時々どうしようもない衝動に駆られるときがある。

自分でも其れが何時くるのかが判らない。

ただ

ただ其れが来るのは
決まって恐ろしく機嫌がいい時か
恐ろしく最悪なとき。


あぁ、そしてまた


その衝動が身体を支配し始める。



-----------おかえり---------------



とんとんとん

神経質に指で机を叩く。
二人部屋の空間には今は一人しかない。


それも珍しく普段は居ない一人。

いつもと立場が逆だった。





その日、外を出歩いてみるも、いい女を見つけることも捕まえる事も出来なくて
する事も無かったから寮へと戻っていた。
玄関に現れた姿を発見した寮生の顔と言ったら、可笑しくてたまらなかった。

雨が降るんじゃないか。と誰かがボソリと呟く。
最悪な機嫌だったものだから、ソイツの今の顔はきっと腫れあがっているに違いない。

自業自得だ。

拳はうっすらと赤い。



部屋に入って何時も小言を言う存在を探すも、狭い部屋にはいなかった。
珍しい事もあるもんだ、と畳の上に寝転んだ。

何時の間にか寝ていたらしく、目が覚めれば辺りは暗かった。

それでも片割れは居ない。


何をしている


何をしているんだ


夕飯の時間は少し過ぎている。
食堂に行く気も無かったから、とりあえず起き上がって何となしに机に凭れかかった。
突っ伏して、窓の外を眺める。自然と指が動いて机を叩く。

苛立つ。



ぞわり


腹の奥から痺れが身体を駆け巡った。

あぁ、来た。
来てしまった。


抑えきれない
堪えきれない


机を叩く指を拳の中へ握りこみ目を瞑る。


ずくずくと腹の奥を蝕む衝動。

あぁ・・・早く帰って来てくればいい。

そうすればこの衝動を発散できるのに。



あぁ、早く扉を開けて、この部屋へと入ってくるといい。
扉を開けて部屋へと入ってきた処を捕まえて引き寄せて
押し倒して、驚愕で目を見開くアレを見下ろして、
その唇を噛んで、舌を差し込んで、肌蹴させて
胸を愛撫して、足を開かせて、其処も愛撫して
猛った欲望を突き刺すのに。

喘ぐ唇が見たい。
快楽に酔った顔が見たい。
もっと、と腰を揺らして誘い込む身体が見たい。


あぁ、早く帰ってくればいいのに。



腹の奥では飽き足らず、衝動は手足までも蝕んでくる。
あまりの痺れで足が震えた。手が震えた。

衝動が身体を支配する。
意味も判らぬ衝動が身体を・・・。


疼く。



あぁ、そうだ。
これは『疼く』ということだ。



そのカタチが判った今、どうしようもなく貪りたくなる。

早く

早く


その姿をこの目に。
その姿をこの腕の中に。


扉を開けたら『おかえり』と言おう。
驚いて力が抜けたその瞬間を捕まえてしまおう。
そしてこの疼きを、受け止めてもらおう。




明かりをつけていなかった部屋に軋む音。
差し込む細い光。



「おかえり、雲水」



光を背負って影を作る姿に
きっと俺の顔は笑っていたに違いない。



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自慰する寸前の阿含・・・だったり・・・(オイ)