「今日もお願いね」
「は〜い」
窓辺から送り出す。仕事上手紙のやり取りは欠かせない。贅沢であっても、こればかりは仕方ない。
緑の透明な羽を背に携えて、手の平サイズの妖精は今日も空を飛ぶ。
見送って椅子に座り、机にむかう。目の前の窓の隙間を、開けるのを忘れないようにして。
「今日は何を用意してあげようかしら」
仕事を片付けながら、ふと呟く。緑色の瞳は天井を仰ぎ見る。同時に肩までの髪が小さく揺れた。
「ご主人様〜〜」
「え?」
「お届け終わりました〜〜〜」
羽をこする音が響いて、机の端にちょこんと座る。本当に手の平サイズの、風の精霊なのだが、これを主人と呼ばれた女は妖精と呼ぶ。
「早いわね」
「だって近場でしたもの」
「はいはい」
引き出しを開けて小瓶を取り出す。蓋を開けると甘い香り。
「花の蜜ですね〜♪」
「ご褒美よ」
スプーンを持ってきて蜜をすくった。小皿に広げて、小さな小さな棒を手渡す。
「いただきま〜〜す♪」
棒先に蜜をつけて、口に運ぶ。甘い味、香りも抜群。
「フェミナ様は食べないんですか?」
「まだ食べるの早いの、チェルティーナ」
風の精霊、名は普通はない。だが風の精霊と特別な契約を交わし、こうやって手紙を届けてくれる友好的な精霊たちがいる。
その中で最速を誇るのが、風の精霊。世間では精霊を妖精とも呼ばれるが、一般的には精霊と称される。フェミナは好んで、妖精と名付けた。可愛くて仕方がないのだ。だから名もつけないところなのだが、名を与えた。
「お昼じゃないのよ。あなたが届けるのが早くてね」
「じゃあ午後までご主人様と一緒にいられるんですね♪」
「あまりかまってあげられないけど……」
「私は側にいられればいいのですっ」
笑う顔が愛らしい。思わず顔が綻ぶ。
こんなにも主人を慕う精霊は珍しいとされている。薦められて契約の書を購入、それが高い。だからこそ敬遠していたものだが、現れた精霊がこんなにも可愛いのだがら、後悔はしていない。書を手に入れても、それに見合う人柄もあるという。だから持つ者も少ない。
「午後になったら、届けるものができるからね」
「はいっ」
契約した精霊は、基本的に手紙を届けるというのが使命となる。生活で使う魔法でも、精霊を使うのだが、それとは全く別個とされている。契約者だけのものなのだ。
「あなたがいてよかった」
「はい?」
「やっぱり帰れないのは辛いもの」
「ご主人様は働きすぎなのです」
「そうかしら?」
講師として赴任してきた。住む家では幼なじみたちがいる。遠くない。
しかし帰る暇を惜しむほど、仕事が山積している。手紙のやり取りの際も、出かけなければならなかった。
チェルティーナが来てからは、格段と楽にはなったのだが。
くすり、と笑いが零れる。これでも働きすぎ、といわれてしまうのだ。
「たまにはお休みになってください。言われるんですよ、フェミナ様の調子はどうかって」
顔をしかめて呟くチェルティーナ。
「あの弟くんかな?」
「はいっ。他の皆さんもです。たまには久々に帰る、というお手紙届けたいです」
「そうね……」
直仕事も落ち着く。書いて届けてもらうのも、悪くない。
きっと笑顔で渡すのだろう、手紙を。その場で読んで喜ぶ顔を見て、喜んでいましたと彼女は報告してくるのだろう。
「早く書くから、早く届けて頂戴ね?」
「はいっ!」
「とりあえずこれを届けてくれる?」
手渡す手紙。腕に抱えて飛び立つ。
「いってきま〜〜〜す」
「いってらっしゃい」
思ったより早くに書き上げる事ができた。少し遠くに届けるから、しばらくは帰らないだろう。
「精霊より、妖精よりも、鳥って感じね」
一人微笑みながら呟く。精霊は風だけではない。火も水も土もいる。
でもその中で、風の精霊たちは空を気持ちよく飛翔する。小さな羽根を広げて。空を羽ばたく鳥たちのように。
今日も風の精霊たちは、空を舞う。大事な手紙を携えて――。