年 (平成年)

十月花形歌舞伎 新橋演舞場

10月2日(日)〜10月26日(水)

配役
昼の部(11:00開演)
一、源平布引滝
  義賢最期(よしかたさいご)11:00-12:25

木曽先生義賢:六代目 片岡愛之助
九郎助娘小万:三代目 市川笑三郎
待宵姫:初代 坂東新悟
進野次郎:四代目 坂東薪車
百姓九郎助:三代目 松本錦吾
葵御:二代目 市川春猿
下部折平 実は多田蔵人行綱:二代目 中村獅童

二、銘作左小刀
  京人形(きょうにんぎょう)12:55-13:25

左甚五郎:初代 市川右近
女房おとく:三代目 市川笑三郎
娘おみつ実は井筒姫:二代目 市川春猿
奴照平:二代目 市川猿弥
京人形の精:二代目 市川笑也

三、江戸ッ子繁昌記(えどっこはんじょうき)13:40-15:45
  御存知 一心太助

一心太助、徳川家光:二代目 中村獅童
鳥居甲斐守:六代目 片岡愛之助
女房お仲:二代目 市川亀治郎
用人喜内:初代 市川右近
大久保彦左衛門:二代目 市川猿弥
侍女豊乃:六代目 上村吉弥
鮨勝:四代目 坂東薪車
信濃屋五郎兵衛:三代目 松本錦吾
柳生十兵衛:八代目 市川門之助
御台所:十一代目 市川高麗蔵
土井利勝:八代目 大谷友右衛門
松平伊豆守:五代目 片岡我當

夜の部(16:30開演)
猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうせりゅうおぐりはんがん)
     市川亀治郎 市川笑也 天馬にて宙乗り相勤め申し候

小栗判官、漁師浪七、お駒:二代目 市川亀治郎
照手姫:二代目 市川笑也
鬼瓦の胴八:初代 市川右近
横山次郎、膳所の四郎蔵:二代目 市川猿弥
後家お槙:三代目 市川笑三郎
浪七女房お藤:二代目 市川春猿
横山郡司:二代目 市川寿猿
横山三郎:四代目 坂東薪車
局 藤浪:五代目 坂東竹三郎
上杉安房守、矢橋の橋蔵:二代目 中村獅童
遊行上人:六代目 片岡愛之助
横山大膳:四代目 市川段四郎


筋書
愛之助丈関連
舞台写真:「義賢最期」木曽先生義賢:9枚(1枚は1ページ使った写真)
舞台写真:「江戸ッ子繁昌記」鳥居甲斐守:4枚
舞台写真:「當世流小栗判官」遊行上人:3枚
52〜53ページ(1/3ページ):「花競木挽賑」インタビュー
舞台写真
愛之助丈は、
「義賢最期」木曽先生義賢が13種類(獅童丈との2ショット1種類、當十郎丈との2ショット1種類含む)
「江戸ッ子繁昌記」鳥居甲斐守が3種類(獅童丈との2ショット1種類含む)
「當世流小栗判官」遊行上人が2種類
料金
1等A席:15,000円
1等B席:11,000円
2等A席:7,000円
2等B席:5,000円
3階A席:5,000円
3階B席:3,000円
桟敷席:16,000円
筋書:1,200円
その頃、他の劇場では…
南座
御園座
日生劇場

雑誌
『演劇界』2011年12月号→演劇界 2011年 12月号 [雑誌]
愛之助丈関連
40ページ:舞台写真「義賢最期」木曽先生義賢(カラーグラビア)
67ページ:舞台写真「義賢最期」木曽先生義賢(モノクロ 5枚)
69ページ:舞台写真「江戸ッ子繁昌記」鳥居甲斐守(モノクロ 2枚)
92〜93ページ:十月花形歌舞伎伎の劇評
138ページ:新春浅草歌舞伎の紹介(1/3ページ)

感想
昼の部
21日に前方中央で観劇。


義賢最期
「歌舞伎で最も好きな演目は何か?」と聞かれたら、まずこれが思い浮かぶ。そのくらい好きな演目。
戸板倒し、仏倒れなど、派手な場面が取り上げられることが多いけど、義賢(愛之助丈)と多田蔵人行綱(獅童丈)の腹の探り合いや、兄・義朝の髑髏を前に堪忍袋の緒が切れるところ、待宵姫(新悟丈)や葵御前(春猿丈)との別れ… こういう場面を踏まえての戸板倒し、仏倒れだからこそ、いいんだなぁと再確認。
まだ見ぬお腹の中の子(=木曽義仲)に水杯を取らす場面とか、よかったなぁ。
死の間際にも「子供を一目見たい」と言っているし、勇敢な武将でありながら、家族思いのところも見られて良い。

そして、小万(笑三郎丈)がかっこいい。
葵御前を背にかばい、矢走兵内(欣弥丈)相手に、「(千人力以上だから?)万と呼ばれたこの嫗」という場面が好きだ(が、台詞はうろ覚えで、聞き間違いがあるかも)。
それにしても、行綱。
こんな素敵な奥さんがいるにもかかわらず、義賢の娘にちゃっかり手を出しているとは…(まあ、源平時代なんてそんなものかもしれないが。)

九郎助(錦吾丈)と孫のシーンは、義賢の凄絶な最期の前にほっと気を抜ける。
義賢が自分の腹ごと進野次郎(薪車丈)を刺し、小万に白旗を預ける時の目が鬼気迫っていてすごく良かった。
前見たときも思ったけど、そりゃ、死んでも白旗は離せまい。
いよいよ最期、という時に長袴にきちんと袖を通すあたり、美学だなぁと感じる。
蝙蝠の見得の舞台写真がないのが残念。
こんぴらで観た時は、仏倒れの後に少し余韻?があったが、今回は倒れるか倒れないかというところでシャーッと幕が閉まり始め、倒れるとすぐに幕が引かれた。
幕の向こうから小万の嘆く声が聞こえてきて、こういう演出もありかなぁと思った。

はー、よかった。
やっぱり、「義賢最期」はいい!
11月の2週連続の観劇遠征がなければ、もう1回くらいは見たかった。
「こんな舞台を見せてくれるのなら、女性の1人や2人や3人や4人や5人や6人くらい泣かせても…」と思わないこともなかったが、十三代目さんは「女性を泣かせてはいけない。女性に泣かされなければいけない」とおっしゃったそうなので、女性に泣かされまくって、いい舞台を見せてほしい。(←ファンとは思えない言い草)

京人形
左甚五郎(右近丈)がおとく(笑三郎丈)を相手にお大尽ごっこを始める。
仲のいい夫婦で微笑ましいと思ったが、甚五郎は小車太夫にそっくりの京人形の精(笑也丈)にうつつを抜かしていて、おとくに「お前が正妻だから焼きもち妬くな」と言うなど、よくよく考えたら勝手な男だな。
もっとも、本物の太夫に入れあげるのでなく、人形相手に真似事をしているのだから、女房にしてみれば可愛いものかもしれない。

京人形が箱から出てきて、かくかくと動き出す。「見た目は太夫だが心は甚五郎」ということで、綺麗な顔で瞬きもせず、男性みたいな動きをする。私が見てる限りではずーっと瞬きしていなかったが、後ろを向いた隙に瞬きしてるんだろうか? ドライアイになるんじゃないかと心配してしまう。
太夫の鏡を懐に入れると、京人形の動きが太夫っぽくなる。
この変わり具合が面白くて、舞踊では眠くなることもあるのだが、とても楽しく見ることができた。

甚五郎は井筒姫(春猿丈)を匿っていて、そこへ追っ手がやってきた。ちょうど、姫の家来の奴照平(猿弥丈)もやってきた。
照平は甚五郎を敵と勘違いして、甚五郎は右腕に怪我をしてしまう。
照平に姫を託し、甚五郎は右手を手ぬぐいで巻き、のこぎりやのみを使って追っ手(=大工)と立ち回りして、幕。


江戸ッ子繁昌記
笑ったー。笑いすぎて涙が出るくらい笑った。
途中何度も「これ、歌舞伎か?」とも思ったが、松平伊豆守(我當丈)が登場すると「あ、やっぱり歌舞伎だ」と思わされた。うーん、さすが。

花道から一心太助(獅童丈)がやってきて、観客にご挨拶。
続いてお仲(亀治郎丈)もやってきて、2人でいちゃいちゃ(上方風に言うと、じゃらじゃら)やり始める。
お仲は妙に色っぽかった。私は亀治郎丈の立役より女形の方が好きだな。(でも、声は立役の時の方が良く感じる。)
そこへ魚屋仲間もやってきて、新婚の2人をからかう。
鮨勝(薪車丈)が世の中の最新ニュースに詳しいというので、瓦版の情報を喋り始める。

「まずは恋愛の話題から」ということで、鈴木京香さんがどうとか、あやぱんが結婚したとか話すので、「歌舞伎役者の片岡愛之助が交際宣言した!」と言うだろうと思ったのに、それは言わなかった。
愛之助丈に遠慮したのか、愛之助丈ファンの悲鳴で阿鼻叫喚となることを恐れたのかは定かではないが、ちょっと肩透かしを食らった感じ。
かぶりつきに座っていたら、「愛之助さんの熱愛はー?」と突っ込みを入れていたかもしれない。(←オマエ、ほんまにファンか?)
薪車丈は何だかいっぱいいっぱいな感じで、客席は微笑ましく見守っていた。あれほど人の良さそうな二枚目ってなかなかいないと思う。

なぜか、「芝居を見るといい」という話になり、新橋演舞場でやっている十月花形歌舞伎が面白く、中村獅童という役者がいいという流れになり、太助の「俺はあんな役者でぇっきれぇだ(←お約束)」「女ばっかり追いかけまわしやがって(←捨て身)」みたいな台詞がある。
ここで、「将軍家光(獅童丈)と弟の忠長をめぐってお家騒動がありそうだ」ということが語られる。(←これが重要)

魚市場では、丹波屋(欣弥丈)が市場を乗っ取ろうとしていたり、魚屋達がケンカを始めるので、差配役の五郎兵衛(錦吾丈)がとりなしたり、いろいろあって、場面は江戸城へ移る。
そこでは、松平伊豆守(我當丈)、土井利勝(友右衛門丈)、鳥居甲斐守(愛之助丈)、青山土佐守(延郎丈)、土井利勝(當十郎丈)らが会議をしている。鳥居、青山は忠長派。
ジイこと大久保彦左衛門(猿弥丈)がやってきて、「家光を亡き者にしようとする動きがあると世間で噂されている」と騒ぐ。 その時の様子から、松平は「鳥居、青山があやしい」と見抜く。

毒見によって、「カスみたいなものしか食べていない」という家光のため、ジイが鮨勝の鮨を渡す。
ここで本当に鮨を食べるのだが、食べ終わらないうちに喋ろうとするものだから、米粒が口から飛び出した。
「食べ終わってから喋った方がよい」みたいなことを言ったのは誰だったかなぁ? 我當丈だった気がする。
松平は重厚そうに見えて、結構お茶目な人のような気がした。
そこへ御台所(高麗蔵丈)がやってきて、家光のために初めて作った料理を差し出す。ちょっと得意げな御台所が可愛い。
しかし、家光はあまりの不味さに噴出して、こっそり料理を懐紙に包んで捨てる。でも、御台所には「美味じゃ」、ジイに向かって小声で「鮨勝ほどではないがな」と言うあたり、夫婦仲がとてもよさそうだ。
ここで側近の作った料理を毒見した侍女が苦しんで倒れ、騒然となる。

ジイは家光と太助がそっくりだと気付き、2人を入れ替えることを思いつき、太助を屋敷に呼び寄せる。
ジイの家来の喜内(右近丈)がどこかとぼけていて、なんともいい味を出している。右近丈のお芝居をじっくり見るのは初めてだが、上手な役者さんだなぁと思った。
家光と太助はそっくり(一人二役だから当たり前)なのだが、立ち振る舞いでどちらかすぐにわかる。でも、お芝居の中の人達はそれを全く知らないわけで、そこが面白い。どうでもいいけど、獅童丈の声がひっくり返ると、未だに捨助(大河『新選組!』の登場人物)を思い出す…

ここで登場する柳生十兵衛(門之助丈)がすごくかっこいい!
門之助丈は優男や女形のイメージが強かったのだが、そのイメージが覆るほどかっこよかった〜。
また、柳生の又十郎(猿三郎丈)、小文吾(笑三丈)もかっこよかった。

さて、家光が太助の家にやってくる。
「脳の病気」「殿様病」にかかった太助(実は家光)がとんちんかんなことをするたびに、お仲が泣き崩れ、周りがどよめく。 一方、家光の寝所で太助が眠っていると、そこへ御台所が現れる。
様子のおかしな家光(実は太助)とジイや十兵衛の様子を見て、御台所は帰っていく。
ジイでもパッと見では区別のつかない家光と太助だが、御台所には区別がついたということだろう。料理は下手だけど、いい奥方だな、御台所。
奇妙な家光の様子を侍女の豊乃(吉弥丈)がじーっと観察していた。
その夜、曲者が入り込んで家光(実は太助)を狙うが、柳生十兵衛(門之助丈)が追い払う。もー、本当にかっこよかった。(←そればっかり)

場所は変わって、水天宮。 豊乃と鳥居甲斐守(愛之助丈)が密会中。豊乃がお色気ムンムンで迫るが、鳥居はつれない。
鳥居は家光が替え玉だと気付き、さらに陰謀をめぐらせる。うーん、悪いやっちゃ。
この様子を酔っ払って寝ていた三公(猿四郎丈)が聞いていて、鳥居の印籠を拾う。
魚屋達からの人望の厚い差配役の五郎兵衛(錦吾丈)が実は豊臣の残党ということで引っ立てられる。
その様子を見ていた家光は「元豊臣の家来でもかまわない」と、奉行所に乗り込むことにする。
太助と家光、顔は同じで育ちは違うが、性格は似ているということか。

御前会議の最中では、鳥居が家光(実は太助)の正体を暴きにかかる。
家光の正体は魚屋で、腕に「一心如鏡」という彫り物があるはずだという。
そこへ御台所が現れて、「上様のことはわらわがよく知っている」と言って太助をかばい、事なきを得る。
鳥居に全てがバレたと知り、ジイと太助は家光の元へと急ぐ。
お仲や近所の人達は、魚屋仲間が五郎兵衛を救出しに行ったと聞いて、慌ててかけていく。

鳥居は家光を魚屋の太助として斬る気満々。
家光は「余と知って刀を向けたな」と鳥居と打ち合い、鳥居が破れる。
松平伊豆守(我當丈)やジイが現れ、五郎兵衛は「縄抜けの罪は私一人で負うので、太助や魚屋にはお咎めがないように」と訴える。
もちろん、太助(実は家光)や魚屋仲間にはお咎めはないが、松平と太助(実は家光)のやり取りに、町の人達は不可解な様子。
家光が去った後、本物の太助が現れ、めでたしめでたし。

面白かった〜。
文章ではうまく書けないが、入れ替わった家光と太助がそれぞれ奇妙なことをして、周りが「???」となるところが面白いのだ。 勧善懲悪のめでたしめでたし、で終わるのは気分がいい。

夜の部

21日に3階前方で観劇。
なんとなく、愛之助丈の出番は少なそうだという予感がしたので3階席にしたら、予感的中だった。
また、“亀治郎ショー”になるだろうという予想も当たった。


通し狂言 當世流小栗判官
以前、2000年10月に国立劇場で上演された『通し狂言 小栗判官譚』の記録映像を見た。そのあらすじと感想は→コチラ 。

『小栗判官譚』とはずいぶん物語が違っていて、風間八郎も細川政元も水清丸も出てこない。
物語を簡単にして、馬や早替わりや宙乗りなど、観客が喜びそうな要素を詰め込んである。物語よりも役者重視のようで、良くも悪くも“1人のスターのための演目”という感じ。はっきり言って、私は『小栗判官譚』の方が好きだった。

幕が開いたら、そこは鶴ヶ岡八幡宮。
横山次郎(猿弥丈)、横山三郎(薪車丈)、照手姫(笑也丈)、局藤浪(竹三郎丈)、奴三千助(猿四郎丈)らが揃っている。
次郎は照手姫に横恋慕しているが、姫は相手にしない。
次郎と三郎は横山郡司(寿猿丈)の家から「勝鬨の轡(かちどきのくつわ)」を盗み出したが、その場に郡司が現れる。
横山大膳(段四郎丈休演のため、代役は右近丈)が小柄を投げて郡司に深手を負わせ、無理矢理切腹させる。
照手姫もさらわれ、駆けつけた藤浪は郡司の亡骸近くに落ちていた小柄を拾う。

大膳の舘に閉じ込められていた照手姫は何とか逃げ出す。
舘には小栗判官(亀治郎丈)がやってくる。
頭には白梅と紅梅の飾りをつけ、桜色の着物に桜の花びら模様、白地に模様の入った袴を着ていて、すごく綺麗。
暴れ馬の鬼鹿毛(おにかげ)を乗りこなし、碁盤乗りも披露する。
鬼鹿毛が綺麗に絵の描かれた襖だの屏風だのをぶち破るので、「勿体無いなぁ」と思って見ていた。碁盤乗りの場面では、ワイヤーロープで釣っていた。鬼鹿毛は首を振って碁盤に乗るのを嫌がったりして、可愛かった。
ここでも大膳が判官に小柄を投げつけ、藤浪の証言により、郡司を殺したのが大膳らだと判明する

場面は変わって、漁師浪七(亀治郎丈)の家。浪七は元小栗家の家来・美戸小次郎。
浪七の妻・お藤(春猿丈)がガラの悪い兄・胴八(右近丈)に困っている様子。
この辺りの流れ(↓)は『小栗判官譚』とほぼ同じ。
胴八と四郎蔵(猿弥丈)が照手姫を攫って金にしようと話していると、橋蔵(獅童丈)がそれに加わりたいと言う。一芝居を打つが失敗する。胴八は浪七を問い詰めるつもりだったのが、盗まれた小判を持っていたことにより、逆に浪七に責められる。
その後、浪七が匿っていた照手姫が胴八に見つかり、攫われてしまう。

『小栗判官譚』との大きな違いは獅童丈・オン・ステージがあるかないか。(←えっ?)
散々だった橋蔵は花道のスッポン辺りで座り込み、「あまりに役が悪い」「亀ちゃんも来年襲名だから仕方ないよな」などと愚痴り始める(笑)。
「萬屋!」と声をかけた大向こうさんに「今言ったの誰だ!?」と絡んでみたり、花道の観客に「おかーさん、個人的に『頑張れ』って言われても、この格好じゃどういって言いか…」と言ってみたり…
そんな時に「たっぷり!」と大向こうがかかり、場内爆笑。
橋蔵が「いいの?」と言い、ドゥ・ザ・ハッスルという曲(正式なタイトルは知らない)がかかり、花道を行ったり来たりするが、乗ってきたところで、ブチッと音楽を切られる。
しまいに、四郎蔵から「帰ってくれ。頼む」と言われて花道を引っ込む。

これは獅童丈ファンに納得してもらうための演出かな。
ファンは当然「あまりに役が悪い」と思ってるだろうから、それを本人が言って、花道で見せ場(?)を作ることによって、「まあ、仕方ないかなぁ」と納得してもらおうというのではないだろうか。
それと、この後の凄絶な場面の前にちょっと一休み、という感じだろうか。

さて、浪七は胴八を追いかけていくが、すでに舟は出た後。さらに、漁師達に邪魔をされて、ボロボロの状態。
命と引き換えに舟を戻してもらおうと、浪七が腹をかっさばき、岩を血がだーっと流れる。わかりやすい演出ではあるが、ここは直接的な表現はせずに、迫力と気迫だけで見せて欲しい場面だなぁと思う。
「小次郎、気を確かにもってたも」と嘆く照手姫に、「早くお行きなさい」と繰り返す浪七。
姫の乗ってる舟の櫂は、浪七が舟を押し出す時に使っていたが、舟にもう1本用意されてるのか? 用意されてたとしても、お姫様に舟を漕いで行けというのは、ちょっと無理なんじゃ…?
姫を乗せた舟が出た後、一度海に落ちた胴八が再び岩を登ってきて、刺し違えた浪七が逆さになってずるずると岩を滑り落ちて、幕がしまる。

場面は変わり、宝生院門前。
ならず者に絡まれていた萬屋のお槙(笑三郎丈)とお駒(亀治郎丈)を小栗判官(亀治郎丈)が助ける。
判官は、お槙に「萬屋にあるという宝の轡を見せてほしい」と頼み、お槙は快諾する。お駒は判官に一目ぼれした様子。(傘を被った判官を見送る。この時、当然、判官の中身は別人に入れ替わっている。)
早替わりは見事で、おそらく舞台裏では大変なことになっているだろうに、息も切らさず涼しい顔で登場する亀治郎丈はすごいと思った。
ただ、お駒(亀治郎丈)と小栗判官(亀治郎丈)が同じ場面に出てこないというのは、物足りないというか、物語が薄く感じる。

一方、照手姫(笑也丈)は下女の小萩として萬屋で働いていた。意地の悪いオバチャンにいじめられて可哀相。
照手姫は小栗判官とお駒が結婚するという話を聞き、ショックを受ける。
無事判官と再会したが、風呂に入りに行く判官を前に、照手姫の腕がわなわなと震えていた。
きっと「私がこんなに苦労して焚いたお風呂に入って、別の女子との結婚準備なんてどういうつもりっ!?」と思ったに違いない。 しかし、育ちの良いお姫様はひたすら我慢する。健気だなぁ。

このあと、婿引き出の品が捜していた「勝鬨の轡」だと判明する。
…チョットマテ。
なんで本物の勝鬨の轡が世間に出回ってるんだ? 横山大膳の一家は何をしとったんじゃ。
判官はお槙に自分の身の上を打ち明け、お駒とは結婚できないと言う。
続いて、お槙の身の上話から、お槙は元は横山郡司に使えており、照手姫の乳母であること、小萩が照手姫であることがわかる。
乳母と姫が再会し、判官と照手姫は別室に移る。そこへ白い婚礼衣装を着たお駒が現れ、判官と結婚したいと言って聞き分けない。
ここに判官と照手姫がいないと、やっぱり物語が薄く感じる。
影絵で判官と照手姫が寄り添うところが映し出され、お駒はさらにヒートアップ。

この場面に限ったことではないが、一人二役の早替わりのせいか、観客が変なところで笑うのが気になった。
特に、お槙とお駒が身の程を憂いて二人で泣き崩れるところは、笑うところじゃないだろう。
さらに、お槙が忠義のためにお駒を斬ろうとする場面で、「ご両人!」とか大向こうがかかるし、わけわからん。
お駒は斬られ、判官は「せめて来世の水杯を」と言うが、判官は照手姫と二世の固めをするんだから、来世も照手姫と一緒なんじゃないの? それって、その場しのぎのきれいごとじゃないの? だから祟られるんだよ、判官…


場面は移って、雪山。
お駒の祟りで顔に痣ができ、足腰が立たなくなった判官を車に乗せ、照手姫が縄を引いている。(下から2人がせり上がってくる。)
遊行上人(愛之助丈)の元に辿り着き、上人の法力で判官は全快。
絵馬から白馬が抜け出し、判官と照手姫はそれに乗って天を駆けて行く。
あー、やっと愛之助丈が出てきた。長かった。(そして、出番は短かった。)
宙乗りの場面、判官は馬にまたがっているが、照手姫は横座りで怖くないんだろうか? 優雅ににっこり微笑んでいて、綺麗だった〜。3階だから、すごく近くで見ることができた。

最後は大滝の場面。
横山大膳(右近丈)、横山次郎(猿弥丈)、横山三郎(薪車丈)が下からせり上がってきて、そこへ判官、照手姫、上杉安房守(獅童丈)、今出川頼房(笑三郎丈)、近藤采女之助(春猿丈)が現れる。見事横山親子を討ち取り、「本日はこれぎり」で幕。
筋書では、ここに横山太郎(右近丈)も加わっていたらしいが、右近丈が大膳の代役をしていたためか、いなかった。
仕方ないんだろうけど、最後の勢揃いの場面に愛之助丈がいないのが寂しかったなぁ。
演出や仕掛けは凝っていたけど、物語としては『小栗判官譚』の方が面白かったと思う。

おまけ

↑昼の部の幕間で食べたお弁当。(三越の地下で購入)


↑夜の部最初の幕間で食べためでたい焼き。


↑夜の部の幕間で食べたサンドイッチ。

お土産は「おとし文」と獅童丈オススメだという「山田屋まんじゅう」。
どちらも美味しかった。