年 (平成年)

大阪松竹座 新築開場十周年記念
九月特別公演「蝉しぐれ」

9月2日(日)〜9月24日(月・祝)

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感想 初日

2日に前方花道横で観劇。

場面転換が非常に多く、ピンスポット→暗転というパターンが多かったが、物語をぶつ切りされるような感じではなかった。私は原作小説もドラマも映画も観ていないのだが、話の筋や登場人物の性格がわかりやすかったので、上手にまとめられた脚本なのではないかなぁ。(原作を読んでいたら、物足りなく思ったかもしれないけど。)
どの登場人物も、良い役なり、悪役なりに説得力があったと思うし、恋と友情と親子愛のどれにも偏らず、バランスよく盛り込んであったと思う。(なので、全てに関わっている愛之助丈は出ずっぱり。)

物語の筋を全部追っていると長くなるので、印象に残った場面など。
冒頭の場面だけで、文四郎(愛之助丈)が父・助左衛門(高橋長英さん)を慕うのがよくわかる。文四郎の母・登世(星由里子さん)はいかにも厳しそうな武家の母だが、お福の母・ます(藤田みどりさん)は「あーあー、近所に一人はいるよ、こういうイヤなオバサン(←見た目は綺麗だけどね)」という感じだった。また、このイヤ〜な感じが上手なんだ。

愛之助丈は前髪姿で、声も若く作っていて可愛い。
お福(相田翔子さん)が想像以上に可愛くてビックリ。ちゃんと少女に見える。内気で無口なのだが、文四郎を好きなことが見ていてわかる。
文四郎は真面目で実直、なのだが…「このニブチン! トーヘンボク!」と思うこともしばしば。熊野神社の祭りの夜、「誰かに頼んで先に帰っていればよかったのに」と言ったところが、文四郎のニブチン最高潮だったと思う。愛之助丈って、ニブチン役が似合うのね。
お福一緒にいるところを矢田夫妻(片岡功さん&松岡由美さん)に見つかって、力いっぱい否定するところなんか、照れ隠しとはいえ残酷なやっちゃ。
お福の想いと自分の気持ちに気付いて、それを認めることができていたら、物語は変わっていただろうになぁ。

文四郎の親友二人の小和田逸平(松村雄基さん)と島崎与之助(野田晋市さん)がそろって出てくる場面は何だかほっとした。
逸平はお調子者っぽいけど、情に厚いし、「雛にまれなる男振り(だっけ?)」と自分で言うだけあって、流石にかっこいい。(松村さんといえば、西武時代の秋山幸二選手の自主トレに参加したという記事を見た記憶がある。遠い遠い昔の話。)
与之助は泣き虫なんだけど、会場の笑いを誘う和み系。出世して再会したのちも、泣き方が変わっていないのが微笑ましかった。

幼い恋と友情物語だったのが、助左衛門が切腹を命じられてから、俄然重い話になる。
この辺りは思い出すのも辛い。
一幕のラストは、父の遺体を乗せた荷車を引く文四郎と、文四郎に手を貸すお福の場面。
ここで幕間はきついなぁ。場面的にはちょうどいいんだろうけど、この後にお昼を食べるのは辛い。(お腹に無理矢理詰め込んだけどね。)


↑お昼は「かに道楽」で買った。

お福が江戸に行く日、文四郎に別れを告げにくるが、会えなかった。追いつけない文四郎と、後ろを振り返りながら旅立つお福の姿が重なる場面が切なかったな。
逸平から「お福に殿様のお手がついた」と聞かされて、ふらふらとさまよう文四郎が可哀相だった。ここで「お福を絶対に取り返す!」とでも星に誓っていたら… 銀英伝になっちゃうな。(実は、ヤン提督を実写でやるなら、愛之助丈がいいな〜などと思っている。机の上にあぐらかいたり、戦艦が揺れて机と椅子の間にずぼっとはまるところとか見てみたい。←もっとかっこいい場面はないのか?)

文四郎は元服したり、道場の師範代となったり、旧録に復すことを許されたり、先代藩主の弟で今はご隠居の加治織部正(長谷川哲夫さん)から秘剣を伝授されたり… まあいろいろあって物語は進む。
お福は和子を産み、殿の側室・お福様となっていた。
父を陥れた家老・里村(近藤洋介さん)より、文四郎に「お福母子をさらってこい」と命令がくだる。文四郎は家老から母子を救うために屋敷に乗り込む。

“お福様”として登場するお福は見違えるように綺麗だった。(いや、元から綺麗だけどね。) 会場からため息が聞こえたよ。文四郎の驚きを隠せない表情が印象的。
そこへ刺客がやってきて、派手な立ち回りがある。『伊勢音頭〜』の貢さんみたいに、文四郎の頬には血糊がべったりとつけられる。文四郎は敵を蹴散らすごとくの大立ち回り。ファンの贔屓目も入っているけど、とにかくかっこいいい。この辺りで「松嶋屋!」と大向こうがかかっていた。
これまで観てる方もしんどい展開だったけど、ここでようやくスッとできるかな。
逸平は「剣の達人ではないけれど、一生懸命戦ってます」という感じが出ていて、松村さん上手だなぁと思った。

文四郎とお福が乗った小舟は花道を通ってくる。リモコンで制御してるんだろうか? 近くで拝見しても、相田さんはめちゃくちゃ綺麗だった。私より○つも年上だなんて信じられない!
舟を漕ぐ時は目線が下になるので、花道横だと愛之助丈と目が合ったりもする。(が、そう思っているのは観客だけで、愛之助丈にしてみれば「視界に入った」程度だろうけど。)
小舟から下りる時、文四郎がお福の手を引いていた。幼なじみだった頃に、熊野神社のお祭りの夜にでも、もっと手を引いてあげればよかったのに… 

家老の屋敷に乗り込み、それでも家老を斬ることなく去っていく時の文四郎の表情がよかったなぁ。父の敵で、お福を狙う憎い相手で、斬りたかっただろうになぁ。

文四郎とお福様との今生の別れはしんみりと切なかった。互いに好きなのに、昔のように「福!」と呼んで、抱きしめるだけ。
お福様が去った後、ぺちゃんとつぶれた風車(だよね?)人形が残されていた。熊野神社の祭りの夜、文四郎がお福に渡したものだ。仏門に入るのに、未練になるから残していったんだろうか? 文四郎も自分のことを好いているとわかったから、形ある思い出はいらなくなったのかな?

なんとも切ない幕切れだった。
カーテンコールは、愛之助丈と相田さんの2人だけ。

ロビーには秀太郎丈のお姿があった。(ロビーに出るたびにお見かけしたような…)
終演後、写真撮影や2ショット撮影に応じていらしたので、私も図々しくお写真を撮らせていただいた。にこやかでエレガントで素敵だった〜。

今回は割と花道を使っているので、これからチケットを取ろうという方は、花道付近を狙うといいかもしれません。そして、涙腺の弱い方は、薄化粧で劇場に行くことをオススメします。

「蝉しぐれ」つれづれに
松竹座の「蝉しぐれ」初日から一夜明けたが、ふと気付くとぼんやり舞台のことを考えている。

文四郎(愛之助丈)とお福(相田翔子さん)が小舟に乗って逃げるとき、「上方歌舞伎なら、ここで『一緒に逃げよう』『一緒に死のう』って言ったかな」などと考えた。
物語には心中する男女も登場する。文四郎とお福同様に未来のない恋なのだが、結末はまったく違う。お福も『一緒に逃げよう』って言葉が聞きたかったんじゃないかなー、などとも思ったり…
他にもいろいろ思うことはあるけれど、それをここに書き連ねると、くっさ〜くてこっぱずかし〜い文章になりそうなので、この辺で。

ああ、もう一回観たいなぁ。(←もう一回どころか、もう二回分チケット取ってあるけどな。)
観劇中は「こんなヘビーな内容を1ヶ月に3回観るのはきついかな」と、ちらっと考えたりもしたのだが、いざ観終わってみると、「また観たいなぁ」という気持ちになった。

初日が終わったら観ようと思っていた映画版、読もうと思っていた原作小説は手付かずのまま。今月いっぱいは舞台版「蝉しぐれ」にはまっていてもいいかな、と思っている。

感想 中日
15日昼の部を前方花道横で観劇。
2回目なので簡単に。(←「とにかくよかった!」という感想にしかならないので…)

まずは訂正。
夏祭りの夜に文四郎(愛之助丈)がお福(相田翔子さん)に買ってあげたのは、風車ではなくて紙の人形だった。

前回も前の方の席だったが、今回はさらに前の席だったので、目が悪くてもいろいろ(見えなくていいものも)見えた。
父・助左衛門(高橋長英さん)の亡骸を運ぶ場面で、舞台が暗転すると愛之助丈が上手の幕の中をダッシュで去っていくのが見えた。ダッシュの甲斐あってか、花道から荷車を引いて登場した時に花道脇の観客が振り返って驚いていた。
この後、お福が登場して二人で荷車を押すところで、周りがいっせいに泣いていた。私も泣いた。

逸平(松村雄基さん)は「歴史書編纂(だったと思う)」が上手く言えなくて、言い直していた。照れ笑い(?)までもが爽やかだった。藤井様(松山政路さん)の「お前は舌も回らんしな」というアドリブに客席が受けていた。でも、藤井様も台詞があやしかった気がするんだけど…(←「助命嘆願」のところ) 話が前後するが、逸平が砧屋で「出た! 妖怪」って言ったのは、松村さんのアドリブかな?

欅御殿に乗り込む場面は暗闇+「お頼み申す!」の声だけになっていた。その分、場面転換が1つ減ったのはよかったかも。
立ち回りの場面では、着物についた血糊が真っ赤になっていて、遠くからでもわかりやすくなっていた。 いかにも絵の具、という感じがして、私は前の方がよかったなぁ。(『伊勢音頭〜』みたいに白の着物じゃないから、そうしないと目立たないんだよね。) どす黒い血の方が凄みが出ると思うんだけど、見えにくいんじゃ仕方ないか。
立ち回りはやはり迫力があって、愛之助丈は汗びっしょりだった。

小舟を漕いでいく場面、初日は舟が岸にガツンとぶつかっていたけど、今日はスムーズに止まった。文四郎が手を差し出すが、お福はなかなかその手を握らない。岸に渡ってしまったらお別れだからかな、などとロマンチ(笑)なことを考えた。
藤井様と加治織部正様(長谷川哲夫さん)が渋くて素敵だ。
お福への想いを振り切るように走り去る文四郎の姿が切なかった。

最後の「今生の名残」の場面は、初日より文四郎の感情がストレートに出ていた気がする。この辺りになると、声もずっしりしていて貫禄がある。
先回は聞き流していたが、お福の「待っていればよかった。殿様の命に背いてでも…」という台詞。
父についていったら殿のお手がついたのではなく、すでに見初められていて江戸につれていかれたのだろうか?

子供のことを問われて、文四郎が苦しそうに答える。一番聞かれたくないことだったんだろうな。(そういう時代とはいえ、文四郎の奥さんが可哀相かも)
「文四郎さんの御子が私の子で、私の子が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」
「それが出来なかったことを、それがし、生涯の悔いとしております」
今生の別れを前にして、ようやく言えたかーと思った。
文四郎の気持ちを聞いてから、「お嫁さんになりたかった」ことを告げるお福がいじらしいなぁ。

文四郎もお福も泣いていた。最後に花道を引っ込む時、涙に濡れたお福の顔がすごく綺麗だったのが印象に残ってる。(相田さんのマスカラは全然落ちてなかった。すごい。)
お福を見送る文四郎もよかった。
「思い残すことはありません」と言って去っていくお福は、どこか吹っ切れた(吹っ切った)ように見えたけど、文四郎には未練が残っているようだった。でも、それが文四郎らしいかな、と思う。

初日の観客は気合が入っているせいか、やたらめったら拍手が起こっていたけど、今日は拍手が少なかった。
「え? ここも拍手なし?」と思う場面もあったが、そこで自分が拍手を始める勇気はなかった…(←ヘタレ)「マッチマヤ!」と声をかけるおばあちゃん(推定)は、ちょっと勘弁…

おまけ
愛之助丈の舞台写真は5枚出ていた。
意外と少ないと思ったが、20枚も出されると破産するのでこのくらいでいいかも。
ハンカチや手拭の種類が減ってた。特に、文四郎&お福の絵の入ってるものは少なくなっていた。


今回もお昼はかに道楽。
あの場面の後にはこのくらいの量がちょうどいいかな。
アルションのモンブランをお土産に持ち帰ったが、やはり距離があるせいで少し溶けてしまった。(夏場に販売停止にしているのも納得。) それでも美味しかったし、家族からの評判もよかったので、持ち帰っただけの甲斐はあった。

前から見て「ペンギン!?」と思ったら…

フグだった。(←普通は見間違えないと思うぞ。)

感想 千穐楽
24日に中央花道寄りで観劇。

終わっちゃったなぁ…
何だか力が抜けてしまった。
観ている時は(観ているだけなのに)、切ないし、辛いし、苦しいし、幕間には胸が一杯であまりお弁当が食べられないし(←そのせいで、帰りの電車の中でとってもお腹が空く)、「もー、嫌だぁー!」という気分になるのだが、見終わると、「また観たいなぁ…」とぼんやり思うような舞台だった。

以前観た時と変わってたかな、と思ったこと。(以前は気付かなかっただけかもしれない。)
文四郎(愛之助丈)、逸平(松村雄基さん)、与之助(野田晋市さん)が夏祭りに行く約束をする場面で、逸平と与之助がぴょんぴょこ派手に跳ね回っていた。子供っぽくて可愛かったな。
逸平は砧屋でもパワーアップ(?)していて、「海坂小町のおきぬちゃーん」と呼んでみたり(流石に「妖怪」は可哀相だと思ったのか?)、とっくりを一度に4本飲む真似をしてみたり、おかしかったなぁ。
「お福に殿のお手がついた」と聞いた文四郎は、前観た時よりもショックが顔に出ていたように思えた。

土手で悪童にやられた後も逸平は二人にタックルみたいなことをしていた。最後に与之助に蹴りを入れて去っていく悪童(役者さんがわかりません。ごめんなさい)が「山根さん、待ってぇ〜」と情けない声を上げて、皆の後を追っていくのには客席が受けてた。憎らしいんだけど、ちょっと憎めない感じがした。出世して帰ってきた与之助は「いつもより余分にふんぞり返っています」状態だった。与之助、いいキャラだよな〜。和むわ〜。

父の遺体を運ぶ時、山根(片岡暁孝さん)に「しっかりせんか、牧文四郎! 腰がふらついとるぞ!」と言われた後、文四郎が悔しそうに「何だよぅ」と言っていた。(前見た時はなかった気がする。) そして、お福(相田翔子さん)が荷車に手を貸し、「ふくは平気です!」と言った後、文四郎の「ふくぅ〜」という声が少し甘えた感じで、「ああ、文四郎だなぁ」と私は思った。(原作を読んだら、イメージが変わるかもしれないが。)
剣術に優れていて、いざという時に頼りになるけど、文四郎はどこか甘えたさんに見える。(タレ目のせいか?)
最後だって、お福は未練を感じつつも自分の足で歩いて、文四郎から去っていくのに、、文四郎はそこにとどまって昔を思い出しているもんなぁ…  家に戻ってからも、しばらくはうじうじと後悔しているんだろうな。そんな人間臭いところがいいな、と思う。

今回は少し離れた席だったので、小舟から下りる前に文四郎と見つめ合うお福の顔がよく見えた。大きな瞳がうるうるしていて美しかった。そこから加治様(長谷川哲夫さん)のお屋敷まで、和子を抱いて二人で歩く場面はとても綺麗だった。「文四郎さんの御子が私の子で、私の子が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」というお福の台詞を思ってうるっと来た。物語がわかってしまっているので、後につながる一見なんでもないような場面でも泣きそうになって困ったよ。

千穐楽だけあって、観客の拍手にも気合が入っているように思えた。
スタオベ+トリプルアンコール。(場内が少し明るくなってからも、一度幕が開いた。)
最後に幕が開いた時、相田さんは後ろを向いて涙を拭いていた。
千穐楽だからと言って、特別なご挨拶はなかった。でも、それでよかったと思う。いつの間にか降っていた小雨の中、お芝居の余韻に浸って帰れたから。

はー、いいお芝居だった。
また観たいなぁ…(観ている間は辛いけどな。)
松竹さん、また蝉しぐれの季節に再演してください。


お昼は、先回と同じかに道楽。