「おー いっ  コンラッド!」

  黒髪をなび かせて、その黒い瞳を輝かせながらその人は丘を駆け上がってくる。

  俺は剣を振る腕を下ろした。

「ギュ ンター と『眞魔国栄光の軌跡』のお勉強中ではなかったんですか?」

「あー もうや だやだ! ずーっとワケわかんない名前とか聞かされてやんなちゃうよ」

  うんざりと いう顔で頭を掻いて空を見上げる。

  ふいにまぶ しく感じて目を細めた。

「コ ンラッド は練習? 窓から歩いていくのが見えたからさ。すっげーっ筋肉だな、いいなーいい球飛びそう!」

  ユーリは服 を着ていない俺の上腕に触れてくる。

「こ うして素 振りでもしていないと、いざというときにあなたを守れませんからね、陛下」

  腕をすり抜 け、脱ぎ捨ててあった上着を羽織る。

「陛 下って呼 ぶなって言っただろ、名付け親のくせに」

  口尖らせな がら草の上に寝転ぶ。こんなところはまだまだ子供だ。

「す いませ ん、つい。」

  隣に座ると つられてユ−リも微笑んだ。

 

  生まれる前 から、俺はこの魂を見守ってきた。ずっと。

  魔王陛下の 御魂。

  この世界に 戻ってきてから、魔王陛下として…いや子供のように愛しい気持ちだったはず。

  いつからだ ろう、こんな風に、ユ−リがまぶしく見えるようになったのは。

「あー 気持ち いいな〜、こうしてると埼玉の空と変わんないのに」

「こ こはあな たの国ですよ」

「そ こんとこ がピンとこないんだけど。うん……そうだよな」

  そんな顔し ないで下さい。困ったような泣き出しそうな表情。

  抱きしめた くなるから。

  そんな顔は 俺の隣だけでしてください。

「そ ろそろ戻 らないとギュンターが……、ユーリ?」

  目を閉じ て、規則的な呼吸が風音の切れ間に聞こえる。

「こ んなとこ ろで寝たら風邪引きますって……陛下…」

  そっと、黒 い髪に触れる。正面を向いていたら、ユーリの瞳に落ちてしまいそうになるからまともに見れない。

  柔らかな感 触が指にからみつく。

  俺なんかが 触れちゃいけない。

  魔王陛下な んだから。俺が守るべき人なんだから。

「ユー リ…」

  7月生まれ だから、『ユーリ』。

  俺がつけた 名前なのに切なくなる。口にするだけで心臓が締め付けられるのは魔王陛下の御名だからか? 

  苦しくて、 耐えられなくて。

  『陛下』と 呼んでいないと、自分の中で箍が外れて暴れだしそうで。

  そっと、誓 いのようなキスをする。

  ユーリの世 界ではお姫さまが目覚めるんでしたっけ?

  目覚めない で欲しいこのままもう少し。

「も う少しお そばに居させて下さい」

  返事のかわ りに少し強い風が丘を駆け上った。

終わり









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