希望の空

――鮮明だ。

蒼い晴れた空、時折交じり合う純白の綿菓子のような雲。さらに遠くには燃えるような赤い空。また、遠くで戦乱を告げる炎が夜空に昇る。真上の空はこんなにも澄み切っているのに。
 なぜなんだろう。
 男は思う。体全体に水を浴びて、額に貼り付いた髪を、指で動かす。罅の入った眼鏡のレンズに触れて、感慨に耽る。それが彼の癖。
 いや、美しいと思うのは空だけだ。地上は穢れている。滅ぼされつつある。命の脈動が尽きようとしている。水の中に沈む破壊されたビル。一つだけではない。かつては裕福だった時代の名残が目に痛い。多少の不便があったとて、衣食住に困ることはなかった。命を奪われることもなかった。
 今は、現在は飲み水にも困り果て、挙句に命を守る術を持ち合わせなくてはいけない。たった数年の間になぜこうも変貌してしまったのだろう。
 それは男になどわかりはしない。裕福な時は、夢の時。幻と同じ。幸いにも幼い頃だけの記憶だったからこそ、割り切れる。嘆く大人に辟易して、育てられた場所を飛び出して、通じ合う仲間と時を同じくする。若い彼らに夢の記憶はないに等しい。彼らが見据える先は、未来という世界。だから足掻く、必死に。命を賭してまで。 それが今いる世界。
「早く水から上がれよ、風邪ひくぞー」
 温暖な気候に恵まれた季節に、風邪はないだろう。男は苦笑する。言葉のあやというやつだな。突き落としたのはお前だろうに。仲間の一人に視線で訴えるが反らされる。
 体を反転させて重い足を進める。水分を含んだ服が重い。
「えーい」
 こつんと頭に何かがぶつかった。それは水に落ちて、小さな波紋を浮かべる。真っ白な紙飛行機だった。それは一つだけではなかった。一つ、また一つと数を増やしていく。緩やかな風は飛行機を空に舞い上がらせる。
「綺麗でしょ、飛行機」
 もう一人の仲間である女は、無邪気な表情で紙飛行機を折り続け、飛ばし続ける。舞っては落ちる飛行機。黒く淀んでいく紙は、今の世界を映すようだった。一度染まった絶望という色は、完全ではなくとも、美しい平穏を取り戻すことはできるのか。全てを最初から始められないのか。
「……できないことはないよな」
 男は呟く。小声で仲間に聞こえないように。決意の声を告げた。誰にではない、自身に告げたのだ。

 空はまだこんなにも美しくて、純白の紙飛行機が似合うのだから。

 世界はまだ終わっていない――――。


これまた投稿しようと想ったら、期限かきれて(涙)
イラストを見て、小説ーというやつです。
短編は難しいー。

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