Woman knight legend

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 よく晴れ渡った空の下、今日も盛大な音場で響き渡っていた。
 その音を響かせているのは、フレグレデという国にある城内の広場だった。王に仕える大勢の騎士たちが、一対一となって剣を交える。青銅色の鎧に黒のマントを身に着けて、日夜訓練を重ねて緊急に備える。今日は七つあるうちの一つ、第二騎士団が広場を使用していた。
 その中で一際異彩を放つ人物がいた。
 大男と小柄な美少女、凄まじい気迫を発して対峙している、開始の合図と共に繰り出される剣戟は明らかに少女が勝っていた。体格では圧倒的に少女が負けているにも関わらず、差を感じさせない動き、周りで見学している騎士たちは息を呑んだ。
 健康的な肌、桜色の潤った唇、大きなオレンジの瞳を長い睫が鮮やかに飾る。それに加えて、仕上げのように舞う真紅の長い髪、誰もが彼女に魅了されてしまう、それほどに彼女は美しい。
 そんな彼女が鎧に身を包み、剣を持って戦う姿はどこか違和感があるように見えるが、それすらも感じさせない腕前を持つ。若干、十四歳で騎士に任命された異例の女騎士の腕は、二年という月日でより磨かれて、誰もが認める騎士となった。
「――――勝負有り!」
 審判をしていた騎士が、大きく腕を上げて叫んだ。少女の刃先は相手の喉下にある。決着はついた。
「この勝負、アル=ラージャの勝ち!」
「お疲れ様」
 剣を降ろして、少女――アルは微笑んで男に手を差し伸べた。額から汗を流しながら、男はその手を受け取り立ち上がる。
「敵わないなあ、アルには」
「日頃鍛えているだけだよ」
 にこっと笑うその顔も可愛らしく、男は照れながら笑った。
「ラージャ」
「団長!」
 呼ばれた声に反応して、騎士一同は一人の男に敬礼した。
 すらりとした長身、鎧は騎士たちと同じだが、団長の証であるエンブレムが胸元に彫りこまれている。第二師団を率いている団長、ロイス=フルだった。
「少し話がある、他の者は引き続き訓練をしていてくれ」
 命じたロイスにアルは歩み寄る。
「重要なお話ですか、団長?」
「ああ」
 そう言ってロイスは歩き出した。アルも後を追う。広場を抜けて向かった先は、第二師団の詰め所兼寮だった。大抵の騎士は住み込んでいる。詰め所へと入り、一番奥の部屋へと進む、団長室だ。
「……ツワルグ様は?」
「別件で出張している。お前は朝の集会で話を聞いていなかったのか?」
 すみません、と素直に謝るアル。ツワルグは第二師団の副団長の名である。こほんと咳払いをして、ロイスは話し始めた。
「重要な任務を与える。お前には向かない任務かもしれんが、仕方ない」
「暴れられないんですか?」
 愛らしい容姿から想像もつかないセリフに、ロイスは眉間に皺を寄せた。なぜこうも美しいというのに、好戦的な女なのだろうか。
「護衛だからな」
「うえー」
「もう少し言葉遣いを直せ、お前は」
「状況によって使い分けますので、心配後無用です」
 心配ではない、と心の中で呟いたが、言っても無駄に終わるだろう。アルの好戦的でもある性格に、何人の男が影で涙を流しただろう。外見と内面のギャップが激しすぎるのだ。
「そういう意味ではなくて……まあ、いい。護衛をする要人がな、女性なのだ」
「女性……それで私を?」
「そうだ。側に一人、近辺には第二師団の騎士が警護にあたる」
「……その女性とは?」
「……あまり、血走った目で私を見るな」
「血走ってません、早く知りたいんです」
 要人と言ったロイスの言葉がどこか引っかかるのだ。騎士に護衛を依頼するのは、ある程度の身分が必要になる。どこかの貴族だと思われる、護衛の相手は女なのだろう。たとえ騎士であっても、男と二人きりにさせることは望んでいないはず。
 しかし誰が狙うのか。
第二師団のある、フレグレデ国は比較的平和な国で、隣国とは長くに渡って良い関係を築いている。
 時折魔物が出没することがあったが、人が手を出さなければ襲ってこないことも数百年前に立証され、禁止区域として立ち入りを禁止している。魔物が危険ではなく、魔物に手を出してはいけない、それがこの国の方針であり法律だ。
 だがどの時代にも馬鹿な人間はいて、魔物を角や牙、皮などを手に入れようとする者がいる。高額で取引され、魔物を狩る人物は皆腕がたつ。現在ではそれが大問題となり、騎士一同は王家を守ると共に、国中の警備を任されていた。
 もし狙われるとしたら魔物ではなく、人であることは間違えない。そのぐらい平和な国なのだ。
「要人に狙われているのは魔物を操る少年だ」
「魔物を操るう?」
 人と魔物は仲違いしてはいるが、決して人に操られることはない。アルは露骨に顔をしかめた。
「どうやら魔物に拾われた男の子がいてな。その子が狙っているようだ」
「なんで、子供が……危害は加えていないはずです」
「正確に言えば、子供を唆した人物がいる、ということだ。人と魔物、争う先は大戦争であり互いに死者が多く出る。それは人も魔物も知っていることだ。ツワルグが出張先で怪しい奴を捕らえたところ、要人を狙っていることが判明した」
「止められなかったんですか?」
「すでに子供は旅立った後だったらしい。一応探させてはいるが……予告の日になってしまってはな」
「予告の日もわかっていて、捕まえられなかったわけですね」
「その通りだ。そこでラージャには急いで要人の元へ向かって欲しい」
「了解です」
「くれぐれも粗相のないようにな」
 強い口調で言われて、アルはむっとした顔で睨み返した。
「それは私が粗相をする、と言っているようにしか聞こえませんが?」
「そういう意味ではなくてな」
 余計なことを言うのは止めよう、外見は美少女でも中身は荒くれ者だ。
 軽く咳払いをして、ロイスは要人の名を告げる。
「要人は陛下と一家、身辺の世話をする者しか顔を見たことのない深窓の王女、アペリシア=ボル=フレグレデ様だ」
 その名を聞いて、アルはぴしり、と体を強張らせてしまったのだった。






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