侍(薪車丈)に泥をぶつけて土下座して謝るところ、親を足蹴にする憎憎しいところ、追い出されて心細いくせに虚勢を張って歩いていくところ、親の情けに心打たれて頭を下げるところ、お吉を殺すと決意するまでの心の動き… 与兵衛はころころと感情が変わるのだが、妙に説得力があるというか、「決して共感はしないし、したくもないけど、こんなヤツ本当にいるかもしれん」という気になった。

七左衛門(愛之助丈)は前見た時よりせっかちになっていた気がする。お吉が与兵衛に「うちの人が帰ってきたら(借金を)頼みなさい」と言っていたけど、あの様子じゃ絶対に貸してくれないだろうなぁ。子煩悩だし、よく働くし、夫にするにはいいタイプだと思うけどね。

仁左衛門丈がおっしゃっていたように、殺しの途中から与兵衛の表情に「残虐性がにじみ出」て、非常に恐ろしかった。「狂気」という言葉がぴったりの表情だと思った。
最後、花道を引っ込む時の与兵衛の目は完全にイッちゃってる目だった。花道の近くだったので、「うわっ! あんな怖い目をした人がこっちに来る!!」という感じだった。
後味の悪い話のはずなのに、「すごい物を観た」「このお芝居を観ることができてよかった」という気持ちでいっぱいだった。


↑与兵衛が引っ込んだ後の花道。(少し油がついている)

それにしても、大阪のオバチャンは芝居中でもうるさくてかなわん…

昼の部
22日に2階1列目中央で観劇。


↑席からの眺め。

鳴神
実は、前日の昼の部も幕見で観た。(並んでチケット取ってくれた友達に感謝!) 愛之助丈の鳴神上人にはなかなかお目にかかれないと思うので、この機会に2回観ることができて嬉しかった。
気になっていた掛け軸は、幕見席(三階最後列)からはよく見えなかった(煙らしきものが出ているのはわかった)が、二階からは見えた。どうやら、掛け軸の中の不動明王(?)が燃えて黒コゲになり、破戒したことを表していたらしい。

海老蔵丈の鳴神上人は座っているだけでも目からビームが出そうな眼力だったが、愛之助丈の鳴神上人はそれに比べると優しげで少し人がよさそうにも見えた。
絶間姫(孝太郎丈)が酒をくいくいっと飲む時、横で「えー?」って感じで様子を見ている上人様が可愛かった。「何をうじうじ!」のあたりでは、山の神と右京さんのようだったな(笑)。絶間姫の「次はどの手でいこうかしら?」とたくらんでいる様子が面白かった。

優しげな上人様ではあったけど、ぶっ返ってからは迫力があった。柱のところで見得をして、のっしのっしと歩く姿は立派だったと思う。(←贔屓目?) 最後の六方は、幕見席ではスッポン辺りまで、二階からは半分くらいまで見える。ああ、花道が全部見える席を取っておけばよかったなぁ。

そうそう、岩の上からトンボを返った所化さんがすごかった。客席から驚きの声が上がっていた。後ろの紳士が「あそこまでやっても、名前も載らないのか」と話していた。筋書でお名前がわかるといいよね。

橋弁慶
短い演目だけど、結構好き。衣装もきらきらしていて綺麗だし、弁慶(愛之助丈)の満足そうな表情がいい。

義経千本桜 渡海屋 大物浦
今回は子役さんも最後までちゃんと出てきて(別の子だったけど)、物語に集中して観ることができた。(「御姫宮を…」の台詞は初めからなかったようだ。)
海老蔵丈の代役で、義経は薪車丈。お柳=典侍の局(秀太郎丈)が「日和を見るのは銀平が名人」と語る時に、うっすらと微笑んでいるような、優しそうな表情をしていた。

やはり、最期に安徳帝がいると全然違う。
胸に刀を突き刺した典侍の局が名残惜しそうに帝の顔をうちながめる場面がよかった。がっくりとうなだれ、やがて吹っ切れたように笑う知盛(仁左衛門丈)の姿が切なかったなぁ。
最期、碇を投げて入水する知盛の姿は、「見るべき程のことは見つ、今は自害せん」という言葉にぴったりだと思った。