夜の部
23日に前方上手寄りで観劇。
俊寛
歌舞伎を観始めた頃にこの演目を見ている。
私はミーハーできらびやかなものが好きなので、正直、この演目は苦手だった。
しかし、吉右衛門丈の俊寛が素晴らしくて、気が付いたら、じっくりと見入っていた。
俊寛がよろよろと登場し、やってきた丹波少将成経(歌昇丈)、平判官康頼(吉之助丈)に弱音を漏らす。
3人並ぶと、やはり成経は若い!
俊寛が成経と千鳥(芝雀丈)の結婚を知って、嬉しそうににこにこするのを見て、思わずこっちも笑顔になった。
千鳥は可愛らしく、瀬尾(歌六丈)は憎たらしく、丹左衛門(錦之助丈)は爽やか。
派手な演目じゃないけど、わかりやすくてよかった。
最後、岩の上で呆然とする俊寛を通して、遠ざかる船が見えるような気がした。
口上
おふざけは全くなく、至って真面目な口上。
だいたい、↓のような感じのことを話していた。
まずは、吉右衛門丈がご挨拶。
秀山祭お初お目見えについてと、襲名されるお二人のご紹介。
先代の又五郎丈には大変お世話になったそうで、名跡が復活して嬉しいとのこと。
「皆様から一言ずつ頂戴します」と隣の翫雀丈に頭を下げ、翫雀丈もお辞儀をしていた。
翫雀丈。
又五郎丈は歌昇襲名の時も『船弁慶』を演じていて、それがとても素晴らしかったのを覚えている。
歌昇丈は息子(壱太郎丈)と仲良くしてもらっている。
愛之助丈。
又五郎丈には子役の頃から可愛がっていただいて、大人になってからも可愛がってもらっている。
歌昇丈はとてもお稽古熱心で、浅草では毎日芝居の後にお稽古に通っていた。
「私も負けないように精進します」
錦之助丈。
自分も昔は播磨屋を名乗っていた。
母方が播磨屋で、父方が萬屋。(逆だったかも…)
芝雀丈。
又五郎丈とは子供歌舞伎の『白浪五人男』で一緒だったそうで、その時又五郎丈は忠信利平(と言っていたと思うけど、自信がない)。
「なぜか私が日本駄右衛門でした」
歌六丈、種之助丈、歌昇丈、又五郎丈はそれぞれ、襲名についての喜びを述べていた。
最後は吉右衛門丈が「隅から隅までずずいっと…」とご挨拶。やはり、貫禄があるなぁ。
船弁慶
この演目も歌舞伎を観始めた頃に見たことがある。
当時はわからなかったが、静御前(又五郎丈)が手のひらを顔に当てるポーズは、お能の泣く表現ということに気付いた。
又五郎丈に女形のイメージがなかったのだが、静御前は意外と(←失礼)似合っていたと思う。
まずは弁慶(翫雀丈)が登場。
いつもは優しげなお顔だが、今回はいかめしい。
それから、義経(愛之助丈)と四天王(桂三丈、種之助丈、米吉丈、隼人丈)がやってくる。
愛之助丈が登場すると、客席から「きれいね〜」と声がした。烏帽子姿が似合っていて、貴公子然としていて素敵だった。
義経と別れを惜しんで静御前が舞い、静御前が退場すると、舟長(吉右衛門丈)と舟子(歌昇丈、壱太郎丈)が登場。
先入観からか、舟長がとっても立派に見える。舟子2人は一生懸命な感じが可愛かった。
若い役者さん達が先輩の演技をじーっと見ているのが印象的だった。
平知盛の霊(又五郎丈)が花道から現れ、義経一行に襲い掛かる。
義経は太刀を振り上げ、弁慶は数珠を揉みながら祈る。
やがて知盛の霊はぐるぐるとまわりながら、花道を退散する。
迫力があって、良かったぁ…
今回は舞台写真の販売がなくて残念だった。(せっかく休憩時間が長いのに…)
筋書を買おうとしたら、翌日から舞台写真が入るとのことだったので、昼の部を見る時に購入した。
どうでもいいけど、綱豊卿の衣装は浅草の時と同じだった。(←舞台写真で確認した。)
昼の部
24日に中央花道寄りで観劇。
御浜御殿綱豊卿
配役を知った時、綱豊卿と助右衛門は逆の方がいいんじゃないか、と思った。(錦之助丈は先輩だし、お殿様顔だから。)
が、愛之助丈も大役続きで貫禄がついてきたのか、先輩相手だけど健闘していたんじゃないかと思う。(←エラソーに。)
今回、冒頭の綱引きの場面がなくて、ちょっと残念。
お喜世(壱太郎丈)と江島(芝雀丈)のやり取りの後、ほろ酔いでご機嫌の綱豊卿(愛之助丈)が登場。
お伊勢詣りの巡礼さん(吉太朗丈)を見る時の笑顔が優しそうだった。
ファンの贔屓目だが、なかなか素敵なお殿様だったと思う。
助右衛門(錦之助丈)がこれまた素敵で、一途で一生懸命で、拗ね者の割にはどこか爽やかな感じがする。(二枚目だから?)
勘解由(歌六丈)はいかにも固そうな学者という感じで、座っていると舞台が締まって見える。
綱豊卿は時折鋭い眼をして助右衛門を見やっては意地悪を言い、助右衛門は怒りに手を震わせながらも上手くかわそうとする。
お喜世にもうちょっと反応があってもよかったかな。芝雀丈のお喜世を見た時は、上品ながらももう少し感情が出ていたように思う。
見つめ合い→「俺に憎い口を利きおったぞ」と手に汗握る場面が続き、能舞台の裏に場面は移る。
夜桜の下で能の衣装をつけた綱豊卿は本当に綺麗。改めて、愛之助丈は口跡がいいなぁと思った。(台詞回しは仁左衛門丈そっくり!)
この演目は何度見ても飽きない。
今回も見終わった後、「よかった〜」という気持ちになった。
猩々
まずは酒売り(種之助丈)が登場。
それから、猩々(翫雀丈、歌昇丈)がやってくる。
何年歌舞伎を観ても、舞踊はよくわからないのだが(←アホ)、赤くてもふもふした生き物がお酒を飲んで上機嫌になっていく。
なんとなくおめでたい感じがして、よかった。
熊谷陣屋
以前観ていて話の筋がわかっているので、熊谷(吉右衛門丈)が花道から登場した時に沈痛な表情をしているわけや、相模(芝雀丈)に対して厳しいことを言う心情など、前に見た時より理解できた。
藤の方(壱太郎丈)は声を低くして抑えた感じだったけど、16歳の息子がいる役にしてはやはり若すぎるかなぁ。
堤軍次(歌昇丈)もやはり若く見えるが、熊谷に叱られたりするので、これはこれでありかな。
熊谷はとにかく立派で、戦の様子を語るところや制札の見得など、絵になるなぁと思った。相模が嘆く場面は涙なしでは見られない。
源義経(又五郎丈)は、よくよく考えると相当ヒドイ命令をしているのだが、なぜか情けある大将に見えてしまう。(←歌舞伎マジック。)「花を惜しむ義経が心」って、言ってることは優雅に聞こえるんだけどねぇ…
義経の四天王は吉之助丈、種之助丈、米吉丈、隼人丈で、夜の部の『船弁慶』とほぼ同じ。若い役者さんが並んで座っていると可愛く見えるのは私が年寄りのせいだろう。
梶原(由次郎丈)を倒して弥陀六(歌六丈)が登場する場面は、唐突だなぁと思う。本来はどこかで登場しているのに、現在はカットされているんだろうか?
「堅固で暮らせよ」→「ありがた涙、名残の涙」→花道の引っ込みと切ない場面が続き、見終わった後にちょっと疲れが…(見る方も力が入るから。)
先月の松竹座みたいなのもたまにはいいけど、今月みたいに“That's 歌舞伎!”っていうのがいいよなぁ… としみじみ思った。(昼も夜も2幕目が短くて休憩時間が長いので、欲を言えば、もう少しお芝居を長くしてほしかったけど…)
が、しかし。
帰り際に「最後のお坊さんは娘の敵討ち?」とか言ってるお嬢さんが近くにいて、やっぱり分かりやすい演目も必要かもしれないと思った。と同時に、日本の将来が本気で心配になったぞ。(つーか、どこをどう解釈したらそうなるんだーっ!?)